イヒダリの魔導書
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真伝記 『シャマ・ルー』の恐怖 (1)
新年一発目のSSは短編。というか掌編に近い。
四コママンガを意識して書いたので、かなり短いです。
でもそのぶん、テンポもよく、読みやすくなっているかと。
ただ話の内容もタイトルもどっかで見たような感じですが、
まあ気にしないでほしい……かな(苦笑)
続きは来週の月曜日にでも更新できればいいと思っています。
その日、ヴォルケンリッターは重大な問題に直面していた。
「みんな、たいへんだ! はやてが今日、すずかの家にお泊りするって!」
鬼にでも追われてきたような形相で、ヴィータがリビングルームに跳びこんできた。彼女の右手には、電話の子機が手加減なしの握力で握りしめられている。
ソファーで夕刊を読んでいたシグナムが、眉をひそめながら肩越しに振り返った。
「それのどこがたいへんなんだ? たかだか一晩、お友達の家にやっかいになるだけじゃないか。……それともおまえ、まさか一人で眠るのが怖いとか言いだすんじゃ」
いつもヴィータは、はやての横で一緒に寝ている。シグナムはそれを知っていた。だから母親がいなくなって取り乱す子供のような孤独感を、ヴィータが懐いているのかと早計したのだ。
シグナムの怪訝な台詞を嘲りと解釈したのか、ヴィータが眉根に皺を寄せて喚きだす。
「子供扱いするんじゃねぇよ! あたしが問題にしてるのは、そんなことじゃない。
いいか、よく聞け、馬鹿シグナム! あたしがたいへんだって言ってるのは、今晩、はやてがずっと家にいないってことだ!」
「なにが違うんだ? 結局、主はやてがいなくて寂しいと言っているのだろう?」
「だぁぁぁぁ! だから、ぜんぜん違うんだってば!」
苛立たしげに足を踏み鳴らすヴィータに、シグナムは困ったように溜息をついた。
シグナムは読んでいた新聞をソファーの上に置くと、助けをもとめるように視線を泳がせる。その眼差しが、ダイニングテーブルの下の物陰に潜むザフィーラに据えられて止まった。
烈火の将の無言のSOSを受けたザフィーラが、大儀そうにテーブルの下から這い出てくる。
「ヴィータ、まずは落ち着け。それからゆっくりと説明してくれ」
「ああ? なに言ってんだよ、これが落ちついてられるわけねぇだろ! 今日の夕飯、はやての代わりに誰が作ると思ってんだ!」
「誰? それはもちろん……って、まさか」
さっきまで気怠げだったザフィーラの面持ちが瞬時にして強張り、何をか言わんやという風情でソファーにもたれていたシグナムも、弾かれたように立ちあがる。
瞳に恐怖を凝らせる二人を等分に見比べたあと、ヴィータはその名を震える声で口にした。
「……シャマルだ」
シャマル――その名は今日にかぎって言えば、まさしく絶望と同義語だった。
三人の顔色が、まるで死相めいて青くなる。これは比喩でもなんでもなく、死活問題だ。
そのとき、シグナムが貧血を起こしたようによろめいた。だが持ち前の精神力でなんとか持ち直すと、額に手を当てながら深刻な口調で話しはじめる。
「このままでは私たちに明日はない。一刻も早く、シャマルに連絡を取らなければ」
殺気すら滲ませて呟いたシグナムの言葉に、ザフィーラもまた恐ろしい形相で頷く。
「シャマルは携帯を持ち歩いていたはずだ。今ならまだ間に合うかもしれない。ヴィータ!」
「わーってるよ!」
ザフィーラに促されるまでもなく、ヴィータは右手に持つ子機を耳に当てて、すでにシャマルの携帯電話に通話を繋げているところだった。
緊迫した沈黙と静寂が、リビングに漂う空気を重苦しいものに変える。
ピロピロという軽薄な電子音が直近で聞えてきたのは、リビングルームの扉が開いたそのときだった。目を見開いて振り向いた三人の視線の先には、右手に買い物袋を、左手に携帯電話を持って部屋に入ってきたシャマルの姿があった。
シグナムたちは一言も発せず、ただ凝然とシャマルを見つめる。
顔面蒼白になりながら体を震わせる三人の絶望を、だがシャマルはまったく斟酌しない。むしろ出迎えられたと勘違いしたらしく、シャマルは屈託なく破顔しながら、右手に提げた買い物袋を誇らしげに持ちあげてみせた。
「今日の夕飯はカレーだから。みんな、楽しみにしててね」
そのシャマルの言葉を、シグナム、ヴィータ、ザフィーラは聞いていなかった。シャマルを除いた彼女たちの表情は、ほとんど中身のない脱け殻であった。
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プロフィール
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イヒダリ彰人
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男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
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