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魔法少女リリカルなのは False Cross 序章

 およそ1年ぶりとなる「魔法少女リリカルなのは」の二次創作です。

 作品のタイトルは「False Cross(フォールス・クロス)」。
 StrikerS本編から2年後のミッドチルダが舞台の長編SSです。
 今回は「Fearless hawk」のケインさんの快諾をいただき、同氏の作品「Southern Cross」から一人、とある個性的なオリジナルキャラクターをお借りしました。
 ただしお借りしたのはキャラクターだけです。世界観や設定等は共有しておりません。
 あくまでパラレルワールドの話を描いた三次創作。
 イヒダリ版「Southern Cross」ということでご了承ください。

 なお「False Cross」本編は12月11日(日曜日)から隔週で更新する予定。
 今から長期連載が予想されますが、どうか気長にお付き合いください。
 よろしくお願いします。
 

 灰色の寒々しい廊下に金属的な音が降りそそぎ、天井の照明が一斉に非常用の白熱灯に 切り替わる。
 緊急警報。
 違法な戦闘機人を研究するこの施設にとって、それは決して無視することができない勧 告だ。
 普段は淡々と作業をする職員も、パニックに陥ることは免れない。
 ――すべては計画どおりだった。
 あとはこの混乱に乗じて無駄なく迅速に事を運ぶだけである。
 魔法に頼らない単純な方法で警備員に扮し、なに喰わぬ顔で地下の研究施設に侵入する と、昂る鼓動を反映した足どりで所長室に向かう。
 眼前のドアを開けるときは、あえてノックはしなかった。

「――所長!」

 わんわんと鳴り響く警報機の音に負けないくらいの大声で叫んだ。
 部屋の中にいたのはスーツの下に白衣を着た中年の男性。
 言わずもがな彼こそが、この施設の所長である。
 彼は椅子から半分腰を浮かせた姿勢で、こちらを穴が開くほどに注視していた。
 非常用の白熱灯では明度が足りなくて正確にはわからないが、その反応は突然の警報や 闖入者の大音声に驚いたというより、なにかに怯えて蒼ざめているような印象を与えるも のだった。

「なんなんだ、この騒ぎは。いったいなにが起きた? ……まさか時空管理局の連中がも う?」

 その言葉だけで、所長の怯懦(きょうだ) の原因は、すぐに特定できた。
 違法な戦闘機人の研究を実践しているこの地下施設は、いくら辺境にあるとはいえ、時 空管理局地上本部が居を据えるミッドチルダにある。身近に潜む天敵の存在を警戒するの は当然だった。
 とはいえ今の台詞には、まるで「管理局の人間がもうすぐやってくる」みたいなニュア ンスが含まれていて、少々不可解な点があった。
 もっとも所長の発言の根拠に心当たりがないわけではなかったが。

「お騒がせして申しわけありません。これは警備システムの誤作動が原因です。ただいま 復旧中ですので、しばらくお待ちください」

 警備員に変装しているので、その外見に合った対応をする。
 声音はやや少年の面影を残していたが、警報機の篠突く雨のような騒々しい音に取り紛 れて、年齢に疑惑を持たれることはなかった。
 細身だが大人と比較しても遜色のない長身に、ここが顔も満足に確認できないほど薄暗 い部屋だったことも、こちらの偽装を鉄壁にする要因となっていた。
 思わず自画自賛して、ほくそ笑んでしまう。

「そうか。事情はわかった。報告ご苦労だったな。仕事に戻っていいぞ」

 所長は状況を把握して安心したらしい。半分浮いていた腰を椅子に落ちつけると、こち らに当然のごとく退室を命じてきた。
 それから思いだしたように、ふいに机の棚を開けると、なにやら探し物をはじめた。
 薄闇のせいで表情は見えないが、どこか差し迫った気配を感じる。
 だが所長の目の前にいる警備員は、職務に忠実な本物の警備員ではない。
 命令どおりに動くつもりは毛頭なく、むしろ積極的に混ぜ返すつもりだった。

