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魔法少女リリカルなのは False Cross 第五章(3)

 連載SSを更新。
 次回の更新は16日(日曜日)を予定しています。

 それにしても先に進まないなあ……


 飛行魔法を行使したエースオブエースは、煙を突き破って天井の近くまで躍りあがる。
 天井の位置はレイジングハートが教えてくれた。
 なので闇に視界を塞がれていても激突はしない。
 彼女は煙幕から離脱し、充分に距離を稼いでから、ぱっと背後を振り向いた。
 レイン・レンの気配は、あの爆心地から、ほとんど動いていない。
 今が砲撃のチャンスだ。
 エースオブエースは、照準をデバイスの側に任せ、すぐに魔法を放った。
 なのはの最速砲撃『ショートバスター』である。
 やや俯角をつけて撃たれた直射砲は、立ちこめる煙を斜め上から突き破った。
 レイジングハートの照準は完璧だ。
 くわえてレイン・レンは煙の中にいる。なのはの挙動は見えていないはずだ。
 確実に当たる――
 はたして砲撃は直撃した。なのはの目論見どおりに。
 ところが標的のレイン・レンは倒れなかった。
 闇に一段と充満した煙の中から男の揶揄する声が届く。

「なんですか、今の攻撃は? まさか僕の身の上に同情して、手加減した、ってわけじゃないですよねぇ? だとしたら実に愚かしい。ここは心を鬼にして現実を教えてさしあげなければ」

 中段に構えたレイジングハートが、次の瞬間、レイン・レンの接近を知らせてきた。
 なのはの現在位置は先の砲撃で把握したらしい。真正面から突っこんでくるという。
 レイン・レンの健在は、別段、不測の事態ではなかった。
 ただ内心で「厄介な相手だ」と再認識する。
 出遅れたら形勢は一気に悪くなるだろう。
 攻撃の手を緩めてはいけない。
 エースオブエースは、ショートバスターを一発、二発と連続して撃った。
 周囲の闇を真昼のように暴きたてる二条の魔力光。
 その桜色の輝線に照らされて、レイン・レンの姿があらわになる。
 痩身の男は回避もしなければ、白衣の防御機構も使用しない。
 なんと生身で、砲撃を浴びた。
 レイン・レンが行使するアクセラレーターは諸刃の剣だ。
 発動中は常に激痛を伴う自傷を術者に科す。
 なのはの目には見えていないが、今も全身のいたるところで血管が破断し、四肢の骨には亀裂が生じていた。
 本来なら立ちあがることすらおぼつかない。
 にもかかわらず彼が動けるのは、魔法の恩恵によって、自然治癒力も強化されたからだ。
 今のレイン・レンは負傷と再生を延々と繰り返している。
 終わらない責め苦が常に痛覚を刺激している状態だった。
 もはや彼にとってダメージを気にしながら戦う行為は無意味なのだ。
 なのはの脳裏に『不死身の化け物』という言葉が浮かぶ。
 陳腐な連想かもしれない。
 だが捨て身で突撃してくる男の姿を見れば大抵の者は同じ感想を抱くだろう。
 強く強く実感する。
 アクセラレーターは恐ろしい魔法だ。
 恐ろしくて……危険だった。

「その魔法は体にかかる負担が大きすぎる。早く解除して。そのままじゃ死んでしまう」
「僕は死にません。死ぬのは君だあああ」

 なのはの忠告を無視して、レイン・レンが跳躍した。
 叫び声が距離と連動して近づいてくる。
 エースオブエースは正面に防御魔法を展開した。敵の突進を万全の状態で待ち構える。
 ここまでレイン・レンとは何度も言葉を交わしていた。もう彼の性格は把握している。
 こうなることは織りこみ済みだった。
 煌々と輝く魔法陣型の盾に、レイン・レンは空中でプロペラのように回転しながら、ためらいなく右脚を繰りだす。
 旋風脚である。
 しかしスピードと回転力が人間業ではない。そのため未知の必殺技のように見える。
 エースオブエースは瞠目したが、展開の進行は思惑どおりだった。
 魔盾と激突した男の脚に、直後、無数の光の鎖が絡みつく。
 蹴り技を放った敵を、その恰好のまま、宙に固定してしまう。
 なのはが行使した防御魔法は『捕縛盾』だった。
 さらに彼女は二発のカートリッジをロード。
 瞬くうちに砲撃の準備を整える。
 なのはの知識に間違った点がなければ、アクセラレーターの乱用は婉曲な自殺だ。
 レイン・レンの命は現在進行形で着実に蝕まれている。
 このまま使い続ければ心臓が破裂して死に至るだろう。
 彼に対しては嫌悪の念しかないが、それでも死体を逮捕するという結末は、なのはの意図するところではない。戦闘の長期化は論外である。
 誘導弾は通じない。半端な威力の砲撃も効果が薄い。ならば大技で攻めるしかない。
 ショートバスターの上位魔法『ディバインバスター』だ。
 甚大な魔力ダメージでレイン・レンのブラックアウトを狙う。
 肉体と精神を一撃で分断する。
 これで――

