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フェイト・T・ハラオウンのひな祭り事情。

今日は三月三日。ひな祭り。
てなわけで、慌てて短編を更新しました。
出来のほうは……あまり良くない。
なので、これから数日かけて、ちょくちょく直していく予定。
ふと気がついたときに、もう一度読んでみてください。
絶対、話の内容が変わってると思うから(苦笑)



 地球には年に一度、女の子が健やかに育つようにと願かけをする、ひな祭りという年間行事があるらしい。

「それが三月三日。つまり今日ってわけ。納得した?」
「はあ。……まあ、部屋の中がやけに豪勢な理由についてはわかりました」

 なにやら楽しそうな語るリンディに、制服姿のフェイトは気のない相槌で応じた。
 別段なんということもなく、普通に小学校から帰ってきたフェイトは、マンションのリビングにしては広すぎると言っていいそこを占有する雛壇を見て、呆気にとられていたのだ。
 まるで赤い絨毯を敷かれた階段だ――などと思い、その慮外の大きさに圧倒されていたフェイトに、さっきまでリンディが事の次第を説明していたのである。

「えっと……それで、アルフとエイミィさんはいったい何を?」

 フェイトは深く考えずに質問してみた。リンディが片頬に手を当ててうっとりする。

「二人には雛壇の飾りつけを手伝ってもらってるのよ。どう? なかなか荘厳でしょう」

 ともすれば天井に触れそうなほど巨大な雛壇に、せっせと人形やら楽器やら桃の花やらを飾っていくアルフとエイミィ。なかなか楽しそうな雰囲気である。
 おそらくリンディが言いだしっぺだろう。闇の書事件後、フェイトの新しい母親になったこの女性は、ことのほか地球の文化に興味津々なのだ。長く逗留する予定のなかった海鳴市に永住を決めたのも、このへんに理由があるだろうと思われる。もちろん、それだけではない。友達と離れたくないというフェイトの心情を慮ってくれたからでもあろう。

「それじゃさっそく、フェイトにも手伝ってもらおうかしら。
 ――クロノ。うぐいす餅と桜餅に使う材料は用意できた? ちらし寿司の下拵えは?」
「ああ。すぐにでも作り始められるよ。まったく人使いが荒いんだから」

 リンディの呼びかけに応じて、クロノが疲れた様子でキッチンから出てきた。
 執務官の黒い制服に、猫がわらわらとプリントされたピンクのエプロンを着用した、なんとも滑稽な姿で。クロノの疲労は、どうやら心的ストレスがおもな原因らしい。
 そんなクロノの心労など知らぬげに、リンディは満足げに微笑みながら頷く。

「ありがとう、クロノ。あとついでに、なのはちゃんたちにも連絡してちょうだい」
「なのはたちにも? まさか家に招待する気なんじゃ」
「そのつもりよ。せっかくのお祭りなんだから、大勢いたほうが楽しいじゃない」
「ひな祭りって、そんな仰々しいものじゃなかったような気がするんだけど」
「いいのいいの。それにこういうのはフィーリングの問題でしょ。
 というわけで、いまからクロノを連絡係に任命します。責任重大よ。あなたの双肩にすべてがかかっているとも言っていいわ。だから、いつも以上の奮闘を期待します」

 リンディがおどけた口調で指示を出す。クロノは深い溜息をついて肩を落とした。

「なんでこんな雑用ばっか……こうなったらユーノをからかって溜飲を下げるしか」

 まず桜餅の葉っぱで、あのフェレットを簀巻きにして、うんぬんかんぬん……などと物騒なことを呟きながら、リビングの一隅にある電話機の方へと向かうクロノ。
 思念通話を使わないのは、魔法文化のない地球の世界観に合わせた考えだろうか。

「なのはちゃんたちへの連絡はクロノに任せて、私たちはご馳走の準備をしましょう。
 エイミィ、アルフ。そっちの飾りつけが終わったら、今度は料理の手伝いもお願いね」
「わかりました、艦長……じゃなかった。リンディさん」

 エイミィが舌を出して笑う。快活な少女は、その性格を表すように、笑い方も清々しい。

「がってん。雛壇の飾りつけは任せとけ! フェイトも期待しててよ」
「うん。期待してる」

 自信満々に胸を張るアルフに、フェイトも笑顔を見せる。人間形態のアルフは、フェイトに比べて大人びた体格をしているのだが、言動や仕草の端々に子供っぽさがあるのだ。
 それがフェイトには微笑ましい。皮肉ではなく本当にそう思っている。

「さ、フェイトさん。あなたもすぐ着替えてきて。みんなが来る前に、終わらせたいから」
「あ、うん。ちょっと待ってて」

 柔らかく微笑むリンディに促されて、フェイトは慌ただしく自室に駆けこんでいく。
 ――が、はたと足を止めると、もう一度振り向いてリビングを見渡す。
 そこには、かつてフェイトが望んだ優しい情景があった。
 ほんとうはアリシア、リニス、そしてプレシアと見ることを願った理想の幸福。
 血の繋がった家族と過ごす幸せ。そして今はもう決して叶わない、夢の中だけの理想郷。

「どうしたのさ、フェイト? 具合でも悪いのか?」

 いつのまにかアルフが、フェイトの顔を心配そうに覗きこんでいた。まわりを見てみれば、クロノもエイミィもリンディも、フェイトの様子をさりげなく窺っている。
 フェイトは固くなった表情を綻ばせて微笑む。内心の昏い感慨とは対照的な笑顔で。

「なんでもないよ、アルフ。なんとなく家族っていいなあって、思ってただけだから」

 じつの母親を見殺しにした自分が、はたして幸せを享受することが許されるのだろうか。
 自問に際限はなく、自答は曖昧で明確ではない。
 だがそれでも、時を重ねて命を消費して、少しずつ幸せを受け入れられるよう、努力していこう。それが新しい人生と家族を選んだ自分の、偽らざる希望だと思うから。
 慈しむような眼差しを向けてくる家族に、フェイトは本心からの微笑みで応じた。


 

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イヒダリ彰人
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男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

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魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
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