イヒダリの魔導書
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クリスマスは微笑みとともに
明日はいよいよ大晦日。
そして今年もあと二日を切りましたね。
にもかかわらず、更新するSSはクリスマスの話だという。
出遅れにもほどがありますね、はい。
今日、更新したSSは、時空管理局通信vol.15に寄稿したSSと同じ、
『クリスマス・プレゼント』をテーマにした物語です。
物語の格となっている人物はグレアム、リーゼロッテ、リーゼアリアです。
この三人を登場させたSSはあまり見ないので、
結構新鮮でおもしろいかもしれません。
なので、ぜひ読んでみてくれると嬉しいです。
最後にひとつ。
冬コミに参加された皆さまへ。
三日間の激戦、本当にお疲れさまでした。
たとえ神様のごとき寛大な審美を持っていたとしても、目の前の光景はやはり、毒々しいとしか喩えようがないだろう。
「少々……いや、だいぶやりすぎたかもしれないな」
明日はクリスマス・イブ。とくに世界中の子供や恋人たちが胸を躍らせる聖なる夜の前夜祭を間近に控えながら、しかしグレアムの表情は鬱々として晴れない。
その半ば呆然としたグレアムの傍らにいるリーゼアリアもまた、まるで目も当てられない惨劇を見た直後のような、悲愴感もあらわな表情で佇立している。
リーゼアリアはクリスマスでなく、世界の終焉を迎えたような陰気な声音で呟いた。
「そうですね。これでは綺麗に飾りつけしたというより――」
「化粧の濃いオバサンみたいな、やたらと着飾ってみせただけって感じ」
憂いを秘めたリーゼアリアの言葉を、疲れたように肩を落としたリーゼロッテが結んだ。
それはなんとも適切な比喩であるとともに、グレアムに対する痛恨の皮肉でもあった。
グレアムは 茫漠として冴えない眼差しを、今朝方まで質素だったリビングに巡らせる。
「おかしいな。はじめの構想では華美に寄らず、地味にまとめず、クリスマスにふさわしい壮麗なインテリアになるはずだったのに……」
グレアムの視線の先には、見るも無惨な有様へと堕落した、リビングルームのなれの果て。かつて三人の憩いの場だったそこは、しかし今では 麗々しい 死化粧をほどこされて、より凄愴に、より酸鼻な景観へと様変わりしていた。
その光景を単純明快に説明すると――救いようがないほど散らかっているのである。ここぞとばかりに買い占めたクリスマス用品の堆積で。それこそ足の踏み場もないほどに。
それはオモチャ箱を引っくり返した、などという生易しいものではない。ほとんど猿の描いた前衛絵画に等しい、目が回りそうな 極彩色の巷と化していた。
「ああでもない、こうでもないといじり回していたら、いつのまにかこんなに散らかってしまった。これでは子供たちを喜ばせるどころか、逆に気後れさせてしまう!」
グレアムは哀れをもよおす呻き声をあげると、膝が抜けたように力なく 頽れる。
明日のクリスマス・イブ――グレアムはクリスマスパーティーと称して、八神はやてとその守護騎士たちを自宅に招待していた。だが会場となるリビングがこの惨状では、ろくな歓待もできはすまい。万人にうける趣向をこらそうと欲を出したのが、完全に裏目に出た。
「はやてちゃんに事情を話して、場所を変えてもらったらどうですか?」
リーゼアリアが困ったように顔をしかめながら、うなだれるグレアムに提案してくる。