「ところで所長、先ほど『まさか時空管理局の連中がもう』と仰ったと思うのですが、あ れはどういう?」

 所長の胸の内を探るため、いま彼がもっとも詮索(せん さく)されたくないであろうことを、ここぞとばかりに追求する。
 すると予期していたとおり、机の棚の中を手探りしていた所長の動きが、このときピタ リと止まった。
 偽者の警備員は興に乗った。所長の神経を逆なでするようなことを重ねて申し立てる。

「それと何をお探しになっているのですか? 自分でよければ、お手伝いしますが」
「わたしは『仕事に戻れ』と言ったはずだ。余計なことに気をまわすな。さっさと出てい け」

 探し物を中断した所長が、こちらを上目で睨んでくる。空気を読まない言葉の連続に、 たいそう苛立っている様子だ。
 すげない対応になるのも無理からぬことである。
 所長にしてみれば、たかが警備員ごときに一から十まで説明してやる義理はないし、そ んな暇もないからだ。
 もっとも相手に対して義理がないのは警備員のほうも同じであった。
 いくら威圧されても、ずっとカカシのように棒立ちのまま、その場から動かない。動こ うとしない。
 重苦しい沈黙は七秒ほど続いた。

「……うっかり余計なことを口走ったのが失敗だったようだな」

 ややあって所長が溜息まじりに呟いた。口を開くのも億劫そうな様子である。
 が、さらなる質問責めで作業を邪魔されては困ると思ったらしい。棚の中の発掘を再開 すると同時に、彼は観念したように説明をはじめた。

「わたしの探し物は記録用のデバイスだ。中には昨日までの研究データが入っている」
「研究データを保存しているデバイスを……なぜですか?」
「――時空管理局だ」

 所長の声は警報音より決して大きくなかったが、その言葉は周囲の騒音を圧倒して明瞭 に聞こえた。

「外部の人間を雇って手に入れた情報だ。どうやら研究所の納品記録が外に漏れていたら しい。そのせいで戦闘機人の研究に必要な装置を納品していたことが管理局の連中にバレ た。もう間もなく管理局の捜査官が、ここに令状を持ってやってくる。陸上警備隊を率い てな」

 なるほど、と得心する。
 所長は知っていたのだ。我が身を脅かす厄災が、もうじき訪れることを。
 だから部屋に入った直後の所長はあんなに怯え、『まさか時空管理局の連中がもう』な んて予感ではなく確信めいたことを呟き、なにやら焦りながら遁走する準備 をはじめたのだ。
 捕まれば議論の余地もなく軌道拘置所に投獄されるだろうから納得の行動である。
 それにしても意外だった。
 まさか時空管理局が令状を携えて踏みこんでくることを所長が知っていたとは。
 これは研究所の納品記録を漏洩させた諸悪の根源――所長の目の前にいる警備員――つ まり自分しか知らない情報だと思っていたのだ。
 もちろん相手は違法な戦闘機人の研究に手を染めるような悪党である。
 小動物のごとく用心深い性格なのは予想していた。
 が、どうやら予想していた以上に慎重で抜け目ない男だったらしい。
 入れ違いにならなかったのは幸運だった。

「……そのことを他の職員の方々は?」

 恐るべき事実を知って萎縮してしまった、そんなふうを装ってこわごわと問いかける。
 所長は探し物をする手は止めなかったが、机を見ていた目を一瞬だけ質問者に向けた。

「知っていたら今ごろ、どうなっていたと思う? きっと右往左往しながら逃げ出す輩が たくさん湧いたはずだ。かえって悪目立ちするにもかかわらず、な。しかし今のところ、 そんな動きはない。つまりそういうことだ」

