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魔法少女リリカルなのは False Cross 第一章(4)

 連載SSを更新。
 次回の更新は2月5日(日曜日)を予定しております。
 それで第一章も終わるでしょう。
 たぶん、ですが。

 それと初見の方もおられるかもしれないので捕捉を。
 この現在連載している「False Cross(フォールス・クロス)」というSSは、「Fearless hawk」のケインさんの長編SS「Southern Cross」の三次創作です。
 ケインさんご本人から許可をいただき、上記の作品に登場する、とあるオリキャラをお借りしております。
 今回の話で名前が明らかになる男性キャラがそうです。
 ですが「Southern Cross」本編とは、まったく世界観は共有しておりません。
 あくまで独立した話です。
 決して続編ではないので、くれぐれもご注意ください。


「すみません、なのはさん。わたしがもっと早くに相手を取り押さえてさえいれば……」

 スバルが悄然と肩を落とす。
 相手にまんまと逃げられたこと、なのはの指示に素早く対応できなかったこと、そのふたつを悔いているらしい。
 なのはは首をゆるゆると横に振った。

「それを言うなら判断のミスがあったのは私のほうだよ」

 甲冑姿の女は理性が欠落しているようだった。
 よって複雑な思考ができるようにも見えなかった。
 だから戦況が不利になったら逃げる、というような臨機応変な行動はできないだろう、と迂闊にも早合点してしまったのだ。
 この期に及んでまだ、ヴィヴィオと同じ顔をした相手と戦いたくない、そんな逡巡もあった。
 事実、甲冑姿の女が退却したとわかったときに、なのはの胸に去来したのは落胆よりも安堵だった。
 これは紛れもなく、なのはの失態である。

「でも反省するのは、お互いあとにしよう」

 エースオブエースは陰気を振り払うように話を打ち切った。
 たしかに現状は最善とは言えない。反省すべき点も多々ある。
 だが自分たちの対応の全部が間違っていたわけではないのだ。
 必要以上にネガティブな考え方をするのは不毛でしかない。
 そう彼女は自分自身を励ましながら、保護した男性のほうに歩み寄っていく。

「不安にさせて申しわけありません。ですが、もう大丈夫です。立てますか?」

 なのはは役目を終えたサークルプロテクションを解除。
 続いて安心させるように微笑みながら男性に手を差し伸べた。

「大丈夫です。危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」

 なのはの手を借り、男性が起きあがる。
 あらためて見ると、ひょろりと背の高い、細面の人物だった。
 腰まで届く長髪は、乳酪のような白色。肌の色も病的に白い。
 一見して老人の印象があったが、おそらく年齢は、まだ二十代の半ばくらいだろう。顔と声は思ったよりも若かった。
 話し方にも教養が窺える。
 やや表情は暗いが良い人そうだ、と思った次の瞬間、別の印象がひたりと押し寄せた。
 ぐっ、と嫌悪感が込みあげる。
 ぱっと浮かんだ第一印象とは裏腹に、男性が悪意の塊のように見えたのだ。
 どこがどう悪意に満ちているのか具体的には指摘できない。
 初対面ということもあって、青白い顔が常のものなのか、暴行されたときの恐怖が残っているのか、それとも狂気に基づくのか、判断のしようがなかったのだ。
 ただ彼の痩身から削ぎ落されたのは、贅肉ではなく人間味のように思えた。
 その圧倒的な違和感に、なのはの背筋は粟立つ。

「あなたは……」

 違和感の正体を突き止めようと、なのはが口を開いたそのとき、不意にエンジン音が聞こえてきた。
 まもなく数台のRVタイプの車輛が広場に入ってくる。
 それは管理局の陸士部隊に配備されている四輪駆動の自動車であった。
 そして最後尾の車からヴィヴィオとユーノが出てくる。
 なのはは、ぽかん、となった。

「ヴィヴィオ、ユーノくん……どういうこと?」

 なのはが呆然と問いかける。
 するとユーノがいたずらを成功させた子供のように笑う。

「避難誘導を手伝ってもらったんだ。送ってもらったのは、ふたりのご厚意だよ」
「ふたり?」

 なに?
 なんなの?
 どういう意味?
 浜辺に寄せては返す波のように、なのはの頭の中で連続する疑問符。
 ユーノのもったいぶった言い方は、まるで禅問答を思わせるものだった。
 深く考えれば考えるほど、頭がこんがらがってくる。
 と、ヴィヴィオとユーノが出てきたのと同じ車から、今度は陸士部隊の制服に身を包んだ男女が降りてきた。
 エースオブエースは、またも呆気にとられる。

「ゲンヤさん」

 ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐。ミッドチルダ西部に居を構える陸士一〇八部隊の部隊長。
 そしてスバル・ナカジマの父親でもある。
 祖先が地球の出身らしく、その容姿は、ごく一般的な日本人に近い。
 恰幅の良い壮年の男性で、白髪と顔の皺には否応なく“老い”を感じさせるものの、眼光は名刀の鋭さだった。