グレアムは、一気に十年以上老けこんだような風情でかぶりを振った。
「徹夜で作業をすれば、まだ間に合う可能性はある。もう少しがんばってみないか?」
「たしかに部屋の中は片づくと思いますけど。でもやっぱり飾りつけは最初からやり直さないといけないですし……それにご馳走の準備だってしないといけません」
リーゼアリアは個々人の作業速度を 顧みて、頭の中ですばやく概算してみたらしい。自信なく促してきたグレアムに、彼女は言外に『諦めろ』という意味を込めて忠言した。
リーゼアリアの見解は正しいだろう。今からやりなおしたとしても、満足のできる内装が 設えられるとは思えない。かといって間に合わせの装飾と料理で手を抜きたくもなかった。
自分は万能ではない。が、それをはやてたちの前で公言するには見栄が邪魔をし、 敏活で有能なところを見せつけたいのに 五里霧中といったところだ。
未練がましく 煩悶するグレアムに、そのときリーゼロッテの 諫言がとどめを刺した。
「それにもし間に合ったとしても、やっぱり徹夜は疲れちゃいますよ。そのせいでクリスマスパーティーの最中にウトウトなんてしちゃったら、それこそ場もしらけると思うし」
そのとおりだ。こちらが 憔悴しきった顔をしていたら、はやてたちも 怏々として楽しめないに違いない。自分の見積もりの甘さと頑迷さと皮算用のせいで、年に一度の夜を台無しにするわけにはいかなかった。ここは己の恥を忍んででも、子供たちのために尽くすべきだ。
グレアムは寝起きの熊のようにのっそりと立ちあがると、やがて悩みを吹っ切るように顔をあげた。
「おまえたちの言うとおりだ。妙な意地は張らず、素直に事情を話すことにするよ。でも今日はもう遅いから、明日の朝に連絡しよう」
言い終えるやいなや、グレアムは大きく欠伸をしてしまった。
「それにしても」
街灯がぽつりぽつりと点きはじめた、海鳴市の夕暮れ時。イギリスの有名なパティシエが作ったクリスマスケーキを片手に提げ歩きながら、グレアムは 胡乱そうに呟いた。
「まさかこんな周到に事が運ぶとは……まるで私たちの失敗をあらかじめ承知していたかのような準備のよさだ。こちらの不手際を帳消しにしてくれたはやてくんたちには悪いが、どうにも作為的なものを感じて釈然としない」
イブの日の早朝。グレアムはパーティー会場である自宅が使用できなくなった旨を、はやてにかいつまんで説明していた。そのときのグレアムは、はやての失望、あるいは落胆の溜息を覚悟して身構えていたのだが、その予想に反して彼女からの返答は――
『じゃあ代わりに、わたしたちの家でパーティーをしましょう』
という、まさに渡りに船のような申し出であった。
グレアムは恥じも外聞も体裁もかなぐり捨てて、その提案に一も二もなく食いついた。
が、今にして振り返ってみれば、はやての対応はあまりにも明敏だったような気がしてならない。彼女にとってグレアムの失態は、まぎれもなく 慮外であったはずなのに、だ。
不審げに眉をひそめるグレアムに、リーゼアリアが犯人を 擁護するような口調で応じる。
「そんなことないですよ。はやてちゃんたちの方が人手も多いですし。
だからその分、わたしたちよりも作業の 進捗が速いんですよ、きっと」
取り澄ました表情で言い訳じみたことを口にするリーゼアリア。
そんな彼女に続けとばかりに、リーゼロッテも首を縦に振って同調の意を示す。
「アリアの言うとおりですよ、父さま。ええと、こういうのをなんていうんだっけ?
