イヒダリの魔導書
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第七話 『夜天の守護騎士ヴォルケンリッター』(2)
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第七話 『夜天の守護騎士ヴォルケンリッター』(2)を更新。
気がつけば戦ってばっか。
何事にもバランスってもんがあるだろう……
でも終盤戦ですから、戦闘ばっかりになるのも仕方ないかな?
いや、それは言い訳だろう。
まだまだ精進が足りませぬ。
よし。こうなったら『経験値速上々↑↑』を聞きまくってやる!
――バリアバースト。
展開した障壁の表面を覆う魔力を凝縮して発火、バリアの直近にいる対象を魔力による爆轟と衝撃波で吹き飛ばす攻性防御魔法である。
おそらく蒐集行使で記録していたのだろう。本来なら、高町なのはの魔法であるこれを、咄嗟の機転でリインフォースが行使したのだ。爆心地を中心に、白い煙が四方八方に拡がっていく。その直中にいた、はやてとリインフォース、そして闇の書の闇は、一瞬で姿が見えなくなった。と、間髪入れず、その濛々たる煙の中から人影が吐き出される。
闇の書の闇だった。彼女は風車のように回転する体に制動をかけ、すぐさま体勢を立てなおす。一見、とくに深刻なダメージを負った様子はない。それどころか、彼女は依然として無傷のままである。だがなぜか、その表情は憤怒と屈辱によって醜く崩れていた。
歯軋りの音が聞こえそうなほど奥歯を噛みしめる闇の書の闇。その
ほどなくして、完全に消え去った煙の中から小柄な少女が一人、姿をみせた。
「……なんとか間に合った」
煙から滲み出たように現れたその少女は、深い安堵の吐息をついて胸を撫で下ろす。それから身の丈を超える長大なロッドを横に一閃させて、周囲に漂う煙の残滓を扇ぎ散らした。
『はい。危ないところでした』
少女の呟きに応答する声は、思念通話で返ってきた。
『それで主はやて、体の調子はいかがですか? どこか違和感があるとか異常があるとか、ユニゾンしたせいで生じた弊害などを、なにか体に感じますか?』
「大丈夫。魔力も体も不思議なくらい絶好調や。……リインフォースとユニゾンするのは二年ぶりやったけど、やっぱり問題なんてなかったみたいやね」
そう言って笑う少女――八神はやては、リインフォースとのユニゾンを完了していた。
とはいえ、はやての外見に劇的な変化はない。髪の色が銀に、瞳の虹彩が紺碧に変わっただけだ。しかし、それは術者であるはやてがユニゾンデバイスを制御している何よりの
「それどころか力が溢れてくる。まるで、この状態が本当のわたしだったかのような」
片翼が両翼になったような安定感に気分が昂揚する。確かな一体感に笑みさえ零れる。
目に見えない感応速度と魔力量は、ここに
『私もです。もしかすると二年前のあのときよりも、主と同調できてるかもしれません』
はやての意見に賛意するリインフォース。はやては口元を笑みの形に弛む。
「せやね。これやったら――」
はやては、シュベルトクロイツを正眼に構えた。ベルカ式の魔法陣を模した杖先が仄かな光を反射して不敵に輝く。その剣十字の黄金は、さながら黎明の星を思わせて鮮烈だった。
「――闇の書の闇にも、きっと負けない」
透き通るような
眦が裂けんばかりに目を見開き、闇の書の闇が後ずさりする。唇を戦慄かせながら呟く。
「ユニゾン……主ハヤテト融合スル技術……」
闇の書の闇は茫然としていた。それから戦意を喪失したかのように俯き「主ハヤテト、ユニゾン……」と繰り返し囁くばかり。総身はだらりと弛緩しており、明らかに隙だらけだ。
しかし、はやては凝然と凍りついて動けない。全身に及ぶ悪寒が彼女を呪縛している。
直感した。闇の書の闇は、はやての闘志に気圧されたのではなく、ただ怒りに翻弄されて思考が定まっていないだけなのだと。――やおら闇の書の闇が裏返った声で憤慨する。
「奪ワレタ、主ハヤテヲ。……出テイケ、ソノ体カラ出テイケ。今スグ出テイケェェェ!」
獣の嘶きに似た叫びをあげながら闇の書の闇が突進してくる。振りかぶられた右腕に凝縮した魔力が旋風を呼び、その異常発達した気圧が空間をも歪めて唸りをあげる。
超高圧の疾風に全身をなぶられるのを感じた瞬間、闇の書の闇は眼前にいた。手加減など微塵もない、破城槌のごとき殺戮の一撃が、はやての五体を薙ぎ払う――。
驚く隙も恐怖する暇もない。あってはならない。余計な考えや迷いは即、死に繋がる。
――死ぬ気で躱わせ。
三対の黒い翼が同時に虚空を
直後、その黒い羽根がすべて、憎悪の風で原型も残らず千切り飛ばされてしまう。さっきまではやてのいた虚空を、闇の書の闇が繰り出した打撃が通り過ぎたのだ。
必殺を避けられたことが不服なのか、闇の書の闇が底冷えするような低い声で唸る。それから憎しみを加速力に変えたかのような飛翔で、はるか高みで静止するはやてを追う。
悪夢のような速さで接近するローブ姿の異様。対し、はやての迎撃行動も迅速だった。
蒐集した魔法を素早く検索。目的の魔法のマニュアルを見つけるや、はやてはそれを発動させた。――フォトンランサー・ジェノサイドシフトを。
