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ヤガミケ!? 第9話『意外な活用法』

 久々に短編SSを掲載。5分で読める程度の長さです。短編というより掌編ですね。
 イヒダリはギャグのつもりで書きましたが、終わり方には「う~ん」と納得できない感じ。
 ちょっと突き抜け方が足りなかったかな?
 それ以外は、まぁまぁ、普通だと思う。良くも悪くも。
 それにしてもシャマルが腹黒い(苦笑)。


 それを思い出したのは、事が終わったあとだった。
 目を覚ました瞬間に、さっき見ていた夢の内容を忘れるように、頭から消え去っていた。
 起きてすぐ目に入るところに目印を置いておくべきだったのだ。

「あ、あか~ん!」

 朝。八神はやては、おのれの失敗に気づき、だみ声で叫んだ。
 小学校の制服姿の彼女は、トイレから出てきたばかりなのに、すぐさま同じ場所に戻る。
 やがて数分後に出てきたが、すっかり途方に暮れていた。
 中庭に面したリビングの窓を、爽やかな朝日が透過している。
 明るい光だった。
 はやての気分とは裏腹に。
 それを朝食の準備をしていたシャマルが見いだす。

「どうしました、はやてちゃん。なにをそんなに落ちこんでいるんです?」
「ああ、シャマル。実は……」

 と言いかけた途端、はやては赤面した。
 話は『しも』に関わる内容なのだ。
 シャマルを含めたヴォルケンリッターの四人とは家族も同然。
 一緒に暮らしはじめて、それなりに経っている。
 しかし事故で亡くした両親以外に、こういう話をするのは初めてだった。
 白状するのが無性に気恥ずかしい。
 ふたたび話を切り出すのに、たっぷり十秒も要してしまう。

「実は……尿検査に必要な『おしっこ』を取り忘れてしまったんや」

 話した。ついに話した。できれば口にしたくなかったが、はやては羞恥に耐えて告白した。
 シャマルは笑わなかった。ただし親身に聞いてくれたわけでもない。
 彼女は話の内容をよくわかっていない様子だった。

「尿検査?」

 シャマルが首をかしげた。
 そうだった。シャマルは人間に見えるが人間ではない。魔法生命体だった。
 顕現したばかりの頃と比較すれば、かなり世間に順応しているものの、まだ日本の常識に疎い部分がある。
 まずは尿検査について理解してもらわなくてはならなかった。
 はやては簡潔に説明した。
 するとシャマルは合点が行ったのか、感心した顔で「ああ」と相槌を打つ。

「なるほど。はやてちゃんは、おしっこが欲しい。でも出すものを先に出してしまって困っている。つまりそういうことですね?」
「なんか嫌な言い方。まぁ、実際そのとおりなんやけど」

 はやては溜息をついた。
 我ながら呆れた失敗をしたものだ。
 こうなったら尿意を促すために、とにかく水を飲みまくるしかない。
 今日の体調次第では二度目の排泄が見込めるだろう。
 それに品性の欠片もないが、もし提出の期限に間に合うのなら、学校で作業するのも厭わない。
 シャマルがおもむろにデバイスを起動したのは、はやてがそんな皮算用を考えていたときであった。
 さすがに驚いて、はやては瞠目する。

「え? ちょっとシャマル!」
「主のピンチは従者のピンチ。ここは私にお任せください。ふふふ」

 シャマルは自信満々に請け負った。
 不吉な笑顔で魔法を行使し、目の前の空間に穴を開ける。
 それは離れた場所の物体を取り寄せる転移魔法『旅の鏡』だった。
 はやては電撃的に悟った。
 シャマルは『旅の鏡』を駆使して、他人のリンカーコアから魔力を蒐集するように、他人の尿を蒐集するつもりなのだ。
 そのあまりの卑劣さに、体の震えが止まらない。
 そんな主の理解を察したのか、湖の騎士の微笑が妖しくなった。
 人を堕落させる悪魔の笑みだった。

「どうしますか、はやてちゃん? ここで止めますか、それとも続けます?」

 シャマルが選択を迫ってきた。
 はやてに決定権を委ねることで共犯に――つまり悪事の片棒を担がせる気なのだ。
 魔女。まさにそうとしか言いようがなかった。

「わ、わたしは……」

 苦悩。葛藤。混乱。はやては迷っていた。
 ……本当に?
 本当に迷う必要があるだろうか?
 だいいちシャマルは魔女なのだ。
 その魔力に操られるのは、むしろ必然ではあるまいか?
 ならば魅了されてもしょうがないだろう。
 そうだ。考えるまでもない。
 これは『しょうがないこと』なのだ。
 はやては虚ろな目で、シャマルの顔を見た。
 いつしか体の震えは止まっていた。


 そして場所は聖祥大学附属小学校。はやてのクラス。時刻は朝のホームルームの前。

「――あ、あれ?」

 カバンの中を手探りしながら、女子生徒の一人が眉をひそめる。
 高町なのはだった。
 彼女はカバンの中身を何度も何度も検めていたが、やはり釈然としない顔で「おかしいなぁ」と呟く。
 そこにフェイト・T・ハラオウンがやってきた。

「どうしたの、なのは? なにか探してるの?」
「検尿用の容器。今日提出しないとダメでしょ。だからカバンに入れてきたはずなんだけど見当たらなくて」

 そんな二人の会話を、はやては自分の席で、決まり悪く聞いていた。心の中で繰り返し謝罪しながら。
 ちなみに検査の結果は『問題なし』だった。
 はやてにとっては罪悪感が増すだけで、なにひとつ得るもののない顛末であった。
 やはり不正はいけない。

 終わり。

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イヒダリ彰人
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男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
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