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魔法少女リリカルなのはEine Familie 第六話 『吹けよ 祝福の風』(4)

魔法少女リリカルなのはEine Familie 第六話 『吹けよ 祝福の風』(4)を更新。

はやてのターン。
アクションシーンをふんだんに盛り込もうとしたけど、
なぜか筆が進まず、あまり量が書けなかった。
でも物語はきちんと進めているつもり。
退屈はさせません。させないかな? しないでくれるといいなぁ。

それと(5)の更新は明日を予定。
よろしくお願いします。



 繁華街の中心部あたりに差しかかるや、はやては飛行速度を落として制動をかけた。
 はやては険しい眼差しで前方を睨み据える。さながら黄泉の世界をさまよう陰火のように、あるいは成仏できず怨みばかりを募らせる幽鬼のように、襤褸のごときローブをまとった女魔導師――闇の書の闇はそこに浮遊していた。
 ここにいることがなぜ判ったのか……などという疑念は愚の骨頂だろう。海鳴市を覆っている封鎖領域は、闇の書の闇が展開したものだ。侵入者の感知くらいは容易であろう。

「約束どおり一人できた。さあ、人質になった局員たちを返してもらおか」

 余計な話をする気はない。はやては開口一番、用件を早々に切り出した。その口調には冷ややかな嫌悪と苛立ちがある。むろんその原因の一端は、闇の書の闇の素顔に他ならない。
 一分の瑕疵(かし)もない……と評するには、いささか大げさなきらいがあるが、それでも闇の書の闇の外見はリインフォースによく似ていた。二年前の――あの怪物じみた異様が嘘だったかのような、あまりに見事な新生ぶりである。が、はやてにしてみれば、自分の中にある一番きれいな宝物を陵辱されたような気持ちだった。内心、とても穏やかではいられない。
 しかし、そんな夜天の王の憤りを、闇の書の闇が斟酌するわけもなかった。

「返スモナニモ、局員タチナラ全員石ニ変エタ。奴ラノコトハ、モウ忘レロ」

 その瞬間、全身の血液が一気に加熱した。

「どうして! なんでそんなひどいことを! あの人たちには、もう抵抗する体力も魔力もなかったはずやのに……なのになんでやッ!」

 大人も子供も関係なく仰天させ、畏怖と罪悪感で竦み上がらせるような怒鳴り声。平時(へいじ)の八神はやての磊落(らいらく)さを知るものが聞けば、それは耳を疑うような怒号だった。
 しかし、闇の書の闇は、なぜはやてが怒っているのかまるで判っていないような風情で小首を傾げている。人の気持ちなど知らないし、関係ないと言わんばかりの無神経さだ。

「ヒドイコト? ソレハ違ウ。ヒドイコトヲ平気デシタノハ、ムシロ奴ラノホウダ。
 ダカラ私ハ復讐シタ。私ヲ脅カソウトスル、スベテノ者タチニ。コレハ当然ノ報イダ」

 はやての双眸が険の色を深くして鋭く光り、描いたような眉が危険な角度に吊り上がる。

「復讐……そんな理由で守護騎士たちを、なのはちゃんやフェイトちゃん、クロノくんやリンディさんを石化したっていうんか」

 はやての声音は冷ややかに澄んでいた。シュベルトクロイツを握る右手の震えも、いつのまにか止まっている。それは嵐の前の静けさのごとき、激憤の秒読みに他ならない。
 だが一方、そんな少女の機微など知らぬげに、闇の書の闇は「一ツダケ訂正スル」と人差し指を立てる。物分かりの悪い生徒に優しく勉強を教える、熱心で粘り強い教師のように。

「守護騎士タチヲ襲ッタノハ、彼女タチガ裏切者ダカラダ。守護騎士タチヘノ攻撃ハ粛清デアリ、裏切者ヲ裁ク正義ノ審判ニ他ナラナイ」

 怒りの激発をすんでのところで抑えていた最後の理性が、その瞬間、瓦解した。

「ふざけるな! 今すぐみんなの石化を解除するんや! そしてみんなの前で謝れッ!」

 もはや平静ではいられない。焼灼(しょうしゃく)された怒気を漲らせながら夜天の王は排撃(はいげき)した。
 だが、対面に浮遊する闇の書の闇は平気な顔をしている。それどころか、まるで長年の夢が叶ったかのように、その表情をみるみる歓喜で満たしていくではないか。

