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魔法少女リリカルなのはEine Familie 最終話 『明日吹く風それは祝福』

魔法少女リリカルなのはEine Familie 最終話 『明日吹く風それは祝福』を更新。

魔法少女リリカルなのはEine Familie(アイネファミーリエ / 家族) 完結です。
およそ半年に渡った旅路も、今日をもって終着です。
長かった。でも満足感でいっぱいです。
今日まで、こんな場末のSSブログに来てくれた人に、多大な感謝を。
みなさんのおかげで、イヒダリは長編を完結させることができました。
本当に感謝しています。ありがとうございました。

あとがきは、明日書こうかな? とか思っています。
では最後にもう一度、感謝の言葉を。

ありがとうございました。



 事件から二週間後。
 八神家のリビングにて。

「わあ……すごくおとなしい子なんですね」

 ソファーの背もたれに身を預けた姿勢のまま、はやては感心したような歎声をもらす。
 新鮮な驚きを浮かべているはやての腕の中には、高貴そうな毛並みをもつ一匹の子猫。
 その上品な落ち着きを湛えた子猫を、はやては自分の娘をそうするように大切に抱いていた。また子猫の方も、はやての優しさを感じているのだろう。なんとも居心地よさそうだ。

「手間のかからない子だよ、アリアは。もっとも、それが少しだけ寂しかったりするが」

 まるで母親のような顔をしたはやての隣から、低いが明朗に聞こえる老人の声が響く。
 はやては隣の老紳士に視線を向けると、子猫の顎をくすぐるように撫でながら微笑んだ。

「子供のくせに泰然自若としてるのは、きっとグレアムおじさんの影響ですよ」

 はやては事情に通じたふうな口振りでそう指摘した。グレアムが肩を竦めて苦笑する。

「そうであってほしいとは思うが……あまり自信はないな。娘の心、親知らず、だ」
「いいえ。わたしには確信があります。だってこの子は……アリアさんですから」

 はやての断定口調に「そうだな」と呟くと、グレアムはリーゼアリアの小さな頭を撫でた。子猫は気持ちよさそうに目を細めて、なにやら満悦そうに喉を鳴らして甘えはじめる。
 はやては、皺の増えたグレアムの手から視線を外すと、リビングの大きな窓から庭先を見る。爽快な冬日が地上に降り注ぐ午後の昼下がり。とても長閑な静謐が、そこにはあった。
 室内の温度は、暖房の手助けがいらないほど暖まっている。腕に抱く子猫も湯たんぽのようにぬくぬく温かい。そんなつもりはないのに、はやては次第に眠くなってしまう。
 そのときである。グレアムのいかつい手が、舟を漕ぎはじめたはやての肩に載せられた。

「しかし、はやてくん。アリアが私の影響を受けているのなら、はたしてあれは誰の影響を受けているのだろうか? すくなくとも私は、あんなふうに暴れた記憶はないのだが」

 思わず午睡したくなるような静穏な空気を、バタバタという賑やかな足音が掻き乱す。
 はたと我に返ったはやての視界に、小柄な少女と二匹の動物の姿が映りこんだ。

「おい、ザフィーラ。そっち行ったぞ。今度こそ捕まえろ!」
「そう急かすな、ヴィータ。言われずとも判っている」

 鉄槌の騎士ヴィータの気色ばんだ叫びに、盾の守護獣ザフィーラが冷静に応じる。
 赤毛の少女と蒼い狼は今、リビングを走る小さな影を挟み撃ちにするところであった。
 ――と、ザフィーラが跳躍する。彼はそのまま猛禽のように落下して、その小さな影に踊りかかっていく。まるで戦闘時を彷彿とさせるような、かなり気合の入った強襲である。
 だが真上から迫るザフィーラの蒼い影に、リビングを疾駆する小さな影は怯まない。
 ちょこまかと機敏な動きでザフィーラを眩惑し、フローリングの床に着地した狼の足元を風のようにすり抜けてしまう。まんまと逃げられて、ザフィーラが悔しそうな声で唸る。
 その直後だった。動きを止めたザフィーラの目の前に、急速に接近する少女の矮躯(わいく)――

「ちょ、ちょっとどけ! ザフィーラ!」

 向かい側から突進してきたのはヴィータだった。ザフィーラが凝然と目を見開く。
 ヴィータとザフィーラの怒声と悲鳴が床の上で転がり、ダイニングテーブルが派手な音をたてて引っくり返る。少女と狼は、五脚の椅子とテーブルの下敷きになってしまう。
 一方、そんな背後の惨状など知らぬげに、ヴィータとザフィーラを退けた小さな影が、まるで勝ち名乗りをあげるかのように一声鳴いた。……それは一瞬の油断だったのだろう。

「――捕まえた。リーゼロッテ、おまえの狼藉もここまでだ。おとなしく観念しろ」

 八神家のリビングルームを我が物顔で走って走って走りまくった子猫――リーゼロッテ。
 その小さな走り屋がついに、気配を消して正面に回りこんだシグナムに捕獲された。
 もとより負けず嫌いな気性なのだろう。リーゼロッテは小さな体を懸命に揺すり、必死の抵抗を試みている。その暴れようはまるで、陸にあげられたばかりの魚を見るようだ。
 ジタバタと。諦め悪くもがき続ける子猫の頭を、シグナムではない優美な繊手が撫でる。

