イヒダリの魔導書
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第二話 『凶鳥の羽搏き』(1)
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第二話 『凶鳥の羽搏き』(1)を更新します。
第二話は(1)、(2)、(3)、(4)に分割して更新していきます。
これからの更新予定日は、(2)が16日、(3)が18日、(4)が21日となります。
第二話もよろしくお願いいたします。
昼休みの時間を告げる鐘の音が鳴り響く。それと同時に教室の引き戸が乱暴に開かれた。
本気の腕力で開け放たれたのだろう。引き戸は耳をつんざくような音をたてた。そしてその教室の中から、猫科最速の動物さえ追いつけないような速さで二人の少女が跳び出す。
――高町なのはとフェイト・T・ハラオウンである。
なのはとフェイトは学校の廊下を全力疾走で駆け抜ける。その二人の視界を、風紀委員が廊下の壁に貼った『廊下は走るな、キケン』と書かれたポスターが横切っていく。
じつに気の利いた皮肉であった。今の二人を注意する文句に、これ以上の言葉はあるまい。
ちょうどそのとき、別の教室から出てきた男の先生が、疾走を続けるなのはとフェイトを見咎めた。予定調和のごとく「廊下を走るなッ!」という先生の
「ごめんなさい!」
「でも今は見逃してください。すいません!」
半泣きのような顔で謝るなのはに続き、フェイトも慌てた口調で言い添える。
目を三角にしてがなり立てる先生に対し、言葉どおり申し訳なさを感じてはいるらしい。が、それでもなのはとフェイトは走る速度を緩めなかった。
なのはとフェイトは友人関係も良好で授業態度も真面目。一見すれば非の打ちどころがない模範的な生徒である。しかしなぜか――魔導師の仕事が理由で――早退の数がやけに目立つ素行不良予備軍でもあった。そのため先生たちの信任はあまり
先生たちが密かに付けているブラックリストの片隅に名前が載っているくらいだ。おそらく先生の説諭を無視したとして、なのはとフェイトの評価はさらに下がるだろう。
なのはとフェイトは、文字どおりその場から逃げるように駆け去っていく。
もちろん、なのはとフェイトは何の理由もなく挙措を失っているわけではない。
管理局の仕事でロストロギアの違法売買の現場を押さえに行ったはやてとヴォルケンリッターたちが、当該の次元世界で襲撃されたという凶報を、先ほどエイミィに告げられたからだ。
はやてはかろうじて無事だったらしい。が、同じ現場にいたヴォルケンリッター及びロストロギアの違法売買を行っていた次元犯罪者たちは、もろとも石像へ変えられたという。
やがて中央階段に差し掛かり、なのはとフェイトはその階段を飛ぶような勢いで上がっていく。そんな二人の姿からは自明のごとく居ても立ってもいらない――そんな気持ちが如実に現れていた。必死という言葉を付け加えてもいいだろう。
今、なのはとフェイトは、こんなことを考えていた。
きっと、はやては自分を責めているだろう。
守護騎士たちを守ってやれなかった自分を、呪っているに違いない。
そんな負の感情を懐いているであろうはやてに対し、自分たちは何をしてやれるのか……。
情けないことに何も思いつかない。だがそれでも、傍にいてやることくらいはしてやりたかった。それは管理局の同僚という立場から来た情動ではない。
同じ街に住み、同じ学校に通う幼馴染みとして、友達として。
勇気づけることができるはずだ。励ますことができるはずだ。絶対に、絶対に。
まもなく階段を上りきったなのはとフェイトは、眼前に現れた扉を撥ね退けるように開け放った。
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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