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魔法少女リリカルなのは False Cross 第四章(4)

 連載SSを更新。
 例のごとく書けた分だけ掲載します。
 それから次回の更新は1週間後の8月5日(日曜日)を予定。
 どうかお待ちを。

 そういえばオリンピックが始まりましたね。
 日本は早くもメダルを3個獲得です。
 すごい。素晴らしい。
 他の選手たちも練習の成果を発揮して良い結果を残せるといいですね。


 予想はしていたが、予想外だった敵の早すぎる蘇生に、四姉妹は面食らう。
 神速で肉薄してくる黒い甲冑姿に慄然とした目を向けることしかできない。
 だが『機械仕掛けの聖王』(デウス・エクス・マキナ)の復活に、いち早く気づいたノーヴェだけは、とっさに迎え撃つ態勢を整えていた。
 驚愕に呪縛された姉妹を守るため、その呪縛から回復する時間を稼ぐため、ノーヴェが気合とともに飛びだす。
 そしてヴィヴィオの顔に似て非なる敵の能面に右拳を打ちこんだ。
 その一撃はノーヴェをして会心と言えるものだったが、『機械仕掛けの聖王』は左の掌で軽く受け止めてしまう。
 さらに相手はノーヴェの右側面にまわりこみ、まっすぐに伸びた彼女の右腕を、おのれの右肘と右膝で万力のように挟み潰した。
 ぞっとするような鈍い音が虚空に響く。上腕骨を砕かれたノーヴェが目を丸くする。
 とどめは後頭部を狙った回転肘打ちだった。ノーヴェは呆然としたまま前に倒れる。
 ウェンディが悲痛な叫び声をあげた。

「ノーヴェェェェッ!」
「待て。ウェンディ、はやまるな!」

 チンクはすぐに止めたが、もはや間に合わなかった。
 激昂したウェンディは、ライディングボードをバズーカ砲のように肩に担ぎ、がむしゃらに前進する。
 彼女は狂人のように叫びながら、走りながら、『機械仕掛けの聖王』を射撃した。
 相手は頭を両腕でガードする。そこに報復の光弾が間断なく飛んできたが、そのあいだも黒い甲冑姿は突進を止めない。
 みるみる縮まっていく彼我の距離。
 チンクは右手の中に三本のスティンガーを現出させる。
 彼女は妹を援護したかったが、下手に『ランブルデトネイター』を行使すれば、その爆発に巻きこんでしまう。
 かといって普通にスティンガーを投擲しても『機械仕掛けの聖王』には通用しない。
 チンクは次手に詰まった。
 その隙に『機械仕掛けの聖王』が親指以外の右手の指を穂先のように鋭く伸ばす。貫手である。
 ウェンディはボードを肩から下ろすと、今度はそれを盾のように前面に構えた。彼女の体がボードの陰に隠れて見えなくなる。これでは狙う場所がない。
 たとえ我を忘れていても体で覚えた技術は、それ自体が意思を持って発動するようだった。
 そんなウェンディの防御に対して、『機械仕掛けの聖王』は貫手を一閃。ためらいなく黒い甲冑の腕を前に突きだす。
 なんの工夫も細工もない、ただ愚直なだけの一突き。
 だが短剣さながら鋭く尖った爪牙状の指先は、まるで水のようにライディングボードを貫く。
 ノーヴェの瞳に怒り以外の感情が表出する。
 驚愕と恐怖だった。
 ボードを貫いた『機械仕掛けの聖王』の右手が、そのままウェンディの喉笛に蛇のごとく伸びる。そして相手を思いきり路面に叩きつけた。
 脳震盪を起こしたウェンディの目が焦点を失う。
 さらに『機械仕掛けの聖王』は、おもむろに右足をあげると、ウェンディの腹に踏み下ろした。
 容赦のない追い討ち。
 ウェンディは声もなく悶絶して力尽きた。
 前衛の二人を圧倒した『機械仕掛けの聖王』が、色の違う左右の目をチンクとディエチに向ける。
 チンクは唾液のように湧き出てくる苦味を奥歯で噛みつぶす。
 陣形が崩された以上、もう勝ち目はなかった。