「アンナ奴ラノコトハドウデモイイ。
 私ガ真ニ求メ欲シテイルノハ――八神ハヤテ、アナタダケナノダカラ」

 両腕を翼のように広げながら、闇の書の闇が顔をほころばせる。それは自らの欲望にのみ従って生きる、まさに悪魔の微笑。醜く貪婪(どんらん)に凝り固まった野放図(のほうず)欣喜(きんき)だった。

「八神ハヤテ。共ニ永遠ヲ生キヨウ。アナタハ、私ダケノ主デイテクレレバソレデイイ。
 ……ソウ、私ノ、私ダケノ主ニ」

 反駁(はんばく)する暇もあらばこそ、闇の書の闇は(かつ)えた獣のように襲いかかってきた。
 最前まで湧いていた怒りの憎しみも、はやての胸中からきれいに消し飛んだ。闇の書の闇に捕まるまいと、はやては慌てて後方に跳躍する。闇の書の闇は影のように追随した。
 彼我の距離がみるみる縮まっていく。迎撃しなければ追いつかれる。が、はやては苦しまぎれのシールド魔法で時間をかせぐばかり、いっこうに攻撃魔法を放てずにいた。
 はやては強力な殲滅魔法を持っている。当たりさえすれば、どんな敵も一撃で倒してしまえるほどの。しかし、手数の多さと瞬発力こそが重要な近接戦闘において、詠唱に時間がかかる殲滅魔法はきわめて使い道が悪い。かてて加えて、遠距離・遠隔発生に真価を発揮するはやての魔法は支援攻撃向きで、土俵の違う接近戦では、どうしても不利になってしまう。
 ――ヴォルケンリッターがいれば。
 はやての弱点というべき前衛を補う守護騎士たちがいれば、はやては思う存分その力を発揮することができただろう。しかし、その頼れるヴォルケンリッターは、今はいない。
 闇の書の闇が、(ろう)のごとき白い腕を伸ばし、はやての張ったバリア魔法をひと撫でる。
 霜のついた窓に五指を這わせて線を引くような、たったそれだけの軽い挙動で、はやての障壁が堅さを忘れたかのように崩壊していく。はやては戦慄に目を瞠った。
 なのはのラウンドシールドほどではないにしても、はやての障壁もかなりの硬度がある。それがあたかも卵の殻のように、わずかに指先が触れただけで壊れていくのだ。
 破壊されるたびに新たな障壁を展開しながらも、恐懼(きょうく)がじわじわとはやての思考を(むしば)んでいく。冠絶した戦力差が絶望の腕となって、はやての心を圧する。勝機がまるで見えない。
 ――やがて、万策尽きたはやてを、闇の書の闇が捕捉した。

「捕マエタ」

 無造作に伸びてきた血色のない右手が、はやての前頭部を鷲摑みにする。

「っ……はな、し、て……」

 その拘束から逃れようと、はやては懸命にもがく。だが、闇の書の闇の手は小揺るぎもしない。蜘蛛の足のような細指からは想像もできない握力だった。

「嫌ダ。モウ放サナイ。アナタハ、私ノモノダ。私ダケノモノダ」

 闇の書の闇はかぶりを振りながら、はやての頭を圧搾(あっさく)する五指に力を込める。みしみしと頭蓋が軋む音。か細い少女の悲鳴。そして嗜虐的な哄笑。はやては絶体絶命を悟った。
 個の戦力があまりにも違いすぎる。体力はもちろんのこと、魔力も速力も、なにもかもが負けている。はやて一人の力では、どうあがいても敵わない相手だったのだ。

「……ごめん。わたし一人じゃ、みんなのこと、助けられへんかった」

 ――悔しい。
 勃然と湧いたその激情に、はやては(ほぞ)()んだ。その頬を、一筋の涙が伝い落ちていく。
 いつ死んでも構わないと思っていた。自分以外の誰かが幸せならそれでいいと、そんなことを本気で考えていた。しかし、それは間違いだと教えられた。間違いだと学んだ。

「……わたしは」

 終われない。このままでは終われない。終わるわけにはいかない。
 願ったのは、こんな敗北ではないだろう。望んだのは、こんな結末ではないだろう。
 だったら足掻きぬけ。死に物狂いで戦ってみせろ。取り戻したい未来があるのなら。

「わたしはッ!」

 ややもすれば失神しそうな痛みに抗いながら、はやては挑むような、祈るような、怒るような、悲しむような、乞うような、勇むような、万感きわまった声音で咆哮した。

「絶対に――諦めない!」

 そのとき、はやての叫びに答えるかのように、一陣の風が吹き抜けた。
 清冽たり清浄なる奇蹟の息吹が。


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イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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