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月荊紅蓮‐乱刃‐ 本編(3)

月荊紅蓮‐乱刃‐ 本編(3)です。



 すずかは耳を疑った。もしかすると自分は今、白昼夢を見ているのかもしれない。
 空間モニターに映る小首を傾げたユーノが、得体の知れない生物に思えてならなかった。

「あれ? 三人ともどうしたの? そんな狐につままれたような顔して?」

 すずか、アリサ、マリエルが唖然として沈黙する中、ユーノが怪訝そうに尋ねてきた。
 しらけたような静寂に、なにか不安を覚えたのかもしれない。まんじりともしない女性陣を、ユーノは戸惑いの眼差しで眺めていた。その原因が自分にあるなどとは疑いもせずに。
 アリサとマリエルは石のように喋らない。しかたなく、すずかが口火を切ることにした。

「確かユーノくん、なのはちゃんが入院してたあいだ、毎日お見舞いに行ってたよね?」
「そうだけど。……でもそれがどうして、なのはと付き合う、うんぬんっていう話になるわけ? ぼくは、一刻も早くなのはに元気になってほしかったから、ぼくにできる範囲で彼女のリハビリに協力してただけなのに。それに、なのはの治療にかかりっきりだったのは、ぼくだけにかぎった話じゃないよ。フェイトもヴィータも同じだったから」

 ユーノは平然と言い放った。まるで当たり前のことを、当たり前に語るかのように。
 すずかは口元をひくつかせて鼻白んだが、それでも一縷の望みを託して問いを続ける。

「で、でも、なにか思うところはあるんでしょ? なにせ自分の時間を、なのはちゃんのためだけに費やしてたんだから。ただの幼馴染みって理由だけじゃ、とても真似できないよ」

 もはや祈るような胸中で答えを待つすずかに、ユーノはしばらく考えたあとで頷いた。

「……そうだね。すずかの言うとおり、思うところはあったよ」
「ほ、ほんとう! じゃあやっぱり、なのはちゃんのことを――」

 すずかは惜しみなく快哉を叫んだ。続くユーノの言葉を期待して、藍色の瞳を輝かせる。
 ユーノが微笑んだ。そして、その無垢な赤子のような笑顔のまま、朗らかに言い放つ。

「もちろん、なのはのことは大事に思っているよ。『大切な幼馴染み』だってね」

 その言葉を聞いた途端、すずかは燃え尽きたように途方に暮れてしまう。もはや溜息さえも出てこない。手元に(さじ)があったら、それを次元の彼方まで投げ飛ばしたい気分だった。

「……これが噂に聞く鈍感王子の実力、か。まさに糠に釘って感じね」

 やおら呆れたように呟いたのは、すずかとユーノのやりとりを見守っていたマリエルだ。
 彼女は鼻先にずり落ちた眼鏡を押し戻しつつ、なにをか言わんやという風情で嘆息する。

「ねえねえ、アリサちゃん。ユーノくんって、いつもこんなふうにとぼけた感じなの?」
「そうよ。いい加減、絶望するわ。下心があるようなないような男女関係を見守るのは」

 アリサが嘆かわしげに吐き捨てた。それから空間モニターに映るユーノの顔を冷ややかに見据える。その醒めた翠緑(すいりょく)の眼差しは決して、自分と同じ霊長類ヒト科を見るそれではない。

「もしかしてユーノ……あんた、なのはのこと、女の子だと思ってないわけ?」
「そんなことないよ。なのはは、どこからどうみても女の子にしか見えないし」

 ユーノは心外だと言わんばかりの口調で答えた。眼鏡の奥の瞳が不快そうに眇められる。
 その否定の言質を、しかしアリサは鼻で笑う。まるで仇敵の過失を見咎めたような失笑。

