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月荊紅蓮‐乱刃‐ 本編(7)

月荊紅蓮‐乱刃‐ 本編(7)です。



 すずかの困惑は、ますます深くなる。美由希の宣言を、どう判断すればいいのかわからない。予期せぬ美由希の登場にただでさえ頭がてんやわんやだというのに、あまつさえ彼女は自分のことを剣のカードだと名乗ったのだ。すずかの混乱は、むしろ当然の反応だろう。
 一歩、美由希の足が踏み出される。だらりと提げたレイピアの切っ先が地面を擦る。

「より正確に説明するなら、いま高町美由希が持っている、このレイピアが私――(ブレイド)のカードです。私の主な能力は使用者を剣の達人にすることですが、使用者の意識を支配する二次的な能力も有しています。私がいま口頭で自分の意思を伝えられるのも、高町美由希の意識を強制的に占有し、彼女の言語機能を介して喋っているからです。……理解しましたか?」

 すずかとアリサの混迷を察したのだろう、美由希に憑依した剣のカードが言い含めるように解説する。その口調は信者に神の道を説く牧師のように丁重だったが、よくよく思い返してみると相手の無知を嘲笑うような響きもあった。どうやら慇懃無礼な性格らしい。
 まだ思考は安定を取り戻していないものの、それでもだいたいの事情は把握できた。
 とどのつまり、自分たちが追ってきた今回のシルエットカード――剣のカードを封印するためには、よりにもよって高町なのはの姉を、すずかとアリサの親友である少女の家族を、この手で打ち倒さなければならないのだ。まさに最低最悪のなりゆきであった。暗然となる心境を抑えることができない。……それなのにまだ、すずかには気になることがあった。

「じゃ、じゃあ、ジャングルジムのあった公園で三人の女の子を襲ったのは、どうして?」

 乾いた口調で質したすずかに、剣のカードは美由希を介して心外そうな声をだす。

「ひどい言い草ですね。べつに襲ったわけじゃありませんよ。ただ都合の悪いところを目撃されたから、少しだけ記憶をいじって、そのとき見た出来事を忘れてもらっただけです」
「記憶をいじたって……そんなことができるの?」
「簡単にできますよ。ただ私の……つまりレイピアの柄を握ってもらえればいいのです」

 即答すると、剣のカードは美由希の声で、しかし美由希ではない口調で先を続ける。

「私の能力は本来、使用者に対してのみ適応されるのが原則です。ですから私は、怯える子供らに無理矢理レイピアの柄を握らせて、その子供らの意識を支配したうえで記憶を改竄したのです。……ああ、でもご心配には及びません。脳に障害が残ったりはしませんから」
「――ふざけるんじゃないわよ! 人の記憶を、いったいなんだと思ってるわけ!」

 ここまで沈黙を守っていたアリサが、もはや我慢できぬとばかりの一喝を迸らせた。

「さっきから黙って聞いていれば、ずいぶん好き放題に言ってくれたわね。人間じゃないあんたにはわからないかもしれないけど、でもあえて教えといてあげる。あの子たちの記憶は、あの子たちだけのものよ。あんたみたいな外道が、勝手に奪っていいものじゃないわ」

 そう吐き捨てるや、アリサは火を噴くような視線で、前方に佇む敵を睨み据えた。
 ――そう、敵だ。目の前にいる人物は決して、自分たちがよく知る高町美由希ではない。人間の聖域とも言うべき記憶を土足で踏み荒らした鬼畜だ。どこにも許せる道理がない。
 足を三歩進めてアリサの横に並ぶと、すずかも怒りの情念を声にして言い放つ。

「美由希さんを解放してください。人間は、あなたの操り人形なんかじゃありません」
「ですが結果的に言えば、私のしたことは有用だったはずです。あなたたちとて、魔法やシルエットカードの存在を白日の下にさらされるのは避けたいでしょう?」
「……もう一度だけ言います。美由希さんを解放してください」

 余計な話はするなとばかりの冷ややかな声音で、すずかは重ねて勧告する。
 美由希が口元を歪めて肩を竦めた。美由希の体を介して、剣のカードが失笑したらしい。

「その命令には従えません。あなたは私たちの新しい主ではありますが、あいにくこちらにも、使用者を選ぶ権利というものがあるのです。言うことを聞かせたければ私を――剣のカードを折伏(しゃくぶく)してみせなさい。駆逐してみせなさい。おのが全身全霊を傾けて。……それに」

