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魔法少女リリカルなのはEine Familie 第七話 『夜天の守護騎士ヴォルケンリッター』(3)

魔法少女リリカルなのはEine Familie 第七話 『夜天の守護騎士ヴォルケンリッター』(3)を更新。
低気圧の影響で、北海道は凄まじい大雪です。
4~50センチくらいは積もったんじゃなかろうか。
そんなわけで、僕は今から雪かきです。
うへぇ~。スターウォーズが始まる前に終わるかな……

ちなみに(4)は明日更新です。よろしくお願いします。



 闇を切り抜いたような黒い肌に、同色の騎士甲冑。清浄な空気を澱ませる、死と退廃の臭い。無感情で酷薄な、殺意に凍えた刃ごとき赤い双瞳(そうどう)。残虐な亡者めいた気配。
 ――違う。なにもかもが違う。
 だというのに、闇の書の闇が召喚した騎士は、たしかにヴォルケンリッターに見えた。
 だがむろん、それは本物のヴォルケンリッターたちではない。闇の書の闇が、守護騎士システムを応用して作った偽者だ。漆黒の魔力で造作した、姿形が酷似しているだけの、単なる人形にすぎない。……すぎないはずだった。その統率された動きを目撃するまでは。
 ――迫りくる四人の黒騎士。
 満たされぬ飢餓(きが)に憑かれた獣のような、ただ満腔(まんこう)の殺意だけを振りまく戦慄の突進。
 一方で、その禍々しい殺気とは似ても似つかない、舞うような踊るような苛烈で流麗な体捌きは、まるで本物のヴォルケンリッターと戦っているような錯覚さえする。
 暗色の甲冑を帯びた、守護騎士たちの偽者。それは間違いなく、はやての逆鱗に触れる魔法だった。ヴォルケンリッターの誇りを汚した闇の書の闇に、腸が煮えくり返っていた。
 しかし今は、憤りを感じている余裕はない。
 はやては窮地に追いやられているのだ。四人の黒騎士たちの猛攻を凌ぐだけで、いまは手一杯なのである。隠忍自重するしかない。大局を見極め、死中に活を求めるためには。

「コレガ私ノ痛ミデス、主ハヤテ。自分ノ一部ダッタモノニ裏切ラレタ屈辱デス。
 ダガ、マダマダ足リナイ。コンナモノジャ、私ノ気持チハ理解デキナイ、伝ワラナイ。ダカラモットモット必要ダ。痛ミガ、苦シミガ、絶望ガッ!」

 あいかわらずの利己的な考え。はやての意思を顧みない傲慢な主張。
 戦闘行為は黒騎士たちに任せ、悠々と傍観の構えで虚空に佇む闇の書の闇に、はやては胸中で悪態をついた。――が、しょせんは戯言の類、まともに取り合っても益はない。

「リインフォース。主ノ痛マシイ姿ハ見タクナイダロウ? 主ノ苦シム姿ハ見タクナイダロウ? ダッタラ、ユニゾンヲ解除シテ、主ハヤテノ中カラ出テイケ」

 はやてを傷つけているのも、はやてを苦しめているのも、ぜんぶ闇の書の闇のせいだ。
 それをあたかもリインフォースに責があるように言い放つとは。冗談でも許せない。
 ときに怒りは強い力に変わるが、このときは反作用して感覚を鈍らせる足枷と化した。
 放言をのたまう闇の書の闇に気を取られ、はやては、黒騎士ヴィータの接近に気づくのが遅れてしまう。はやての意識に生じた一瞬の隙。それを狙い撃つかのごとく、漆黒のグラーフアイゼンが叩きこまれる。もはや退路はない。はやては苦しまぎれの障壁を展開する。
 シールドは木っ端も同然に砕けてしまう。しかしそれでも、唸る鉄槌の一撃だけは回避することができた。だが間髪を入れず、横ざまから黒騎士ザフィーラの足刀が飛んでくる。
 身を守る盾はない。黒騎士ザフィーラの具足が、はやての脇腹に深々とめりこむ。
 脳に痛みが伝わるより早く、はやては投石のように弾き飛ばされていた。
 地面をのたうつように虚空を水平に転がり飛んでいき……元の位置から三十歩も離れた空間でようやく勢いがなくなる。なんとか制動をかけて静止したとたん、蹴られた脇腹が激痛に焼けつく。もしかすると罅くらいは入っているかもしれない。暗澹となる。
 はやての動きが止まったのを好機とばかりに、黒騎士たちが猛然と襲いかかってくる。
 致命傷でこそないものの、脇腹の怪我は軽視できない(いまし)めだ。痛みで精彩を欠いたはやての動きでは、もはや黒騎士たちの攻撃を回避することは叶わない。畢竟(ひっきょう)、シールド魔法で防御するしか他にないわけだが、はたしてそれで凌ぎきれるのかどうか……。
 そのとき、はやての意思とは関係なく、眼前にパンツァーシルトが展開された。
 一瞬遅れて、四人の黒騎士が障壁にぶつかる。金属質の異音と火花がさんざめく。