……あ、そうそう。 杞憂です。父さまの杞憂に違いないです!」
いつにも増して 謹厳なリーゼアリアと、一目で動揺していると判るリーゼロッテ。
グレアムは鈍感ではない。そんな姉妹の 奇矯を目の当たりにして、 猜疑の念を懐かないはずがなかった。グレアムは訝しげな眼差しで、リーゼアリアとリーゼロッテを窺い見る。
「もしかしておまえたち……私になにか隠し事でもしてるんじゃないのか?」
そう問い質した次の瞬間、二人の姉妹が必死の形相でグレアムに詰め寄ってきた。
「めっそうもない! 父さまに嘘をつくなんて、そんなこと絶対にありえません! ……たぶん」
「そうそう。べつに父さまをビックリさせるための計画があって、しかもそれを事前にはやてちゃんたちと話し合って秘密にしてたとか、そんなめったな考えは一欠片もないですから!」
そこまで言うとリーゼロッテは、呆気にとられたように目を見開いているリーゼアリアを見咎め、やがて『しまった』というふうに口を両手で押さえた。が、もう遅い。
「なるほど。どんな思惑があるのかは知らないが、まあここではあえて問うまい。べつに悪いことを企んでいるわけではないようだし、な」
得心したグレアムが意味深長な微笑をみせる。墓穴を掘ったリーゼロッテが慌てて取り繕う。
「い、いったい、なな、なんのコトでしょう?」
一目も 瞭然にヘドモドするリーゼロッテを、リーゼアリアが目くじらを立てて叱責する。
「ちょっとロッテ! それじゃドモりすぎじゃない。もっと普通に話しなさいよ、普通に!」
「そんなこと言ったって」
喧々と非難するリーゼアリアに、リーゼロッテがふてくされたように唇を突き出す。
たちまち取っ組み合いの喧嘩をはじめた双子の姉妹を横目で見ながら、グレアムは嘆息する。
「……やれやれ」
ほどなくして八神家の玄関先に辿り着いたとき、リーゼアリアとリーゼロッテは意気消沈しており、髪型も服装も乱れに乱れたボロボロの格好であったという。
ほんとうなら言葉巧みにグレアムを 籠絡して、はやての自宅に連れていく予定だったらしい――とは、 手櫛で乱れた髪を 梳いているリーゼアリアの弁。
だがグレアムが勝手に部屋の飾りつけを失敗して自滅したため、下手な小細工を弄する必要がなくなった――というのが、ひっぱられて赤くなった耳を擦っているリーゼロッテの弁。
そんな裏事情を、喧嘩する姉妹がときどき口走る言動から推理したグレアムは、むろん磐石の精神で 鷹揚に構えていた。素知らぬ顔を装う余裕さえあった。
しかしそんなグレアムの 磊落さは、はやての案内で通されたリビングルームに入った瞬間、瓦解することになる。まずはじめに彼の耳をつんざいた、連続するクラッカーの音とともに。
『メリークリスマス! ようこそグレアムおじさん!』
クラッカーの音に続き、異口同音にあがった歓声。グレアムは目を疑った。
グレアムの目の前には、クラッカーを手にしたまま微笑む、見知った友人たち。
はやてやヴォルケンリッター、それにリインフォースⅡといった、八神家の面々だけではない。なのは、フェイト、エイミィ、クロノ、さらにリンディまでもがいた。
グレアムの驚きも、むべなるかなであろう。まさかこれほどの大所帯に歓待されるとは、さすがのグレアムも予想だにしていなかったのである。
「これは……」
演技でもなんでもない、正真正銘まぎれもなく瞠目しているグレアムに、彼の右後ろからひょっこりと顔を出したリーゼロッテが、小鼻をうごめかしながらネタバレを披露する。
「はやてちゃんが企画したんですよ。いつもお世話になってるグレアムおじさんをビックリさせてあげたい、喜ばせてあげたいって」
