イヒダリの魔導書
魔法少女リリカルなのは False Cross 第二章(2)
連載SSを更新。
今回は短いです。これが三週間の成果かと思うと情けないですが。
次回の更新は4月22日(日曜日)を予定。
最近は自分に甘すぎた気がするので、ちょっとペースをあげて書こうと思う。
がんばります。
通勤通学の時間帯を過ぎた朝の路上は、深夜と同じというほどではないが静かだ。
それでも中央区画を走っていたときには、心臓から循環する血液さながら、車も人も途絶えることなく行き来していた。
が、さすがに首都を離れると外は閑散となる。
その変化は昨日の事件で立ち入りが制限されている『パークロード』に向かう道ともなれば一段と顕著だ。
中天をめざして昇り続ける太陽に見守られる地上は、あたかも静寂の中に忘れ去られたような有様だった。
そんな静寂の調和を、唸り声のような低いエンジン音で乱す、一台のRV車がいる。
陸士一〇八部隊に配備されている四輪駆動のオフロード車だった。
「……ギン姉、今ごろスカリエッティと面会しているはずだよね。大丈夫かな?」
車の窓から見える青空と、手で掬えそうなほどに濃い白い雲を眺めながら、スバルは姉の心配をする。
ギンガとスカリエッティのあいだに横たわる不和を考えると気が気ではなかったのだ。
すると隣に座るゲンヤが、どっしりと腕を組んだまま、横目でスバルを一瞥した。
「ギンガなら大丈夫だろう。やると言った以上は、その責任は果たすさ」
「でも相手が相手だし。やっぱり強引にでも、くっついていくんだった」
じりじりと気を揉むスバルに、そのときゲンヤの口元が弛んだ。部隊の指揮官の厳格そうな顔ではなく、子供を気遣う優しい父親のそれである。
「おまえが港湾警備隊の防災士長になったように、ギンガの奴も、管理局の捜査官として立派に独り立ちしている。気持ちはわかるが、もっと信用してやれ」
「……うん」
ギンガの身を案じるあまり過剰に心配してしまったが、むしろスバルは姉の実力を誰よりも高く評価している。極端な言い方をすれば信仰していた。
なので先ほどの台詞は愚痴というよりも単なる甘え。信頼するゲンヤに「大丈夫だ」と保証してほしくて、自分の中の不安を解消したくて口にした言葉だった。
もっともスバル本人に、そんな意識はなかったが。
「にしても――」
ゲンヤが呟きながら窓の外に目を向けた。遠い目をした彼の表情が、うっすらとガラスに映る。
「二年前に続いて今回も戦闘機人がらみの事件か。スカリエッティの逮捕で、この手の事件は無くなるかも、と期待していたんだが。……因縁かもな」
最愛の妻との別離。そして最愛の娘との出逢い。およそ人生の転機とも言える事柄に、ここまで戦闘機人が関わっている者は、おそらくゲンヤ以外にいないだろう。もしかすると彼は今回の事件を、誘蛾灯であることに気づいてない愚かな自分が引き寄せた、と考えているのかもしれなかった。
ゲンヤの人生を翻弄した要因のひとつであるスバルとしては内心複雑な見解だ。
「スカリエッティが蒔いた厄介の種は、そう簡単に刈り取れないってわけだね。ギン姉が何か手がかりになる情報を、当の本人から得られるといいけれど」
はた迷惑なスカリエッティの因子に辟易しつつ、スバルは視線をフロントガラスのほうへ向けた。
前方には男ふたりの後頭部が見える。運転席に座っているのは一〇八部隊の隊員。助手席に座っているのはレイン・レンだ。
今この場にいない高町なのはとは、のちほど合流する予定になっている。
「てっとり早く事件の犯人に、『
車窓に映るゲンヤの顔が苦笑に変わった次の瞬間、後ろへ後ろへ流れていた外の景色が急に止まった。ぐずつく嵐に襲われた舟さながら、急ブレーキに車体が揺れ、スバルはガクッと前につんのめる。
法定速度を守った走行だったので被害はなかったが、あやうく前の席に顔面を打ちつけるところであった。
「ナカジマ三佐、スバルさん、あれを見てください!」
なにがあったのか問いただすより先に、助手席のレイン・レンが前方を指さす。
震える指先が差し示すのはパークロードの封鎖された出入り口。スバルとゲンヤが話をしているあいだに、いつのまにか車は目的地についていたらしいが、むろん意図するのはそんなことではない。
現場を封鎖していたはずの警備隊の隊員たち全員が、捨てられたオモチャさながら路上に倒れていたのだ。
襲撃を受けたのに連絡がなかったのは、真っ先に通信車を潰されたからだろう。警備隊のものらしき車輛も無残なスクラップと化して道端に転がっている。
あまりにも容赦のない徹底的な惨状。こんな地獄を作りだせるのは魔導師か戦闘機人しかありえない。
案の定、敵は黒いボディースーツに黒い甲冑を身に纏う女性型の戦闘機人だった。
端倪すべからざる破壊の暴君――『機械仕掛けの聖王』である。
「レイン・レンさん!」
状況を把握した直後のスバルの行動は迅速かつ鮮やかだった。
「すぐ地上本部に報告して、救護班を要請してください。あと高町一等空尉にも連絡を」
後部座席のドアを開けながら、スバルは淀みなく指示を与える。
港湾警備隊では自由にやらせてもらっているため、基本的に一人チームのスバルだが、それでも立場上は分隊長というポジションにいる。
人を使う裁量は現場をいくつも経験することで自然と培われていた。
車外に降り立ったスバルは、まず戦闘能力の低い同行者たちを庇う目的で、素早く車の真正面へ移動する。
続いてインテリジェントデバイス『マッハキャリバー』を起動。白と青を基調としたバリアジャケットを身に纏う。最後に母親の形見のアームドデバイス『リボルバーナックル』を右手に装着して戦支度を整えた。
「――スバル」
遅れて車から降り立ったゲンヤが、背中を向けたスバルに呼びかける。
スバルは敵から目を逸らさず、後ろ姿のまま凛として応えた。
「お父さんは、ここをお願い。わたしは――」
そこまで言いかけて、スバルは息を呑んだ。無言のまま対峙する『機械仕掛けの聖王』が動きだしたのだ。
スバルとゲンヤに背を向けるや、黄昏時のカラスのごとく飛翔し、その漆黒の姿を小さくしていく。
飛行魔法も使えるのか、と驚いているあいだにも、どんどん引き離される。
スバルは思考をめまぐるしく回転させた。
相手の逃走がスバルを誘き寄せるための罠なのは推し量るまでもない。
なぜならレーダーをジャミングする『アイゼンゲホイル』を今日は使わなかったからだ。
闇雲に追いかければ相手の術中に陥る。ここは応援を待つのが上策だろう。
が、ここで『機械仕掛けの聖王』を見逃せば今度は民間人に被害が出るかもしれない。
それにスバル・ナカジマの信条は一撃必倒。相手の懐に入らなければ何も始まらない。たとえ待ち受ける先が死地だったとしても、この無茶な博打には賭けてみる価値がある。
「わたしは『機械仕掛けの聖王』のあとを追う!」
そう決然と宣言したスバルは、即座に『ウイングロード』を行使。
虚空に架けられた青い帯状魔法陣の上を滑走し、単独で『機械仕掛けの聖王』の追跡を開始した。
BACK / NEXT
この記事にコメントする
カレンダー
Web拍手
プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
もちろん無断転載は厳禁。
《連絡先》
aki_ihidari☆yahoo.co.jp
なにかあれば上記まで。
☆を@にしてお願いします。