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魔法少女リリカルなのはEine Familie 第一話 『揺籃の闇』(1)

魔法少女リリカルなのはEine Familie(アイネファミーリエ / 家族)連載開始です。
第一話は『揺籃(ようらん)の闇』。五回に分けて更新していきます。
更新予定日。
(2)は26日、(3)は28日、(4)は30日、(5)は11月1日。
どうぞよろしくお願いします。



 光に影は必要ない。輝かないものに価値はない。
 (がい)して、表には多かれ少なかれ裏がある。
 たとえば正義には悪が、赦しには罪が、生には死が。
 それは長い進化の果てに人が学んだ因果律。聖と邪を分け隔てる境界線。
 だが強いて言わせてもらえれば、それの悪性は後天的なものだった。

 ひとたび表に顕現(けんげん)すれば、まわりの世界すべてを呑みこむ混沌と化す。
 気づいたときには遅かった。自覚したときには手遅れだった。
 それは破滅と絶望の権化として、蛇蠍(だかつ)のごとく忌み嫌われ、そして憎悪されてきた。
 だが、それならそれで構わない。気にするほどのことでもない。
 それにとってこの世のありとあらゆる有形無形、有象無象は、描いた端から消えていく虚ろな砂絵と同じだったからだ。
 何の感動もない。何の愛着もない。ただ時とともに後ろへと流れていくだけの、記憶の片隅にも残らない幻影。
 そう――これまで何度も繰り返し堕落へと導いた、幾人もの(あるじ)たちと同じように。

 その、永遠に続くかと思われた呪われし輪廻転生が、唐突に終焉した。
 父親も母親も、兄弟も姉妹もいない、独りぼっちの非力な少女が主となった瞬間に。
 新しく主となったその少女は、誰よりも優しく(つよ)く、そして何より不屈だった。
 彼女の慈愛と寛容が、一寸先も見えない暗闇に光を照らし、さまざまな可能性を指し示してくれた。無限に枝分かれした、輝くような未来への道程(どうてい)を。

 ああ、それは……
 それは、なんて素晴らしいことなんだろう。
 彼女と一緒にいられたなら、彼女と一つになれたなら、これ以上の喜びは他にない。
 いまなら憚りなく言える。これが愛しいという感情だろう。
 人間らしい情緒を与えてくれた主には、感謝してもしきれない。
 だが、その愛情が誰にも伝わらず、誰とも交わらないと知ったとき……そのすべてが裏返って狂気に変じても不思議ではない。
 はじめて懐いた激情を持て余した先にあるのは、いびつに変形した欲望の(かさ)ばかり。
 もはや正常な判断は下せない。もとより人間の心を解する健全な精神など、とうの昔に壊れていたのだから。

 欲しいものを手に入れるには、いったいどうしたらいい。簡単だ。奪えばいい。果てしない幾星霜(いくせいそう)を、そうやって繰り返してきたはずだ。なら今度も同じことをすればいい。難しいことなんて一つもない。
 しかし、主の周囲には余計な夾雑物(きょうざつぶつ)が多すぎる。まずはそれらを排斥(はいせき)していかなければなるまい。
 むろん、それを実行することに対する罪悪感は欠片もなかった。当然だ。もとより奴らには、よってたかって痛めつけられた恨みもある。その復讐もついでに果たすと考えれば、これはこれで綺羅星(きら、ほし)のごとき壮図(そうと)に思えて気分も快い。

 闇が(わら)う。
 光さえ呑みこむ暗黒が子宮のように拍動(はくどう)を繰り返す。
 憎悪は骨肉、瞋恚(しんい)は血液、そして悪意は人の形を成していく。
 もし祈りや願いや想いの力によって奇蹟が起きるのなら、いまこの瞬間に誕生せんとする欲望の具現こそ、まさに奇蹟の嬰児(みどりご)と言えるだろう。

 ああ、もはや居ても立ってもいられない。
 すぐに邪魔者を一掃し、あなたのまわりを綺麗に純化したあとで、必ず迎えにいきます。
 だから、もう少しだけ待っていてください。

 我が愛しの主――八神はやて。


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HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
もちろん無断転載は厳禁。

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