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魔法少女リリカルなのは False Cross 最終章

 連載中のSSを更新。
 去年の12月から書きはじめた拙作も今日で最終回。文字どおり“終わり”です。
 更新期間がグダグダで、ここまで来るのに約1年。
 すごい長い時間を経ましたが、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
 あとがきは……必要かな?
 その気になったら来週の日曜日(18日)あたりに載せます。たぶん。

 そして「Fearless hawk」のケインさん。
『レイン・レン』を登場させたい、というイヒダリのワガママを許諾していただき、本当にありがとうございました。
 イヒダリの「False Cross(フォールス・クロス)」は、ケインさんのご厚意がなければ決して書けませんでした。
 この場を借りて深く感謝を申しあげます。


 事件から六日が経った午後。
 なのはが病院のベッドの上で、雑誌を読んでいるときだった――
 不意に個室のドアが、トントンと叩かれる。
 ノックの音に返事をすると、引き戸が横にスライドした。
 そして姿を見せたのは、陸士部隊の茶色の制服を着た、恰幅の良い初老の男性。

「ゲンヤさん」

 ゲンヤ・ナカジマとは気心の知れた間柄だが、なのはとは親子ほど大きく年齢が離れている。しかも上官だった。
 親しき仲にも礼儀あり。
 相手と自分の立場を客観的に見るなら、友人を遇するような態度は許されない。
 彼女は杓子定規に姿勢を正した。
 ところが急に動いたせいで、治療中の胸部に激痛が走る。
 なのはの口から呻き声が漏れた。

「おいおい、大丈夫か? 怪我人なんだから無理をするな」

 なのはの体を気遣いながら、ゲンヤが病室に入ってきた。
 ついで彼は備えつけられていた肘かけ椅子に腰を下ろす。

「……はい。ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」

 なのはが口元に微笑を浮かべた。
 嘘は言っていない。
 実際に胸部の激痛は、すでに治まっている。
 ふとした拍子に傷痕が疼くのは、怪我が順調に癒されている証拠だ。
 むしろ生きている実感を得られてありがたいくらいだった。
 まわりに心配をかけるため、できれば時は選んでほしいが。

「それから今日はありがとうございます。お忙しいのに足を運んでいただいて」
「礼を言うのは俺のほうだろう。おまえさんは仕事の同僚だが、同時に今回は娘の命の恩人だ。恩人を見舞う暇なら、いくらでも都合する」

 ゲンヤ本人にそんな意識はないだろうが、なのはから見れば皮肉の利いた返答だった。
 スバルを助けたのは他でもない。彼女の姉のギンガだ。
 なのは自身もギンガが現れなければ命を落としていた。
 自分は誰も救っていない。
 レイン・レンと対決し、不毛な勝利を獲得した。
 それだけだった。

「……昨日、そのスバルにも礼を言われました。山のような謝罪のついでに」

 レイン・レンに操られて、なのはと戦わされたことは、漠然と記憶にあるらしい。
 敵の術中に陥った自分の未熟を、スバルは心の底から悔いていた。
 おかげで面会中は、何度も謝られる羽目に。
 ゲンヤが済まなそうに苦笑した。

「そんなスバルが二年前の自分と重なったんだろう。ギンガが訓練に連れていくようになったよ。で、スバルはスバルで熱血だからな。病みあがりなのに訓練ばかりしているよ。こういう直情的な一面はクイントの影響だろうな。似ていないようで似ている姉妹だよ」

 ゲンヤが、やれやれ、と嘆息する。
 なのはの頭には「でも当たり前ように家族を思いやれるのはゲンヤさんの影響だろう」という台詞が浮かんでいた。
 どうせ照れて天邪鬼になるだろうから、あえてゲンヤには何も言わなかったが。

「ところでゲンヤさん、私が入院しているあいだに、事件はどうなりました? レイン・レンと『機械仕掛けの聖王』(デウス・エクス・マキナ)の行方は?」

 なのはが話題を変える。
 病院側から面会を許される昨日まで、術後の検査や事件の調書の作成に協力するとき以外、彼女は絶対安静を余儀なくされていた。そのため事件の行方がわからなかったのだ。

「やっぱり気になるか。本当は入院中の患者にする話じゃねぇんだけどな」

 独りごちるように言いながら、ゲンヤが右手で後頭部を掻く。
 ふたたび口を開いたのは、五秒ほど経ってからだった。

「高町とスバルが戻ってきた次の日に、管理局の陸士部隊が現場検証を行った。といっても虚数空間が発生した場所だ。すり鉢状に岩盤ごと抉れた現場には、なにひとつ残っていなかったらしい」
「それならレイン・レンと『機械仕掛けの聖王』は?」

