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魔法少女リリカルなのは False Cross 第一章(6)

 一週間遅れですが、連載SSを更新します。
 とりあえず今回の話で第一章は終了です。
 次回からは第二章に突入します。
 更新予定日は3月の中旬を予定。
 詳しい日付は掲載の目途が立ち次第お知らせいたします。

 ちなみに今回の話は22時くらいに書き終ったばかりの“できたてホヤホヤ”です。
 そのためほとんど推敲はできていませんが、ストーリーを追うだけなら特に問題はないはず。
 不出来な部分は多々ありますが、そのへんはどうかご容赦ください。


「――ちょっとトイレに」

 不意にヴィヴィオが、そう言って起立した。
 そしてそのまま店内の一隅へ歩きはじめる。
 ヴィヴィオの小さな後ろ姿は、ほどなくして店の奥に消えた。
 それを見届けた直後、ゲンヤが困り顔で呟く。

「ひょっとして気を遣わせたか?」

 なのはの頭の中に、一緒に暮らしてきた二年間で判明したヴィヴィオの人物像が、はっきりと浮かぶ。
 結論は推し量るまでもなかった。

「おそらくは。とても勘の良い子ですから」
「だろうな。しかし気を遣っていたつもりが逆に気を遣われることになるとは。これじゃ大人失格だな」

 ゲンヤが腕を組んだまま、口元に冷笑を作ってみせた。自嘲の面相である。
 なのはにしても似たような心境だった。ゆえに落ちこむ彼に対して、かける言葉を見いだせない。
 励ましたいのに、けれど結局は何も言えず、沈黙してしまう。

「もっとも話したいことがあったのは事実だ。ここはいっそ開き直ってヴィヴィオの好意に甘えさせてもらうか」

 しかしゲンヤは即座に気を取り直した。その表情も冷笑から一転して真顔に変わる。
 終わったことを後悔するよりも、先のことを見据える人物なのだ。

「例の犯人について、もう話は聞いたか? 犯人は魔力とは別系統のエネルギーを使っていたそうだ」

 そう口火を切ったゲンヤの台詞は、ある可能性を示唆するものだった。

「だから今回も“戦闘機人”がらみの事件かもしれない。二年前の『JS事件』と同じように。たしかそういう話でしたね?」

 ユーノが確認するような口調で応じた。
 彼の声音は思春期の少年のそれのように高めだ。なので声のトーンが下がるとすぐにわかった。

「ああ。それで地上本部のお偉方が、戦闘機人とおぼしき今回の事件の犯人に、便宜上の理由で通称をつけた」

 そこまで言った途端に、急にゲンヤは押し黙った。
 なのははテーブルの下の、膝の上に載せた両手を、痛いほど固く握りしめる。

「『機械仕掛けの聖王』――デウス・エクス・マキナ」

 なのはの声は尖っていた。まるで屈辱と恨めしさを養分にして育った薔薇の棘のように。
 時空管理局は法を司る組織である。
 だが更生の余地がある者は、たとえ“元”次元犯罪者であっても、組織の一員として受け入れる。
 なのはも管理局のそういう人間味のあるところを気に入っていた。
 だが不特定多数の人間が属する以上、残念ながら管理局も一枚岩ではない。
 相手が戦闘機人というだけで快く思わない人間は大勢いる。
 とくに戦闘機人が猛威を振った二年前の『JS事件』で辛酸を嘗めさせられた者たちは。
 つまり今回の事件の犯人に与えられた通称は、戦闘機人に対する悪しざまな皮肉なのだった。
 戦闘機人の仲間がいる者にとっては許しがたい狼藉である。
 好意的に思えるわけがなかった。

「その『機械仕掛けの聖王』の捜索が明日からはじまる。それに俺たち陸士一〇八部隊も加わることになった」

 なのはの眉間に寄せられた皺は、最前のよりも深刻で険しかったが、話を続けるゲンヤは平静だった。
 なのはが懐いている不満を、ゲンヤも少なからず感じているだろうに、それをおくびにも出さない。
 むしろ「言いたい奴には勝手に言わせておけばいい」と達観しているようにも見えた。
 なのはとしては人生経験の差を痛感せずにはいられない。

「事件の捜査に関しては私にも、参加せよ、と地上本部から指示がありました。私には是非もないことだったので、ふたつ返事で請け負いましたが」

 なのはの声には毅然とした調子が戻っていた。眉間に刻まれた皺もなくなっている。
 ゲンヤの落ちつき払った言動に励まされ、自分もしっかりしなければ、と胸中の悔しさに折り合いをつけたのだ。
 そんな彼女の言葉に、あるいは様子を見て、ゲンヤが口元を弛めた。

