イヒダリの魔導書
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第六話 『吹けよ 祝福の風』(1)
一月も今日で終わりですな。
時が過ぎるのは早いもんです。
まあ、そんなことよりも。
第六話の、これからの更新予定日をお知らせいたします。
とりあえず(2)が明日。(3)が2月4日(水曜日)。(4)が2月7日(土曜日)。
(5)が2月8日(日曜日)。そして(6)が2月11日(水曜日)を予定しております。
事前に、いよいよ八神はやてが格闘するとかなんとか公言しておきながら、
まだまだグレアムたちのターンは終わりそうにないです。
あ、でもこの第六話でちゃんと、はやては敢然と戦う予定です。安心してください。
〈追記)
iroiroiroの、さき千鈴さんがついにやってくれました!
アリすず好きは、いますぐチェックですよ!
転送用の魔法陣が消失し、虚空に漂っていた魔力の残滓が泡粒のように消えていく。
しばらく転送魔法の名残を眺めていたグレアムだったが、やがて踵を返して歩き出した。
「あ、待って、父さま!」
屋敷に戻ろうとするグレアムを、リーゼロッテが慌てて呼び止めた。だがグレアムの歩みは止まらない。リーゼロッテとリーゼアリアは、駆け足でグレアムの後を追いかける。
「……父さま。本当に、はやてちゃんを一人で行かせてよかったんですか?」
玄関のドアノブに手をかけたグレアムに、彼の横顔を窺い見ながらリーゼアリアが訊ねた。しかし、やはりグレアムは何も答えない。彼は玄関の扉を開けると、足早に屋敷の中へ入っていく。双子の姉妹は不思議そうに目を合わせた。グレアムの意中がまったく判らないのだ。
「反対はしないって言ったけどさ。でも気持ちだけじゃ、あの復活した闇の書の闇には勝てないよ。……だから必要なんです。はやてちゃんを援護できる、魔導師が」
ばたばたと足音たてながら、リーゼロッテが言い募ってくる。
背後から聞こえてくる二人の言葉を、もちろんグレアムは聞いていた。その声音が切羽詰まって悲痛なのも、きちんと把握している。だがそれでも、グレアムは口を開かない。
すると突然、リーゼロッテとリーゼアリアが、グレアムの眼前に回りこんできた。無言をつらぬくグレアムの態度に、とうとう痺れを切らしたらしい。通せんぼうする双子の姉妹の顔には、納得のいく答えをもらうまでここから先は通さない、と書かれているようだった。
グレアムは苦笑する。もはや彼女たちに対して、これ以上の
グレアムは自然な動作で両腕を伸ばし、リーゼロッテとリーゼアリアの頭を撫でる。無言の抗議を続けていた双子の姉妹は、その挙措に面食らって目を瞬かせた。柔らかい髪の感触をひとしきり堪能したあと、グレアムはなごやかな表情で口を開く。
「むろん私とて、このまま黙っているつもりはないよ。はやてくんには、はやてくんにしかできないことがあるように、私たちには私たちにしかできないことがある。このまま傍観を決めこむつもりは、はじめから少しもなかったさ」
グレアムの言葉の意味するところはつまり、はやての後を追って海鳴市に馳せ参じる意思があるということだ。リーゼロッテがそのとき、俄然、やる気に瞳を輝かせる。
「それじゃすぐにでも出発を――」
「いや、それはまだだ」
急いたように回れ右をして駆け出そうとするリーゼロッテを、グレアムが彼女の肩を掴んで静止させた。リーゼロッテが振り返り、問いかけるような眼差しをグレアムに向けてくる。
グレアムは、リーゼロッテの肩から手を離し、それから物寂しげな口調で呟いた。
「その前に少し準備をしないといけない。それに手紙も書いておきたいんだ」
「手紙? いったい誰に?」
ますます疑問を深めるリーゼロッテに、グレアムは薄く微笑みながら答える。
「はやてくんに、だよ。私は二年前の闇の書事件について、その真相をすべて語っていない。それをこれから手紙にしたためるつもりだ。私が犯した罪のすべてをね」
そう
「でもそれは、はやてちゃんが一人前になったら話すって……」
すぐさまグレアムに追いすがり、貼りつくように並んで歩きながら、リーゼアリアが眉をひそめた。ほどなくして書斎の扉の前に辿りついたグレアムは、そこであらためて双子の姉妹の顔を眺める。次いで弱々しくかぶりを振った。そこには自嘲するような雰囲気があった。
「はやてくんは、もう充分に一人前だよ。だが私のほうは違った。ほんとうは単なる逃避だった。もし真実を告げれば、はやてくんに軽蔑されるかもしれない、恨まれるかもしれない。それを考えると怖くてたまらなかったんだ。だからそんな方便を使って時間をかせぎ、自分の度胸のなさをごまかしていたんだ。……馬鹿で卑怯な老いぼれの、あさましい空手形だよ」
「そんなことない! 父さまは毎日毎日、はやてちゃんの幸せを真剣に考えてた! 見てるわたしたちが、つい羨んだり妬んだりしちゃうくらいに。それにあのはやてちゃんが、父さまを嫌うなんてありえないよ。きっと笑って許してくれると思います」
おのれを卑下するように吐き捨てたグレアムに、リーゼロッテが悲憤した。
グレアムは、頬を薄紅色に染めて反発するリーゼロッテを一瞥したあと、書斎の扉を開けながら「そうだね」と囁くように呟いた。優しいが恐縮しているような口調だった。
「ロッテの言うとおりかもしれない。いや、たぶんそうだろう。でもねロッテ。だからこそ私は許せないんだよ。はやてくんを犠牲にしようとした自分が。あの優しい
静かだが、槌の一撃のように強烈なグレアムの剣幕だった。一方、リーゼロッテとリーゼアリアは、厳しい顔つきで書斎に入っていくグレアムの背中を静寂で見守っている。二人ともすっかり鼻白んでいた。無理もない。それは二年間の隠棲生活ではじめてグレアムが見せた、いつも穏やかな彼らしからぬ感情の激発だったからだ。その気配は殺気すら孕んで冷たい。
「でも父さま。それならよけいに、手紙よりも直接話してあげたほうがいいんじゃないでしょうか? そのほうが父さまの気持ちも伝わるし、はやてちゃんも納得すると思うのですが」
平常とは明らかに違うグレアムの気配に怯みながら、それでもリーゼアリアは敢然と異論を唱えた。リーゼアリアの声は震えていた。吹き荒れるようだったグレアムの怒気が萎んでいく。双子の姉妹を怖がらせているという事実に、ようやくグレアムは気づいたのである。
だが次いで喚起された感情は冷静さではなく、自分自身に対する冷笑と失望だった。
「……そうだね。おまえの言うとおりだよ、アリア。でもね、その機会はもうないだろう」
その謎めいた台詞に首を傾げるリーゼロッテとリーゼアリアに微笑みかけたあと、グレアムは壁一面を覆うように配された本棚のひとつから、一冊の重厚な装丁の本を抜き取った。
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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