 なのはが硬い声で尋ねる。
 ゲンヤは嘆息し、首を横に振った。

「見つからなかった。だから上の連中は『犯人は死亡した』と発表するらしい。あとは事後処理を残すだけ。後味の悪い結末だが、これで事件は落着だ」

 虚数空間に落下することは、すなわち『死』を意味する。
 これは魔導師だけでなく、管理世界に住んでいる人々なら、全員が学校で習う常識だ。
 そもそも虚数空間から生還した者は過去に一人もいない。
 たとえ死体を発見できなくても、否応なく納得するしかなかった。

「もうひとつ気になることがあります」

 回答は得られたが、なのはの脳裏には、まだ別の疑問がある。今度はそれを口にした。

「土壇場の『機械仕掛けの聖王』の裏切りです。レイン・レンに忠実な……」

 不意に口ごもる。続く言葉に嫌悪感があるため、つい言い淀んでしまったのだ。
 彼女は息を吐いて、あらためて続けた。

「傀儡として生まれた彼女に、なぜあんな真似ができたのか?」
「それは今となっちゃ誰にもわからない問題だな。だが――」

 ゲンヤが胸の前で両腕を組み、椅子の背もたれに体重をかけた。視線が窓の外に向く。

「『機械仕掛けの聖王』は、ただの戦闘機人じゃない。未だ謎の多い古代ベルカ時代の聖王と……ヴィヴィオと同じ遺伝子を持っている。悪い奴なわけがねぇ。だから罪を重ねるレイン・レン(生みの親)を止めたかったんじゃねぇかな」

 ゲンヤが夢想家めいた台詞を呟く。
 彼は管理局の仕事に何十年も従事してきた男だ。
 人間や社会の暗黒面と対峙し、見たくない現実を見てきたはず。
 普通なら世を信用できなくなる。
 なのにゲンヤの見解は、人間味にあふれていた。
 まるで幸福な物語のように。
 それを一部の大人は「現実味がない」と嗤うかもしれない。
 けれども彼の推論は、なのはの気に入った。
 入院生活の中で、やや憔悴した顔に、微笑を浮かべる。

「そうですね。私もそうだったらいいと思います」
「おいおい。俺の意見は単なる希望的観測だぜ。そんな素直に納得しないでくれよ」

 なのはの言葉を受けて、ゲンヤが相好を崩した。
 素直になれない屈折した子供が、思わぬところを唐突に褒められたら、こんな表情をするかもしれない。
 その笑顔は面映ゆそうだった。

「と、そろそろ時間だな。長居は患者の負担になる、と看護婦に注意されているし、とりあえず今日は帰るわ」

 思いだしたように言って、ゲンヤが椅子から立った。そして大きな背中を向けて歩きだす。
 なのはが礼を言うために口を開いたのは、彼がドアの手前まで到着したときだった。

「ゲンヤさん。今日は来てくれて本当にありがとうございました」
「ああ。おまえさんも早く元気になれ。でも絶対に無理はするなよ。ゆっくり治療しろ」

 ゲンヤが最後に、奇妙に矛盾したことを冗談めいた口調で言い残し、部屋を出ていく。
 ふたたび病室の中で一人になった、なのはの脳裏には、レイン・レンの顔が浮かんでいた。
 どんな事情も犯罪を正当化する楯にはならない。
 彼の所行は決して許されないものだ。
 だが彼は人間の勝手な都合で生み出されて、人間の勝手な都合で打ち捨てられた戦闘機人。
 いわば人間の欲望の犠牲者だった。
 はたしてレイン・レンが迎える未来には、あんな救われない結末しかなかったのか……
 と、黙考している彼女に通信が入った。
 かたわらに空間モニターが展開される。
 画面に映った少女の顔に、なのはの頬が自然に弛んだ。

「ヴィヴィオ……」

 今回の事件で痛感した。
 自分は無力だ。
 それでも戦い続けなければ、きっと誰の生命も救えない。
 二年前も戦い続けなければヴィヴィオを救えなかったから。
 強くなろう。
 今度は誰の生命も取りこぼさないように。
 娘と会話をしながら、そう心に固く誓った。



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プロフィール

HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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