「是非もない、か。おまえさんならそう言うと思ったよ。安心すればいいのか、呆れればいいのか、ちょっとわからんが」

 そう笑い含みに言ったゲンヤが、目の前の湯飲みに手を伸ばした。ついで残ったお茶を喉を仰向けて一気に飲み干す。
 ところが空になった湯飲みをテーブルの上に置いたとき、どういうわけか今度はゲンヤのほうが眉を曇らせていた。

「あともうひとつ話したいことがある。レイン・レンのことだ」

 なのはの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
 ある意味で事件そのものよりも気がかりな対象の話題だ。反射的に身を乗り出してしまう。

「レイン・レンさんが、どうかしたんですか?」
「まだ俺たちが地上本部にいたとき――ちょうど事情聴取が終わった直後だ。事件の捜査に協力したいと言ってきた」

 ゲンヤが困り顔で言いながら首筋を撫でる。
 話によるとレイン・レンは、なのはやスバルの足を引っぱったことを、ひどく気にしていたらしい。
 ゲンヤがいくら「技術屋なんだし戦闘機人を相手にできないのはしょうがない」と言い聞かせても、本人は聞く耳を持たず、ひたすら「汚名を返上する機会がほしい。自分も捜査に加えてくれ」と縋りつくばかりだったという。

「本人も忸怩たる思いだったんだろう。必死な顔をして頼みこんできやがる。だから俺個人の裁量で、なんの相談もせず、勝手に承諾しちまった。すまんな」

 ゲンヤが気まずそうに目を伏せた。
 いくら時空管理局の一員だとしても、レイン・レンの役職は精密技術官だ。事件の捜査に関しては素人も同然である。そんな人間を捜査に参加させるのは、たしかに正しい判断とは言いがたい。実際的な観点から見れば間違いなく過失である。
 が、なのはに相手を責める気持ちはなかった。

「謝らないでください。ちょっと驚きましたけど、でも怒っていませんから」

 なのはの言葉に嘘はなかった。
 一見して厳格そうな印象を受けるゲンヤだが、実際はきわめて人情味あふれる性格をしている。
 そんな彼が必死に懇願してくる者を無碍にあしらえるわけがない。
 むしろ話を聞いて「ゲンヤらしい」と納得してしまったくらいだ。

「しかし面倒事をひとつ増やしたことには違いないからな。レイン・レンの面倒は俺が責任をもってみる」

 ゲンヤがふたたび腕を組み、ゆずらない口調で宣言した。
 その自分に厳しい強烈な責任感は、スバルやギンガに通じるものがある。
 同じく血縁関係のない娘を預かる身としては見ているだけで微笑ましかった。

「わかりました。では明日から、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼む。――もっとも俺の部隊にはギンガがいるからな。高町の手をわずらわせるようなことはないだろうが」

 ゲンヤが信頼のまなざしをナカジマ家の長女に向ける。
 ギンガは視線をわずかに下へ向け、思いつめたような表情をしていた。

「……私、ずっと考えてたんだけど」

 ギンガが俯いたまま、やや低い声で呟いた。その口調は異常なまでに張りつめている。まるで命を懸けた決闘に臨まんとしているかのようだった。
 なのはだけでなく、その場にいる全員が思わず、ギンガを注視する。
 一同の注目を集めるギンガは、ややあって決然と顔をあげた。

「明日、『グリューエン』軌道拘置所に行こうと思う。――ジェイル・スカリエッティに会いに」

 周囲では客を出迎える店員の威勢の良い声が、奥の調理場からは油や火の喧騒が続いている。
 だが五人のあいだには沈黙というより一種の無が生じた。
 ギンガはさらに言葉を繋ぐ。

「戦闘機人。そして聖王の遺伝子。そのふたつに深く関与している彼なら、なにか情報を知っているかもしれない。たとえ知らなかったとしても、事件の手がかりになるようなことを、ひとつでもいいから聞ければ――」
「ちょ、待ってよギン姉! それ本気で言ってるの?」

 スバルが腰を浮かし、ほとんど怒鳴るような調子で、ギンガの話を遮った。
 これ以上なにか喋ったら、その瞬間に口をふさがれそうな、そんな必死の形相である。

「二年前の事件のときに、あの人に何をされたのか、ギン姉は忘れちゃったの? あたしは今でも覚えているよ。あの人がギン姉にやったことを。絶対に赦せない」

 竹を割ったような性格のスバルにしては珍しく辛辣な物言いだった。
 もちろん理由はある。
 ギンガは二年前の『JS事件』のときに、事件の首謀者であるスカリエッティ本人の手によって洗脳され、管理局の敵に仕立てられたことがあるのだ。
 そして傀儡となった姉を止めるために望まぬ死闘を強いられたのが他ならぬ妹のスバルだった。
 大切な家族を道具のように扱われた彼女の心境は察するまでもない。
 そうなる原因を作ったスカリエッティに対する嫌悪は人一倍だろう。
 つい感情的に物を言ってしまうのも当然であった。

