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魔法少女リリカルなのはSS『駆けこみ乗車』

 ひさしぶりに短編SSを掲載。
 話自体はテンポが良い、というより、ただ単に短いだけです。
 ジャンルはコメディ(一応)。
 なので気楽に読めるはず。
 最後のオチも、まぁ、悪くないかな?
 もしお暇な時間があれば、ぜひ読んでみてください。
 よろしくお願いします。


 海鳴駅。そのプラットホームに続く上り階段を、二人の少女が慌てた様子で駆けあがる。
 一方は小学生くらいで、もう一方は高校生くらい。
 フェイト・T・ハラオウンとエイミィ・リミエッタである。

「も、もうダメだぁ」

 階段を半分もいかないところで、不意にエイミィが弱音を吐いた。

「フェイトちゃん、この時間のは諦めて、次の電車で行こうよ。わたしゃ疲れたよ」

 そう泣き言を並べているあいだも、どんどん鈍くなるエイミィの足運び。
 まるで「電車に乗り遅れる? べつにいいじゃん」と全身で訴えているようだった。
 すっかり意気がくじけている。
 フェイトは階上に目を向けた。
 ホームの出入り口から差しこむ日の光を見つめながら首を横に振る。

「そんな! ここまで来て諦めるなんて――」

 と、にわかに上の階が騒がしくなった。
 嫌な予感。
 フェイトの頭の中に、眼前で電車がホームを出発する、無情の光景が浮かんだ。
 もはや一刻の猶予もない。

「こうなったら最後の手段」

 追いつめられたフェイトは強行策に打って出た。
 モタモタしているエイミィの横に並び、滑らかな動作で彼女の腰に腕をまわす。
 恋人のように自分の側に抱き寄せたのだ。
 この一連の行動に、エイミィは瞠目する。

「こ、これはいったい何事? ……はっ! もしかして私、口説かれてる? かわいい妹分から?」

 年上の少女の頬が、ほんのりと赤くなる。目が猛烈に宙を泳いだ。

「なんてこったい! 夢想家のエイミィさんでも、こんな展開は予想外でした! ど、ど、ど、ど、ど、どうしよう~」

 エイミィが、へどもどする。まるで愛を告白されたような慌てぶりだった。
 ここで本来のフェイトなら、相手の誤解を解くために、ちゃんと意図を話すだろう。
 だが時間に追われていた今の彼女は、必要最小限の言葉を伝えるだけだった。

「エイミィ、喋らないで――舌、噛むといけないから」
「……は?」

 フェイトの意図不明な忠告に、エイミィは素っ頓狂な声を返す。
 二人の視界に映るものが後方へ吹き飛んだのは次の瞬間だった。
 フェイトがソニックムーブを使用したのだ。
 加速魔法に巻きこまれたエイミィの上体が弓なりにのけぞる。

「フェイトちゃん、お願い、止まってぇぇぇ!」

 エイミィが悲鳴じみた声で泣訴する。
 が、あえてフェイトは耳を貸さない。冷たく黙殺する。
 彼女の一途な性格が悪い方向へ作用してしまっていた。
 二人は稲妻めいたスピードで階段を駆けあがる。そして瞬く間にプラットホームに到着した。
 すぐ目の前には電車が止まっている。
 出入り口のドアは半分しか開いていなかった。
 フェイトは最後の力を振りしぼる。
 裂帛の気合を叫んだ。

「間に合えぇぇぇッ!」

 フェイトはドアの隙間に、文字どおり転がりこんだ。
 そのまま反対側の出入り口に激突するまで、サッカーボールのモノマネを披露してしまう。
 もちろんエイミィも同じ運命を辿った。
 苦痛に顔をしかめた彼女は、フェイトに非難の目を向ける。

「フェイトちゃん……いきなり、ひどいよ」

 恨めしそうな口調だった。エイミィからすれば当然の反応である。
 加害者のフェイトは、とっさに目をそらした。さすがに今回の件は自分が悪い。

「ごめんなさい。やりすぎました。もう――」

 そう謝罪したフェイトは、次の瞬間、とんでもないものを見た。思わず絶句する。
 先ほど無我夢中で通り抜けたドアが、閉じるどころか逆に『開いた』のだ。全開である。
 そのとき彼女は逃れられない真実を悟った。
 この電車は出発する直前ではなく、ホームに到着したばかりだったのだ。痛恨の早合点である。
 かててくわえて、まるでギャグ漫画のような駆けこみ乗車を披露したフェイトとエイミィは、今や注目の的。
 まわりの乗客たちから、さまざまな感情がこめられた視線を、雨のように浴びていた。
 おのれの醜態を自覚したフェイトは途端に恥ずかしくなった。
 尻餅をついた状態から、あたふたと立ちあがる。
 うつむいた少女の顔は、これ以上赤くなったら発火するかもしれない、と思うほど真っ赤だった。

「駆けこみ乗車なんかしません。もう二度と。絶対に」

 終わり。

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プロフィール

HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
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