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魔法少女リリカルなのはEine Familie 第三話 『四面楚歌』(4)

魔法少女リリカルなのはEine Familie 第三話 『四面楚歌』(4)を更新。

緊急ではないですが、お知らせです。

次回のEine Familie 第三話 『四面楚歌』(5)の更新を12月8日から7日の日曜日に変更。
そして(6)の更新を9日の火曜日にします。
どうぞよろしくお願いします。



 その瞬間、クロノの頭の中は真っ白になった。
 パサード・フォルクスワーゲンともあろう男が、いったい何を血迷ったことを言っているのか。そのあまりにも荒唐無稽(こうとうむけい)な論理の展開に、クロノは唖然となる。
 しかし呆気にとられていたのは束の間だった。
 クロノは悪ふざけのようなパサードの言いがかりに目くじらを立てる。

「お言葉を返すようですが、八神捜査官は被害者です。いったい何を根拠にそんなことを」

 パサードを糾したクロノの口調には冷ややかな棘が混じっていた。加えてパサードに向けた眼差しも咎めるように尖鋭(せんえい)だった。当然のように年上には礼を尽くすクロノだが、このときばかりは愛想をする余裕がない。
 対するパサードは――その謹厳実直(きんげんじっちょく)な表情は小揺るぎもしていない。それは非の打ちどころのないポーカーフェイス。どれだけ糾弾を浴びせてもびくともしない障壁のごとき護りであった。

「ふむ。君はたしか、八神捜査官とは旧知の間柄だったね。
 ……なるほど、いわゆる肝胆相照(かんたんあいて)らす仲、というわけだ」

 独り、得心したように喉を鳴らすと、パサードは重々しい口調でクロノに問いを投げる。

「だとすると、さぞ今の彼女の現状には腹を立てているだろう。それこそ彼女の罪の有無など二の次で、ただ彼女を救出する算段ばかりを()っているのではないかね」

 妙に含蓄(がんちく)のあるパサードの物言いに、クロノは不快そうに眉をひそめた。彼の優秀すぎる理解力は、パサードの台詞に込められた皮肉を、つぶさに把握していたのである。

「個人的な感情にほだされ、冷静さに欠けると仰られるのですか?
 たしかに僕は八神捜査官を大切な友人だと思っています。それはこの先、なにがあってもきっと変わらないでしょう。ですが、たとえ友人でも、いえ友人だからこそ、私情に惑わされて犯意の有無を見逃すような真似は絶対にしません。誰に誓ってもいい。彼女は――無実です」

 言いながらクロノはわずかに期待していた。
 誠心誠意の言葉で訴えかければパサードや、彼に追従(ついしょう)する議員たちの心に巣食った因業(いんごう)を崩して通ずるものと。半ば祈るように彼らのモラルを信じようとした。
 が、やはりそれは、クロノの叶わぬ望みでしかなかったらしい。
 会議室に蟠る薄闇のあちこちから漏れ聞こえる、押し殺したような低音のさざめき。
 何か汚らわしいものでも見るかのような白眼視(はくがんし)の数々。
 それらが織りなす情動の意味するところを、クロノは知っていた。
 ――嗤笑(ししょう)
 夢を語る子供を内心で嘲弄し、冷笑で見下す。それは歪んだ大人の笑いだった。

「なにも私は適当にものを言っているわけではない。八神捜査官が犯人だと疑うに至った根拠はきちんとある。批判は、まずそれを聞いてからにしてもらいたい」

 いまだ笑いの尾を引く議員たちとは違い、唯一パサードだけは相好を崩していない。まるで倚像(いぞう)のように姿勢も表情も変えぬまま、感慨のない語調で言葉を繋げる。

「石化した魔導師たちに使用された魔法が古代ベルカ式のものであるという報告は、鑑識から届いた調書を読んで検めた。だが、捜査は難航する気配を窺わせた。
 古代ベルカ式の魔法を行使できる魔導師は少ない。次元世界中を隈なく探し回ったとしても一人や二人、運良く見つかればいいほうだろう。可能性として例をあげるなら、広大な砂漠で一粒の砂金を見つけ出そうと、あてもなく徘徊するようなものだ」

