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魔法少女リリカルなのは False Cross 第五章(5)

 連載中のSSを更新。
 今回は少し短いです。
 不本意ながら、思ったように書き進められませんでした。
 最近いろいろ、ままなりません。

 次回の更新は2週間後の10月7日(日曜日)を予定しております。
 また少し間が空きますが、どうかご了承くださいませ。


「だから手加減はしません」

 くわえて彼女は『ブラスターシステム』を起動した。
 このシステムは、なのはとレイジングハートの『限界突破(リミットブレイク)モード』で、いわゆる切り札だ。
 術者とデバイスに痛烈な負荷を与えるが、かわりに双方の能力を高める自己ブースト。
 おのれの安全を犠牲に力を得る、という点では、アクセラレーターと共通している。
 その自滅を伴う危険から、なのは自身が使用を制限していた、乾坤一擲の超技術だった。

「レイン・レンさん、あなたを倒します。――私の命を懸けて!」

 そう叫んだエースオブエースの周囲に、直後、宙を自在に飛ぶ四基の端末が現出した。
 彼女とレイジングハートが操作・制御する遠隔誘導型の兵器『ブラスタービット』だ。
 外見はデバイスの頭部に酷似している。サイズも同程度だ。
 主な機能は術者の魔法のサポート。
 使用には膨大な魔力を必要とする。
 そのためブラスターシステムを起動しなければ使えない。
 なのはの本気が窺い知れる、まさに決戦用の武装だった。

「……おもしろいですね」

 レイン・レンの口元に、不意に深々と亀裂が走る。
 狂気の男の表情は、黒い外皮に覆われて判然としなくなっていたが、その瞬間は違った。
 錯覚ではない。
 確実に……笑った。

「まったく笑える冗談だ。君の安い命を懸けたところで、僕に敵うわけないでしょうが。馬鹿なんですよ、君は」

 レイン・レンが傲然と嘲った。
 左手に携えている聖書型のデバイスも、彼の主張を支持するように光量を増す。
 根拠はない。保証もない。
 それでも男は本気で、おのれを阻むものは何もない、と自負しているのだ。
 ものすごい信念である。
 だが一方でエースオブエースは抜け目なく、レイン・レンの急所を見いだしていた。
 ――あれだ。彼が左手に提げたデバイス。
 あの聖書のページには、その一枚一枚に、魔力が蓄積されている。
 間違いない。デバイスは魔法の行使を補助するだけでなく、カートリッジシステムの役割も果たしていた。
 そもそもレイン・レンの魔力資質は限りなく低い。あってないようなものだ。
 だから魔法の行使も維持も、自分以外の力に頼るしかない。
 ようするにデバイスを破壊できれば、彼はアクセラレーターを使えなくなる。たちまち無力になるだろう。
 まさに相手のアキレス腱を狙え。
 勝負事の鉄則だった。

「だったら馬鹿の本気を見せてあげる。――これが私の全力全開ッ!」

 なのはが昂然と叫んだ。
 それからレイジングハートを構える。砲撃の態勢を取った。
 光が集う。
 デバイスと四基のブラスタービットに、真珠めいた桜色の燦然が呼び集められる。
 成長の過程を見せつけるように、ゆっくりと束ねあげられていく。
 約束の地に導かれる宇宙の旅人たち。
 隠れて現状を観察する者がいれば、そんなふうに喩えたかもしれない。
 その美しく幻想的な光景は、まるで星の誕生の縮図だった。

「スターライト――」

 方々の空間に漂う魔力を集束し、一気呵成に放出する彗星の炸裂。
 それが高町なのはを『砲撃魔導師』として確立した絶対的な奥義。
 稀代のエースオブエースが誇る至高の砲撃魔法。
 彼女は言い残した起動トリガーを喉が張り裂けんばかりに叫んだ。

「ブレイカァァァッ!」

 次の瞬間、闇が消えた。周囲が白濁した。
 デバイスと四基のブラスタービットから、膨大な魔力の束が一斉に解き放たれたのだ。
 虚空を迸る五条の閃光は、まるで奔騰する大河の流れ。
 前方に佇む敵影をめがけて轟々と押し迫る。
 対するレイン・レンの行動は沈着だった。
 スーツの上に纏っていた白衣を脱ぎ、それを左手の中のデバイスに被せる。
 おそらく集束砲の魔力ダメージから、無防備なデバイスを守るためだろう。
 彼の白衣には外敵の攻撃をバリアで弾く、高性能の防御機能が搭載されているのだ。
 実際にショートバスターは無効化された。
 スターライトブレイカ―にも多少は拮抗できるだろう。
 だいたい二、三秒は保つ。
 そしてレイン・レンには、それだけあれば充分だった。

「やはり最後はソレですか。君はワンパターンなんですよぉぉぉッ!」

 レイン・レンが野獣のごとく猛然と突進した。
 光の奔流を体で切り裂きながら、彼我の距離を超高速で圧縮する。
 驚く暇も怯む暇もない。
 スターライトブレイカ―を突破した男は、その刹那、なのはの胸板に死の拳撃を叩きこんでいた。
 レイン・レンの膂力は、アクセラレーターの効果で、超自然の域に達している。
 しかも恐怖と技巧が二つながら欠如しているために手加減を知らない。
 その破壊力はスバルの『振動拳』と同等だった。
 なのはの体が軽々と宙を吹き飛び、いちばん奥の壁に叩きつけられる。
 続いて術者の制御を失った四基のブラスタービットが泡のように消えてしまう。
 なのはのダメージは深刻だった。
 骨に罅が入っているのか、さっき打たれた胸郭が、まるで焼けるように痛い。
 おまけに内臓の一部が破れたらしく、口の中には鉄の味がこみあげてくる。
 あわや死を免れたのは、バリアジャケットを『エクシードモード』に換装し、防御力をあげたからだ。
 でなければ彼女の華奢な体は、粗挽き肉に変わっていたはず。
 致命傷を回避できたのは、ひとえに、なのはの用心の成果だった。
 それでも彼女が半死半生の重傷を負ったのは事実だ。
 くわえて切り札を真正面から破られる痛恨の展開。
 もうエースオブエースには、戦う力も術も残っていない。
 ついに進退これ(きわ)まる。



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イヒダリ彰人
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男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

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魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
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