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真伝記 『シャマ・ルー』の恐怖 (2)

公約どおり、真伝記 『シャマ・ルー』の恐怖 (2)を更新。

僕はこういうライトなノリ、結構好きです。
もっとも、好きだからといって巧く書けるとは限らないのですが。
長編も難しいけど、やっぱり短編も難しいですね。
まだまだ精進しなければ。


 今日で天命を全うしたくない。絶対に。
 やたらと張りきるシャマルをなんとか言い退け、シグナム、ヴィータ、ザフィーラは、カレーの味付け及び下拵えを分担することになった。まさに苦肉の策だった。

「じゃがいも、ニンジン、玉ネギ、ニンニク、牛スジ……材料はひととおり揃っているな」

 買い物袋の中身を検めながら、シグナムはてきぱきした動作で野菜や牛肉を袋から取り出す。材料はそのまま淡々と、ダイニングテーブルの上に並べられていく。

「なあ、そういえば肝心のカレールーが見当たらないけど」

 種類別に整然と並べられた材料をなんとはなしに眺めていたヴィータが、はたと何かに気づいたように声をあげたのはそのときだった。
 後ろから響いてきたヴィータの声に、シグナムは怪訝そうに買い物袋の中を覗きこむ。
 確かにヴィータの言うとおり、カレールーの存在がまったく見当たらない。
 疑問に思ったシグナムは、不機嫌そうに頬をふくらませるシャマルに尋ねてみた。

「シャマル、カレールーはどうした? あれがないと、私たちだけでカレーは作れないが」

 そうシグナムに問われるや、ふくれっ面で米を研いでいたシャマルが、なぜか一転して上機嫌になる。鮮やかに笑顔を開花させながら、シャマルは調味料棚の方に顎をしゃくった。

「カレールーなら、そこにあるのを使って。こんな日もあろうかと思って、がんばって調合したんだから。きっとすごくおいしくなると思うわ」
「……調合した?」

 ――調合。その穏やからしからぬ単語に不吉を覚えつつ、調味料棚に視線を転じる。
 シグナムたちは見た。そこに『シャマ・ルー』と書かれたシールの貼ってあるガラス瓶が、ひときわ禍々しい存在感とともに配置されているのを。
 透明な瓶の中には、ハバネロを磨り潰したような粉末がびっしりと詰まっている。
 真っ赤――というよりも赤黒い。まるで焼けた錫のようである。食べ物とは思えない。
 瞬間、けたたましく鳴り響く警戒警報。シグナムは迷わなかった。

「ザフィーラ!」
「まかせろ!」

 ザフィーラが矢のように跳躍。目にも留まらぬ速さで『シャマ・ルー』が入っているガラス瓶を口に咥えるや、そのまま蒼い一閃と化して玄関から外に跳び出していった。
 ほどなくして戻ってきたとき、ザフィーラは口に何も咥えていなかった。おそらく『シャマ・ルー』をロストロギアに比肩する危険物と断定し、どこかに封印してきたのだろう。
 食卓の平和は守られた。しかし当然、シャマルが納得いくわけもない。

「ひ、ひどい! なんでそんなイジワルするの! わたしはみんなのためを思って!」
「だったらあんな劇薬みたいなのを食わせようとすんな! みんな死ぬだろうが!」

 悲鳴じみた声音で叫ぶシャマルに、怒りに目の色を変えたヴィータが反駁した。
 シャマルの唇がむずむずと撓る。その表情に悪びれた色はない。むしろ眉根に皺を寄せた顔は険悪そのものであり、しまいには「チッ」と舌打ちまでくれる始末。
 その瞬間、ヴィータの沸点が限界を超えた。猛烈な勢いで頭をかきむしる。

「チッ、じゃねぇぇぇぇ! あたしらは実験台かぁぁぁぁッ!」


 調味料棚には、きちんと市販のカレールーもあった。

「よし。今度こそ異常はないな?」
「ああ。見たところ開封された痕跡もないし、安心していいだろう」

 さっきの騒動からおよそ一時間後。
 箱に入った新品の『○ーモンドカレー』をためつすがめつしながら、シグナムとザフィーラは安堵の息をついた。これでようやく夕食の準備に取りかかることができる。
 ちなみにシャマルはというと、ふてくされて自室に引き籠ってしまった。
 シャマルを可哀想に思う気持ちは……なくはない。が、ここは心を鬼にするべきだ。なにせ健全な食生活を守るためである。それを破壊しようとする邪悪を、許すわけにはいくまい。

「なあ、シグナム。こっちの『こ○まろ』ってヤツもブレンドしようぜ」

『○ーモンドカレー』の箱を開封しようとしていたシグナムに、ヴィータが別の商品を片手に持って声をかけてきた。シグナムは解せない眼差しを、ヴィータに向ける。

「どうしてだ? ひとつあれば充分だろう?」
「別のカレー粉を混ぜたほうがコクが出るんだって。結構前に、はやてが言ってた」
「そうなのか? そんなこと、よく覚えてたな」
「まあな。あたしの記憶力の良さに感謝しろよ」

 ヴィータは得意そうに顎をそびやかすと、『こ○まろ』をシグナムに手渡した。
 傲然と胸を張るヴィータに苦笑しつつ、シグナムは煮立った鍋の中に『○ーモンドカレー』と『こ○まろ』の固形ルーを投入。次いでステンレス銅のお玉杓子でかき混ぜようとする。
 ――異変は、次の瞬間に起こった。
 鍋の中身が、たちまち赤に染まっていく。まるで沸騰した血の池を思わせるそれは、鼻の奥、眼底を刺激する凄まじい臭気を撒き散らしながら、ぐつぐつと無気味な音をとどろかせる。
 しばし戦慄に気を呑まれていたシグナムは、だがその悪夢の原因にすぐさま行き着く。

「まさか……これは『シャマ・ルー』か!」

 そう色めき立って叫んだ直後だった。シグナムは喉に焼けつくような痛みを感じて咳きこんだ。はや周囲に散布された『シャマ・ルー』の激臭が、シグナムの喉を苛んだのである。
 八神家のキッチンは、たちまち阿鼻叫喚が飛び交う地獄へと変わった。

「おぉぉぉぉッ! なんだこれは! 鼻が、鼻が曲がる!」とザフィーラ。
「ちくしょう! シャマルのやつ、中身だけ入れ替えやがったな!」とヴィータ。

『○ーモンドカレー』か『こ○まろ』か。はたしてシャマルは、どちらか一方の中身を旅の鏡で『シャマ・ルー』と入れ替えていたのである。しかも粉末状だった『シャマ・ルー』を固形物に加工するという念の入れようまでみせて、だ。おそろしい策略だった。
 ヴィータとザフィーラが、『シャマ・ルー』の殺人臭に耐え切れずに倒れていく。
 最後に残ったシグナムも、やがて力尽きて倒れ伏す。だが意識がなくなる直前、シグナムは、悠然とリビングに戻ってきたシャマルを見咎める。
 そのとき浮かべていたシャマルの表情は、まるで陰惨な魔女を連想させる笑顔であった。

 余談だが、その次の日の昼頃に帰ってきたはやてが、リビングの惨状を見て卒倒したのは言うまでもない。


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イヒダリ彰人
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男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
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