そう言い放ったリーゼロッテは、ちょうどグレアムの左後ろから顔を出したリーゼアリアと目が合う。するとさっきまで仲違いしていたのが嘘のように、二人はそろって破顔した。
ひそかに仲直りの笑みを交し合う双子姉妹。だがその一方で、グレアムはただただ茫然自失。
そんな無防備な様子で佇むグレアムに、はやてが 怖々と話しかける。
「あの、ごめんなさい。騙すような真似をしてしまって。
それで、あの、その……怒って、ますか?」
不安そうに見つめてくるはやての眼差しを受けて、グレアムはようやく我を取り戻した。
「私のためを思って催してくれたんだろう? だったら怒るわけがないさ。むしろ感謝したいくらいだよ。ありがとう、はやてくん。君のおかげで最高のクリスマスになりそうだ」
グレアムは微笑んだ。
嬉しくて泣きそうになる。長いあいだ忘れていたその情動を、胸の奥に感じながら。
グレアムの笑顔に一片の曇りもないことを 如才なく見て取ったはやてが、安堵の息をつく。それから彼女は、後ろ手に隠し持っていた小包をグレアムに差し出す。
「みんなからグレアムおじさんに。一生懸命選んだクリスマスプレゼントです。
――受け取ってください!」
リボンと紅い包装紙できれいにラッピングされた小包を、グレアムはそっと手を伸ばして受け取った。まるで聖杯を 下賜された神父のような、 粛然とした面持ちで。
両手で包みこむように持ったプレゼントの、そのささやかな重みを実感するにいたって、グレアムの胸は誇らしさと歓喜に満たされていく。この掌中にある祝福の結晶を、心優しい友人たちとの絆を、そして今日という最上の一日を、彼は生涯忘れることはないだろう。
ああ、本当に。
「最高の――クリスマスだ」
そして今年もあと二日を切りましたね。
にもかかわらず、更新するSSはクリスマスの話だという。
出遅れにもほどがありますね、はい。
今日、更新したSSは、時空管理局通信vol.15に寄稿したSSと同じ、
『クリスマス・プレゼント』をテーマにした物語です。
物語の格となっている人物はグレアム、リーゼロッテ、リーゼアリアです。
この三人を登場させたSSはあまり見ないので、
結構新鮮でおもしろいかもしれません。
なので、ぜひ読んでみてくれると嬉しいです。
最後にひとつ。
冬コミに参加された皆さまへ。
三日間の激戦、本当にお疲れさまでした。
たとえ神様のごとき寛大な審美を持っていたとしても、目の前の光景はやはり、毒々しいとしか喩えようがないだろう。
「少々……いや、だいぶやりすぎたかもしれないな」
明日はクリスマス・イブ。とくに世界中の子供や恋人たちが胸を躍らせる聖なる夜の前夜祭を間近に控えながら、しかしグレアムの表情は鬱々として晴れない。
その半ば呆然としたグレアムの傍らにいるリーゼアリアもまた、まるで目も当てられない惨劇を見た直後のような、悲愴感もあらわな表情で佇立している。
リーゼアリアはクリスマスでなく、世界の終焉を迎えたような陰気な声音で呟いた。
「そうですね。これでは綺麗に飾りつけしたというより――」
「化粧の濃いオバサンみたいな、やたらと着飾ってみせただけって感じ」
憂いを秘めたリーゼアリアの言葉を、疲れたように肩を落としたリーゼロッテが結んだ。
それはなんとも適切な比喩であるとともに、グレアムに対する痛恨の皮肉でもあった。
グレアムは
「おかしいな。はじめの構想では華美に寄らず、地味にまとめず、クリスマスにふさわしい壮麗なインテリアになるはずだったのに……」
グレアムの視線の先には、見るも無惨な有様へと堕落した、リビングルームのなれの果て。かつて三人の憩いの場だったそこは、しかし今では
