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魔法少女リリカルなのはEine Familie 第一話 『揺籃の闇』(5)

魔法少女リリカルなのはEine Familie 第一話 『揺籃の闇』(5)を更新。
ひとまず第一話はこれで終わりです。
第二話の連載予定日は……11月15日(土曜日)です。
日にちが空いて本当にすいません。でも二週間だけ時間をください。
そのあいだに何とか書き上げますので……

《追記》
リリカルなのはポータル『時空管理局』さまへのリンクを追加しました。
いつも涼香さんにはお世話になっております。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。



「シグナム、ヴィータ。二人とも無事でよかった……それで、そっちの首尾はどうやった?」

 そっちの首尾とは、つまり廃ビルでの大立ち回りのことである。
 接近戦でたぐいまれな戦闘力を発揮するシグナムとヴィータに奇襲を命じ、廃ビルの三十階で行われていたロストロギアの違法売買を、はやては見事に制圧してみせた。
 だがその果断な計画の裏で、はやては敵陣の直中に二人を突っこませるという強行策に、そこはかとない不安を懐いていたのである。
 シグナムとヴィータの実力は誰よりも知っているし、同じくらいに信頼もしている。しかしそれでも、ロストロギア関連の事件は何が起こるか判らない。自分の指揮が至らなかったせいで仲間が傷つきでもすれば、それこそはやては無限におのれを責め続けるだろう。
 はやてはつねに、とある恐怖と戦っていた。
 それは自分の命を脅かす不測の事態に対してではない。
 仲間であり家族であるヴォルケンリッターの面々を、永遠に失ってしまう可能性。いつか訪れるかもしれない残酷な運命に怯える暗澹であった。
 だから先刻、シグナムとヴィータが戻ってきたのを見たとき、はやては腰が抜けるほどの安心感を覚えたのだ。
 そんなはやての心情を、シグナムとヴィータは二年間のあいだに培ってきた経験で察したらしい。
 地面にうつぶせる二人の男からデバイスを離すと、シグナムとヴィータは世間話でも切りだすように口を開いた。

「はい。若干の抵抗は受けましたが、とくに問題はありませんでした。その場にいた次元犯罪者たちへの捕縛にも抜かりはありません」

 (から)の左手に鞘を現出させ、シグナムはその鞘にレヴァンティンを納めた。
 シグナムの声音は粛々としており、自らの成果を誇るような素振りは一切ない。厳格なシグナムらしい語り口といえた。

「数だけはやたら多かったけどな。でもまあ、いつもの任務とそんなに変わんなかったよ」

 しょせんは烏合の衆。そんな風に思ったらしいヴィータが失笑を漏らしつつ、グラーフアイゼンを大儀そうに右肩に預けた。
 口調は男勝りで生意気盛りの妹といった風情だが、そこには仲間を気遣う如才なさも窺える。素直な気持ちを言葉にすることに、やや照れくささを感じる性格のようだ。

「この成果のすべては、主はやての的確な指揮のおかげでしょう。シャマルとザフィーラも、ずいぶん動きやすかったと思います」

 シグナムに水を向けられ、はやての傍らに控えているシャマルとザフィーラがそろって頷いた。

「管理局に入局したての二年前と比べると、まるで別人みたい。はやてちゃんの指揮もいよいよ手馴れてきたって感じだし、ますます頼りになるわ」

 はやての成長を我が事のように言挙げするシャマル。両手を腰にあてて胸を張る様は、たいそう自慢げである。

「だが少々前に出過ぎる傾向がある。我々の介入が予定どおりだったからよかったものの、さっきも犯人を刺激して危ないところだった。もう少し行動を自重してもらえれば完璧なんだが」