 悠然と嘯きながら、美由希は金色のレイピアの切っ先を持ちあげていく。

「それに私自身、あなたと戦いたくてたまらない。この高町美由希という人間の性能を試したくてたまらない。なぜか? それは私が、闘争を主眼とした属性のカードだからです!」

 興奮したように言い放つや、美由希は振りかざしたレイピアを地面に叩きつけた。
 刹那、高密度に圧縮された膨大な魔力の塊が、さながら津波のごとく轟然とほとばしる。
 すずかは意表を衝かれた。氷柱のように硬直した脚を動かせるようになったときには、すでにレイピアから放たれた魔力の奔流は眼前にまで肉薄している。もはや逃げ場はない。
 衝撃と激痛を予感し、すずかは瞼を閉じる。――が、覚悟していた打擲(ちょうちゃく)は訪れない。
 代わりに感じたのは、背中と両膝裏に回された細腕の感触。そして羽のような浮遊感。
 驚いて瞼を開けると、すぐ目の前にアリサの顔があった。どうやらアリサに横抱きにされているらしい。のみならずアリサは、すずかを抱きあげた姿勢のまま夜闇を飛翔していた。
 レイピアの切っ先から放たれた攻撃魔法。その直撃にさらされる一瞬前、とっさに反応したアリサが、すずかを抱きあげて跳躍し、危ういところで怒涛の火線から逃れたのだ。
 アリサは猫のように音もなく着地すると、呆然としているすずかを地面に立たせた。

「ふう、間一髪だったわね。……って、どうしたの、すずか? そんな呆けた顔して?」

 アリサが怪訝そうに覗きこんできた。その声で我に返り、すずかは慌ててかぶりを振る。

「べ、べつになんでもないから。……その、助けてくれてありがとう、アリサちゃん」
「親友を助けるのは当然の行動よ。それよりも、どこか怪我とかしてない? 大丈夫?」

 アリサがさらに顔を近づけてくる。すずかは大きく目を見開いたまま硬直してしまう。
 今、すずかの胸中では、当惑と魅惑と誘惑が凄まじい勢いで渦を巻いていた。
 どうしてこんなにも胸が高鳴るのか理解できない。アリサの優しいぬくもりも、可憐な花のような甘い匂いも、宝石のような翠緑(すいりょく)の瞳も、ぜんぶ独り占めにしたくてしかたない。
 はたと気がつけば、すずかは自分の唇を、アリサのそれに寄せていた。アリサが困惑した顔をする。関係なかった。そして互いの唇が触れるか触れないかの位置に来たとき――
 すずかの制服の内ポケットが、やおら燦然と光を放つ。すずかは仰天して体を離した。

「デバイスが……反応してる?」

 内ポケットから取りだした待機状態のデバイス――トランプのような形をしたそれが、まるで命を吹きこまれたかのように、あるいは自身の存在を指し示すかのように発光していたのだ。すずかは、右手に持った待機状態のデバイスを眺めながら、張りのない声をだす。

「いきなりどうして、なにが発動のきっかけになったの?」
「ちょっと、すずか。いまはそんなことを疑問に思ってる場合じゃないでしょ? これでようやく、あんたも魔導師に変身できるんだから。早くセットアップを済ませちゃいなさい」

 三歩の距離をあけて相対したアリサが、せっかちな語調で促してくる。その表情は少しだけ赤味が差していたものの、それ以外は何事もなかったかのように平静だった。
 一方、すずかは心中に理由のわからない奇妙な失望を感じていたが、それでも今はアリサの言うとおりセットアップを優先すべきだと判断する。すずかは意を決して頷いた。

