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魔法少女リリカルなのはEine Familie 第九話 『絶望よ希望となれ』(3)

魔法少女リリカルなのはEine Familie 第九話 『絶望よ希望となれ』(3)を更新。

今回の話は、やけに手直しが多かった。
てなわけで気がつけばもう、今日の日付が変わりそうだったという。
でもちゃんと今日中に更新できてヨカッタヨカッタ。



 沈黙の長さは、はやての受けた衝撃と驚愕の度合いを色濃く表しているといえた。
 闇の書の闇は同じだったのだ。末期患者のように退嬰的(たいえきてき)だった二年前のはやてと。
 覗いた絶望も、抱えた孤独も、望んだ世界も、願った幸せの形も。そのなにもかもが。
 はやては呪いたくなった。鈍感な自分自身を。心の底から呪い殺してやりたくなった。

「コレデ私ノ話ハ終ワリデス。次元世界ノ広大サヲ思エバ、塵ノヨウナ繰リ言デシタ」

 自分を激しく叱責していたはやての耳に、そのとき闇の書の闇の自嘲が届けられた。
 はたと、はやては我に返る。それからすぐに抗弁の言葉を紡ごうと口を開きかけ……その目の前で発現した光景に絶句してしまう。驚きのあまり頭の中が一瞬で空白になる。
 ――闇の書の闇が消えかかっていた。あたかも水に溶ける紙人形のように、その姿形がゆっくりと透明になっていく。もはや疑う余地もない。それは間違いなく消滅の兆しだった。

「そんな、そんなの……絶対駄目や! まだ消えたらあかん! まだ消えたらあかんよ!」

 はやてはみっともなく周章狼狽しながら、喉が痛くなるのも構わず声を荒げて叫ぶ。
 ようやく闇の書の闇が胸襟を開いてくれたというのに、このままでは結局、なにも伝えられずに別れることになってしまう。そんなのは嫌だった。はやては懸命に思いを巡らせる。
 なにかないだろうか。闇の書の闇を孤独から救済する、優しくて温かい魔法の言葉は。

「……レイン、フォース」

 はやての囁くような呟きに、闇の書の闇が「エッ?」と戸惑うような声を漏らす。
 俯せの姿勢で路上に倒れ伏す闇の書の闇が、苦労しいしい顔を上向けて、問うような眼差しをはやてに据えた。一方、はやては目を白黒させ、なにを言ったのか判っていない様子。
 知らずに口から出てきた言葉だった。そのため、はやてもとっさに対処ができず面食らってしまったのである。長年の探し物が、ふとした拍子に見つかったような感覚だった。
 しばし唖然となったあと……はやては唐突に笑った。なんだか無性におかしくなって、まるで破裂したような声で笑う。心配そうな守護騎士たちの視線も、まったく気にならない。
 ――そうか。自分はもう、闇の書の闇にかけるべき言葉を、とっくに見つけていたのだ。

「いつまでも闇の書の闇、なんて呼び方じゃつまらないし、それに舌を噛みそうで嫌やろ?
 せやから、私は決めた。夜天の主の名において、汝に新たな名を贈ると」

 堂々と胸を張るはやては、晴ればれとした明るい笑顔で得意そうに鼻を鳴らす。
 対し、闇の書の闇はぽかんとしていた。はやての言葉の意味が呑みこめていないらしい。
 穏やかな微笑みはそのままに、はやては恭しくも揚々(ようよう)たる口調で先を続ける。

「優しく包みこむ者。絶望を抱きしめる強き光。希望の夜明け――レインフォース。
 それが新しい、あなたの名前や。もう闇の書の闇だなんて、誰にも言わせへん」

 子供の誕生を慈しむ母のような面持ちで、はやてはその名をはっきりと告げた。
 闇の書の闇は無言のまま、はやての言葉を吟味するかのように、しばし虚空に物思いの視線をさまよわせる。それから眼前の少女へ、期待と不安が入り混じった声で問う。

「……私ニ、名前ヲクレルノデスカ? アンナニ酷イコトヲシタ、私ニ?」

 はやては何も答えない。ただ親しみやすい笑顔で、闇の書の闇に手を差し伸べる。
 闇の書の闇が瞳を潤ませた。徹底的に痛めつけられた体が、心も脆弱にさせたのだろう。
 怯懦(きょうだ)に震える闇の書の闇を見て悲痛になるものの、それでもはやては腕を伸ばしていく。
 やがて、少しだけ冷たくなったはやての掌が、闇の書の闇の頬を優しく撫でた。
 闇の書の闇が当惑した目で、はやてを仰ぎ見る。その表情は、不安で強張っていた。
 はやては相好を崩す。そして、光こぼれるような慈しみの瞳で闇の書の闇を見返した。

