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魔法少女リリカルなのはEine Familie 第六話 『吹けよ 祝福の風』(6)

『遠くに行ったって空はつながってるじゃん。どこに行ったって友達は友達だし、変わったっていいじゃん』(しゅごキャラ! アニメ版の第四話 日奈森 亜夢のセリフより引用)

これが今日、更新が遅くなった原因。
しゅごキャラ! ずっと観てました。だって面白いんだもん。
姫(水樹奈々)も出てるし。退屈しない話で、結構盛り上がるし。
これやばいな……下手したら一日中でも観ちゃうっすよ。
原作も読みたくなる。

まあ、それはともかく。
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第六話 『吹けよ 祝福の風』(6)を更新。
これで第六話は終了です。
次回の更新は、14日(土曜日)。
奇跡的な早さで、Eine Familieの第7話をお届けします。
ではでは、よろしくお願いします。



「……父さまは……父さまは、幸せでしたか?」

 聖書の冒頭を読みあげるような静かな口調。リーゼアリアの声だ。
 断頭台に自ら頭を差し出す罪人のようにうな垂れていたグレアムは、徐々に近づいてくる足音と、その思わぬ問いかけに驚き、はっと我に返ったように顔をあげる。
 リーゼアリアとリーゼロッテが歩み寄ってきていた。ふたりとも白く整った顔に笑みを浮かべている。取り繕いでもなんでもない、心に一片の(わだかま)りもない微笑で。

「わたしたちは幸せでした。父さまは、ただの使い魔でしかないわたしたちを、実の娘のように扱ってくれた、接してくれた、愛してくれた」

 グレアムの目の前で立ち止まったリーゼアリアは、自分の胸に手を当てて瞑目する。むろん、それは心臓の鼓動を確かめている挙措ではない。今日までグレアムと一緒に過ごしてきた日々を回想しているのだ。幸せとともに駆け抜けた、温かい日常の情景を。

「父さまには、たくさんの優しさをもらいました。たくさんの思い出をもらいました。たくさんの愛情をもらいました。次元世界中のどこを探しても、わたしたち以上に愛された使い魔は、他にいないと思えるくらいに」

 リーゼロッテが屈託なく言い放った。隣にいるリーゼアリアの言葉を引き取ったのだ。

「だから今度は、わたしたちがお返しする番です」

 グレアムの傍らに膝をつくと、リーゼロッテは彼の右拳にそっと手を添えた。
 固く握りしめられた拳から伝わる、少女のむくもりと素朴な優しさ。おのれの罪と非情さに打ちのめされた老人にはもったいない、繊細で優美な掌の感触。グレアムの瞼が震える。
 胸の内側が熱い。はらはらと滴を零してしまいそうな、軟弱な涙腺(るいせん)と同じように。

「父さまに出逢えたことは、わたしたちの宝物です。父さまの娘になれたことは、わたしたちの誇りです。父さまは今も昔も、わたしたちの世界の中心なんです。だから――」
「――父さまと共にいます。いつまでも」

 リーゼロッテの隣にしゃがみこむと、リーゼアリアがグレアムの左拳に手を添えた。

「主従関係ではなく、父と娘……親子として、最後まで一緒にいさせてください」

 その令色(れいしょく)のない言葉は、亀裂の入ったグレアムの心を慈しみで埋めていく。
 いつ自覚したのかは判らない。たぶん〝いつのまにか〟という表現が正しいだろう。
 生命(いのち)を創造するという責任はあったが、それでも必要なくなればいつでも破棄できる手軽な駒だと考えていた時期もあった。しかし、共に同じ時間を過ごすうちに、同じ願いと想いを共有するうちに、ほんとうにいつのまにか……かけがえのない娘たちになっていた。