 冷淡で迷いのない口調。
 それだけで所長が、最初から管理局の襲来を部下に知らせるつもりがなく、かててくわ えて自分ひとりで逃げるつもりだったことが、明白に理解できた。
 保身を優先にして考えるのも無理はない。
 摘発の対象とされている研究所の職員が、しかも全員がそろって逃げ出そうとすれば、 騒ぎになるのは火を見るよりも明らかだ。
 とりわけ監視の目を厳しくしている管理局には『摘発の件に気づいてパニックを起こし ている』と映るだろう。
 そうなれば逃げ道は完全に断たれる。
 蟻の子一匹通さないとばかりに張り巡らされた天網に為す術なく捕捉されるであろう。
 我が身が大事ならば他は涙を呑んで犠牲にするしかなかった。
 とはいえ目の前の男は、戦闘機人なんていう非人道的な研究を行っている、血も涙もな い外道である。
『涙を呑む』なんて人間的な呵責など持ち合わせてはいなかった。

「で、おまえはどうする?」

 案の定、こちらに水を向けてきた所長には、まったく悪びれた様子がなかった。
 自己本位もここまで徹底していると、呆れるのを通り越して、むしろ笑えてくるから不 思議である。

「……あの、どうする、とは?」

 たどたどしい喋り方で反問する。
 所長の真意は透けて見えるようだったが、今この場の自分は単なる雇われ警備員。
 仕事の領分を大きく逸脱した事柄に対しては、即断即決よりも優柔不断のほうが現実的 である。
 ここは戦々恐々とした態度を演じるのが得策だった。

「はっきり言わないとわからないようだな。わたしと一緒に研究所を離れるか、それとも このまま居残って何も知らない連中と心中するか、どっちかを選べと言っているのだ」

 所長の探し物は、まだ続いていた。机の棚の中を探索する手も、同じ場所を検める視線 も、忙しなく動きまわっている。
 おかげで所長の注意力は、このとき散漫になっていた。
 着実に迫る管理局の影も、彼の焦燥を誘発している。
 動くなら今が好機だった。

「心中だなんて、そんな大げさな……」

 そう言いながら一歩、二歩と前へ進み出る。
 続いて警備員は右手を背中に回し、ベルトに挟んでいる物体に触れた。
 硬く冷たい感触。
 獲物の隙を窺う爬虫類のような暗い微笑が自然と口元に浮かんでくる。
 だが発掘作業に忙しい所長は、警備員のただならぬ挙措に、まったく気づく様子がなか った。

「大げさかどうかは試してみればわかることだ。するなら勝手にすればいいさ。ただし他 の連中に告げ口するのは、わたしが研究所を出たあとにしろ。おまえの偽善に巻きこまれ ては敵わん」

 所長が冷たく言い捨てる。
 わざわざ試してみるまでもない、結果はわかりきっている、そう言外に断定している口 ぶり。
 聞く者の不安をあおるような突き放した言い方だった。
 警備員はわざとらしく見えないように気をつけながら悲痛そうに肩を落とす。

「……わかりました。僕も自分の身がいちばん大事です。他の方々には黙っています」

 共犯になることを宣言すると、所長が「それでいい」と頷いた。

「もし同じ立場になれば、おまえ以外の人間だって、同じことを言うだろう。おまえは常 識的な選択をしただけだ。悪く思う必要はないさ――と、あったぞ。ようやく見つけた」

 ふいに所長が歓声をあげた。
 彼は棚の中を忙しなく漁っていた右手を、まるで見せびらかすように机の上に載せる。
 その手には掌サイズの端末が握られていた。

「それがお探しの?」
「そうだ。このデバイスだ。この中にわたしの研究成果のすべてが詰まっている」

 所長はようやく発見したデバイスを、まるで宝物のように陶然と眺めている。
 一方でドアの前に佇んでいた警備員は、さながら盗人のごとく足音を忍ばせて、すでに 所長の鼻先まで歩み寄っていた。

「今日まで研究してきた素体を手放すのは惜しいが、これさえあれば同じような戦闘機人 はまた作れる。とにかく今は研究所を離れるのが先決だ。ほとぼりが醒めるまでは――」
「いいえ」