「たとえ姿形は変わっても、魂の奥底に根づいた性質は変わらなかったみたいね」

 人好きのしそうな笑みを浮かべつつ、リーゼロッテの頭を撫でているのはシャマルだ。
 シグナムの両手にがっしりと拘束されて動けないリーゼロッテは、毒気の抜ける微笑を浮かべるシャマルにたっぷりと可愛がられてしまう。子猫は辟易したような鳴き声をあげた。
 年長組の慰み物と化してしまうリーゼロッテ。その哀れをもよおす滑稽な姿に、見守るはやての頬も自然と弛む。しかし、笑みの形に細まった瞳には、どこか憂いの色があった。
 新しい家族ができ、そのすぐあとに切ない別れを二度経験した、二週間前の事件。
 あの事件は、二年前に起こった『闇の書事件』の一端、あるいは余燼のようなものとして、管理局のデータベースに記録されることになったらしい。
 闇の書の闇――レインフォースの魔法で石化した仲間たちも完全に復調し、いまでは事件前と変わらぬ生活に戻っている。――が、なにもかもが万事元どおりではなかった。
 リーゼロッテとリーゼアリア。
 彼女たちは禁術を行使した代償で、使い魔の能力を完全に失ってしまったのだ。もはや魔法を駆使することも人の姿に変わることもない、ただの子猫と化してしまったのである。
 それは命を賭けることでしか為しえないはずの禁術を使った代価としては、まさに破格の厚遇に他ならなかった。命が助かっただけでもめっけものと、その奇蹟を素直に享受すべきだろう。もっとも、そんな気楽で楽観的な考えは、関係者ではない余人の感想だ。
 リーゼロッテとリーゼアリアの、あの凛々しくも頼もしい使い魔たる威容を、もう一生見ることがない。失くしたものが戻らないという点で言えば、それは死と同義語であろう。
 目に見える変化と悲愴は、まだ終わりではない。グレアムにも異常が発生したのだ。
 ――老化、である。
 海鳴市の郊外にある丘陵で倒れていたグレアムを発見したとき、彼の体は二十年以上も歳を取っていたのだ。まるで玉手箱をあけた浦島太郎を連想させる、恐ろしい現象だった。

『……そうか、ロッテとアリアが。でも後悔はないよ。生きてもう一度会えたことに変わりはないのだから。だから、はやてくん。君がそんなに気落ちすることはない』

 これは本局の医務室で目覚めたグレアムが、事件の結末を聞いたあとに呟いた言葉だ。
 このときのグレアムの表情とやるせない声音を、はやては死んでも忘れないだろう。
 今回の事件で、はやては結果としてなにも失わなかったが、グレアムは二人の娘と自分の時間の大半を失ったのである。それはまるで、はやての身に降りかかるはずの不幸を、グレアムが全部肩代わりしたかのようだった。そう思うと、どうしても気が咎めてしまう。

「そういえば、はやてくん。そろそろ時間だと思うのだが……準備はいらないのかね?」

 やおら、グレアムが思い出したように声をかけてきた。
 その囁きに導かれ、はやては我に返る。それから現在の時刻を確認するやいなや――

「あっ、もうこんな時間やんか! なんでこんなギリギリになるまで気づかなかったんや」

 はやては肝を潰して目を白黒させた。今日は本局の第四技術部に大切な用事があるのだ。
 そもそもグレアムが今、はやてたちと一緒にいるのは、暇な老人の道楽ではない。
 今日が『特別な日』だからだ。誰もがそのときを待ちわびた、誕生と再会の日だからだ。
 はやては、腕に抱くリーゼアリアをグレアムに手渡すと、慌ててソファーから起立する。

「あの、それでグレアムおじさん。ちょっとだけ留守番をお願いしてもいいですか?」

 はやてが恐縮しながらそう言うと、グレアムは問いも驚きも発することなく頷いた。

「判った。ロッテとアリアの三人で待ってるよ。だから早く迎えにいってあげなさい」
「はい、ありがとうございます! ――さあ、みんな行くで!」

 はやては勢いこんで号令を発した。その声に、守護騎士たちが軍隊のように反応する。
 シグナムとシャマルが、からかって遊んでいたリーゼロッテをグレアムの手に返す。
 倒れた椅子やテーブルを押し退けながら、ヴィータとザフィーラが気怠げに起き上がる。
 集まった守護騎士たちを背にして、はやてはグレアムの好々爺然とした顔を見据えた。

「それじゃグレアムおじさん……行ってきます」

 はやては元気よく挨拶を口にする。見送るグレアムが穏やかな大人の笑顔をみせた。

「行ってらっしゃい。私も楽しみに待っているよ。君たちの新しい家族を」
「はい!」

 グレアムの言葉に頷くと、はやては守護騎士たちを伴って自宅をあとにした。


『主はやて。ひとつお願いが』

 二年前の雪の日。泣きむせぶ少女に向かって、彼女は自分の願いを口にした。

『私は消えて、小さく無力な欠片へと変わります。もしよろしければ私の名前はその欠片ではなく、あなたがいずれ手にするであろう新たな魔導の器に、贈ってあげていただけますか』

 その優しさも、その強さも、時と同じように巡る。
 そして、いつかきっと、新しく生まれ変わるだろう。
 また逢える。
 たとえ姿形は変わっても、その身に宿る魂は同じはずだから。

 ――さあ、迎えにいこうか。

「はじめまして、リインフォースⅡです! 今日からよろしくお願いしますです!」

 ――三度目であり初見でもある、わたしたちの祝福の風を。


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HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
もちろん無断転載は厳禁。

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