イヒダリの魔導書
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第八話 『響け終焉の笛』(6)
これにて第八話は終了。
あとは第九話とエピローグを残すのみとなりました。
とりあえず第九話の更新予定日は、
二週間後の3月28日(土曜日)。
しょせん素人の書いた二次創作ですが、精一杯の思いを込めて書いてるつもりです。
なので、どうか最後までお付き合いください。よろしくお願いします。
海鳴市の繁華街の真上。そのはるか高空を、ふたつの眩い閃光が疾駆する。
はやてのラグナロクと、闇の書の闇のラグナロク。
同時に迸った両者の殲滅魔法が正面衝突し、互いに喰らい合いながら光と衝撃を撒き散らす。世界は白く染められ、魔力の束に押し退けられた空気が烈風となって轟々と吹き荒れる。
まさに空前絶後の鍔迫り合い。激突し反発し合う凄絶なる魔力の奔流は、天を切り裂き、地を砕くのみならず、
均衡は、すぐに崩れた。はやての渾身のラグナロクが、闇の書の闇のラグナロクに圧倒されはじめたのだ。まるで光る巨人の腕に、押し戻されるかのごとく。シュベルトクロイツの剣十字の先端を前方……闇の書の闇に据えて構えるはやての背筋を苦悶の汗が伝う。
勝たなければならない。なんとしても。それは利己を充足させるためではない。今度こそ闇の書の闇と、心と心で相対するために、だ。なのに自分は、敗北を喫しようとしている。
どれだけ立派な主義主張を謳っても、敗者の言葉は負け犬の遠吠えにすぎない。ゆえにその事実を厭うならば、なにがなんでも勝つしかない。勝つしかないというのに……今、はやては無様に負けようとしている。想いも、言葉も、なにひとつ伝えられないままに。
はやては情けなかった。いまにも敗北する直前の、弱くて無力な自分が。
はやては悔しかった。結局最後の最後まで、闇の書の闇と心を通じ合えなかったことが。
『申し訳ありません、主はやて。私の力が及ばず、主はやてをこのような窮地に……いまとなっては謝罪の言葉もありません。すべては私の力不足が原因です』
と、リインフォースが思念通話を介して謝罪する。はやてはかぶりを振った。
「それは違う。力が足りないのはわたしや。リインフォースは必死でがんばってくれてる。……だって、助けにきてくれたから。不可能を可能にして、ここに来てくれたんやから」
白い額に玉の汗を浮かべながら、はやては呻くような口調で応えた。正直なところ声を発するのも苦しい有様だったが、それでも夜天の主は気丈に笑ってみせる。もはや少女の心を支えるのは、守護騎士たちとリインフォースの存在。そして命を賭す覚悟だけだった。
『……主はやて。あなたは強くなられました。二年前のあのときと比べて見違えるほどに。ですから、闇の書の闇に抗しきれないのは、あなたの責ではありません。決して』
掛け値なしの賞賛を送るリインフォースに、はやては恥ずかしそうに小さく笑う。
「ありがとな、リインフォース。
……よっしゃ、こうなったら決死の覚悟や。最後の最後まで足掻き続ける。だから、もうちょっとだけ、わたしに付き合ってくれるか? リインフォース」
『是非もありません。主はやて、あなたと命運をともにしましょう』
「つれない言い草ですね。まさか私たちのことを忘れてしまったのですか?」
シュベルトクロイツを握りしめるはやての手に、そのとき勇猛な剣士のものとは思えない優美すぎる女性の手が重なる。はやては肩越しに振り返ると、驚愕もあらわに叫んだ。
「シグナム! いつからそこに?」
「――シグナムだけじゃねぇよ」
忽然と現れたシグナムに驚いたのも束の間、負けん気の強そうな声とともにヴィータが登場した。そのままはやての隣に並び立つと、ヴィータは不敵な眼差しを向けてくる。
「なめんなよ、はやて。決死の覚悟を固めてんのは、あたしらだって同じなんだ。はやて一人だけに、なんでもかんでも背負わせられっかよ。いいかげん頼れよ、あたしたちを」
不機嫌そうに嘯きながら、ヴィータが自分の手を、シグナムの手の甲に置く。シュベルトクロイツの長柄を握るはやての手に、シグナムとヴィータの手が重なった形である。
はやては呆気にとられてしまう。――と、今度はザフィーラとシャマルが合流する。
