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招かれざる者の秘録~騎士王の遍歴~ プロローグ『~剣の遍歴~』(1)

 二ヶ月計画の第二弾が今日から始動です。
 ジャンルはクロスオーバー。たぶん中編です。
 物語の舞台は『魔法少女リリカルなのはStrikerS』の一年前。『fate/stay night』からセイバーを、『アルプスの少女ハイジ』からクララを登場させています。
 次回の更新は30日(水曜日)を予定しております。

 ちなみに冒頭から『スーパー絶望タイム』です。
 なので心してお読みください。
 


 遡ること一年前。
 それは新暦0072年の冬の出来事だった。
 家族で冬休みを利用して、ミッドチルダを旅行したのである。
 父も母も多忙なため数年ぶりとなってしまった家族旅行、クララ・ゼーゼマンの十回目の誕生日を幸せで飾りつけて言祝(ことほ)ぐ、それはかけがえのない思い出になるはずだった。
 首都クラナガンのアウトレットモールで発生した無差別テロに巻きこまれるまでは……
 普段は新聞やテレビ越しの、あまりにも現実味のない事件。火薬で炸裂する数十個の質量兵器は、まるで煉獄の炎のように平穏を蹂躙し、三百人以上の死傷者を出すに及んだ。
 そしてクララの両親もまた、地獄の魔物の犠牲者だった。パニックに陥った群集の波に押し流され、逃げ遅れて瓦礫の下敷きになったクララを助けようとした矢先に、まるで円満な家族を憎んでいるかのような一撃――横殴りの爆炎に総身を吹き飛ばされたのである。
 悪魔が作りだした光景と思われた。あるいは我知らず見た狂気の夢かもしれない。
 これまで多くの苦しみを味わわずに来たのは事実。平和な上に暮らしも恵まれている。
 死と病、苦悩と欠乏、恐慌をきたすまでの動揺さえ、クララの身にはないことだった。
 その認識が数秒のうちに塗り替えられたのだ。かぐろい絶望の色に侵されたのである。
 痛みや苦しみについては書物で読み知っていた。人生には困難や理不尽がついてまわることも学習した。ゆえに未知を克服したと思いこみ、不安や恐怖を感じなくなっていた。
 それどころか逆に挑戦を受けた少年のような気持ちで不幸を望んだ。あさはかだった。
 そうだ。たとえ冗談でも不幸など望んではいけなかった。なぜなら神は人間に厳しい。
 なんの前触れもなく立証された報いがこれである。愚昧な知性に対する辛辣な教化――愛する父と母の凄惨な死にざま。血みどろのトルソーになった両親の冷たい亡骸だった。
 理解は、黒い波のように押し寄せる。クララは狂人のごとく叫んだ。無窮の空を埋めつくす炎と煙の中で、大量に蔓延する死を感じながら、喉も張り裂けんばかりに慟哭した。
 時空管理局の魔導師に救出されるまでの三時間、血肉と建材が燃える肺が腐りそうな臭いも、瓦礫に挟まれて潰れた両足の痛みも忘れて、ただ延々と悲痛な声音で泣き続けた。
 奇蹟に奇蹟を重ねてクララは生き残ったが、心を深く抉った傷は今もなお癒えていない。くわえて怪我のせいで車椅子生活も余儀なくされた。心身両面ともにボロボロである。
 その日からクララは生きることを放棄した。眠り死んだように日々の時間を空費した。
 実際、いつ死んでもよかった。どうせ夢も希望もない。クララが心の底から望んでいたのは、父と母と共に生きていく普通の日常。それが永久に叶わないと判明したのだ。今となっては我が身の生に、なんの意義も見いだせない。クララの心は両親と共に死んだのだ。
 おのれが原因という罪悪感を残したまま。
 そんな彼女の前に変化の瑞祥(ずいしょう)が現れたのは、両親の一周忌が過ぎた翌日のことであった。


