イヒダリの魔導書
魔法少女リリカルなのは False Cross 第五章(1)
連載SSを更新。
次回の更新は一週間後の26日(日曜日)を予定しています。
この物語も、いよいよ佳境。
そこでプロットを逆算してみたところ、たぶん10月くらいには終わりそうです。このまま何事もなければ。
少し意外でした。イヒダリは12月くらいまでかかると思っていたので。
とはいえ順調(?)に進んでいるのは良いことです。
このまま終わりまで、がんばって執筆します。
なので最後までお付き合いをお願いします。
じっとりした熱気と錆びた鉄の異臭が漂う廃墟の二階。
かつては科学館だった建物の暗い屋内を、五発のアクセルシューターの光が照らす。
その桜色の燦然を反射した周囲の埃が、まるでダイアモンドダストのように輝く。
なのはと対峙するレイン・レンは冷笑を浮かべていた。
「実際に戦った君なら、
レイン・レンは、なのはの足元に横たわる気絶したスバルを、侮蔑の目で見る。
「そんなガラクタは放っておいて、ね」
「見損なわないでください。私はスバルを見捨てる気はありません」
レイン・レンが挑発してきたが、なのはの応答はあくまで冷静だった。男の悪意を軽く受け流す。
不安はなかった。
むろん『機械仕掛けの聖王』を甘く見ているわけではない。
あの戦闘機人は危険だ。
自我がないから自制も利かない。視界に入れば男も女も、子供も老人も、分け隔てなく傷つける。おそらく暴力と破壊は際限なく拡がるだろう。
ミッドチルダに出現する阿鼻叫喚の地獄絵図。
本来なら焦燥に我を失ってもおかしくない情報であった。
なのはに頼れる仲間の存在がなければ。
「だって私には仲間がいますから。私ひとりが無理をしなくてもいい。民間人の安全については、なんの心配もありません」
「仲間? 仲間ですって? あの戦闘機人ばかりの集団を? おもしろい冗談ですねぇ」
レイン・レンが、これ以上は一秒も我慢できないと言うように、くつくつと笑う。
「いいですか。戦闘機人なんて、ただの兵器です。いちおう人間の形をしていますが、その実体は単なる道具にすぎない。消耗品を仲間と思うなんて正気の沙汰じゃないですよ」
「戦闘機人は物じゃない。意思がある。夢がある。そして命がある。人間と同じように」
なのはの周囲に浮かぶ桜色の魔弾が、そのとき光の明度を一段と濃くする。
輝いているというより、燃えているという印象。
もし手で触れたら瞬く間に溶け落ちそうだった。
「なのに彼女たちが単なる道具にすぎない? 消耗品? ふざけないで! あなたの考え方は間違ってる!」
なのはが目を吊りあげて喝破した。
理性の外殻を脱ぎ捨て、感情のままに激昂する。
彼女にとって仲間の体面は、おのれの体面よりも神聖だ。
自分を嘲る言葉には澄ましていられるが、友人を愚弄する文句には耐えられない。耐えるつもりもない。
放言のツケを払わせるためならなんでもやる考えだった。
「僕が間違っている? 今、僕が間違っていると言いましたか?」
レイン・レンの口が耳まで裂ける。
その恐ろしい表情を見た瞬間、なのはの中の憤怒が消沈した。悪寒に背筋が凍りつく。
それは嘲笑でも苦笑でもない。
怪物の笑み。
まさに人ならざる者の異質な表情であった。
いったいどんな心理状態が、このような笑顔を作るのか、なのはには想像もつかない。
レイン・レンが口元を歪めたまま言葉を繋げる。
「そうですね。君の言うとおりです。僕は間違っています。存在そのものが大きな過ちなんですよ」
レイン・レンの左手が、突如、ものすごい光を放った。
周囲の闇が明るく見えるほどに濃密な暗黒の輝き。
光源の正体は聖書型のストレージデバイスだった。
続いて魔導書のページが、まるで強い風に煽られたように、おのずからめくられていく。
本は真ん中あたりから開かれた。
「――我は突撃す超人・我は突貫す鉄人・刹那の間・我は欲す――」
魔法の詠唱を開始するレイン・レン。
デバイスを使っているかぎり、術者は通常、口で呪文を唱える必要はない。
デバイスが詠唱を肩代わりしてくれるからだ。
にもかかわらず口頭で呪文を唱える場合は、すなわち強力な儀式魔法の行使を意味する。
ただレイン・レンは一介の科学者でしかない男だ。それほど強力な魔法が使えるとは思えない。しかし滔々と紡がれる詠唱がはったりとも思えない。
いずれにせよ相手の出方を待っているのは愚策だ。
危険の芽は、さっさと潰す。
なのはの決断と行動は迅速だった。
「アクセルシューター!」
一発、二発、三発。
エースオブエースは宙に浮かぶ魔弾を、レイン・レンに向けて次々と撃ち放った。
桜色の光が尾を曳いて飛翔する。
襲い来るアクセルシューターに対して、レイン・レンは前に出ることを選択した。
狂気の笑顔のまま、前傾姿勢で突進する。
痩身を覆う白衣は、一般に流通しているものではなく、彼が作った特別製。チンクの外套と同じような防御機構を搭載している。対策をしていない射撃魔法では、いくら撃っても貫通は望めない。
三発の魔弾は男の眼前で、障壁に阻まれて四散した。
エースオブエースは後方へ退きながら、用心に残しておいた二発の魔弾を発射。
続いてレイジングハートの形態を『アクセルモード』から『バスターモード』に変更する。
なのはの鋭敏な眼力は、レイン・レンの防御の正体を、ひと目で看破していた。
あれがチンクの『シェルコート』と互角の性能なら、アクセルシューターのような射撃魔法は通用しない。
ならば貫通力の高い砲撃魔法が活路を開く鍵だった。
一方でレイン・レンは呪文の詠唱を続ける。
「我は猛攻の狩人・我は猛襲の獣・すべてを粉砕し・足元にひれ伏させる・奇跡を起こせ――」
そのとき肉薄してくるレイン・レンの姿が忽然と消えた。
二発の魔弾が標的を見失い、床に墜落して火花を散らす。
見えない壁に阻まれたように、なのはの後退は止められていた。
「――教えてあげますよ。僕が間違っている理由を」
なのはの背後から、レイン・レンが、そっと耳打ちした。
慄然となる。
まわりこまれたことに、まるで気づかなかった。
「僕は『タイプゼロシリーズ』より以前に造られた出来損ないの戦闘機人です。僕は――人間じゃないんですよおおおッ!」
背中に衝撃。上半身と下半身が千切れそうなほどの。
なのはの体が宙を舞い、肩から床に激しく落下。そして奥の壁にぶつかるまで、鞠のように何メートルも転がる。
感触から察して殴られたらしいが、なのはの印象は爆弾の炸裂だった。
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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