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魔法少女リリカルなのはEine Familie 第六話 『吹けよ 祝福の風』(5)

魔法少女リリカルなのはEine Familie 第六話 『吹けよ 祝福の風』(5)を更新。

なんてこった。
ふたたびグレアムのターンがはじまりましたよ。
どんだけグレアムが好きなんだって話だよ。まったく。
でも、しょうがない。
はやてを語るには、グレアムの存在は欠かせないでしょうから。
まあ、ひそやかに行われるグレアムの戦いを、
ぜひ刮目して見ていただきたい。
みんなでグレアムを好きになろう。



 海鳴市の郊外にある小高い丘の上で、グレアムたちは召喚魔法陣を展開していた。
 滅紫(けしむらさき)の光で描かれた二重の輪。ふたつの同心円はそれぞれ右と左に緩く回転しており、その内側には剣十字の模様を閉じこめた八芒星が顕在している。八つの各頂点を円で結んだそのオクタグラムはミッドチルダ式ではなく、非常に希有なベルカ式の円還魔法陣だった。
 そしてグレアムは今、その幾何学魔法陣の北側に位置するところに立っている。

「父さま。繁華街の方角から巨大な魔力反応を感知しました。おそらく、はやてちゃんと闇の書の闇が交戦状態に入ったのではないかと」

 魔法陣の南東に位置する方角から、リーゼアリアの報告が飛んできた。
 その硬い声に無言で頷いてみせたあと、グレアムは視線を繁華街の方へと向けた。だがむろん、いくら瞳を凝らしてみても、ここから繁華街の風景を遠望することはできない。距離が遠すぎるのだ。それこそ鷹の目でなければ、この丘陵から視認することは不可能だろう。
 しかし、たとえ目には見えずとも、そこで起こっていることは肌で感じられる。
 管理局の独自の調査によると、AAAクラスの魔導師が本気で戦えば、街ひとつが消し飛ぶと言われている。ならばそれよりも上位のランク――オーバーSランクの魔導師同士が激突すればどうなるのか……おそらく地球規模の災害と大差ない破壊をもたらすだろう。

「とうとう始まったか。となれば、こちらも悠長にはしていられないな。
 ……ロッテ。そっちの準備はどうだ?」
「はい。こっちの準備も完了です。いつでもいけます」

 粛としたグレアムの声に、魔法陣の南西の位置に立つリーゼロッテが返事をかえす。やるべきことが明確なためだろう、彼女の口調には迷いがなかった。

「でもさ、やっぱりちょっとだけ緊張するよね」

 溜息を吐き出しながら呟くリーゼロッテに、リーゼアリアが薄く笑って頷いた。

「そうね。わたしたちに失敗は許されないから。ひとりで戦う、はやてちゃんのためにも」

 リーゼロッテとリーゼアリアは、互いに顔を見合わせて微笑する。それは淋しさと哀しさが同居した不憫な笑顔だった。まるで今生の別れを惜しんでいるかのような。
 しかしその印象は、あながち間違いではない。グレアムは胸が塞がる思いだった。
 決意が揺らぐ。勇気を持って踏み出した一歩を、また後ろに引き戻したくなる。

「……ロッテ、アリア。おまえたちは、ほんとうにいいのか? これで」

 消え入りそうな声で紡がれた言葉は、罪悪感に押されるようにして湧いた問い。厭世的な色を宿す両眼で双子の姉妹を見つめながら、グレアムは呻くような口調で先を続ける。

「私は、おまえたちを道連れにしようとしている。はやてくんを助けるためには仕方がないとはいえ、しょせん私がしようとしていることは無理心中のようなものにすぎない。だからおまえたちには、私を責める権利がある。罵倒してもいい。恨んでくれてもいいんだ」

 グレアムたちが行使しようと目論む禁術の効果を地球の概念で(なぞら)えるなら、それは霊能力でいう〝降霊〟だ。死者の魂を現世に召還し、その魂に実効的な力を持つ肉体を与えるという魔法である。それは字義のとおりの〝死者蘇生〟だった。
 まさに条理を逸した効能といえよう。一子も相伝されなかった(わざ)なだけはある。
 だがそれゆえに、この魔法には峻烈(しゅんれつ)な制約があったのだ。
 死者を蘇らせるためには、この魔法を用いた施術者の生命を触媒にしなければならない。今の状況に当てはめて考えるなら、つまりグレアムの魂を捧げることでしか、この禁術はその奇蹟を成就しえないのである。しかもグレアムの死は、同時にリーゼロッテとリーゼアリアの消滅も意味する。主からの魔力供給で、使い魔はその存在を維持しているからだ。
 グレアムが先述した無理心中という言葉には、そのような意味が含まれていたのである。

「違います! わたしもアリアも、父さまの決断を責めるなんてしません!」
「ロッテの言うとおりです。わたしたちは一蓮托生。どこまでも父さまについていきます」

 リーゼロッテとリーゼアリアが、激しくかぶりを振って異を唱えた。双子の姉妹の表情は決然としており、毫も揺るがぬ固い意志と死を覚悟した者の気迫で充実している。
 しかし一方、グレアムは狂おしいほどの慙愧に見舞われていた。膝から力が抜けかかる。

「おまえたちなら、そう言うと思っていた」

 一言を発するごとに、グレアムの胸には犀利(さいり)な刃が突き刺さっていく。その刃とは、双子の姉妹の曇りない顔であり、尊くも悲壮な決意であり、嘘偽りのない衷心(ちゅうしん)からの言葉だ。

「だが私にはもう、おまえたちの優しさを享受する資格はない。赦される資格もだ。おまえたちの未来を奪ってしまう、私なぞには……」

 はやてには偉そうに『生きろ』と嘯いておきながら、その反面、それを告げたグレアム自身が一番、おのれの命に価値など見出していなかった。が、それでも自殺せずにあさましく生きてきたのは、死に逃げることが卑怯だと思ったのでも、怖気づいたのでもない。
 自分の命よりも大切な娘たち――リーゼロッテとリーゼアリアがいたからだ。
 しかし今、そんな彼女たちの将来を、夢を、微笑みを、グレアムはその手で壊そうとしている。もしこれが罪人であるにも拘わらず、今日までのうのうと生きてきたグレアムに対する、世界から下された判決であるのなら、これほど冷酷で覿面(てきめん)な罰は他にないだろう。

「私は……おまえたちを殺してしまう。殺してしまうんだっ」

 暗黒の絶望感に苛まれて、グレアムはとうとう膝を屈した。
 この世の誰よりも愛おしい。どんな手段を使ってでも守りたい。たとえ世界を敵に回したとしても。だがグレアムに、それは許されない処方であった。さもありなん。この残酷な運命を甘受することこそが、グレアムに科せられた最大の罰なのだから。


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イヒダリ彰人
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男性
趣味:
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自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

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魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
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