「……ああ、そうだ」

 グレアムは、ゆっくりと立ち上がった。知らず、双子の姉妹の手を握り返している。
 つられて立ち上がったリーゼロッテとリーゼアリアを、グレアムは意気軒昂(いきけんこう)たる眼差しで見据える。その覇気と貫禄を感じさせる立ち姿に、もはや最前までの凄愴な気色はない。
 経緯など、どうでもいい。自分は父親なのだ。娘の前で、いつまでも無様は見せらない。

「私だって同じだ。おまえたちに出逢えたことが、おまえたちの父親になれたことが、私の一番の幸せだ。ありがとうロッテ。ありがとうアリア。おかげで私の決意も固まった」

 別離に対する悲しみは癒えない。罪悪感は拭えない。贖罪の追求も消えない。
 現実は何も変わらない。訪れる結末に変化はない。終幕はすぐそこまで迫っている。
 だが、不思議と恐怖はなかった。煩悶もなかった。後悔もなかった。
 ――同じ魂を、知っているからだ。

「はやてくんを助けよう。私たち三人で」
「「はい!」」

 覚悟を口にしたグレアムに、リーゼロッテとリーゼアリアは心地よい返事で応じた。それから自分たちが先刻までいた場所に戻っていく。双子の姉妹の頼もしい背中を、グレアムは目を眇めて見届ける。このふたりとの絆こそ、グレアムの自慢だった。
 とはいえ、心残りは多少ある。
 はやての家に遊びに行くという約束を破ってしまうことだ。
 それについての言い訳と謝罪は、自宅に書き置きを残してきた。が、おそらくはやてのことだ。それで納得なんてしないだろう。きっと怒るに違いない。泣くに違いない。
 グレアムは細い溜息をついた。傷つくはやてを想像して、少しだけ胸が痛んだのだ。
 しかし、もうグレアムは迷わない。立ち止まったりしない。膝を折ったりしない。
 やり遂げてみせる。乾坤一擲(けんこんいってき)の奇蹟を。他の誰でもない。ただ八神はやてのためだけに。平和な明日を、笑顔でいられる未来を、彼女に迎えてほしいから。だから、今こそ――

「ギル・グレアムと、その従者たちが求め訴える」

 リーゼロッテとリーゼアリアが配置に戻るやいなや、グレアムは間髪を入れずに呪文を唱えた。その声は荘厳にして冷徹。まるで伽藍(がらん)に反響する鐘の音のように、大地といわず天空といわず、あまなく世界の隅々にまで(こだま)するかのごとく波及していく。

「摂理の輪より外れた者よ。我が言の葉を聞き届け、いま一度その御魂(みたま)を現さん」

 逆巻く暴風と稲光。目も開けていられないほどの風圧の中、足元に展開する魔法陣が燦然と光を放つ。まさに別次元の光景である。見守るものがいれば圧倒されずにはいられまい。
 はたとグレアムの視界が暗くなる。かつてない魔力の激動に視神経が麻痺、あるいはその圧力に耐えかねて眼球が破裂したのかもしれない。手で触れて確認しようとしたが、すぐに無駄だと悟った。体そのものが消失したかのように、全身の感覚がなかったからだ。
 そのとき漠然と理解した。次の、最後の一節を唱えた瞬間、自分は死ぬのだと。
 だが、それでもグレアムの集中力は乱れない。揺るがない。
 覚悟ならできている。誇り高く、堂々と、死と向かい合う覚悟はできている。

「吹けよ――祝福の風!」

 そう詠唱に結びをつけるや、グレアムの意識が急速に薄れていく。体の感覚がないためそれと気づかないが、グレアムは地面に頽れている。光も風も音も、今は静謐だった。
 全身の感覚は戻っていない。光も音も認識できない。それでも意識がなくなる直前、グレアムの口元に笑みが浮かぶ。それは念願かなったような会心の微笑。彼は感じたのだ。
 はるか彼方。果てしない悠久を越えて此処へ。
 あらんかぎりの力で(こいねが)った、祝福の風の招来を。


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イヒダリ彰人
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男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

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魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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