「壊されちゃう……お父さんとお母さんが残してくれた家が……壊されちゃう」

 ミッドチルダ西部に建てられたゼーゼマンの屋敷は、両親を亡くしたクララにとって唯一の寄る辺だった。ひとりで暮らすには大きすぎる建物。だがこの家にいるあいだは寂しさを感じない。柔和な笑顔が素敵だった父母の腕に抱かれているような気がするからだ。
 しかし――

「やめてよ。これ以上奪わないで。わたしからこれ以上、なにも奪わないでよ!」

 そのぬくもりの聖域が、静穏な箱庭が、いま鋼の尖兵(せんぺい)たちに侵犯されようとしていた。
 ――ガジェットドローン。
 ロストロギアを狙って出没する謎の機械兵器の総称で、とある狂人が造った血も涙も情もない鉄の傀儡(かいらい)である。屋敷の中を徘徊しているのはⅠ型と称されるカプセルタイプだ。
 十機以上のガジェットⅠ型は、なにかをしきりに探していた。まるで空き巣さながら家具という家具をひっくりかえし、触手じみたアームケーブルで壁や天井に穴を開けていく。
 クララには魔法の才能がある。だが一年前の事件で学ぶ意欲はくじけていた。そのため今では見る影もなくおちぶれている。基本的な魔法の使い方さえ忘れてしまった有様だ。
 かててくわえてガジェットドローンという機械兵器には、AMFと呼ばれる魔力結合を消し去る機能が常備されていた。魔法のスペシャリストである管理局の魔導師でも苦戦する鉄壁の防御だ。たかが魔法学校の五年生が、しかも現在は休学している劣等生が、太刀打ちできる相手ではない。たとえ天地が逆転したとしても勝ち戦にはならないだろう。

「お願い、お願いだから……これ以上、お父さんとお母さんとの思い出を壊さないで」

 呻吟(しんぎん)の合間に紡がれる虚しい泣訴(きゅうそ)。だが耳をかたむけるものは誰ひとりとしていない。
 探索と破壊活動に腐心しているガジェットⅠ型は人間ではないのだ。機械兵器である。
 クララがどれだけ叫んだところで、訴えたところで、その行動は徒労にしかならない。
 ゆえに彼女は車椅子の座席に腰を乗せた姿勢のまま、幸せな家庭の叙情を塗りこめた空間が虫食いさながら瓦解していくのを、ただ指をくわえて見守るしか他に術がなかった。
 突然、一機のガジェットⅠ型のアームケーブルが虚空を右から左へ水平に薙いだ。
 白亜の壁に飾られた数枚の絵画が刃物の唸りをあげて弾け飛ぶ。高そうな額に入れられた一枚が手裏剣のごとく旋回しつつ、涙で頬を濡らすクララの真横を掠めて通りすぎた。
 その絵画は背後の壁に激突して床に落ちる。辣腕の銀行家だったクララの父親が趣味で蒐集していた骨董品。かなりの値打ち物であるはずのそれが無価値になった瞬間だった。
 その一方でクララも車椅子から落ちていた。よもやの危険に体が反応した結果である。
 ただでさえ白いクララの顔がさらに蒼ざめていく。体中から血の気が引くような気がした。両足の随意がままならない彼女にとって、車椅子の有無は死活問題にも等しいのだ。
 クララは慌てて車椅子の座席に戻ろうとした。まるで帰巣しようとする小鳥のごとく。
 が、そんな少女の気配に気づいたのか、やおら一機のガジェットが体の向きを変えた。
 そのまま滑空しつつ肉薄してくる。もはやアームケーブルの間合いまでは幾許もない。
 クララは「ひぃ」とひきつれた呼気をもらす。突然の事態にうまく息ができないのだ。
 胸が苦しい。指先が冷たい。頭の中のすべてが氷結して動かなくなったみたいだった。
 むろん車椅子に座り直している余裕はない。彼女は蟇蛙(ひきがえる)のように這ったまま後退した。
 とうとう壁際に追いつめられたクララは、ふと眼の前に細長い板状の物体を見いだす。