その光景を単純明快に説明すると――救いようがないほど散らかっているのである。ここぞとばかりに買い占めたクリスマス用品の堆積で。それこそ足の踏み場もないほどに。
それはオモチャ箱を引っくり返した、などという生易しいものではない。ほとんど猿の描いた前衛絵画に等しい、目が回りそうな
「ああでもない、こうでもないといじり回していたら、いつのまにかこんなに散らかってしまった。これでは子供たちを喜ばせるどころか、逆に気後れさせてしまう!」
グレアムは哀れをもよおす呻き声をあげると、膝が抜けたように力なく
明日のクリスマス・イブ――グレアムはクリスマスパーティーと称して、八神はやてとその守護騎士たちを自宅に招待していた。だが会場となるリビングがこの惨状では、ろくな歓待もできはすまい。万人にうける趣向をこらそうと欲を出したのが、完全に裏目に出た。
「はやてちゃんに事情を話して、場所を変えてもらったらどうですか?」
リーゼアリアが困ったように顔をしかめながら、うなだれるグレアムに提案してくる。
グレアムは、一気に十年以上老けこんだような風情でかぶりを振った。
「徹夜で作業をすれば、まだ間に合う可能性はある。もう少しがんばってみないか?」
「たしかに部屋の中は片づくと思いますけど。でもやっぱり飾りつけは最初からやり直さないといけないですし……それにご馳走の準備だってしないといけません」
リーゼアリアは個々人の作業速度を
リーゼアリアの見解は正しいだろう。今からやりなおしたとしても、満足のできる内装が
自分は万能ではない。が、それをはやてたちの前で公言するには見栄が邪魔をし、
未練がましく
「それにもし間に合ったとしても、やっぱり徹夜は疲れちゃいますよ。そのせいでクリスマスパーティーの最中にウトウトなんてしちゃったら、それこそ場もしらけると思うし」
そのとおりだ。こちらが
グレアムは寝起きの熊のようにのっそりと立ちあがると、やがて悩みを吹っ切るように顔をあげた。
「おまえたちの言うとおりだ。妙な意地は張らず、素直に事情を話すことにするよ。でも今日はもう遅いから、明日の朝に連絡しよう」
言い終えるやいなや、グレアムは大きく欠伸をしてしまった。
「それにしても」
街灯がぽつりぽつりと点きはじめた、海鳴市の夕暮れ時。イギリスの有名なパティシエが作ったクリスマスケーキを片手に提げ歩きながら、グレアムは
「まさかこんな周到に事が運ぶとは……まるで私たちの失敗をあらかじめ承知していたかのような準備のよさだ。こちらの不手際を帳消しにしてくれたはやてくんたちには悪いが、どうにも作為的なものを感じて釈然としない」
イブの日の早朝。グレアムはパーティー会場である自宅が使用できなくなった旨を、はやてにかいつまんで説明していた。そのときのグレアムは、はやての失望、あるいは落胆の溜息を覚悟して身構えていたのだが、その予想に反して彼女からの返答は――
『じゃあ代わりに、わたしたちの家でパーティーをしましょう』
という、まさに渡りに船のような申し出であった。
グレアムは恥じも外聞も体裁もかなぐり捨てて、その提案に一も二もなく食いついた。
が、今にして振り返ってみれば、はやての対応はあまりにも明敏だったような気がしてならない。彼女にとってグレアムの失態は、まぎれもなく
不審げに眉をひそめるグレアムに、リーゼアリアが犯人を
「そんなことないですよ。はやてちゃんたちの方が人手も多いですし。
だからその分、わたしたちよりも作業の
取り澄ました表情で言い訳じみたことを口にするリーゼアリア。
そんな彼女に続けとばかりに、リーゼロッテも首を縦に振って同調の意を示す。
「アリアの言うとおりですよ、父さま。ええと、こういうのをなんていうんだっけ?