「『悠遠(ゆうえん)』そして『薄暮(はくぼ)』――」

 右手に持った待機状態のデバイスを頭上に掲げながら、すずかは魔法の言葉を叫んだ。

「セットアップ!」

 制服が靴や下着に至るまで霧散し、あらわになった白い裸体を蛍光めいた輝きが彩る。
 一時的に消失した制服に代わり、長袖の濃紺のブラウスが上半身を包みこんでいく。
 続いて、かわいらしい臀部を純白のショーツが扇情的に内装する。さらに蜂のごとく急角度に括れた華奢な腰から下を、紺が二枚と白が一枚のフリルを重ねたミニスカートが覆う。
 ――と、変身完了を待たず、金色のレイピアを構えた美由希が猛然と突進してきた。
 その思わぬ奇襲に驚いたすずかの眼前に、バリアジャケット姿のアリサが割りこむ。

「ここは私にまかせて、すずかは変身の続きを!」

 そう言い置いたあと、アリサもまた突撃を敢行。美由希へ向かって一直線に驀進(ばくしん)する。
 鞘から抜き放たれた緋炎が、上段から振りおろされたレイピアが、刹那の交錯を果たす。
 凄絶な金属音と火花が虚空に乱れ散り……鍔迫り合いに敗北したアリサが藁屑(わらくず)のごとく吹き飛んで宙を舞い、変身途中のすずかの傍らを(まり)のように転がりながら掠めすぎていく。
 すずかには、アリサの安否を気遣う時間的な猶予は微塵もなかった。アリサを退けて一気に接近した美由希が、月光を冷たく弾くレイピアの切っ先を眉間に突き入れてきたからだ。
 すずかは濃紺のブラウスとミニスカートの姿で前転して攻撃を避け、着地した素足に白いニーソックスと黒のパンプスを発現させる。美しい稜線を描く胸元を赤い蝶リボンで飾りつけた瞬間、背後の美由希が振り向きざまに横薙ぎを放った。少女の首を刎ねんと迫るレイピアの一閃を、すずかは見事に見切った背面飛びでかわすと、そのまま美由希の頭上を大きく跳び越える。ミニスカートのフリルを乱して着地した瞬間、流麗な黒髪が肩の高さで左右に分かれ、胸の前に長く垂れた二房のおさげになる。次いで、左手に薄暮を現出させた。
 美由希の口元が残虐そうに弛む。まるで好敵手を得て武者震いする狂戦士のような笑い。
 すると突然、美由希の姿が消え失せ……すずかの眼前にレイピアの切っ先が現れた。
 美由希は御神流の歩法『神速』で空間を圧縮しながら間合いを詰め、その超々高速の状態を維持したまま刺突を繰り出したのだ。御神流・裏が修める必殺奥義『射抜』を。
 急所へ喰らえば確実に戦闘不能になる致死の凶刃。にもかかわらず、すずかは動じない。

「――悠遠」

 すずかの呼びかけに応じて、目の前の虚空に巨大な剣十字が現出する。その剣十字の持ち手――真ん中に拵えられた円還を右手で握りしめると、もはや一条の閃光にしか見えない突きこみを、すずかは真っ向から受け止めた。接触した金属面から紅蓮の火花が狂い咲く。
 続いてすずかは、殺しきれなかった射抜の衝撃を逆に利用して背後に大きく跳躍。レイピアの間合いから逃れるだけでなく、顔をしかめながら起きあがったアリサの隣に着地した。

「アリサちゃん、大丈夫?」
「ええ。怪我はしてないし、大丈夫よ。ただ、もの凄い力で撥ね返されただけだから」

 スカートのお尻の汚れを手で払いながら、アリサは思いのほか元気そうな声で応えた。
 アリサに負傷がないことがわかり、すずかは硬い表情を弛めて安堵の吐息をつく。

「アリサちゃんが無事でほんとうによかった。……これでわたしも、心置きなく戦える」

 言うやいなや、すずかは前方に悠々と佇む美由希を――正確には剣のカードの化身たる金色のレイピアを睨んだ。黎明を彷彿とさせる藍色の瞳が、朝焼けよりも赤く赤く赤く輝く。

「変身の途中で襲うなんて、シルエットカードは不文律という言葉を知らないんですか?」
「申し訳ございません。隙だらけに見えたものですから」

 悪びれた様子など微塵も見せず、剣のカードは美由希の表情を介して微笑んだ。

 かくして――梅雨入りを間近に控えた初夏の夜。皓々とたゆたう楚々たる月華の下。
 ほとばしる裂帛の気合と無数の剣戟が、いまここに激闘の火蓋を切ったのであった。


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HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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