イヒダリの魔導書
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第五話 『闇の正体』(1)
ようやくアイネファミーリエを更新できました。……ふぅ(ロマサガ2のあのシーンみたいな感じ)
さて、第五話のこれからの更新予定日は――
(2)が11日、(3)が14日、(4)が17日、(5)が18日、(6)が21日を予定。
だらだらと続きますが、ぜひ読んでやってください。
よろしくお願いいたします。
一戸建てというにはあまりにも素朴な
グレアムに案内されて辿り着いたのは、こぢんまりとしたコテージのような屋敷だった。
「なにか飲み物でも淹れてこよう。コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
電気が点いて皓々と明るいリビングに、はやてを招き入れるやいなや、グレアムは喫茶店の店主のような気さくな口調でそう尋ねてきた。老境に足を踏み入れているにも拘わらず、その声音にはしわがれもなく、むしろ張りがあって聞きとりやすい。
所在なくドアの前に佇んでいたはやては、そわそわと落ち着かない様子で答える。
「え? あ、えっと……そ、それじゃあ、紅茶をお願いします」
しゃちほこばる少女の姿を見やり、グレアムが微笑ましげに忍び笑いを漏らす。
ずっと憧れていた恩人の前で
恥ずかしさに顔を伏せるはやてに、グレアムは苦笑しながらソファーを指さす。
「立っているのも疲れるだろう? そこのソファーに座って待っていなさい」
「あ、はい。ありがとうございます」
グレアムは、歳を感じさせないきびきびした動作でキッチンへと向かう。そんなグレアムの後ろ姿を見送ったあと、はやては溜息をつくとともにソファーに腰を下ろした。
一人になったことも手伝ってか、はやてはあらためて、最前の自分の挙動に恥じ入った。思考が冷徹になっていくにつれ、気分は底辺まで落ちこんでいく。溜息ばかりが漏れる。
気分を変えよう。そう思い立ったはやては、室内に視線を巡らせはじめる。
が、見れば見るほど質素でみすぼらしい内装だった。飾り気も驚くほどにない。ぱっと目につくのは生活に欠かせないわずかな調度品とアンティーク風の蓄音機、それと隣の部屋にある書棚くらいのものだ。まさに必要最低限の設え、といった風情である。
ただし――テラスに面した大きな窓から見える中庭の風景だけは別格だった。
樹木の
その神経質なほどに入念緻密な仕事――それ自体が夜空に散らばる星のように煌き躍る造園の
はやては窓の外の光景にしばらく見惚れていたが、ふと漂ってきたリンゴの匂いに鼻腔をくすぐられ我に返る。警察犬のように鼻を利かせて匂いの元を辿ると、折しもグレアムが二組のティーセットをトレイに載せてキッチンから出てくるところであった。
やがてリビングに戻ってきたグレアムが、テーブルの上にトレイを置く。そしてテーブルを挟んで向かい側にあるソファーに腰を下ろした。ちょうど、はやてと向かい合う形だ。
はやては棒を呑みこんだように背筋を伸ばした。緊張した面持ちで一礼する。
「お待たせ。砂糖とミルクは好きに使いなさい」
そう言って軽く微笑むと、グレアムは砂糖もミルクも入れないで紅茶を飲みはじめた。
はやてもそれに
「……美味しい」
はやての口から吐息が漏れた。格別高価な茶葉を使っているわけではないだろう。だがグレアムの淹れてくれた紅茶に、はやては極上の美酒を連想させる
そのはやての感想を聞いて、グレアムが満面の笑みで破顔する。
もしかすると自分は、そうとう父親っ子なのかもしれない。グレアムの微笑に和む、おのれの機微をそんなふうに評価しつつ、はやては取り澄ました表情で口を開いた。
「お礼を言うのが遅れました。助けてくださって、ありがとうございます。
でも、どうしてあのとき、ロッテさんとアリアさんが海鳴市に?」
はやての問いかけに、しかし一方のグレアムはというと、急にばつが悪くなったように目を逸らした。明哲な人柄を思わせる厚い唇が、優柔不断な若僧さながらにモゴモゴする。
だがやがて観念したのか、グレアムは嘆息混じりに語りはじめた。
「それはね、今日、リンディの自宅に招かれる予定だったからだよ。とある事情により、はやてくんが落ちこんでいる、だから元気づけてあげてほしい。そうリンディに頼まれてね」
そこでいったん言葉を切るや、グレアムは気恥ずかしさを隠すように紅茶を一口啜った。
「情けない心情を告白すると、実は少しだけ尻ごみしていたんだ。でも無理もないことだと思いたい。なにせ君とは手紙のやりとりはしていても、実際に顔を合わせて話すことは初めても同然だったんだから。だからロッテとアリアを軍の
そう開き直ったように苦笑するグレアム。
が、次に見せたグレアムの表情は真剣そのもの。かつて時空管理局の提督だったころの
「だがロッテとアリアから緊急の連絡を受けたときは、さすがに自分の耳を疑ったよ。
まさか君が、管理局の執務官と武装局員たちに囲まれているなんて状況、ついぞ思いもしていなかったからね。……で、いったいなにがあった?」
はやては口元にカップをもっていくと、まだ温かい紅茶を啜って喉を湿らす。
グレアムの質問に答えるか否か……即答しかねたはやては、逆に問い返していた。
「リンディさんから、何も聞かされていないんですか?」
「ああ。彼女から言ってくることはなかったし、私からもそれを訊ねることはしなかった。
しかし今にして思えば、リンディが他言を躊躇ったのは、おそらくそれが魔法関連のトラブルだったからだろう。いくら元提督で魔法の世界に通じているとはいえ、私はすでに管理局を辞職した身だからね。部外者に明かせない事情があって当然だ」
グレアムは自分の紅茶を半分ほど飲んだあと、「だが」と声音を硬くして言い添える。
「リンディが意図して伏せていた話と、君が管理局に捕まりそうになっていた一件。それがもし同じ次元で繋がっているのなら、私もこのまま黙っているわけにはいかない。
いつも君と一緒にいる守護騎士たちが、どうして君の傍にいないのかという疑問も含めて、もう一度訊ねる。ここ数日のうちに、いったいなにがあった?」
はやては迷っていた。グレアムがさっき自分で言明したとおり、彼はただの民間人である。詳しい話をしてしまったら、はやては職務違反にあたるし、またそれとは違う心理的な葛藤の問題で、彼女はこの一件にグレアムを巻きこみたくなかった。
だが、はやてがこの四日間のうちに溜めこんできた不安と鬱屈と焦燥は、すでに彼女ひとりでは抱えこめないほどの量に膨れあがっていた。
――グレアムに相談したい。そう切実に思う一方で、しかし石化された仲間たちの実状が、はやての心中に不安の種を蒔く。もしグレアムまで石化の犠牲者になってしまったら……。
はやてはカップを掲げて、紅茶を飲むふりをする。悲劇のヒロインのように苦悩する自分の無様な表情を、これ以上、グレアムに見せたくないというかのように。
が、やはりティーカップごときでは、その大役は荷が勝ちすぎたらしい。
眉を寄せて逡巡するはやてを、グレアムは見守る体勢でいる。その悠然たる態度を見るかぎり、はやてが口火を切るまで待ち続けるだろう。
はやては観念した。カップを受け皿の上に戻すと、深く息を吐き出しながら口を開く。
「判りました。お話、聞いてもらえますか?」
おおらかに頷くグレアムを上目遣いで窺いながら、はやては事件の
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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