「だいいちスカリエッティは、事件の捜査に関しては、一貫して非協力的なんだよ。まともに取り合ってくれるわけがない。あの人は更生組のみんなとは違う」

 スバルの今の発言に何気なく出てきた更生組とは、スカリエッティの私兵だった十二人の戦闘機人『ナンバーズ』の中で事件後に罪を認め、管理局の捜査に協力した七人の少女のことである。
 正しい教育を受けていなかったせいで、ややアウトローな言動があるが、根は素直で優しい気質の娘たちだった。
 ちなみに七人の更生組のうち四人の保護責任者にはゲンヤが就いている。
 つまりナカジマ家の本当の家族構成は父が一人に子が二人ではない。
 この場にいない更生組を加えると子が七人になる。
 じつは結構な大所帯なのだった。

「自分の身に起きたことだからね。スカリエッティにされたことは、もちろん忘れたことなんてない。あとスバルの懸念も、もっともだと思うよ。でもね――」

 すごい剣幕でまくし立てるスバルに対し、ギンガのほうは悟ったように冷静だった。

「スカリエッティが協力を拒んでいるのは、あくまで『JS事件』に関することだけ。会ってみる価値はあると思う」
「ギン姉……」

 スバルが力なく呟き、浮かせた腰を下ろした。
 さっきとは打って変わって静かな対応だが、そのさまは気が抜けて萎んだ風船さながら。
 ギンガの主張に納得したわけではなく、すっかり途方にくれているふうだった。

「どうしてそんなにスカリエッティにこだわるの?」
 迷子になった子供の口調で問いかけるスバル。
 ギンガは朗らかで優しい微笑を見せた。

「私は最善を尽くしたいだけ。古傷を庇うような弱腰の捜査はしたくないの」

 決意を表明するギンガ。
 それはすべての捜査官の模範にしたくなるような立派な宣言だった。
 もっとも誰が聞いても立派で正しいと思える回答は、立派で正しいがゆえに反論の余地もなく、ある意味でいちばん卑怯な言いまわしかもしれない。
 胸の内では不満たらたら、百や二百は文句がありそうな顔をしているスバルも、やはり何も言えないようだ。
 ギンガの言い分はわかるが、大事な姉をスカリエッティに会わせたくないという過保護な部分が反発し、五里霧中といった様子である。

「……本気なんだな?」

 黙りこんでしまったスバルに代わり、それまで静観していたゲンヤが尋ねた。
 その目の厳しい光は父親のものではなく、部下の決意を確認する上司のそれである。
 ギンガも真剣な表情で頷いた。

「うん。だからお願い」

 ギンガの決心は揺るぎないようだった。こうなっては何があっても自分の意思を曲げることはないだろう。
 ゲンヤは理解を示すように、しっかりと首肯してみせた。

「おまえは捜査官だ。事件の解決に必要だと思うことを精一杯やればいい」
「お父さん……ありがとう」

 父親の支持を得て、ギンガの肩から、ふっと力が抜けた。
 続いてスバルのほうを見る。

「スバル、明日は私の代わりにお父さんについてあげて。スバルは実際に犯人の顔を目撃しているし、私もスバルになら安心して任せられるから」

 まだ難しい顔をしていたスバルは、すぐに返事をしようとはしなかった。
 だが本人にしかわからない葛藤の末に、ほどなく根負けしたように溜息をつく。

「もともと捜査には協力するつもりだったし。家に帰ったら防災課に申請を出すよ」
「スバル!」

 ギンガの表情が、ぱっと明るくなる。よほど嬉しかったのか、抱きつこうとまでする。
 両腕を無闇に大きく拡げて、嬉々として迫ってくる姉を、だがスバルは押しとどめた。

「か、勘違いしないでよ。私は別に納得したわけじゃないんだから。なにも得られずに帰ってきたら許さないからね」

 そうこうしているうちに、お手洗いからヴィヴィオが戻ってきて、事件の話題は打ち切られた。
 そのあとは何事もなかったかのように、冗談を交えた楽しい夕食が再開される。
 しかし賑やかな団欒のあいだも、なのはの胸中には、一抹の不安が残ったままだった。
 原因はわからない。
 ただ明日はとても長い一日になる、そんな嵐の前触れのような不安が。



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イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

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魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
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