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魔法少女リリカルなのはEine Familie 第三話 『四面楚歌』(5)

魔法少女リリカルなのはEine Familie 第三話 『四面楚歌』(5)を更新。
第三話長げぇーな。なんでだろう……。

たまたま観たスキップ・ビートっていうアニメが面白かったので、
原作の方も読んでみたのですが……はっきりいって面白すぎる。
これはマジでオススメです。



 カリム・グラシア――ミッドチルダの北部にあるベルカ自治領を治める為政者であり、そこに建立(こんりゅう)された聖王教会の教会騎士に若くして推輓(すいばん)された、絵に描いたような才媛である。
 腰丈まで伸びた長髪は丹念に編み上げた金糸細工のごとく精緻。無垢な白さに彩られた肌は、まるで誰も触れたことのない処女雪のよう。身にまとう修道服は、カリムに着られることを至上の喜びとしているかのように、彼女の清楚な美しさを飾るにふさわしい華となっている。
 はたと、カリムがクロノに微笑みかけた。クロノは惚けたように息を呑んだ。
 世に、これほど絶世の美女という記号が似合う女性もいるまい。
 出逢った時と場所がなごやかな歓談の場だったなら、ストイックを地でいくクロノとて、あたかも魅惑されたように口説き文句の一つや二つは囁いていたかもしれない。
 しかし、かろうじてそうはならなかったのには理由があった。カリムが物怖じせずに容喙(ようかい)してきたことにより、会議室に漂う空気が一瞬にして切迫したものへと変わったからだ。
 もっとも生真面目なクロノにとって、初対面の女性に秋波(しゅうは)を送るなんていう猟色家(りょうしょくか)じみた不道徳――とうてい容認できるものではなかったが。

「では忌憚(きたん)なく言わせてもらいます。フォルクスワーゲン監察官が先に述べた見解は状況証拠だけであり、確証に迫るものは何ひとつありません。
 それに救護隊が現場に到着したとき、八神捜査官は石化した仲間の体を抱いたまま放心状態だったそうです。そんな曖昧模糊(あいまいもこ)とした精神状態であった八神捜査官に、はたして仲間を裏切るような卑劣な所業が可能だったでしょうか?」

 まるで気負ったふうもなく、カリムはうぐいす嬢なみに耳障りのいい声で問うた。
 微笑みながら解答を促すカリムを、パサードが値踏みするような視線で見据える。

「八神捜査官は自ら望んで守護騎士たちの業苦(ごうく)まで背負った粋狂な奇癖の持ち主だ。その心根(しんこん)奈辺(なへん)にあるか、容易に窺い知れるものではあるまい。我々の洞察力では揣摩(しま)忖度(そんたく)もできんよ」

 あっさりと切り替えしたパサードが、困ったように肩を竦めながら嘆息した。
 不機嫌そうに沈黙していた議員たちがいっせいに笑い出す。まるで頓知(とんち)の利いた冗談でも聞いたように、他人(ひと)の神経を逆撫でするような笑い声が唱和する。
 むろん、クロノは笑わない。パサードも他の議員たちも、はやての責任感と正義感を理解しがたいものとして蔑み、珍妙な動物でも弄うように(はや)し立てているだけである。
 そのあまりにも度しがたい戯言に、クロノは堪らず腰を浮かして反論を差し挟もうとした。だがその先に続く行動は、カリムの声に遮られてしまう。

「まだあります。八神捜査官のレアスキル――蒐集行使で集めた魔法を犯行に利用した、という意見ですが、それはあまり実効的とは言えません」

 議員たちの不快な笑い声が、まるで潮が引くように消えていく。

「なぜだね?」

 パサードがそう言って続きを促す。カリムは組んだ両手を円卓の上に置いた。

「蒐集行使を用いて採取した魔法は、その種類も数も効果も、議員のみなさまが知っているとおり深遠です。ですがそれを踏まえたうえでなお、よく考えてみてください。
 二年前まで魔法の『ま』の字も知らなかった少女が、いくら才能に恵まれているとはいえ、たった二年間でそれらの魔法をすべて使いこなせるようになっているとは、とうてい思えません。魔法は決して一朝一夕(いっちょういっせき)で身につく技術ではない。それはこの場にいる誰もが知悉(ちしつ)しているはずです。それに現在の彼女には、魔導書を制御する要ともいうべき管制人格がありません」

 カリムの言葉には説得力があった。
 その理路整然とした説明に舌を巻きながら、クロノは浮かせていた腰を椅子に落とす。
 魔法を使える議員もそうでない議員も、管理局で働いている以上、魔法ひとつ修得することがいかに困難を要するかは、一般教養も同然に(そら)んじていた。
 だからこそ、カリムの台詞を無視できない。
 議員たちの沈黙は、カリムの見解に対する無言の肯定であった。
 一方、そんなカリムの見事な弁舌に、クロノは別の意味で感嘆していた。
 はやてが魔法を使っているところを何度も見たことがあるクロノだからこそ判る。カリムの説明は半分は事実だが半分は虚実である。管制人格がいないため細やかな魔法の制御ができないというのは本当だが、蒐集した魔法を行使するだけならはやて一人でも問題ない。
 それは暴走した闇の書の管制人格が、さして苦もなくスターライトブレイカーを使ってみせたことからも窺える。はやてはその能力を受け継いでいる。論理的には同じことができよう。
 はたして、それをカリムが知っているのかどうかは判らない。が、怜悧な容貌を裏切るカリムの沈着果敢なハッタリに、クロノは畏敬の念を覚えずにはいられなかった。