「ええ、そりゃそうよね。なのはが女の子だってことくらい、言われなくてもちゃーんと知ってるわよね。なにせフェレットになりすまして、一緒にお風呂に入ってたんだから」

 氷よりも冷たい声音で言及するアリサ。途端、ユーノが慌てたようにかぶりを振った。

「そ、それは……お互いにまだ子供だったからで。べつにやましい気持ちがあったわけじゃないよ。ただ無駄な魔力の消費を抑えて、怪我の治療に集中したかっただけなんだ」
「でも見たんでしょ? なのはの裸を。初潮もきてない乙女の柔肌をすみからすみまで!」

 弁明するユーノの言葉に耳を貸さず、アリサは両目を大きく見開いて少年を喝破(かっぱ)した。
 いくら気心の知れた幼馴染みといえど――否、気心の知れた幼馴染みだからこそ、半端な覚悟で親友の純潔を辱めるような愚行は許さない。つまりアリサはそう言いたいのだろう。
 なかなか立派な心意気である。思わず感動しそうだった。言葉さえ下品でなければ。

「あの、あのね、アリサちゃん。もうちょっと慎みのある発言をしたほうが……」

 すずかが控えめな口調でたしなめる。するとアリサは目くじらを立てて憤慨した。

「なに言ってるのよ、すずか。私は充分に慎み深いわ。それよりもユーノは四年前の温泉旅行のときに、私たちの裸までばっちりくっきり見てるのよ! これはどう考えても女の尊厳に関わる重大な屈辱だわ。ゆえにこの不埒な淫獣には、いますぐ極刑を言い渡すべきよ」

 てっきり、ユーノのデリカシーのなさを責めているのかと思いきや、実際はアリサの個人的な恨み言だったらしい。もう四年も前のことなのに、いまさらなにを恥ずかしがっているのやら。すずかは内心で溜息をつくと、いい加減な声音にならないよう気をつけて話す。

「それでいったい、アリサちゃんはどんな刑罰を断行する気でいるの?」
「もちろん処刑よ。男がいつも股座(またぐら)にぶらさげてる、その不浄なモノを握り潰すというね」

 憎々しげに言い放つと、アリサは右手を拳にした。まるでなにかを握り潰すかのように。
 そのおぞましい割礼(かつれい)宣言に、ユーノの顔色は一瞬で真っ青になる。男なら当然の反応だ。
 そんなユーノがあまりに不憫で、すずかは心から同情してしまう。――そのときだった。

「アリサちゃん過激ね。これはユーノくんの男の子も、いよいよ風前の灯火かしら?」

 そう出し抜けに呟いたのはマリエルである。彼女は口元を手で押さえて、必死に笑いを噛み殺していた。もっとも、「くすくす」という忍び笑いがもれている時点で意味はないが。
 モニターに映るユーノの表情が曇った。それから苦痛に耐えるような口調で呟く。

「あ、あの……マリーさん。笑ってないで、早くアリサを宥めてほしいんですけど」
「残念ながら、それはわたしには無理そう。だからこの件は、すずかちゃんに一任するわ」
「え? わ、わたしですか?」

 いきなり白羽の矢を立てられて、すずかは戸惑いに目を瞬かせた。
 するとユーノを脅かしていたアリサが、気高い野良猫めいた不敵な微笑を口元に刻む。

「そんな必要はないわ。私の裁量と、すずかのそれはまったく同じなんだから」

 言うやいなや、隣の席から身を乗り出したアリサが、すずかの顔を覗きこんできた。
 驚きで、すずかの思考が空白になる。息がかかるほど眼前にあるアリサの顔に、ただ為す術なく見惚れてしまう。かろうじて声を絞り出せたのは、無意識の賜物に違いなかった。