「僭越ながら、私もヴィータと同意見です。我らヴォルケンリッターは、主はやての守護騎士。主を守るために戦い、主を守ることに命を賭ける。それが我々の総意です」
一切の阿諛追従を含まない真剣な表情と口調でザフィーラが言い放ち、
「それに一人よりも二人、二人よりも〝六人〟って言うじゃないですか。大丈夫です。きっとなんとかなりますよ。だって、こうしてまた、全員が揃ったんですから」
思い悩む妹を励ます姉のような屈託のない笑顔でシャマルが続く。
それからシグナムとヴィータを
はやての目尻に涙の膜が溜まっていく。こんなにも胸中が誇らしさでいっぱいになったのは、おそらく初めてのことだった。感極まったせいで、言葉が喉につかえて出てこない。
そんな夜天の主の感動を察したのだろう、シグナムがほくそ笑みながら宣言する。
「覚悟を決めてください。私たちはいつまでも、主はやて、あなたと共にいます。たとえその先に理不尽な絶望しかなかったとしても。私たちの気持ちは決して変わりません」
毅然と言い放ったシグナムの台詞を受けて、はやては剣十字の杖に視線を落とす。ここでもう一度みんなの顔を見てしまったら、その瞬間に涙腺が決壊しそうだったからだ。
そうやって涙を堪えるはやてに、リインフォースが茶化すように声をかけてくる。
『どうします? 諦めるように説得しますか? でもその場合、時間はいくらあっても足りないと思いますよ。なにせこの子たちは、全員一途で頑固ですから。あなたと同じように』
……限界だった。両目からはらはらと流れる大粒の涙を、はやてはバリアジャケットの袖で何度も擦って拭う。微笑ましく見守る守護騎士たちの視線を感じて恥ずかしかったが、もはや体面を取り繕う精神的余裕はない。はやては、瞼だけ異様に赤くなった顔を上げる。
「……みんな卑怯や。そんな真っ向から断言されたら、邪険になんてできへんやんか」
はやては
守護騎士たちの朗らかな親愛の眼差しは、八神はやての、なにより大切な絆の綾。
守護騎士たちが寄せてくれる信任は、八神はやて最大にして最強の力の結晶。
答えは……最初からひとつだった。
守護騎士たちと共に生きていく。そう決めた瞬間から、はやての答えはたったひとつだ。
「みんなの力を、貸してほしい。負けないために、強くあるために、想いを伝えるために」
はやての魔力が爆発的に励起したのは次の瞬間だった。
雄々しくも爽快な守護騎士たちの魔力が、一気呵成に夜天の主へと流入してきたのだ。
とたん、はやてのラグナロクが勢いを増す。今にも消え入りそうだった魔力の束は、まるで破裂寸前の心臓のように拍動しながらより強靭に、より強大な激流となって補正される。
幾重にも気圧を束ねた
はやてのラグナロクは、もはや彼女の魔力や技術という概念を超えた、まさに深淵を噛み砕く光の
「ナゼダ、ナゼ私ガ押シ負ケテイル! 私ノホウガ、ズットズット強イハズナノニッ!」
――はやてのラグナロクに押し返されている。その眼前の光景が、現実とは思えないらしい。闇の書の闇が断末魔めいた悲鳴を
闇の書の闇のラグナロクは、二流三流の魔導師が一〇〇人いても一〇〇〇人いても敵わない魔力で構成されている。直撃すれば、対象となった有形は塵さえも残らない、必殺必至の極光だ。Sランク以上の魔導師に対しても、それは致命的な死の顕現となるはずだった。
「……その答えは、きっとわたしが独りぼっちじゃなかったからやと思う」
はやては静かな声音で呟く。はやてのラグナロクは依然として、闇の書の闇のラグナロクを
敗北を悟った闇の書の闇が、戦慄に身を震わせた。はやては消沈した面持ちで口を開く。
「あなたは言ったよね? わたしだけの主になってほしいって。……でも、それはできへん。わたしは、みんなで幸せになりたいんや。誰が欠けることもなく、みんなで一緒に。
だから、ごめんな。あなたがわたしに望む、あなただけの主には、わたしはなれへん」
「……主、ハヤテ……」
掠れた声で呟いた闇の書の闇は、次の瞬間、彗星のごとく迸る閃光に呑みこまれていた。
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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