「これで終わりです。おとなしくしてください」

 なのはが厳然と決着を宣言する。
 すぐに撃たなかったのは、良心の最後の呵責だった。
 するとレイン・レンが、口を耳まで裂いて笑う。闇夜の暗殺者のごとき残忍な笑い方。

「これで終わり? 僕は言ったはずですよ。死ぬのは、君だとね!」

 レイン・レンの痩せた体が一瞬、ひとまわり以上も大きくなった。
 膨張する筋肉。浮き出る静脈。そして服の隙間から霧と散らされる血飛沫。
 だしぬけに威力を増した蹴り足は、複雑に絡みついた無数の鎖を、魔法陣型の盾をバラバラに砕いた。
 なんというデタラメ。
 まさかこんな力任せで接近戦の必勝パターンを破られるとは思わなかった。
 その予期せぬ事態に、なのはの思考が滞る。わずかに反応が遅れてしまう。
 彼女は眼下の床に叩きつけられた。白いバリアジャケットの体がボールのように弾む。
 敵は容赦なく追撃してくるだろう。すぐに立ちあがらなければならない。
 だが心身に受けたダメージは大きかった。
 上体を起こすのに八秒もかかってしまう。
 そんなエースオブエースの背後から、レイン・レンの嘲る声が聞こえてくる。

「忘れたんですか? 僕は管理局で働いていたんですよ? いずれ戦うことになるだろう相手のデータは分析済みです。君の戦い方は知っているんですよ。僕には通用しません」

 レイン・レンが自信満々に言い放った。後ろから近づいてくる足音にも余裕が窺える。
 どうやら彼は本気で、エースオブエースを攻略した、と思っているようだ。
 まるで警戒してない。
 隙だらけだった――

「レイジングハート!」

 なのはの叫び声に呼応して、左手の中のデバイスが、一発のカートリッジをロード。
 彼女は背後を振り向くやいなや、間髪を容れず直射砲を撃ち放った。
 ショートバスターだ。
 この砲撃魔法がレイン・レンに対し、さほど効果がないのは承知している。
 それでもカートリッジの魔力を上乗せした一撃は前より強力だ。
 たとえ倒せなくても牽制には使えるだろう。
 相手の挙動を少しでも止めることができれば逆転を狙える。
 彼女はショートバスターを撃ちながら、新しく二発のカートリッジをロードした。

「ディバイン――」

 ショートバスターから切り替えて、とどめはディバインバスターで刺す。
 なのはのような戦闘型の魔導師にとって、ふたつ以上のことを同時に思考・進行する、いわゆるマルチタスクは必須のスキルだ。しかもエースオブエースの処理能力は群を抜いて優秀だった。
 一方で砲撃魔法を駆使しながら、もう一方で次の砲撃の準備をする。
 その程度の同時作業は造作もない。
 今度は、決める。

「――なるほど。右手と左手が別々の仕事をこなしているって感じですね。さすがに器用な真似をしますねえ。ま、しょせんは曲芸ですけど」

 必殺を決意したエースオブエースの後ろから、そのときレイン・レンの嘲笑が聞こえてきた。
 数秒前と同じ状況。
 いや、違う。
 なのはの姿勢は片膝立ちだった。
 頭を蹴り飛ばすには、ちょうどいい恰好だ。
 恐怖で心臓が縮こまる。
 もはや寸刻の猶予もない。
 彼女は振り返りながら、頭を両腕でガードする。
 そこに衝撃は容赦なく襲い来た。
 なのはの体が宙を舞う。石のように床を転げまわる。何メートルも吹き飛ばされてしまう。
 レイン・レンの下品な大笑が響いた。



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イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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