「これは……お父さんが大事にしてた……」

 さきほどクララの真横を掠めた絵画に落とされたのだろう。壁の燭台(しょくだい)にひっかけられていた一品が、あたかも片づけ忘れた玩具(おもちゃ)のごとく、ぽつんと床の上に転がっていたのだ。
 眼の醒めるような青い地金に、金と赤の装飾と琺瑯(ほうろう)を施した、鞘のままの宝剣である。
 かなりの年数を(けみ)しているのに疵ひとつ見当たらない。くわえて自然と降り積もるはずの塵や埃さえも付着を遠慮している。ここ一年のあいだはろくろく手入れもしていなかったというのに、まるで永遠に輝きを失わない魔法の宝石のごとく艶と潔癖を保っていた。
 不思議な刀剣である。そういえば鞘から引き抜かれたところを一度も見たことがない。
 その豪奢な宝具を、クララは手に取った。続いて半身を起こした姿勢で壁にもたれる。
 彼女は決して臆病ではない。なんとなれば気丈を装うこともできたろう。だが一年ぶりに突き刺さる死の恐怖を前にしては、なにかに縋りついていないと心が壊れそうだった。
 そのときガジェットⅠ型のカメラアイがぎらりと光る。獲物を見定めたときの肉食獣の眼を思わせる危険な輝き。両側面から噴出するアームケーブルが狂ったようにわななく。
 ガジェットⅠ型の標的は完全にクララだった。滑らかな移動がそれを物語っている。

「いやだ……来ないで、こっちに来ないで。殺さないで……いやぁぁ」

 クララは半狂乱の(てい)で悲鳴をあげた。相手に聞く耳がないのも忘れて哀願してしまう。
 頭蓋の内に死んだ両親の姿が浮かぶ。屠殺された家畜のように横たわる父と母の骸が。

「……助けて。誰でもいいから。誰でもいいから助けて。お願いだから……助けてよぅ」

 もはや恥も外聞もない。理性も自尊も忘却した。いまクララの意中を占める思いは、死にたくないという切望のみ。おのれの生涯を疎んじていた彼女が心の底から生存を願う。
 爆発的な白い閃光が視野を塗り潰したのは次の瞬間である。目を開けていられないほどの光の奔流。そのためクララは、今まさに眼の前で形成されつつある威容に気づかない。
 おそらく女性だろう。ほっそりとした輪郭が光の奥より浮かびあがる。王侯を思わせる典雅な佇まいだった。細身の体躯を包んだ古式ゆかしい蒼色のドレスが白い肌に映える。
 結いあげた淡い金髪の後光に飾られた面は雪のように涼やかで白い。真一文字に引き結ばれた唇は謹厳かつ実直な人柄をしのばせる。どんな荒くれ者でも思わず襟を正してしまうような、有無を言わさぬ気品と風格を自然に振りまいていた。その強烈な存在感を引きだしているのが、淡い色の睫毛に縁取られた双眸である。文字どおり極めて澄んでいた。まるで粒の揃った一対のエメラルド。陽に透かした二枚の月桂樹の葉のごとき緑である。

「う……いったいなにが……痛ッ」

 光が収まったのを見計らって瞼を開けたクララは、ふいに襲いかかってきた激痛に幼い顔をしかめた。左手の甲に焼けつくような痛みがある。よく見てみると奇妙な三つの紋様が刻まれていた。もちろん彼女に見覚えはない。どうやら怪我の類ではないようだが……
 はたと人の気配を感じてクララは顔をあげた。自分とガジェットⅠ型のあいだに見知らぬ少女が佇んでいる。麗々しい立ち姿だった。しかも今まで見たことがないほどの絶世の美人。なにげなく尊顔を拝したときは呆然となった。とめどなく吐息がもれそうになる。

「――問おう」

 夢のように美しい少女が言葉を紡ぐ。まるで水晶を思わせる声だった。耳元で綺麗な清い水が流れたような気がする。クララは最前の恐怖も忘れて少女の貴顕(きけん)に目を奪われた。

「汝が我を招きしマスターか?」

 惚けた表情で見上げてくるクララに、少女は凛然たる誰何の声を浴びせた。

 

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イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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