 はやてを褒めそやすシャマルとは対照的に、ザフィーラはやや厳しい見解を披露した。
 狼の形態をとっているため、その表情の変化は判りづらい。だがもし人間の形態をとっていたのなら、その顔は困ったようにしかめられていたに違いない。
 ザフィーラの諫言(かんげん)正鵠(せいこく)()ているとまではいかないが、はやての痛いところを衝いてきたといえよう。はやてには、確かにその自覚があったのだ。
 はやては今ある自分の命を、天の配剤だと思っている。
 なのはとフェイトのおかげで、とうに消滅しているはずだった自分の命は救われた。だから今度は、自分が誰かの命を助ける番だ。贖罪への道を孤独に歩むために。
 そういった思いが因を結んでいるのだろう。はやては自分の命よりも、他者の命を最優先に考える場合が増えた。いや、それがほとんどを占めていると言っていい。
 はやてから見れば、自分以外のすべてが守るべき対象なのだ。当然その対象には、守護騎士たちも含まれている。だから彼女は前に出てしまうのだ。たとえそれが自殺行為であったとしても。
 誰かが傷つくのを見たくないから。痛みや苦しみを味わうのは自分だけでいいから。
 そんなはやての悲壮な決意を、守護騎士たちはなんとなく感じているのだろう。言葉や行動の端々に、主の身を案じる気配が少なくならないのは、決してはやての錯覚ではない。

「すいません。以後、気をつけます」

 そうした守護騎士たちの心遣いを無碍(むげ)にはできないため、はやてとしては苦笑まじりに恐縮するしかなかった。
 一方、それに応じた守護騎士たちの表情は、不満を取り繕うためだけに浮かべた寂しげな微苦笑。もはや慣例になりつつあるはやての返答に対して、彼女たちが折り合いをつけるべく選択する方策――ともいうべき自動的な妥協だった。
 そんな守護騎士たちの反応に、はやては慙愧(ざんき)を覚えずにはいられない。だが自分に課した責任と罰を糊塗(こと)するなど、はやてにはできない相談だった。
 泣くことも傷つくことも、苦しむことも嘆くこともない平和な世界。
 何年かかっても構わない。生きているうちに達成しようとも思っていない。ただ誰もが笑顔でいられる幸せな世界に、一歩でも近づける役に立てるのなら、喜んでこの身を差し出そう。
 それが二年前のクリスマス・イブ――祝福の風と別れた日に思い定めた、はやての誓い。穢れた罪にまみれた自分に許される、唯一の贖罪の形だった。


 異変の皮切りは、薄暗かった空が急に明るくなったところから始まった。
 油断はなかった――とは必ずしも言えない。憂慮(ゆうりょ)を懐いて気持ちが落ちこみ、思考が散漫だったのも否定できない。
 だが、はやてとヴォルケンリッターたちの緊張の糸は、決して切れていなかったと断言できる。周囲の索敵に抜かりはなかったし、鷹揚に構えた裏では針のように神経を尖らせていた。いついかなるタイミングで奇襲を受けようとも、おいそれと遅れはとらない自負もあった。
 しかし――

「馬鹿な……こんなに接近されるまで、なぜ気づかなかったんだッ!」

 中空を振り仰いだシグナムが、絶望的な叫びをあげて肝を潰す。
 シグナムと同じように中空へ目を向けたはやては、そこに破滅の輝きを見出した。
 恐れ戦くはやてたちを嘲笑うかのように燦然と光を放ち、分厚い灰色雲を払っていくのは……無数のベルカ式魔法陣。その数は十や二十ではきかない。一見しただけでも百以上はある。
 それは目を疑わざるをえない光景であり、それゆえに甚だしく現実感を欠く現象だった。
 しかし驚愕は、この場にふさわしい感情ではない。
 見えざる巨人の足で踏み潰されるような圧迫感と、空間そのものを揺るがす魔力の唸りは、その魔法が発動間近であることを告げていた。
 今すぐ対策を講じて実行しなければ、はやてたちの全滅は畢竟(ひっきょう)だろう。

「シャマル、すぐに障壁を!」

 はやての怒鳴るような大声と、無数の魔法陣から光線が射出されたのは、一分の狂いもなく同時だった。
 降りそそぐ魔弾の群れはさながら流星雨のごとく。百を超える魔法陣から放たれた、それの三倍から五倍を有する閃光の落下に、それを見上げるはやての網膜は白く焼かれてしまう。

「だめ、もう障壁は間に合わない!」

 たまらずシャマルが悲鳴をあげた。
 その無惨な宣告はつまり、はやてたちの全滅を決定づけるものに他ならない。

「くそったれぇぇぇ!」

 色めき立って喚き散らすヴィータが、最後の抵抗とばかりにグラーフアイゼンを振り回す。
 ヴィータの無念の叫びを聞きながら、それでも諦めたくないはやては、必死になって思いを巡らした。だが、仲間全員を加護する覿面(てきめん)な手段など、いっかな閃かない。
 焦燥に駆られて混迷を極めるはやての思考。頑なに仲間を助ける方法を求めるはやては、そのときふいに動き出したシグナムの気配に気づくのが遅れてしまう。

