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ヤガミケ!? 第四話

 いつもなんとはなしに更新される短編SSです。
 タイトルに第四話と書かれていますが、前後関係はないので気軽に読めると思います。
 あと今回のSSのテーマは「秋祭り」です。
 終始ぐだぐだですが、一度でも「クスッ」と笑っていただければ……いいなぁ。

 バナーを貼っているのですぐわかると思いますが。
 イヒダリは「Dies irae ~Acta est Fabula~」を全力で応援しています。
 このゲームのシナリオライター「正田崇」さんの文章はすごくカッコイイですから。
 いろいろ参考にさせてもらいます。
 もちろんストーリーのほうも期待しています。
 早く発売しないかな。

 


 新暦65年。海鳴市を舞台に繰り広げられた『闇の書事件』が終結。
 その後に管理局から保護観察を受けた『八神はやて』と『ヴォルケンリッター』たち。 多くの罪を犯してしまった彼女たちは、その償いのために『あること』を決意する。
 それは世のため人のため、社会に対して『無償奉公』をすることであった。
 そして今ここに――八神家の面々による粉骨砕身のボランティア活動がはじまる。


 第四話(?)『小さな秋と八神家』


 伏魔殿(ふくまでん)のごとき海鳴市にも寂寞(せきばく)たる落葉の季節がやってきた。

「――みんな知ってるか? 海鳴臨界公園で開催される町内会の秋祭りのことを」

 そう八神はやてが口火を切ったのは、木枯らしが冷たい午前のことだった。
 ときおり吹く強い風が、中庭に面したリビングの大窓をガタガタと揺らしている。

「もちろん知ってますよ。例年、この季節になると催されるイベントですよね?」

 お茶を飲んで人心地ついていたシャマルが頷く。糸のように細められた目は極楽そう。
 いま八神家のリビングルームには、一癖も二癖もある家族――はやて、シャマル、シグナム、ザフィーラ、リインフォースⅡ、ヴィータ――がテーブルを囲んで談笑していた。
 その論旨は上記のとおり。海鳴臨海公園で行われるらしい町内会の秋祭りのことだ。
 ちなみにメンバーが飲んでいるお茶はヴィータが淹れた。100円のほうじ茶である。

「で、その秋祭りがどうしたんだよ? ……まさかぶちこわす気じゃないだろうな?」

 ヴィータのラピスラズリを思わせる蒼い瞳が眇められた。明らかに懐疑を抱いている。
 はやてたちの――自分を除いた――日頃の行状(ぎょうじょう)をかえりみれば当然の質疑といえよう。
 不審のまなざしを向けてくる紅の鉄騎に、だが夜天の主は鷹揚な含み笑いをみせた。

「そういうのを日本語でなんていうか知ってるか? 邪推(じゃすい)っていうんやで。わたしたちは生まれ変わったんや。これからは地域活性化のために一肌も二肌も脱いでいくよ~」
「主はやてが一肌も二肌も……とんだ痴女的行為ですな!」

 ザフィーラ(狼形態)がニヤけながら呟いた。いやらしい目つきで飼い主を見ている。
 そんな淫獣の放言に、シグナムが眉をひそめた。

「痴女的ではなく自虐的だろう。二肌も脱いだら生きた人体模型と化してしまうぞ」
「人体模型って、あの皮を削いだ化け物のことですよね? ひい、怖いですぅ」

 シグナムの曲解を真に受けて、リインが哀れなほどに怯える。
 ヴィータは右手の親指と人差し指で眉間を揉んだ。そこには苦悩の皺が刻まれている。

「そんなわけないだろ。あいかわらず頭が悪いな。生まれ変わったんじゃないのかよ」

 ヴィータが呆れながら応じると、ふいにシャマルが遠い目をした。

「人は、そう簡単に変わらないものなのよ。良くも悪くも、ね」
「我々はしょせん、我々にしかなれない、というわけだな。素敵で深遠な言葉だ」

 感慨深げに呟かれたシャマルの台詞に、ザフィーラが感じ入ったように頷いた。
 そのやりとりを見たヴィータは鼻白んでしまう。マジでこいつらはなんなんだ?
 呆れて言葉もないヴィータを尻目に、はやては暢気な口調で会話を続ける。

