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リリカルなのは短編SS『痩せる思い』

 というわけでSSを掲載しました。前回から約3ヵ月も間が空いてしまいました。
 それはともかく今回のSSも、いちおうジャンルはギャグです。
 でも少しやりすぎた感が。
 ブランクのせい……ではないですね。絶対に。
 ギャグって難しい。


 ゴールデンウィークは日本独自の連休である。
 根本から世界観の異なるミッドチルダの司法組織『時空管理局』には関係がない。
 だがエイミィ・リミエッタの休暇が、たまたま、そのゴールデンウィークと一致する。
 それは嬉しい偶然だった。
 エイミィは休暇の初日から、さっそく高町家を訪問する。
 友人の高町美由希に悩み事を聞いてもらうために。

「――なるほど。ダイエットねぇ」

 話を聞き終えた美由希が、他人事のようにつぶやいた。
 エイミィは角形の座卓を挟んだ向こう側に責めるような目を向ける。
 ぜんぜん深刻になってくれない友人の態度が気に食わなかったのだ。

「ちょっとちょっと。ダイエットと言えば乙女の永遠のテーマでしょうが。普通ならもっと親身になってくれるでしょうよ。なのにどうしてそんなに適当なの!」
「まぁまぁ。そう熱くならずに」

 ムキになったエイミィを、美由希が悠然となだめる。
 そのときキッチンから、なのはが姿を見せた。二人分のケーキと紅茶を運んでくる。
 美由希がイタズラを思いついた子供のように笑った。

「まずは翠屋特製のケーキでも食べて。あと紅茶も飲んで。落ちつくよ」
「美由希……もしかして私のこと、からかってるでしょ?」
「かもね」

 美由希は悪びれたふうもない。
 そんな姉に代わり、なのはが恐縮した。座卓の上にケーキと紅茶を置きながら謝る。

「ごめんなさい、エイミィさん。お姉ちゃんが失礼なことを。……あ、ダイエットしてるんでしたね。ケーキはおさげします」
「いいって、いいって。べつに怒ってないからさ。それとケーキはさげなくてもいいよ。ありがたくいただくから」
「……食べるんだ」

 美由希が、ボソッと、つぶやいた。
 エイミィは「ふーんだ!」と不貞腐れた。
 フォークで一口サイズに切ったケーキをこれみよがしに食べてやる。
 とたんに幸せな気分になった。

「これよこれ。太るってわかっているのに、つい食べてしまう魅惑の味。愛と憎しみは表裏一体って本当だねぇ」

 エイミィは意味不明なことを口走った。
 なのはと美由希がそろって唖然とする。
 だが甘い至福に浸っているエイミィは気にしなかった。

「それにしても、不思議だなぁ」

 エイミィはケーキを頬張りながら首をひねる。
 脳裏にはリンディ・ハラオウンの美貌が浮かんでいた。

「艦長――リンディさんが太らないのはどうしてだろう? 緑茶にも砂糖を入れる甘党の権化みたいな人なのに」

 エイミィは会話の合間に紅茶をすすった。
 おいしい。
 さすが喫茶店を営む夫婦の娘である。なのはの淹れてくれた紅茶は格別においしかった。
 心に余裕が生まれると、エイミィの生来の気質が、ぬっと鎌首をもたげた。
 かわいい子は、いじめたくなる。

「私、ときどきリンディさんは人間じゃなく妖怪なんじゃないかって思うんだ。――ね、なのはちゃんもそう思うでしょ?」
「えっ!」

 急に水を向けられて、少女の目が泳いだ。
 日常的に不摂生を繰り返していながら体形が崩れないリンディは明らかに異常である。なのはも内心ではエイミィに同調しているはずだった。
 しかしここで便乗するのは良心が許さなくて五里霧中と言ったところらしい。
 まさにエイミィが期待したとおりの反応だった。
 美由希が呆れたような顔をする。

「こら。答えにくい話を振って、なのはを困らせないの」

 美由希が母親のように、エイミィを叱りつけた。
 注意を受けた当の本人は、ぺろりと舌を出し、子供のように笑ってごまかす。

「とにかく私は休暇を利用して、できるかぎり痩せたいわけよ。で、美由希にアドバイスをもらおうと思ってきたの」
「痩せたいから、私にアドバイスを? どうして?」

 美由希は解せない様子である。
 顔に疑問符を浮かべる友人の肢体に、エイミィは羨望のまなざしを向けた。

「美由希はスタイルがいいからねぇ。なんちゃら流っていう剣術をやってるから運動もできるし。もしかしたら効率よく痩せられる方法を知ってるんじゃないかって」
「なんちゃら流じゃなくて小太刀二刀御神流」