 ひと安心した所長の顔に、そのとき人影が覆い被さる。
 直後、彼の無防備な額に突きつけられる凝縮した殺意。
 それは9mm口径の弾丸を発射する自動式拳銃の銃口であった。

「ほとぼりが醒めるのを待つ必要はありませんよ」

 そして殷々(いんいん)と響きわ たる銃声。
 だがそれは警報機の音や部屋の壁に() されて、研究所にいる他の職員たちの耳には届かない。
 なにをされたのか理解する間もなく所長は絶命していた。
 死因を自殺に見せかける――なんてことは考えなかった。
 数ある次元世界の中で、もっとも発達した魔法技術に裏打ちされた時空管理局の科学捜 査は、文字どおり完璧である。いかなる小細工も瞬時に見抜いてしまう。死因の偽装など 不可能だった。
 しかし時空管理局は、全知全能の神ではなく、あくまで人間の集団だ。雲隠れできない ことはない。
 たとえば戸籍も名前もない『透明人間』を捕まえることはさすがにできないだろう。
 なんとも皮肉な話ではあるが、こういう犯罪行為をするときに限っては、おのれの特殊 な境遇は得だった。

「これで用事は終わった。あとは管理局が来る前に、尻に帆をかけて逃げるだけ――と、 その前に」

 人を殺して気持ちが昂っていた警備員は、口では逃げようと言いながらも余裕だった。
 むしろ平素よりも落ちついた佇まいで、死体が握ったままのデバイスに目をやる。
 戦闘機人を製作する技術を持たない自分には何の価値もないデータ。無用の長物。
 だが所長が持っていても三途の川を渡る駄賃にはならないだろうし、だいいち今の状態 のまま放っておいても管理局に押収されるだけだ。それは怏々 (おうおう)としておもしろくない。
 そうなれば結論は、ひとつしかなかった。
 研究データは自分のものにしよう。
 ひょっとすると役に立つかもしれないし、そもそも宝の持ち腐れになるとは限らない。
 しょせん知識や技術なんて後天的なものだ。やる気さえあれば学ぶのは難しくないし、 それができそうな場所に心当たりもある。
 つまり手に入れたデータを生かすか殺すかは自分次第なのだ。
 それになにより彼自身、この悪ふざけのような巡り合わせを、とても気に入っていた。

「戦闘機人の研究データ、死んでしまった所長には、もう必要ありませんよね?」

 訊くまでもないことを白々しく確認した警備員は、頭を撃ち抜かれた衝撃で椅子の背も たれに仰け反る格好になった死体の右手から、戦闘機人のデータが記録されている端末を 奪った。
 はたと天井のスピーカーから降りそそぐ警報音が停止した。
 月明かり程度だった照明の光も連動するように明るくなる。
 誤作動を起こしていた警備システムが復旧したのだ。
 それに伴い暗く不鮮明だった室内に凄惨な光景が表出する。
 亡骸の背後の壁には血と脳漿が飛び散っていた。
 室内の照明に赤く濡れ光るそれは、まるで猿の描いた前衛絵画のようだ。
 できれば一生お目にかかりたくない惨状を前に、だが警備員は吐き気を催すどころか無 関心だった。
 胸の内に去来するのは一仕事を終えたという実感のみ。
 警備員は今さっき人を殺したとは思えないほどの清々しい顔で笑う。

「だったら僕が引き受けましょう。――あ、感謝なんかしなくてもいいですよ。これは親 の遺産を子が相続するようなものですからね。所長は何の心配もなく成仏してください」

 警備員は最後に「お邪魔しました」と言い置くと、今は亡骸を入れた棺桶と化した所長 室をあとにした。

 それから数分後――

 時空管理局の捜査官が陸上警備隊を率いて登場し、研究所は今度こそ突然の摘発に、そ して殺人事件に騒然となったが、所長を殺害した犯人を特定することはできなかった。

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HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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