……あ、そうそう。
いつにも増して
グレアムは鈍感ではない。そんな姉妹の
「もしかしておまえたち……私になにか隠し事でもしてるんじゃないのか?」
そう問い質した次の瞬間、二人の姉妹が必死の形相でグレアムに詰め寄ってきた。
「めっそうもない! 父さまに嘘をつくなんて、そんなこと絶対にありえません! ……たぶん」
「そうそう。べつに父さまをビックリさせるための計画があって、しかもそれを事前にはやてちゃんたちと話し合って秘密にしてたとか、そんなめったな考えは一欠片もないですから!」
そこまで言うとリーゼロッテは、呆気にとられたように目を見開いているリーゼアリアを見咎め、やがて『しまった』というふうに口を両手で押さえた。が、もう遅い。
「なるほど。どんな思惑があるのかは知らないが、まあここではあえて問うまい。べつに悪いことを企んでいるわけではないようだし、な」
得心したグレアムが意味深長な微笑をみせる。墓穴を掘ったリーゼロッテが慌てて取り繕う。
「い、いったい、なな、なんのコトでしょう?」
一目も
「ちょっとロッテ! それじゃドモりすぎじゃない。もっと普通に話しなさいよ、普通に!」
「そんなこと言ったって」
たちまち取っ組み合いの喧嘩をはじめた双子の姉妹を横目で見ながら、グレアムは嘆息する。
「……やれやれ」
ほどなくして八神家の玄関先に辿り着いたとき、リーゼアリアとリーゼロッテは意気消沈しており、髪型も服装も乱れに乱れたボロボロの格好であったという。
ほんとうなら言葉巧みにグレアムを
だがグレアムが勝手に部屋の飾りつけを失敗して自滅したため、下手な小細工を弄する必要がなくなった――というのが、ひっぱられて赤くなった耳を擦っているリーゼロッテの弁。
そんな裏事情を、喧嘩する姉妹がときどき口走る言動から推理したグレアムは、むろん磐石の精神で
しかしそんなグレアムの
『メリークリスマス! ようこそグレアムおじさん!』
クラッカーの音に続き、異口同音にあがった歓声。グレアムは目を疑った。
グレアムの目の前には、クラッカーを手にしたまま微笑む、見知った友人たち。
はやてやヴォルケンリッター、それにリインフォースⅡといった、八神家の面々だけではない。なのは、フェイト、エイミィ、クロノ、さらにリンディまでもがいた。
グレアムの驚きも、むべなるかなであろう。まさかこれほどの大所帯に歓待されるとは、さすがのグレアムも予想だにしていなかったのである。
「これは……」
演技でもなんでもない、正真正銘まぎれもなく瞠目しているグレアムに、彼の右後ろからひょっこりと顔を出したリーゼロッテが、小鼻をうごめかしながらネタバレを披露する。
「はやてちゃんが企画したんですよ。いつもお世話になってるグレアムおじさんをビックリさせてあげたい、喜ばせてあげたいって」
そう言い放ったリーゼロッテは、ちょうどグレアムの左後ろから顔を出したリーゼアリアと目が合う。するとさっきまで仲違いしていたのが嘘のように、二人はそろって破顔した。
ひそかに仲直りの笑みを交し合う双子姉妹。だがその一方で、グレアムはただただ茫然自失。
そんな無防備な様子で佇むグレアムに、はやてが
「あの、ごめんなさい。騙すような真似をしてしまって。
それで、あの、その……怒って、ますか?」
不安そうに見つめてくるはやての眼差しを受けて、グレアムはようやく我を取り戻した。
「私のためを思って催してくれたんだろう? だったら怒るわけがないさ。むしろ感謝したいくらいだよ。ありがとう、はやてくん。君のおかげで最高のクリスマスになりそうだ」
グレアムは微笑んだ。
嬉しくて泣きそうになる。長いあいだ忘れていたその情動を、胸の奥に感じながら。
グレアムの笑顔に一片の曇りもないことを
「みんなからグレアムおじさんに。一生懸命選んだクリスマスプレゼントです。
――受け取ってください!」
リボンと紅い包装紙できれいにラッピングされた小包を、グレアムはそっと手を伸ばして受け取った。まるで聖杯を
両手で包みこむように持ったプレゼントの、そのささやかな重みを実感するにいたって、グレアムの胸は誇らしさと歓喜に満たされていく。この掌中にある祝福の結晶を、心優しい友人たちとの絆を、そして今日という最上の一日を、彼は生涯忘れることはないだろう。
ああ、本当に。
「最高の――クリスマスだ」
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プロフィール
HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
もちろん無断転載は厳禁。
《連絡先》
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なにかあれば上記まで。
☆を@にしてお願いします。