「罪は消えないし咎もなくならない。それは一生涯つきまとう、烙印みたいなものやから。
 ……でも、許すことならできると思う。許す努力はしてもいいはず。せやからわたしは、レインフォース、あなたを許す。怒りも憎しみも悲しみも、これで全部終わりにしよう」

 はやては臆面もなく宣言した。その主の言葉に、リインフォースと守護騎士たちも続く。

『ええ。私も、あなたを許しましょう』
「これからは私たちと一緒に、その罪を償っていけばいい」
「あたしも怒ってねえよ。それにさっき偽者ぶん殴ったから、わりとスッキリしてるし」
「全員がこうして無事なら、ただそれだけでいい」
「怒っている人なんて、この場にはもう誰もいないわ。だから怖がらなくていいのよ」

 リインフォースが、
 シグナムが、
 ヴィータが、
 ザフィーラが、
 シャマルが、
 闇の書の闇を許すといった。それは断じて、はやてに命じられたからではない。自分たちの意思で決め、闇の書の闇に微笑んでいるのだ。闇の書の闇を歓迎しているのだ。
 ――そのとき、闇の書の闇の顔に浮かんだ表情を、なんと表現すればいいだろう。
 まるで路傍に捨てられた惨めな子犬のような、なにかに怯え、なにかを諦め、その一方でなにかにすがり、なにかを期待するような、危うい均衡を保った泣き笑いのような表情。
 ややあって、目の前の現実が信じられないというふうな目つきで、闇の書の闇が呟く。

「……許シテクレルノカ? 自分勝手ナ復讐心デ暴走シタ、私ナンカヲ?」
「くどい。私たちヴォルケンリッターに、二言はない」

 右手のレヴァンティンを左手の鞘に納めながら、シグナムが決定事項のように言い放つ。
 シグナムの物言いは硬く冷ややかだったが、その口調と行動に秘められた誠実さを、はやては見抜いていた。烈火の将は決して、敵の目の前でレヴァンティンを納めたりしない。
 シグナムの婉曲な許し方に苦笑しつつ、はやては差し伸ばした右手を名残惜しそうに引く。頬を撫でる感触がなくなって心細いのか、闇の書の闇が哀しそうな顔で上目を遣う。
 そんな、ひと目見て不安そうだと判る闇の書の闇に、はやては微笑みをひとつ返す。

「まだ間に合うとか、まだ希望はあるとか、そんな無責任なことは言わへん。だってそれは誰にも判らないことだから。……でも、さっきわたしは言ったよね? みんなで幸せになりたいって。わたしが言ったみんなの中には、レインフォース、あなたも入ってるんだよ」

 諭すように言いながら、はやてはもう一度、闇の書の闇に右手を差し伸べる。

「もしここから、もう一度はじめることができるなら……わたしたちと家族になろう。
 そうすればもう二度と、孤独に泣かなくてええ、苦しまなくてええ。レインフォースには、わたしたちがいる。あなたの家族がここにいる。あなたはもう、独りぼっちやない」

 絶望は、奈落のように深かった。
 希望は、久遠よりも遠いところにあった。
 夢も、願いも、未来永劫叶わないと諦めていた。
 しかし、いまは手を伸ばせば簡単に触れられる。
 惹かれたものが、憧れたものが……いまは、いまはこんなにも……近いのだ。

「……ア、アリガ、トウ……」

 虫の羽音のような声音で感謝しながら、闇の書の闇――レインフォースが嗚咽した。
 忌わしい呪いだった闇の書の闇が、許されざる悪徳だった自分が、はじめてこの世界に受け入れられた。それが嬉しいのだろう。レインフォースは、ただ澎湃(ほうはい)と涙に暮れている。

「アリガトウ、私ヲ受ケ入レテクレテ。アリガトウ、私ヲ家族ニ加エテクレテ。
 リインフォース、守護騎士タチ、ソシテ主ハヤテ。本当ニアリガトウ。私ハ、幸セデス」

 澄んだ泉のように涙を流すレインフォースが、差し出されたはやての手を握った。
 体温の感じられないその冷たい手を、はやては強く握りしめる。左手も添えて両手で。
 一方、レインフォースは何度も何度も「アリガトウ、アリガトウ」と感謝の言葉を吐く。まるでその回数分だけ自分の気持ちが伝わると信じているかのように、レインフォースは繰り返し呟いていた。完全に消滅するその瞬間まで。激情に落涙しながら……ずっと。


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イヒダリ彰人
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男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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