イヒダリの魔導書
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第六話 『吹けよ 祝福の風』(3)
最近、『魔女の如き老婆』という比喩を使いたくてたまらない。
でもリリカルなのはだと、そんな表現が似合う人物がいないんだよなぁ。
伝説の三提督のひとり――ミゼット・クローベルが年齢的に一番使えそうだけど、
あのばあちゃんの雰囲気は、どっちかというと皇太后って感じだし。
代わりにプレシア・テスタロッサを百歳くらいの年寄りにしたら、
もしかすると……っていう希望はある。
けど彼女はアルハザードに逝ってしまったし。
どうやらこの比喩は、リリカルなのはでは使えない言葉らしい。
残念だ。
――なにがなんでも、小学校の屋上に倒れていた管理局の魔導師たちを救出する。
そう意気込んでいたはやては、てっきり小学校の屋上の近くに転送されると思っていた。
だから、リーゼアリアの転送魔法で海鳴市に戻ってきたはやては、見慣れた建物が眼前に登場するという予期せぬ展開に目を見張ることになる。
「ここって……わたしの家や」
うっそりと呟きながら、はやては目の前の建物を観察する。長いあいだ世話になっているバリアフリー住宅。二階建ての一軒家。玄関前の表札にも『八神』と書かれている。
間違いない。ここは自分の家だった。
……なぜ。だがそんな疑問は、一瞬のうちに消失した。感謝の気持ちで胸が熱くなる。
これはリーゼアリアの優しさだ。あなたの帰るべき場所はここにある。守護騎士たちと生きていく場所はここにある。だから必ず戻ってこいと。そう、はやてを励ましているのだ。
はやては目頭を手で押さえた。自分は、グレアムたちに、ここまで大切に思われているのだ。家族のように慕われているのだ。眼球の奥が熱い。嬉しくて涙が溢れそうだった。
がしかし、そんなはやての熱情を一気に冷却する驚異があった。
周囲に人の気配が、ない。
まるで深夜の森の中――いや、
はやては舌打ちを禁じえなかった。あまりにすんなりと海鳴市に転送されたから、それが逆に仇となり、その存在に気づかなかったのである。
海鳴市全体を覆う、封鎖領域という檻に。
やっつけで解析してみただけだが、どうやらこの封鎖領域、はやてに対してのみ入り口が寛容になるという仕掛けらしい。だから容易く結界内に侵入できたのである。だがそれとは裏腹に、結界自体の強度は並外れていた。少なくとも、単独で破壊できるものではない。
邪魔者の侵入を断固として否定し、また結界内から脱出することも許さない峻厳たる牢獄。なるほど闇の書の闇は、一対一での邂逅に執着するのみならず、はやてをここから出すつもりもないらしい。もはや闇の書の闇との全面対決は避けられないようだった。
だが、はやてに怖じる気配はない。彼女はとうに覚悟を決めているのだ。ここから先の道がどれだけ
はやてはもう一度、我が家を見上げてみる。
管理局に入局してから今日まで、どれだけ苦汁を嘗めてきただろう。醜くおぞましい人間の暗部に、心ない悪態と
しかし……
しかしそれでも、はやてがこうして背筋を伸ばしていられるのは、彼女の傍に守護騎士たちがいたからだ。頼れる仲間がいたからだ。大好きな友達がいたからだ。
譲れない想いが、失いたくない絆が、いつも自分を支えていてくれたからだ。
「みんなを助けて、戻ってくる」
帰ってくる。必ず。今度はひとりではなく、みんなと一緒に。
「せやから、ちょっとのあいだだけ、留守番よろしく」
まるで両親に出かけの挨拶でもするかのように、はやては自分たちの家に向かって呟いた。それは彼女なりの宣誓だった。ささやかな日常を、再びこの家で過ごしたいという願い。
はやては、デバイスをセットアップしてバリアジャケット姿へと変わる。
それから飛行魔法を行使して宙に浮くと、そのまま瞬間的に加速して飛び出した。
封鎖領域の影響で極彩色に染まった空を少女が翔けていく。
三対の黒翼を、力強く
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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