 美由希がさらりと訂正する。彼女は何か悟ったような顔をしていた。

「ようするに自分のダイエットに私を巻きこみたいんでしょ? わかった。私でよければ協力する」
「やったぁ! さっすが美由希! 愛してるぅ」

 エイミィは歓声をあげた。
 ひとりで寂しくダイエットするなんて性に合わない。おそらく孤独に耐えられなくて、途中で投げ出してしまうだろう。
 しかし美由希が付き合ってくれるなら話は別である。
 ちゃんとした練習メニューを作ってくれるだろうし、少なくとも独学で始めるより効果が得られるはずだ。
 これは幸先のいいスタートだった。

「――ということでエイミィ、さっそく今夜から家で合宿ね」

 そのとき美由希が、だしぬけに宣言した。
 胸算用していたエイミィは、この慮外の提案に瞠目する。

「え? 合宿? 今夜から?」
「時は金なりって言うからね。かぎられた時間しかないなら、なおさら徹底的にやらないと。私が協力する以上、泣き言は許さないよ」

 美由希は本気だった。とても断れる雰囲気ではない。
 エイミィは少し怯んだが、わがままを聞いてくれた友人の親切を思いだし、みずからを奮い立たせる。
 彼女は強気に応じた。

「オペレーターとはいえ、私も時空管理局の職員。いちおう訓練は受けていたし、これでも人並み以上に、運動はできるって自負してる。なんでもやったろうじゃない!」

 エイミィは起立し、傲然と言い放った。
 美由希が満足そうに微笑む。

「気合は充分みたいだね。だったらついでに私の修行にも付き合ってもらおうかな。恭ちゃん、いま仕事で家にいないし」

 姉の言葉を聞いた瞬間、なのはの顔が青くなった。
 美由希の修行に付き合うということは、つまり御神流の洗礼を受けるということ。
 それがどれだけ命とりなのか、骨身に染みて理解しているのだ。
 だが調子に乗るエイミィは、なのはの反応を見逃していた。

「自分のためにも、友だちのためにもなるダイエットなんて、一石二鳥じゃない。どーんと来なさいよ!」

 エイミィは自信満々に高笑いした。
 たった今、みずから地獄の門を開いた、とも知らず。


 そして四日後。エイミィは下宿先のハラオウン家が住むマンションに帰宅した。
 呼び鈴を聞き、玄関先で出迎えたクロノ・ハラオウンの息が、ぎょっと止まる。

「お、おまえ……エイミィか?」

 まるで幽霊に遭遇したような反応だった。
 それを目にしたエイミィは、ひくひくと頬を持ちあげる。いちおう微笑んだつもりだ。

「嫌だなぁ、クロノくん。どっからどう見ても、エイミィさんでしょ。優しくて可憐で美しい君の同僚の。そりゃ四日前に比べたら見違えたかもしれないけどさ」
「そうだな。たしかに見違えたよ。一瞬、誰だかわからなかった」

 クロノの動揺も無理はない。眼前のエイミィは痩せていた。ただし普通の痩せ方ではない。
 例えるなら一気に百年くらい老けこんだような感じ。目は暗く落ちくぼみ、頬は削げ、肌は艶を失っている。
 その印象は、まさに枯れ枝。力の加減を間違えれば簡単に折れてしまいそうだった。
 尋常でないほど危なっかしい。

「おまえ、なのはの家で合宿をしてたんだよな? 詳しいことは『乙女の秘密』とか言って教えてくれなかったけど。いったい向こうで、なにをしてたんだ?」

 こわごわと尋ねるクロノ。
 エイミィは遠い目をした。

「クロノくん、知ってる? 美由希ちゃんね、消えるんだよ。いきなり、目の前で。魔法も使ってないのに」
「はぁ?」

 クロノが間の抜けた声を出した。
 その顔には、なにを言っているのかチンプンカンプンだ、と書いてある。
 もっと順を追って説明しなければ彼には伝わらないだろう。
 が、エイミィは無視して話を続けた。

「くわえて私を襲う凶器の数々。死角から飛んでくる針の雨に、容赦なく張り巡らされた鋼の糸。すぐ目の前を高速で何度も掠める刃の閃き! この四日間は生きた心地がしなかったよ。へっへっへっへっ」

 エイミィは陰気に笑った。
 その不気味な笑い方に、クロノの顔がこわばる。

「……しょうがない。詳しい事情は美由希さんから聞くよ。エイミィ、とにかく君は、今日は休め。自覚はないかもしれないが、今の君は、はなはだ危険な状態だから」

 クロノが慎重な言い方で諭す。
 エイミィは聞いているようで聞いていなかった。虚ろなまま、適当に応じる。

「な~に言ってんの。そんなに心配しなくても私なら大丈夫だよ。ぜんぜん大丈――」

 ふいにエイミィは、右手で口を押さえた。
 合宿中の出来事を思いだし、吐き気がこみあげてきたのだ。
 彼女は決して適度の運動で痩せたわけではない。
 御神流に対する『恐怖』という過度のストレスが原因で痩せたのだ。
 エイミィは靴を乱暴に脱ぎ捨て、呆気にとられたクロノの横を通りすぎ、脇目も振らずトイレに直行する。
 とんだダイエットだった。


 終わり。

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HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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