「その秋祭りに、わたしたち八神家も、なんらかの形で参加しようと考えたんよ」

 するとリインの愛らしい容貌に得心の色が浮かんだ。小さな体に気合がみなぎる。

「斬新な見世物を披露して、観衆の注目と興味を一気に集める、というわけですね!」
「せや。そうすれば八神家の信用も回復するに違いない。それどころかアイドル並みの人気を獲得できるかも。十年一日のごとき贖罪の歴史を、その日を境に終わらせるんや!」

 やたらと意気ごむリインに負けず劣らず、はやても拳をぐっと固めてヤル気を示す。

「そこでみんなの知恵を借りたい。わたしたちはいったい、なにをすればいいのか……」

 そう重々しい口調で言ったあと、はやてはその場にいる全員の顔を眺めていく。
 ふと頭の中に解答が思い浮かんだので、ヴィータは右手を挙げて発言を求める。

「はやて、ちょっといいか?」
「お、まさかヴィータがいちばん先とは意外やったな。ええよ、遠慮なく言うてみて」
「民間人の安全を第一に考えた場合、あたしらは傍観していたほうがいいんじゃないか」
「そんな消極的な意見は論外や。わたしたちが求めるものは転変。ただその一点のみ!」

 ハエでも追い払うような仕草をしながら、はやては赤毛の少女の進言を斬り捨てる。
 ヴィータは唇をとがらせて不服を表わす。さっきの意見は絶対に正論のはずなのに……

「じゃあ無難にチョコバナナの屋台なんてどうだ? これなら簡単にできそうだろ」

 あくまで堅実でいようとするヴィータに、その他の狂気に魅入られたメンバーは――

「ダメや。地味すぎる。却下や」はやて。
「チョコバナナなんて芸がなさすぎる。却下だ」シグナム。
「バナナじゃなくヘチマならよかったんだけど」シャマル。
「ヴィータちゃん、もうちょっとヤル気を出してくださいです~」リイン。
「そのつるぺたボディを模した女体チョコなら有りかもしれないがな」ザフィーラ。

 ……ねえよ!
 否定の言葉を問答無用に浴びせられて、とうとうヴィータは怒り心頭に発する。

「だったら他になにがあるんだよ! 誰もが納得できる意見を言ってみろや、コラァ!」
「そうだな……YOSAKOIソーラン、なんてどうだ?」

 シグナムが明朗な声で呟いた。怒号をほとばしらせたヴィータとは裏腹に冷静である。
 その提案が意外にまともだったのでヴィータは面食らう。だがすぐに首を横に振った。

「ダメだろ。いまからじゃ人数は集まっても練習はできない」
「でも着眼点はいいと思う」

 ひとまず怒りを鎮めたヴィータのあとに、なにかを思案しているシャマルが続く。

「大人数で派手にやったほうが壮観で楽しいもの。そうなると問題は人員の確保だけど」

 シャマルが自分の考えを断片的に並べると、いきなりザフィーラがカッと目を見開いた。

「管理局の職員たちを招集しよう。そうして適当に頭数をそろえた雑魚どもを、我々がちぎっては投げちぎっては投げする『YOSAKOIキョーラン』というのはどうだ?」
「なんじゃそりゃ? 会心の笑顔で言う台詞じゃねえだろ。どこまで頭がわいてんだ!」

 心の底から満足そうなザフィーラに、すぐさまヴィータが一喝を飛ばした。
 ここから議論は予想以上に紛糾。そのまま秋祭りの当日まで続くことになる。
 しかし結局、秋祭りにどんなことをするのかは、最後までまとまらなかった。


 夕闇が訪れた海鳴臨海公園は、多くの民間人であふれている。
 秋祭りは例年どおり無事に開催された。今のところ暗躍する八神家の気配はない。

「――ここだよ、フェイトちゃん。口コミでおいしいって評判のチョコバナナの屋台」
「たしか赤毛の女の子が店番だったよね? なんとなく覚えがある容姿だけど……あ」

 チョコバナナの屋台を目前にした途端、フェイトと呼ばれた少女が声をもらす。
 それからチョコバナナを製造している赤毛の少女を驚きの声とともに指さした。

「ねえ、なのは。あれってヴィータじゃない?」
「ほんとうだ。今日、お店をやるなんて一言もいってなかったのに。ヴィータちゃん!」

 フェイトの傍らにいる少女――なのはが大声で呼びかけた。
 まわりは行き交う雑踏でうるさかったが、ヴィータの聴覚は友人の声をしかと拾う。
 紅の鉄騎と賞賛される赤毛の少女は伏し目を持ちあげた。なんだか気だるげな動作だ。
 事実、彼女は疲れていた。この屋台をたったひとりで切り盛りしているせいである。