「それにギンガも」

 ギンガ・ナカジマ軍曹。所属は父親のゲンヤと同じ陸士一〇八部隊。役職は捜査官だ。
 スバルの二歳年上の姉で、顔は双子のように瓜ふたつ。
 はっきりとした相違は妹の髪が短髪であるのに対して、ギンガの髪は膝の裏まで届くほどに長いことであろう。
 活発な妹とは対照的に、しんと静かな物腰と大人びた風貌が似合う、端然とした美女だった。
 もっとも容姿の類似は、血縁関係が由来ではない。
 ギンガも妹のスバルと同様に戦闘機人なのである。
 二人ともゲンヤの殉職した妻『クイント・ナカジマ』の遺伝子を元に造られた。
 なので厳密に言えば、ゲンヤ、ギンガ、スバルの三人に、血の繋がりはない。
 なのはとヴィヴィオの関係以上に、複雑な事情を持つ家族なのだった。

「でも陸士一〇八部隊は西部にあるはず。管轄外の東部にいるのはどうして?」

 なのはの疑問も、もっともだった。
 ゲンヤとギンガが所属する陸士一〇八部隊は西部にある。
 対し事件が起きたパークロードは反対側の東部にあった。
 同じ区画内の部隊が来るならともかく、わざわざ中央区画を跨いでまで、反対側の部隊が来る理由がわからない。
 くわえて距離的な問題もある。
 ずいぶん長い時間が経過したように感じるが、実際は、まだ事件発生から一時間も経っていないのだ。
 そんな短時間に行き来できるほど、西部と東部を隔てる道程は短くない。
 魔法を使えるギンガなら不可能ではないが、常人のゲンヤに踏破できるはずがなかった。
 ゲンヤが左手を腰に当て、余った右手で後頭部を掻く。

「ここ最近、マリエルも忙しくってな。以前みたいに気軽にデバイスの整備を頼めなくなった。それで技術部の連中に人を紹介してもらったんだ。俺たちが東部にいたのはそういう理由さ。で、ちょうど事件の知らせを聞いて、こっちの部隊の尻にくっついてきた」

 そう言いながらゲンヤは親指で、後方に並ぶ数台のRV車を差す。

「でも驚いたのは、私たちも同じです」

 ゲンヤの斜め後ろに、まるで付き従うように寄り添うギンガが、続いて口を開いた。

「なのはさんが事件に対処しているのは、連絡を受けて知っていたのですが、まさかスバルまでいるとは思わなかった」

 ギンガが怪訝そうに、やや離れた場所にいる、妹のスバルを一瞥した。
 スバルは左手で頭を掻きながら、「いや~」と照れくさそうに笑う。
 その後頭部を掻く仕草が、ゲンヤのそれと酷似していて、なんだか微笑ましかった。

「ま、詳しい話はあとで聞けばいいだろう。どうせ調書もとらないといけないしな。ところで高町、そっちの彼は?」

 ひとつ溜息をついたゲンヤが、なのはのすぐ横に目を向ける。
 そこには甲冑姿の女から救出した男性がいた。

「逃げ遅れた民間人です。犯人に暴行を受けていたので、助けだして保護しました」

 なのはが端的に報告すると、ゲンヤの顔に同情が浮かんだ。
 彼は気遣うような口調で、被害者の男性に話しかける。

「そりゃ大変な目に遭ったな。もう今日は家に帰りたいだろう。が、仮にも暴行を受けたんだ。外からは見えなくても内部に異常があるかもしれない。まずは病院に連れて――」

 途端にゲンヤが言いさした。
 彼は目を細めて、相手の顔を穴の開くほど、じっと見つめる。
 相手の男性ほどではないが、ゲンヤの身長もかなり高い。肩幅や胸板に到っては相手の倍以上ある。
 そのためゲンヤの凝視には、まるで壁が迫り来るような、避けがたい圧迫感があった。

「おまえさん……もしかして」

 眉間に皺を寄せたまま、ゲンヤが探るように尋ねる。
 すると相手は「ご挨拶が遅れて申しわけありません」と気まずそうに答えた。
 予感が当たったのか、ゲンヤは空を仰いだ。
 わかって当然の問題をミスで取りこぼしたら、学生などはこんな仕草を見せるかもしれない。

「どっかで見た顔だと思ったら、なるほどそういうことだったのか。どうりで約束の時間になっても来ないわけだ」

 とりたてて責めることもなく、ゲンヤは納得したように頷いた。
 一方で相手の男性は、糸杉のような長身が矮躯に見えるくらいに、やたら大仰に恐縮する。

「長い時間お待たせしたあげくに、ご迷惑までおかけして、本当に申しわけありませんでした」
「事情が事情だったんだ。それはしょうがないさ。とにかく無事でなによりだよ」

 さも知り合いのように言葉を交わす両者。その話も不思議と問題なく噛み合っている。
 が、なのはのように事情がわからない者には、依然“ちんぷんかんぶん”の状況だった。
 彼女は「説明してくれ」という目で、ゲンヤとギンガの顔を交互に見やる。
 答えてくれたのはギンガだった。

「彼の名前はレイン・レン。本局の技術部に在籍する精密技術官です。現在は東部の陸士部隊に出向中。私たちは今日、レイン・レンさんに会う予定でこっちに来ていたんです」


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イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

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魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
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