「……ディエチ」

 チンクは唸るように声を発した。

「私が時間を稼ぐ。そのあいだにノーヴェとウェンディを連れて離脱しろ。いったん退いて、態勢を立て直す」

 ところがディエチの返事はなかった。もちろん無視されたわけではない。
 ディエチが姉の指示に有無を言う前に、『機械仕掛けの聖王』が動きだしたのだ。
 黒い甲冑姿が疾風と化して突っこんでくる。
 チンクは舌打ちした。すぐさま右手の中にある三本のスティンガーを、『機械仕掛けの聖王』めがけて一気に投げ放つ。
 この弾丸じみたスピードで迫り来る投げナイフを、『機械仕掛けの聖王』は驚くべき方法で迎え撃った。
 まずライディングボードから右手を引き抜き、続けざまに左手で穴の空いたボードを振り払う。
 流れるようなバックハンドスローで軽々と投じたのだ。
 スティンガーとライディングボードは、その質量において圧倒的な差が存在する。互角の衝突は力学的にありえない。
 ボードに弾かれた三本のナイフは、同じ数の金属音を響かせて、あらぬ方向へ飛んでいってしまう。
 まるで的を外れた流れ矢のごとく。
 その一方でライディングボードは、チンクをめがけて一直線に飛来する。
 まるで何倍も大きくなったナイフが迫ってくるようだった。
 とっさの回避が間に合わないことを悟ったチンクは、身に帯びた外套の防御機構『ハードシェル』を起動。おのれを中心に半球状のバリアを展開した。
 続いて顔の前で両腕を交差させて衝撃に備える。
 雷鳴に似た轟音。境界線で飛び散る火花。骨格を軋ませる斥力の波紋。
 突破か防衛か。激突したライディングボードとハードシェルが激しく鮮烈に鎬を削る。
 そのときチンクは十字に交差させた両腕の隙間から、猛然と接近する『機械仕掛けの聖王』を見とがめた。
 投ぜられたボードの軌跡を影のごとく追ってきたのだ。
 黒い甲冑姿は目の前まで接近すると、路面を滑走するような低い軌道で跳躍。超低空を飛びながらライディングボードの後部を思いきり蹴った。
 後ろから強い力で押しこまれたボードがバリアを突き破る。
 チンクの隻眼が驚愕に瞠られた。

「なにッ!」

 もともと回避が間に合わないからハードシェルを発動したのだ。その防御が突破された今、チンクに逃れる術はない。
 バリアを貫通したボードの先端が、みぞおちに深々とめりこんでいく。
 小柄な体躯が、くの字に曲がる。
 肋骨が二、三本、へし折れる。
 チンクは風の日の枯れ葉のように路面を転がっていった。
 ディエチが狼狽した様子で叫ぶ。

「チンク姉ッ!」

 取り乱したディエチは一瞬、姉の指示を忘れたようだった。
 ノーヴェとウェンディのほうに行く足を止め、踵を返してチンクのほうに駆け寄ろうとする。
 そんなディエチの進路を不意に、『機械仕掛けの聖王』が塞いだ。
 四姉妹のうち三人が倒され、残されたのはディエチのみ。こうなるのは当然だった。
 ディエチはイノーメスカノンを構え、目の前に佇む相手に照準を合わせる。
 だが彼女は典型的な後方支援タイプ。端的に言えば固定砲台である。距離を詰められた時点で勝ち目はなかった。
 正面に立つ『機械仕掛けの聖王』は、イノーメスカノンの砲身を半ばから砕くや、ディエチの細顎を爪先で蹴りあげる。
 ディエチの体は空中で二転三転し、やがて五歩ほど離れた場所に落下。彼女は胸から叩きつけられてしまう。
 一時は勝利目前だった形勢が、あっけなく逆転してしまった。



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イヒダリ彰人
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男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

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魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
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