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魔法少女リリカルなのは False Cross 第四章(2)

 連載SSを更新。
 一日遅れになってしまいました。申しわけありません。
 次回の更新は2週間後の7月22日(日曜日)の予定です。
 本当は、もっと早くお届けできたらいいんですが、最近ちょっと集中力が……
 ゲームだったら何時間でも平気なんだけどなあ。


 チンクは左右の手の中に四本ずつ、投擲用の金属製ナイフを現出させる。彼女の固有武装『スティンガー』だ。
 チンクは前方に佇む黒い甲冑姿の敵を見据えながら口を開いた。

「今回の事件は戦闘機人がらみ。ある意味で内輪の問題のようなものだ。私たちの手で始末をつけたいと思っていた」

 相手の正体が戦闘機人である以上、その製作には、とある人物の理論が使われている。
 ジェイル・スカリエッティが確立した人体と機械の融合技術だ。
 くわえて『機械仕掛けの聖王』(デウス・エクス・マキナ)複製体(クローン)
 友人とも姉妹とも言える『高町ヴィヴィオ』と同じ『聖王の遺伝子』を持つ者だった。
 姿だけ見れば同一人物と言ってもいい。そのため身内の犯行のように感じていたのだ。
 私情を挟むのは三流の仕業、と自覚はしていても、負い目と義務感が喚起される。

「だから感謝せねばなるまいな。おまえを招いてくれた天の配剤に。私たちは運がいい」

 チンクは右手に持つ四本のスティンガーを構えた。いつでも攻撃できる臨戦の態勢だ。
 同じタイミングでウェンディが、乗機したライディングボードの先端を、『機械仕掛けの聖王』に据える。
 まるで標的に照準を合わせた銃の様子。ボードの先端には射撃装置が付いているのだ。
 ウェンディは怖いもの知らずの子供さながら不敵に笑う。

「それにスバルのこともあるっスからね。『お姉ちゃん』の仇はとらせてもらうっスよ」
「ま、公私混同だけどな。立派な職務怠慢だよ。公僕失格って言われてもしょうがねぇ」

 ノーヴェが口元を歪めて自嘲する。
 自己評価とは裏腹に冷静な態度だ。口調にも表情にも激昂の気配はない。分別はついているように見えた。
 だからこそノーヴェの変貌は、突然すぎるほどに突然だった。
 彼女は火を噴くような視線で『機械仕掛けの聖王』を睨みつける。
 自嘲は嵐の前の静けさだったのだ。

「でも家族を攫った犯人が目の前にいるんだ。感情的になるのもしょうがねえよなッ!」

 ノーヴェが怒号を放った。滑走するローラーブーツの車輪が路面に白い煙を蹴立てる。
 同類相憐れむ感情など欠片もない。発見した敵を全力で殴るための全力の突進だった。
 一方でウェンディはライディングボードを起動。疾走しながら『機械仕掛けの聖王』に直射弾を放つ。
 屋上に陣取ったディエチは狩人のごとく長距離射撃。イノーメスカノンの超火力で耽々と標的を狙う。
 ユニットの指揮を執るチンクは、状況に応じてスティンガーを投擲。得意の中距離で前衛を援護した。
 そんな絶妙の連携を見せる四姉妹に対し、応じる『機械仕掛けの聖王』は悠揚迫らぬ。
 迫り来る波状攻撃を受ける、かわす、その合間を縫って反撃する。
 その対応は機械的ながら、だからこそ無駄がなく的確。数の不利など物ともしない。
 N2Rの連携は完璧に分析されていたのだ。このまま続けても、まず勝ち目はない。
 チンクは思念通話で、姉妹たちに呼びかけた。