 そう語っている自分自身が呆れ果てたとばかりに、パサードは深く吐息をつく。
 しかし、その声音には焦燥も絶望も感じられない。むしろパサードの口調には、天文学的な確立をひっくり返してその砂金を発見したような喜悦があった。
 パサードはわざとらしく息を詰めると、その先の言葉をもったいつけるように告げた。

「だが我々には心当たりがあった。それが八神捜査官だ」

 無礼なのは重々承知だったが、これにはクロノも口を挟まずにはいられなかった。

「まさか、八神捜査官が古代ベルカ式魔法の使い手だという理由だけで拘束したのですか?」

 失笑めいた嘆息をつきながら、パサードが肩を竦める。

「あの酸鼻をきわめた事件現場において、たった一人、しかも無傷で発見されている。これはどう考えてもおかしい。その事実に疑いを持ち、八神捜査官を第一の容疑者として追及するのは、はじめの捜査方針としては妥当だと思うがね。それに、彼女には動機だってある」
「……動機?」

 クロノは頭痛がしてきた。何を言っているのかまるで判らない。
 そんなクロノの内実など知らぬ存ぜぬの風情で、パサードが悠然と頷く。次いで再開したパサードの語り口は、まるでこの世の(ことわり)を諭す教師のようだった。

「八神捜査官は、二年前まで脚が不自由だったそうだね。体の一部が不具(ふぐ)だったんだ。当時はさぞかし苦労を重ねたことだろう」

 怪訝な眼差しを向けるクロノを心なしか愉しそうに眺めつつ、パサードは先を続ける。

「その痼疾(こしつ)病根(びょうこん)は、何を隠そう闇の書が原因だった。なら八神捜査官にとって闇の書と、その守護騎士たちは不倶戴天(ふぐたいてん)怨敵(おんてき)。ひそかに復讐を企てていると類推するのは順当な考えだろう」
「フォルクスワーゲン監察官ッ!」

 気がつけばクロノは憤然と席を立っていた。
 ここでこうして討議を重ねているのは交渉のためだ。感情的になって益になることは何もない。冷静になれ、とクロノは何度も自分に言い聞かせる。
 だが――言わせたままではいられない。
 つねに自分の苦難や不幸より、誰かの慟哭する声に心を震わせてしまう優しすぎる友達を。おのれの罪に絶望してもなお歩き続ける強さを秘めた仲間を。
 ――八神はやてを、これ以上侮辱することは断じて許せない。
 クロノは職を賭して箴言(しんげん)を呈する覚悟を決めた。

「あなたの言ったことはすべて空論にすぎない。八神捜査官は……はやては、あなたが思っているような人間ではありませんっ!」

 大喝したクロノを見つめながら、パサードは失望したように溜息をつく。

「感情的に物事を判断すれば、それはすなわち相手の真意を見失うことにも繋がる。
 残念ながら今の君からは、冷静さがまるで感じられない。ひさしぶりに見どころのある若者だと思っていたのだが……どうやら私の見こみ違いだったらしい」

 そして、あざといほど格式張った挙措で肩を竦めてみせた。

「それに誤解がないように言っておくが、私とて血も涙もない人非人(にんぴにん)ではない。今回の決断を下すに至っては、泣いて馬謖(ばしょく)を斬るような心痛があったのだよ。察してくれるとありがたい」

 何を白々しい――
 図らずも怒鳴ったおかげか、いくらか溜飲が下がっていた。握りしめた拳を震わせながら、クロノは再び席につく。彼のさっきの剣幕は、傍目にはみっともないものに映ったかもしれない。が、それを契機にして平静さを取り戻せたのだから、あながち無意味ではなかった。

「……高町なのは戦技教導官とフェイト・T・ハラオウン執務官補佐が襲撃された事件は、いったいどう説明なされますか?」

 クロノは最後の手段とばかりに、悲壮感もあらわな口調で質す。

「彼女たちが襲撃されていた時間、すでに八神捜査官は救護隊によって保護されていました。八神捜査官には時間的にも場所的にも、それになにより救護隊員たちの目を盗んで犯行に及ぶなんて芸当、どう考えても不可能なはずです」

 あらゆる可能性を吟味してみても、はやてにそんな詭計(きけい)ができるとは思えない。考えられない。異論を差し挟む余地すらない。未来永劫ありえない妄想だろう。
 そんなふうに半ば確信していたクロノだったが、彼はまだパサード・フォルクスワーゲンという男の不滅不朽の狷介孤高(けんかいここう)ぶりを、いまだに低く見積もっていたらしい。