「……よお、おまえらも来てたのか。最初に断っておくが、サービスはしねえぞ」

 つれない口調でヴィータが釘を刺した。愛想がないのは体力の消耗が激しいからだ。
 なのはとフェイトが顔を見合わせる。描いたような眉をひそめて怪訝そうな面持ち。
 が、それも束の間だった。習い性で、疑問をそのままにはしておけない性質なのだ。
 ヴィータの顔色を窺いながら、なのはが愛想笑いで質問する。

「ところで、はやてちゃんはどうしたの? それに他のヴォルケンリッターたちは?」

 バナナにチョコレートをつけていたヴィータの手がピクリと止まる。

「……知らねえよ。なんか『グッドアイディアを閃いた!』とか言いながら出ていった」
「それでヴィータがひとりで店番をやってたんだ。いったいなにを閃いたんだろう?」

 フェイトが首をかしげて問いかけた。相手の不機嫌をあおらないように注意した口調。
 ヴィータは止まっていた作業を再開した。チョコバナナを袋に入れながら吐き捨てる。

「さあな。どうせくだらないことだろ。このまま行方をくらましてくれればいいのに」

 そのあまりな言いぐさに、なのはとフェイトがそろって苦笑した、そのときであった。

「――あっはっはっはっは! 見て驚け、聞いて驚け、知って驚け~!」

 誰の声か推し量るまでもない関西弁が殷々(いんいん)と響きわたる。続いて暗くなる頭上の空。
 ヴィータは泣きそうだった。絶望と諦念に染まりきった瞳をゆるゆると持ちあげる。
 そこには白くて巨大な物体が浮遊していた。次元空間航行艦船――アースラである。

「われらは別の銀河系よりやってきた地球外生命体。いわゆる宇宙人である。しかし、ただの宇宙人ではない。悪の、悪の宇宙人であります。大事なことなので二回言いました」

 質すべきことは山ほどあった。アースラをどうやって拿捕(だほ)したのか、その乗組員はどうしたのか、なんの目的で管理外世界に乗りつけてきたのか。それこそ掃いて捨てるほど。
 しかしヴィータは声を発することができなかった。あいつらは……バカすぎる。
 すでにヴィータは気が触れそうだったが、醒めない悪夢はまだ終わりではなかった。

「クレオパトラが呼ぶ、楊貴妃が呼ぶ、小野小町が呼ぶ。世界三大美女が俺を呼ぶ!」

 恐るべき声が響いた。少なくともヴィータにとっては、耳に入れるのも不快な騒音だ。
 広場の中央に設置された塔のごとき(やぐら)に、ひとりの益荒男(ますらお)が仁王立ちで佇んでいた。

「正義のヒーロー見・参。その名はスーパーザフィーラ。誰よりも荘厳な愛の戦士だ」

 ザフィーラ(人間形態)が名乗りをあげる。その姿勢はサイドチェストだった。
 もはや見守る者は(せき)として声なく、怒涛の展開に表情すら失っている。
 そんな民間人たちを置き去りにしたまま、この混沌のような寸劇は終焉へと向かう。

「この正義を極めつくした漢の拳で、おまえたちを地獄に送呈(そうてい)してやる。覚悟しろ!」
「獣ごときが偉そうに。おまえなんか焼却処分してやる。アルカンシェルを喰らえ!」

 まさに一瞬だった。
 アースラの主砲から轟然とほとばしった光の奔流が、その場に居合わせたすべての人たちを問答無用で呑みこみながら、海鳴臨海公園を白い世界に染めあげてしまったのは。


 ……その翌日。
 新聞の一面に『海鳴市にUFOが出現。宇宙戦争の勃発か!?」という記事があった。
 そしてその記事が誘因となり海鳴市は『UFO』が現れた街として有名になることに。
 すべては八神家の面々がもたらした吉報。彼女たちの郷土愛が結実した成果であろう。

「これぞまさしく『災い転じて福と為す』やな」はやて。
「ええ。アースラを無断で拝借した甲斐がありましたね」シグナム。
「うむ。このスーパーザフィーラのがんばりも見事に報われたしな」ザフィーラ。
「……おまえらがいくら現実逃避しても、損壊した施設の修繕に保険はおりないぞ。それらを直すための費用は、ぜんぶあたしらが払わないといけないんだからな」ヴィータ。

 第四話(?)『極貧にあえぐことになる八神家』
 終わり。

 

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HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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