『生半な打撃や射撃は、なんなく撥ね返される。前衛の二人は、いったん退け』
『退くのはいいけどよ、それでどうするんだよ。こっちには攻め手がねぇぞ?』

 攻撃の合間にノーヴェが答えた。声の調子には隠しきれない疲労が窺える。

『ディエチの砲撃なら可能性はあるっスよ。もっとも警戒されてるからか、ぜんぜん当たらないっスけど』

 ウェンディが嘆息した。ポジティブが取り柄の彼女も、さすがに意気が阻喪している。
 すると今度はディエチが悔しそうに呟いた。

『とにかく速いんだ。『機械仕掛けの聖王』は。いくら標準を合わせても次の瞬間には外されてしまう。あいつに砲撃を当てるためには、なんとか足を止める必要がある。バインドを使うしかない。でも……』

 不意にディエチが言い淀んだ。
 チンクは妹の抱いた逡巡を、本を読むように理解した。
 バインドの拘束力は『タメ』の時間に比例して上昇する。つまり強力になればなるほど発動の時間は遅くなるのだ。
 これは足の速い敵を前に重大な遅延だった。とはいえ標準的なバインドでは『機械仕掛けの聖王』を捕縛できない。
 相手は速いだけでなく力も強いのだ。
 拘束力が弱ければ簡単に逃げられてしまう。それではディエチの砲撃を当てられない。
 まさに八方塞がりだった。

『たしかに状況は厳しい。が、策がないわけではない。閃いたぞ。『機械仕掛けの聖王』に砲撃を当てる方法を』

 チンクは毅然として言い放った。
 大事なのはイノーメスカノンの超火力を『機械仕掛けの聖王』に直撃させること。
 必中の状況を作ることができれば、バインドの成否は重要ではないのだ。
 くわえてチンクは『聖王の鎧』に奇妙な欠損を見いだしていた。

『それに気づいたことがある。奴の胸部を見てくれ。あそこだけ不自然に無防備なんだ』

 情報によると『機械仕掛けの聖王』は、体の要所を鎧で覆っているはずだった。
 なのに甲冑を装備している部分は両腕と両脚のみ。胸に鎧はつけていなかった。
 理由はスバルに砕かれたせいだが、現時点のチンクに、それを正確に推し量る材料はない。
 彼女は相手の状態に勝手な憶測をめぐらせることしかできなかった。
 しかし『機械仕掛けの聖王』の泣きどころが胸部なのは間違いない。
 あそこにディエチの砲撃が決まれば一撃で落せるだろう。
 どれだけリスクが高くても狙う価値はある。

『――以上が私の考えた作戦だ。むろん他に良案があれば聞くぞ?』

 チンクの立案した作戦の概要を聞いて、そのときノーヴェが爽快そうに笑った。
 彼女は宙に躍りあがると、目の前の『機械仕掛けの聖王』をめがけて、鋭角から強烈な飛び蹴り。
 その足技は交差した両腕に防がれたが、そもそもノーヴェの目的は離脱だった。
 彼女は相手のガードを足場にして後方へ跳躍。宙返りしながら路面に着地する。
 ノーヴェは思念通話を止め、肉声で遠慮なく口を利いた。

「このままじゃジリ貧だしな。ここらで強気に攻めるのも悪くねえ。な、ウェンディ?」
「そうっスね。あたしも別にかまわないっスよ。いいかげん終わらせて早く帰りたいし」

 ウェンディが気楽に同調した。突破口が見えたおかげか、多少は元気が戻っている。
 彼女はライディングボードに乗ったまま、少し間隔をあけてノーヴェの隣に並んだ。

「でも問題はディエチっスよ。なんたって作戦の要っスからね。ビビってないっスか?」
『ビビる? 誰に言ってるの? やらなきゃやられる。だったらやるしかない。ただそれだけだよ』

 ディエチが思念通話で応じた。めずらしく強い口調である。
 口数が少なく普段から寡黙な彼女だが、決して内気な性格というわけではない。
 ただ表情に出てこないだけで、むしろ負けん気は人一倍あった。
 妹三人の同意を得て、チンクは腹を据える。外套の裾を払い、一歩を踏みだす。
 前方の『機械仕掛けの聖王』を睨みつける隻眼が刃のごとく鋭利な光を灯した。

「おまえの力は充分に見せてもらった。今度は私たちの力を見せる番だ」



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イヒダリ彰人
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男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

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魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
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