「八神捜査官には、我々の知らない秘奥(ひおう)があるはずだ。例えば……そう、古代ベルカ式のレアスキル『蒐集行使』。このレアスキルで蒐集した魔法は枚挙(まいきょ)(いとま)がないと聞く。その魔法の中に君の言う不可能を可能にする魔法があったとしても、別段、おかしいことではあるまい?」

 クロノはとっさに反駁(はんばく)もできなかった。
 それを説いたパサード自身とて、はたして信じているかどうかも判らない怪しい推論を、彼は無遠慮に憚りなく言い放ったのである。それがさも既成の事実であるかのように、自らだけでなく他人の深層心理にも強く刻みこむように、断定口調で揣摩臆測(しまおくそく)を宣言したのだ。
 そのあまりにも堂々とした言葉に、クロノは完全に気圧されてしまっていた。
 その一瞬の隙を狙い撃つようにして、パサードはさらに畳みかけていく。

「高町なのは戦技教導官とフェイト・T・ハラオウン執務官補佐を襲ったのは、おそらく捜査の撹乱が目的だろう。一見、不可能としか思えない方法で、しかも動機も何もない友人を攻撃し、疑いの目を少しでも自分から遠ざけようとする計画だったに違いない。
 まあ子供の考えそうな浅知恵だが……ハラオウン執務官の必死さを見ると、あながちそうとも言い切れないらしい。やれやれ、たいした役者だよ、彼女は」

 表情一つ変えずに揶揄するパサードに続き、周りの議員たちも尻馬に乗ってクロノを嘲る。 
 ――パサードや他の議員たちが、なぜはやてを犯人にすることに執着するのか。
 クロノは怒りと悔しさを堆積させつつも、そのことについて思いを巡らしてみた。
 大規模次元侵食未遂事件――通称『闇の書事件』。
 クロノにはそれしか思いつかない。
 はやてに対する管理局の――とりわけ彼女が闇の書の主であることを知る一部の上層部からの――風当たりは冷たい。それはある意味、人種差別と言えなくもなかった。
 なぜそんなことがありえるのか。
 上層部の幹部の中には、闇の書事件の被害に遭った者たちが何人かいるからである。その身に受けた痛みと屈辱と絶望を、彼らは今も忘れていないのだ。
 だが、彼らの中心人物であるパサードが闇の書事件に関わっていたという話を、クロノは聞いたことがなかった。しかし、ここまで執拗にはやてを追いつめる言辞を続けるのは、なにか彼女に対して含むところがあるからだろう。
 が、それを追求したとしても、この四面楚歌も同然の状況を打破する切り札にはならない。
 パサードの理論武装は完璧だった。いくらクロノが言い募ったところで、パサードの牙城は決して切り崩せまい。言葉巧みにいなされるのがオチだろう。
 クロノは独りで戦うことに限界を感じていた。
 せめて一人だけ……一人だけでもクロノの主張に協賛してくれる議員がいれば、もしかすると、この劣悪な趨勢(すうせい)を拮抗にまで持ちこめるかもしれない。
 そんな虚しい希望に縋りたいと、クロノが考えていたときだった。

「その意見に異議があるのですが、発言をしてもよろしいでしょうか?」

 目から鼻へ抜けるような機知を窺わせる美声が、パサードの推論に異を唱えた。
 それは今もっともクロノが欲しかった助勢。しかし詮無い望みと諦めていた排撃(はいげき)
 クロノは驚きと期待を含んだ眼差しを、声のした方へと向けた。
 クロノの視線の先にある薄闇が、やおら明るくなっていく。薄闇に遮られて見えなかった容姿が明瞭になっていき、やがて淡い光の中に女性の輪郭を浮かび上がらせた。
 その秀麗な美貌を視界に収めたクロノは、彼女を拝見できた幸運に胸が一杯になった。
 一方、感激に震えるクロノとは違い、やはりパサードは自分のペースを崩さない。彼はゆったりと椅子の背にもたれると、慇懃(いんぎん)な仕草で頷いてみせる。

「構いませんよ。ここは議論をする場だ。たとえ誰であろうとも発言する権利は等しく平等にある。お聞かせ願いましょうか? 騎士カリム・グラシア」


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HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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