『――主はやて』

 呆気にとられたはやての可聴域に、ふいに思念通話が届く。リインフォースの声だった。

『今のうちに、私たちも〝守護騎士〟たちを()びましょう。それしか他に手がありません』

 はやては当惑した。言ってることは判るが、その内容は理解しがたい。

「わたしも出来ればそうしたい。せやけどみんなは、石化してて動かせない状態にある。たとえ召喚できたとしても、飛行魔法も使えない石像じゃ繁華街に落下するだけや」
『ええ、判っています。現在の守護騎士たちの容態は』

 リインフォースの意図は判然としない。が、彼女は聡明だ。なんの理由も根拠もなく無茶を言ったりしない。そこには何らかの勝算、あるいは確信があるはずだ。
 沈黙で説明を促がすはやてに、リインフォースが語りはじめた。

『これは私の推論なのですが、おそらく闇の書の闇が使った石化魔法はミストルティンでしょう。あれには攻撃対象を石化させる追加効果がありますから』

 ミストルティン――直接攻撃を強化する付加魔法が大半を占めるベルカ式の魔法において、まさに異端といっても過言ではない遠隔発生型の石化砲撃魔法である。

「……言われてみれば、そうかもしれへん」

 はやては小さく相槌を打つと、正面のバリア越しから闇の書の闇を見据える。
 夜天の魔導書――高名な魔導師の技術を収集し、それを研究するために作られた収集蓄積型の巨大ストレージ。それを闇の書という、破壊と流転を繰り返す凶悪なロストロギアへと改変させたバグプログラムが、今はやての目の前にいる闇の書の闇だ。

「いまでは独立した不随意の力。でも、もとは根幹を同じくする一機のストレージやった。二年前より以前に蒐集行使で集めた魔法なら、闇の書の闇も使えるって言いたいんやね?」
『希望的観測かもしれません。ですが、もしそうなら、闇の書の闇が使える魔法は、私たちにも使えることになります。そして術式に大きな相違がなければ――』
「みんなにかけられた石化魔法を、わたしたちで解除できるかもしれない」

 言ってみればそれは、自分で作った算数の問題を自分で解くようなものだった。
 あらかじめ答えを知っているのだから、それを解き明かすのは難しくない。
 なんとも奇妙な理屈だが、リインフォースと闇の書の闇の関係性を顧みれば、どこか納得できそうな部分もある。なにより同じ体と記憶と魔法技術を共有していたらしいという実態が、その奇怪な方程式を如実(にょじつ)に立証していると言えまいか。

「やってやれないことはない、か」

 はやての、独りごちるように呟いた声は、硬質の騒音にかき消されてしまう。とっさにリインフォースが展開した障壁を、四人の黒騎士がひっきりなしに打撃しているのである。
 眼前のシールド魔法には無数の亀裂が走っており、崩壊するまで幾許も保たないだろう。

「でも……わたしにできるんやろうか。一人じゃ何もできない、わたしなんかに」

 呟いた声音は、儚いほどに弱々しい。はやては自分が情けなくてたまらなかったのだ。
 どういった経緯で復活したのかは謎めいているが、リインフォースが救援にきてくれたおかけで、はやてはここまで善戦することができたのである。
 だが逆に言えば、リインフォースがいなければ何もできずに負けていたということだ。
 はやては万能ではない。人間は全能ではない。しかし今の自分は、あきらかにリインフォースに頼りきっている。二年前の雪の日に〝強くなろう〟と心に誓ったというのに。