「……ア、アリサちゃん。……顔が、顔が近い……」
「近づけてるんだから当たり前でしょ? なにをそんな些細なことを気にしてるのよ」

 アリサが平然と応対した。まったくの無自覚に、頬をリンゴのように赤く染めながら。
 それを見た途端、すずかは目眩にも似た感覚を覚えた。脳裏がさらに脱色されてしまう。
 アリサの反応は魅力的だった。打算も自覚もない無意識だからこそ、とっさに浮かべた表情の変化が鮮やかに映える。すずかの心を否応なく侵食する、麻薬のような蠱惑と化す。
 霧がかったような漠然とした意識の中で、すずかは対面の存在に惹きこまれていく。宝石のように輝くアリサの双眸に。眼窩に嵌めこまれた、粒の揃った一対のエメラルドに。
 すずかの心臓がトクンと鳴る。狂おしいほどの切なさを拍動が代弁したように。――と、
 あにはからんや、すずかは正気を取り戻す。彼女の霊感に電流めいた啓示(けいじ)(はし)ったのだ。
 ――惚けてる場合ではない。すずかは内心の動揺を棚上げし、アリサの肩を掴んで引き寄せた。端からみれば二人の少女が抱き合っているような構図だ。次第、アリサが瞠目する。

「ちょ、いったいなんなの! いきなりどうしたわけ!」

 アリサが戸惑いの声をあげた。すずかは慌てず騒がず、アリサの耳元に唇を寄せて囁く。

「アリサちゃん、さっき気配を感じたの。――シルエットカードの気配を」

 さっきまで恥ずかしがっていたアリサの表情が、途端に深刻な色を帯びて引き締まる。
 アリサの気配が変わったことは、その顔を見ずとも伝わった。すずかは無言のまま体を引いて、アリサのかわいらしい耳元から唇を離す。目の前には、アリサの真剣な顔があった。
 二人は視線を合わせると、互いに了解の首肯を交わす。意志の疎通はそれだけで充分だ。

「マリーさん、ユーノくん。いま思い出したんだけど、わたし学校に忘れ物しちゃったみたいです。校門が閉まる前に取りに行きたいから、勝手だけど今日の話はこれで終わりに」
「私も、すずかに付き合うわ。最近いろいろ物騒だから、一人歩きとかさせたくないし」

 勃然と湧いた焦燥を秘め隠しつつ、すずかとアリサが申し訳なさそうに言い含める。

「……なるほど。ちょっと名残惜しいけど、今日はこれで終わりにしましょう」

 すずかたちの説明を聞き終えたあと、差し向かいに座るマリエルが静かに頷いた。彼女はシルエットカードの存在を知っているため、すずかたちの表情と言動からそれと察したのだろう。とくに訝る様子もなく了解した。続いて、空間モニターに映るユーノが発言する。

「すずかが持ってる不思議な本のこと、なにかわかったらまた連絡するよ」

 人好きのしそうな笑みで締めくくると、丸テーブルの中央に浮いていた空間モニターが消失した。おそらくユーノが通信を切ったのだろう。なにもない虚空には、朱色がかった光が射しこむばかり。いつのまにか太陽が西に傾いてたらしい。外はすっかり夕暮れだった。
 もうなにも映さない虚空に、すずかは一抹の寂しさを感じる。が、すぐに感傷に浸ってる場合ではないと自分を戒めた。シルエットカードの気配を感じているうちに出発しないと。
 すずかはブレザーの内ポケットを手探りし、デバイスの有無を確かめる。大丈夫、頼みのデバイスは、きちんとここにある。準備は万全だ。いつでも(くだん)のカードを探索できる。
 ふと気になって隣に視線を移すと、起立したアリサが左手に緋炎(ひえん)を提げて待っていた。
 すずかは椅子から立ち上がると、真向かいに立つマリエルをあらためて見据える。

「シルエットカードの気配を感じました。いまから回収にいってきます」
「うん、わかった。足手まといになるといけないから、わたしはここで待ってる。でも気をつけて。いくら魔法体系が違うとはいえ、戦闘が派手になったり、強力な魔法を行使すれば本局の管制に引っかかるかもしれないから。そうならないよう、隠蔽工作はしてみるけど」
「はい。――それじゃ、いこう、アリサちゃん!」
「ええ。どんな属性のカードか知らないけど、一気にかたづけるわよ!」

 どこか不安そうなマリエルに見送られ、すずかとアリサは気合とともにテラスを辞した。


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イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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