「それは八神捜査官と同様、古代ベルカ式のレアスキルを持つ君ならではの見解かね?」

 言い返せずに沈黙する議員たちとは対照的に、あいかわらずパサードだけは超然として揺るがない。明日の天気を確認するような気軽な調子で尋ねてきた。
 カリムは少しだけ考えるような素振りを見せたあと、パサードの目を見ながら答える。

「そう解釈してもらって構いません。……話を続けてもいいでしょうか?」

 パサードが鷹揚に頷いた。するとカリムは木漏れ日のような優しい笑顔から一転、毅然とした教会騎士の真摯な表情へと立ち変わる。

「では最後に……それはフォルクスワーゲン監察官をはじめとする、この場にいる議員たちの大半が、八神捜査官を救いようのない次元犯罪者であると決めつけていることです。ほんらいなら公正を厳守すべき審査も、この会議ではただ出来レースと化しています。
 それがわたしには一種の差別意識――つまり八神捜査官が闇の書の主だったことと関係があると、そう考えるのは穿ちすぎでしょうか?」

 カリムはこの会議の本質を一気に暴き立ててきた。
 これは、はやてを被告とし、パサードを裁判長、居並ぶ議員たちを陪審員とする裁判だ。それも被告を完全に隔離したうえで釈明の機会すら与えず、ただ一方的に罪状の認定を決めるだけの人民裁判であり、その場で有無を言わさず極刑を下す軍事裁判……いや、もはや裁判以前の問題――つまり私刑に他ならない。
 しかもなお最悪なことに、この会議に列席している議員たちのほとんどが、闇の書事件におけるはやてへの処罰が軽すぎると不満をもっていることだ。
 だからほんらい話し合うべき魔導師連続襲撃事件に、はやてが関わっていると知ったとき、彼らはとっさにこの事件を贖罪の羊(スケープゴート)にしようと企んだのだろう。闇の書事件では不本意な結果に帰結した、はやてに対する刑罰を、今度こそ完璧に実行するために。
 なるほど、たしかにカリムの示唆(しさ)するとおり、法を司る為政者のすることとは思えない悪辣である。その義侠心(ぎきょうしん)の欠片も窺えない没義道(もぎどう)じみた振る舞いに、クロノはあらためて憤りを覚えた。だが義憤は、クロノよりもカリムのほうが激しかったらしい。
 それはさっきまでの温厚さを内側に潜めたカリムの、パサードを見据える眼光の鋭さが、なによりも雄弁に語っていた。混じりけのない清冽な怒りの眼差しが。
 しかし、パサードはカリムの威圧など意にも介さない。何食わぬ顔で肩を竦める。

「それは邪推(じゃすい)というものだよ。私や他の議員たちにも、そんな(よこしま)な考えは微塵もない。
 だがね、騎士カリム。八神捜査官が赦されざる犯罪者であるという点だけは、厳然たる事実のはずだ。なにせ彼女は闇の書事件を惹起(じゃっき)しようとした罪を、公然と認めているのだから」

 クロノは顔をしかめた。たしかにパサードの言うとおり、はやては二年前の闇の書事件に関して、その罪のほとんどを抗弁のひとつもせずに認めてしまっている。
 だがそれは、守護騎士たちと共に罪を償っていこうと決めた、はやての確固たる意志の発露だ。事件の背景と、それに関わった者たちの心情を忠実に知っているクロノにとって、パサードの発言は事実無根の言いがかりにも等しい。クロノはすかさず反論を開始した。

「ですが、八神捜査官と守護騎士たちの執行猶予はもう過ぎています。それでも彼女たちは、今でも管理局に恭順の姿勢を示している。罪は充分すぎるほど償っているはずです」
「……過ちも瑕瑾(かきん)といえば、なんとも綺麗に聞こえるものだ」

 それは驚くべき変貌だった。
 カリムの追求にも眉ひとつ動かさなかったパサード・フォルクスワーゲンが、クロノの言葉のなにを引き金にしたのか、突如、眼差しに凄烈を漲らせたのである。

「ハラオウン執務官。罪とは癒えず消えず塞がらない、額に刻まれた烙印のことを言うのだよ。この邪悪の刻印は、刻まれた者を未来永劫苛み続ける。その苦痛は死ぬまで終わらない」

 静かに、ぞっとするほど静かに告発めいたことを嘯くパサード。
 クロノを見据えるその眼差しには温度などなく、まるで千の刃のように冷酷だった。
 クロノは完全に気圧されて言葉が出てこない。そんなクロノの代わりに異を唱えるかのように、カリムが困難に一歩足を踏み出すような面持ちで口を開いた。

「……過去は、たしかに消えないし変えられません。でも未来なら変えられます。過去に犯した愚かしい罪科(つみとが)に、いつまでも縛られたままではいられない。いつかはそれを乗り越えていかないといけない。誰もが〝明日〟に続く〝今日〟を生きる権利を持っているのですから」

 次元犯罪者とて今日を生きる人間。背負った罪がどれだけ重くても、明日を生きる権利はきっとある。あくまで人の尊厳を遵守(じゅんしゅ)するカリムの発言に、パサードの目に今まで現われなかった感情――憎しみのようなものがはじめて喚起された。

「君がそれを言うのかね? まさか知らないわけではあるまい。君たち聖王教会の信徒たちの手もまた、次元犯罪者らと同様に穢れていることを。十三年前の闇の書事件よりもさらに以前、君たちの祖先が起こした呪うべき惨劇の歴史を」

 パサードは検事の最終論告のように粛々と、それでいて容赦のない口調で言い放った。



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イヒダリ彰人
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男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
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イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

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