イヒダリの魔導書
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第一話 『揺籃の闇』(2)
ちょっと推敲が足りなかったかも知れない。
誤字脱字、あるいは文法におかしなところがあれば、コメントなどでご指摘をいただけるとありがたいです。
栄華をきわめた文明が
とあるその次元世界に建つ廃ビルの、地上三十階の広大なオフィスを、ふいの轟音と衝撃が貫いた。
「飛竜一閃!」
シュランゲフォルム――鞭状連結刃へと変じたレヴァンティンの剣身が、細かくブースで仕切られたオフィス内を蹂躙する。
床や天井に無数の爪痕を刻みつけ、白煙のように巻き上がった塵や埃を、螺旋を描く刃風が蹴散らしていく。わずかに残っていた窓ガラスを突風のような衝撃波が次々と割っていき、外に向けて吹き飛んだガラスの破片が光を反射して雪のように舞い落ちる。
のみならず、オフィス内を一瞬にして破壊したシグナムの飛竜一閃は、彼女の前方にいる四人の次元犯罪者をも、まとめて薙ぎ倒す。さながら旋風に巻きこまれた
仲間をやられて逆上した五人の男たちが、シグナムに向かって射撃魔法をむやみやたらに撃ちまくる。
オフィス内にいる二十人の次元犯罪者たちは――ロストロギアの違法売買を目的で集った――密輸組織だ。
管理局の任務でこの現場に乗りこんだシグナムだったが、彼女がおのれの素性を名乗るやいなや、次元犯罪者たちは問答無用の集中砲火を返答とばかりに浴びせてきたのである。
取り引きを邪魔された彼らの表情は憤怒もあらわであり、最初から交渉の余地などなかった。
非殺傷設定とは無縁の魔弾の群れを冷ややかに見据えつつ、シグナムは刃の切っ先を思わせる鋭い声音で呟く。
「レヴァンティン、私の甲冑を」
『Panzergeist』
シグナムの全身を紫色の魔力光が覆っていく。それだけで彼女の防御は事足りた。
だが矢継ぎ早に射撃魔法を放つ五人の次元犯罪者たちは、体に魔力をまとっただけで逃げようともしないシグナムを見咎めてせせら笑う。
彼らの持つデバイスは一様に凶悪な改造がなされており、命を奪うことに特化した正真正銘の凶器だ。フィールド魔法の防御など、それこそ薄皮も同然である。
目の前の騎士は判断を間違えた。これを笑わずしていつ笑うというのか。
観念したように
直撃した魔弾は、五人の次元犯罪者が期待したとおりの破壊力をみせた。まるで発破をかけられたかのように床が吹き飛び、木っ端微塵に砕け散ったモルタルが粉塵となって視野を覆いつくす。
その破壊を見届けた五人の次元犯罪者たちが、シグナムに向けて構えていたデバイスを下ろした。哀れ射撃の的となった騎士は、おそらく原型をとどめていまい。
一方的な
だが次の瞬間、その哄笑が凍りついた。
濛々たる粉塵が縦一文字に切り裂かれ、その中から無傷のシグナムが跳び出したからだ。
シグナムはレヴァンティンをシュベルトフォルムに戻し、突進の勢いそのままに五人の次元犯罪者の直中へと斬りこんだ。
横薙ぎに振り払ったレヴァンティンに弾き飛ばされ、五人のうち三人が宙に舞う。まるで重力のほうが彼らを見限ったかのように、三つの体は天井近くまで浮き上がる。その三人が落下して床に転がる頃には、残りの二人がシグナムに斬り伏せられていた。
まさしく神速の攻防。まわりにいた彼らの仲間たちの誰一人として、シグナムの動きを正確に捉えた者はいまい。ただわけが判らないうちに、五人の仲間が床に倒れていた。それだけの理解しかえられない。
「武装を解除し抵抗しなければ、私もこれ以上の戦いは望まないが……」
足元に倒れ伏した五人には一瞥もくれず、シグナムはいまだ健在な十一人の男たちへと視線を転じる。その声には、わずかな憐憫と諦めがこめられていた。
完全利己主義の次元犯罪者に説得など通用しない。ましてや戦端はとうに開かれているのだ。他者から受ける屈辱を決して甘受しない彼らが次にとる行動など、特別なレアスキルがなくても容易く予想できる。
はたしてシグナムの発した警告を、優位に立った者の余裕と解釈したらしい。十一人の次元犯罪者から、同じ数の殺気が溢れだす。
怯えた様子もなく端然と佇むシグナムを包囲するように、彼らは烈火の将を閉じこめる陣形を整えていく。全方向からの一斉射撃で、シグナムを蜂の巣にするつもりらしい。
その包囲網を冷静な眼差しで見据えつつ、シグナムはやれやれと溜息をついた。やはり予想どおりの結果になった。
「仕方がない……いくぞ、レヴァンティン」
『Jawohl』
シグナムはカートリッジをロードして、レヴァンティンを再びシュランゲフォルムへと変える。
シュランゲフォルムの脅威をすでに目の当たりにしていた十一人は、いっせいに顔色を蒼く染める。たちまち狂騒状態に陥る次元犯罪者たち。他人に恐怖や苦痛を与えるのには慣れていても、その対象が自分自身になると話は別らしい。
十一人の次元犯罪者らがいっせいにシグナムに狙いをつけた。次いで彼らのデバイスから、殺意の塊が吐き出される。これは暴力を是とする次元犯罪者ならではの共通の原理――すなわち
だが迎え撃つシグナムは、冷然としたまま動じない。
四方八方から襲いかかる魔弾に応じるべく、シグナムはレヴァンティンを頭上に振りかざす。シグナムの意志を汲んだように迸るレヴァンティンの剣身が、彼女を中心に猛烈な勢いで渦を巻き、迫る魔弾を残らず叩き落した。
その光景に慄然となり、次元犯罪者たちは声も出ない。
そんな十一人の卑劣漢たちの絶望に追い討ちをかけるように、シグナムは必殺の連結刃を送りこんだ。まるで皮の代わりに刃をまとった蛇のごとく、連結刃はオフィス内を自由に這い回り疾走し、そこに新たな破壊の爪痕をもたらしていく。
そして次元犯罪者たちの悲鳴と絶叫が、破壊されつくしたオフィス内にどよめき渡った。
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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