「主はやて、伏せてください!」
「シグナム――」

 血相を変えて走り出したシグナムが、立ち尽くすはやてを押し倒す。そのままはやてを腕の中に抱きこみ、我が子を必死に守ろうとする母親のように庇う。
 驚いて漏らしたはやての呟きは、地表に間断なく殺到する魔弾の群れの炸裂によってかき消された。
 眼前にいるシグナムの姿さえ見えなくなるほどの閃光に次ぎ、轟音と表現するのも生温い、大地を根底から揺すり上げるような狂音の騒擾(そうじょう)が続く。
 はやての聴覚は(なます)に切り刻まれるようだった。もはや音を音として認識できない。
 魔弾に穿たれた大地が盛大な粉塵を巻き上げて、さながら積乱雲のような煙幕となって周囲一帯を侵食していく。
 魔弾がはやてたちにもたらした蹂躙は迅速かつ徹底的だった。
 ほどなくして光と音が収束。それらが消え去ったあとの世界に(わだかま)ったのは、文字どおり歴史も人も死に絶えたような、真空のごとき静寂。
 閃光の代わりに周囲を覆った粉塵が目に入り気管に入り、はやては涙を流しながら激しく咳きこむ。それでも仲間の安否を確かめるため、はやては思った以上の労力を使ってうっすらと右目だけを開いた。

「ありがとう、シグナム。わたしは平気やから、もう退いてくれても――」

 ひときわ強い風が吹き渡り、立ちこめる煙幕を数秒とかからず(さら)っていく。
 はやては自分の正気を疑う。明瞭になった視界に映りこんだシグナムの姿は、はやての理解の遠く及ばないところにあった。おのれの目で見たものが信じられない。

「……シグナム?」

 はやてに覆い被さるシグナムの体は硬く冷たかった。
 それもそのはず。シグナムは生命力のない、ただの『石像』と化していたのだから。
 歯の根が合わない。背筋を走り抜ける冷たい悪寒に震える体は、まるで事の次第を理解することを拒絶する魂の警告のよう。今すぐにでも狂うことができたなら、あるいはまだ救いがあったかもしれない。
 仰向けのまま、はやては肘でにじるようにシグナムの下から這い出す。
 はやては吹けば飛びそうな頼りない調子で起き上がった。足元にいるシグナムは、はやてを庇った姿勢のまま無機質な塊となって動かない。
 夢うつつのような曖昧とした意識のなか、面を上げて周囲を見回したはやての眼前に、耕したように掘り返された大地に転がる、数個の石像が飛びこんでくる。
 その瞬間、拒んでいた理解が堰を切って溢れ出し、絶望の濁流となってはやてを打ちのめした。

「シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ……みんなが、みんながどうして……どうして、どうしてこんなッ!」

 シグナムだけではない。ヴィータ、シャマル、ザフィーラに加えて、はやてたちが拘束した二人の次元犯罪者も――はやてを除いたすべての人間が手当たり次第に石像へと変じていた。

「みんな……答えてや」

 はやては譫言(うわごと)のように呟く。だが、もはやそこに動くものは存在しない。そこにあるのは物言わぬ無機物。話しかけても反応しない、鼓動しているかどうかも定かではないただの物体。

「みんなで喋ったり笑ったりしよう。いつもみたいに、いつもどおりに。なんでもする、なんでもするから。だからお願いや、お願いだからみんな……」

 はやては祈るように呼びかける。まるで語り続けていれば、いつかその呼びかけに守護騎士たちが応えてくれると信じているかのように。いつもの見慣れた微笑が、賑やかで楽しい会話が、次の瞬間には帰ってくるとでもいうかのように。
 しかし奇蹟は起きない。祈りは届かない。返るのは無情で虚ろな(こだま)ばかり。

「みんなっ、なにか答えてやッ!」

 ついに少女の口から発せられたのは、喉から血をしぶかんばかりの大絶叫。聴く者がいれば耳をふさがずにはいられない痛切な慟哭。それが雲の晴れつつある空に反響した。

 そしてこれこそが、八神はやてを主役とした悲劇の開演を告げる、残酷なベルの音だった。


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HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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