「もっとわたしに、力があれば……」

 そう思わずにいられない。リインフォースの足手まといには、絶対になりたくないから。
 がしかし、はやての独白に応じたリインフォースの声には迷いがなかった。

『――できます。私たち『二人』でなら』

 愁眉もなく清々と、まるで決まりきったことのように断言するリインフォース。
 はやては大きく目を瞠る。奇しくもそれは、ユニゾンするかどうか逡巡していたリインフォースの背中を押した、はやての激励と意味を同じくするものだったからだ。
 はやての総身を、なにか熱いものが駆け抜けていく。我知らず、武者震いする。
 リインフォースに頼ればいい。だが、それは一方的に寄りかかることではない。
 共に戦うこと。一人ではなく二人で。そこには体の強靭さも魔力の量も関係ない。
 強くなる。リインフォースとならどこまでも。弱さを超えて強くなれると……信じてる。

「卑怯者には……なりたくない。弱さを言い訳にする卑怯者にだけは。だからわたしは、もう自分で自分を卑下したりしない。――強くなろう、リインフォース。ひとりでなく、ふたりで。ふたりで一緒に強くなろう」
『了解です。我が主よ』

 次の瞬間、蜘蛛の巣状に罅割れた障壁が、息を吹き返したように強烈な光を放つ。
 はやてが壊れかけの障壁に魔力を注ぎ、その強度を維持しようとしているのである。
 だがしょせん、そんなことをしても焼け石に水でしかない。あと数秒も保たないうちに、シールドは砂の壁のように瓦解するだろう。が、それでいっこうに構わなかった。

「守護騎士システム――起動」

 はやての清澄な声に次ぎ、彼女のまわりの虚空にベルカ式魔法陣が四つ、展開する。
 ねっとりと濃密な闇の中にあっても、決してそれに染まりきらない楚々たる月光のごとき……いや、逆に()えるほどに腐蝕した暗黒を、白々と薙ぎ払わんばかりの苛烈なる光輝。

「ミストルティンによる石化効果の解除(ディスペル)――開始」

 ヴォルケンリッターを召喚すると同時に、彼女たちを(むしば)む石化魔法も解除する。
 はやて独りではとうてい不可能な荒技。だが今のはやてには、頼れる相棒がいる。

「マサカ……守護騎士タチヲ喚ブ気ナノカ!」

 はやてが今、なにをしようとしているのか、闇の書の闇は瞬時に見抜いたらしい。
 最前までの驕慢(きょうまん)な自信はみるみる剥落し、愛しいものをなぶる倒錯した快楽に浸っていた表情が、畏怖と焦燥に変わっていく。顔を灰のように白く染めて、闇の書の闇が叫ぶ。

「止メロッ! 主ハヤテヲ止メロ! ドンナ手段ヲ使ッテモイイ、一刻モ早ク止メロ!」

 奇声のような怒声のような下知に感応して、黒騎士たちの魔力が俄然跳ね上がる。
 間違いない、次の一撃は必殺だ。前面の障壁は砕かれ、はやても万事休すとなろう。
 迫る絶体絶命……しかしそれを目睫(もくしょう)にしてもなお、はやての双眸に怯えの色はない。
 極度の集中が、怯懦の入りこむ隙を与えないのだ。それくらい、はやての意識はひとつのことだけに集約されている。魔法の言葉を、夜天の魔導書を担う王だけが謳うことを赦された、たったひとつの、守護騎士たちを喚び出すために必要な、八神はやてだけの祝詞に。

「追いで……わたしの騎士たち」

 ただ煌々と、ひたすら煌々と、四つの魔法陣が鮮烈な光を放射して輝く。
 その圧倒的な白銀の燦然をまともに浴びるや、眼前の黒騎士たちは凄まじい勢いで弾かれてしまった。さながら巨大な銀色の壁に突進し、為す術なく撥ね返されたかのごとく。
 やがて、その眩い光が卵のように砕け散る。まるで雛鳥が生まれたときのように。
 大気に溶けた光の中から、はやてが現れる。四方にそれぞれ、守護騎士たちを(はべ)らせて。

「我ら、夜天の主のもとに集いし騎士」

 凜烈たる声を響かせながら、シグナムが鞘からレヴァンティンを抜き払う。

「主ある限り、我らの魂、尽きることなし」

 瞼に閉ざされたシャマルの瞳がゆっくりと開かれ、清冽な泉の光を灯して煌く。

「この身に生命(いのち)ある限り、我らは御身のもとにあり」

 狼形態から人型に転身したザフィーラが、剥き出しの腕の筋肉を盛り上げて拳を作った。

「我らが主、夜天の王――八神はやての名のもとに」

 威嚇するようにグラーフアイゼンを振り下ろしながら、ヴィータが結びをつける。

 かくして嘆願は叶い、夜天の王の傍らに、ふたたび守護騎士たちが集った。


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HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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