生成されたフォトンスフィアの数は三十八。はやての眼前に陣を作って展開した、その夥しい黄金の眸が、吼えながら翔け上がってくる闇の書の闇に
「フォトンランサー・ジェノサイドシフト――ファイアっ!」
はやての詠唱に、鼓膜をつんざく轟音が応えたのは次の瞬間だった。
天を縫い下りた三十八条の稲妻が、いっせいに闇の書の闇を襲う。――否、大気を揺るがす雷鳴はそのあとも間断なく続き、降りそそぐ雷光の斉射も止まらない。まるで本来の使い手であるフェイトの仇を討とうとするかのごとく、落雷は轟然と射出され続ける。
唸りをあげて落下する無数の閃光。明暗をめまぐるしく反転させる黄金の光線。その立て続けの魔弾はしかし、闇の書の闇の突撃を阻めない。はやては目を疑った。
そのとき、はやては認識の甘さを痛感した。
闇の書の闇を尋常な尺度で測ろうとしたのが、そもそもの間違いなのだ。闇の書の闇は、あらゆる点で普通ではなかった。とくに常軌を逸した狂騒と、悪魔じみたその強さは。
「出テイケ、出テイケ、出テイケ、出テイケェェェェッ!」
闇の書の闇が絶叫する。不協和音のような声音で喚き散らす。まるで、その言葉だけが怒りと憎しみを伝える唯一の術であるかのように、闇の書の闇は何度も吼え声を張りあげる。
そして、次々と消滅する黄金の流星雨――フォトンランサー・ジェノサイドシフト。
無数の魔弾は、障壁に遮られているわけではない。
闇の書の闇がむやみに振り回す両腕が、三十八基のフォトンスフィアから放たれる魔力の奔流を、煙かなにかのように掻き消していくのである。文字どおり跡形もなく。
『……馬鹿な。なんだ、あの力は』
リインフォースの声は畏怖に震えていた。だが戦慄の念は、はやてとて同じである。
闇の書の闇が帯びる魔力は天井知らずだった。上限が存在しないとしか思えない。
その恐るべき現象は、恨めば恨むほど、憎めば憎むほど強くなる魔剣のようだった。
やがて、フォトンランサー・ジェノサイドシフトの発動時間が終わる。闇の書の闇の赤い双眸が、血の色をさらに濃くして輝く。はやてをついに、自身の制空権内に補足したのだ。
両腕を大きく拡げる闇の書の闇。怖気で、はやての心臓が破裂せんばかりに脈打つ。
――まずい。逃げなければ殺される。
三対の黒翼を
が、それとほぼ同時に、耳を覆いたくなる死の叫びに似た風切り音が響く。闇の書の闇が白い両腕を閉じたのだ。呪われた
「間一髪。なんとか避けられたかな――って痛っ」
二十歩の間合いで再び闇の書の闇と相対したとき、はやてはふいに襲ってきた激痛に身を折った。焼けつくような痛みの原因は、胸部より少し上のあたりに刻まれた横一文字の切り傷。手で触れてみると鮮やかな朱色が付着した。どうやらさきほどの攻撃、躱わしきれていなかったらしい。はやては痛みに顔をしかめつつ、手についた鮮血を騎士甲冑の裾で拭う。いささか行儀が悪かったが、体裁を取り繕っている余裕はない。溜息をひとつ吐く。
『主はやて。大丈夫ですか?』
気遣わしげに声をかけてきたリインフォースに、はやては苦笑しながら頷いた。
「うん。平気や。これくらいなら、なんの心配もあらへん」
触診したかぎり、傷の状態は浅くはないが深くもない。出血も大した量ではなく、身じろぎするたびに感じる痛みさえ我慢すれば、戦闘行為に支障はなさそうだった。
――まだ戦える。まだ負けていない。
はやてはおのれを鼓舞した。衰えぬ闘志を宿した眼差しで、闇の書の闇を睨み据える。
がしかし、その瞳に釈然としない色が滲む。はやてを追撃しようとすればできたはずの闇の書の闇が、なぜか漫然と虚空に浮遊したまま独り言をぶつぶつ呟いているのだ。
その無防備な姿は、なにか悪だくみを考えている子供のように見える。不吉だった。
「……ソウダ。良イコトヲ思イツイタ」
闇の書の闇が呟いた。どうやら考えがまとまったらしく、口の端を耳まで裂けそうなくらいに吊り上げると、闇の書の闇は呪いのような文言を朗らかな口調で口ずさんだ。
「常闇ヨリ来タレ。我ガ守護騎士タチヨ」
錆びついた鋼を擦りあわせるような声が朗々と響く。次いで、その陰湿な呪文に呼応するかのように、闇の書の闇の周囲に四つの魔法陣が展開した。漆黒の魔力光が不気味に輝く。
その魔法陣に、さながら墨汁の滴を思わせる無数の魔力の塊が集結する。まるで黒い溶岩のように滔々と、それはとめどなく膨張を続け、ぞわぞわと蠢きながら屹立していく。
やがて群れ集まった黒い魔力は、慄然となるはやての眼前で人型を象って顕現した。
「なんで……どういうこと」
目の前に現れた恐怖以上の怪異に、はやては言葉を詰まらせて瞠目した。
一方、闇の書の闇はぞっとするほど禍々しい微笑を浮かべている。闇の書の闇は、その内側の狂気を、ただそのままに違う嗜虐へと形を変えて顕在化したのだ。
ひとくさり狂笑を放ったあと、闇の書の闇は一目見て躁状態と判る興奮した顔で下知をくだす。ヴォルケンリッターと瓜ふたつの外見を持つ――四人の傀儡たちに。
「ヤレ! 主ハヤテヲ捕マエロ! ソシテ、リインフォースヲ抉リ出セ!」
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
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