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久遠の秘録 第二章『いつか手に入れたいと願った情景』(1)

 久遠の秘録 第二章『いつか手に入れたいと願った情景(せかい)』(1)を更新。
 今回の話は、ちょっと短めです。
 でも次の話は長いので、ちょうどいいかな? と思っています。
 で、その次回の更新ですが、9月2日(水曜日)になります。

 なんか昨日から24時間テレビが始まってたんですね。
 ちなみにジャニーズの「NEWS」がメインパーソナリティーです。
 ちらっと観たんだけど、やっぱ「山下智久」がいちばん輝いてるな。
 彼だけオーラの色が違う。なんでNEWSにいるのか不思議な男です。

 あと。
 管野美穂もいました。すげぇ久しぶりに見た。ちょっと感動しました。

 


「――○○○号室の名取にメッセージを。帰りは少し遅くなるかもしれないと」

 宿泊先のホテルのフロント係にメッセージを伝えると、夏目は静かに受話器を置いた。いまどきデジタルでもコードレスでもない、ホテルの部屋に設えてあるような電話機だ。
 ちなみに夏目と名取は携帯電話を持っていない。そのため別れて行動する相手に用件を伝えるには、あまり効率はよくないがホテルの従業員を介するしか他になかったのだ。
 ふと夏目は急に疎外感を覚える。これが文明に取り残された現代人の寂寥(せきりょう)だろうか。

「こういうとき携帯電話があると便利だなぁって思うよ」
「おまえの場合、あっても掛ける機会なんて滅多にないだろう。なにせ友達がいない」

 夏目のぼやきに、足元のニャンコ先生が狙いすましたタイミングで揶揄を返してきた。
 これには温厚を自認する夏目もムッとなる。ニャンコ先生を冷ややかに睨みつけた。

「うるさいぞ、ニャンコ先生。おれにだって友達の一人や二人は……いるさ」
「語尾に実感がこもっていないぞ。あいかわらずネガティブなやつだな、おまえは」

 がっくりとうなだれる夏目を見て、ニャンコ先生が気の毒そうな顔をした。そのとき。

「あ、夏目くん。用事は終わったの?」

 柔らかい声が足音とともに流れてきた。まるで親兄弟に接するような気安い口調。
 夏目は苦々しくニャンコ先生を一瞥したあと、やや硬い笑顔を作りながら振りかえる。

「おかげさまで。電話を貸してくれてありがとうございます、なのはさん」
「そんなに畏まらなくていいよ。家の電話でよかったら、いつでも貸してあげるから」

 礼を言いつつ頭をさげて恐縮する夏目に、対面の人物は(てら)いなく相好を崩して応じた。
 ――高町なのは。ふいに訪問した夏目とニャンコ先生を、訝ることなく自宅に招いてくれた穏やかそうな女性。そして天涯孤独のヴィヴィオを引きとった義理の母親である。
 話に聞くと彼女の年齢は二十歳。驚くべきことに夏目と五つしか違わない。
 にもかかわらず、口調には浮ついたところがなく落ち着いていた。おそらく数多の辛酸を誇りと自信に転化してきたのだろう。皇后(こうごう)を思わせる気品と風格もむべなるかなだ。
 否応なしに格の違いを意識してしまう。それでも夏目は毅然と面をあげて対峙した。
 なのはの前で卑屈な態度はとれない。それが彼女に対する最大の礼儀だと感じたから。
 夏目は内心の緊張を欠片も窺わせないよう、平静な語調を選択して言葉を紡いでいく。

「感謝したいのは電話のことだけじゃありません。急に押しかけた一人と一匹を快く歓迎してくれたことにもです。しかも古くからの友人のように気兼ねなく、ぼくたちを夕食に招待してくれました。ここに来てからは感謝してばかりいます。逆に戸惑うくらいに」

 口下手ながらも一生懸命に話す夏目に、なのはの柔和な表情がさらに優しくなる。

「こっちこそ。なんか強引に誘ったみたいで気が咎めてたの。だから迷惑じゃないみたいで安心した。それに夏目くんたちは、ヴィヴィオが海鳴市に来てはじめて作ったお友達だから、母親としては娘の幸せにどんな形でもいいから貢献したかったの。お節介かな?」

 なのはが上目遣いで夏目の顔色を窺う。期待と不安が半分ずつ入り混じった視線。それは夏目とはじめて逢ったときの、ヴィヴィオが覗かせた遠慮がちな仕草とよく似ていた。
 そのとき夏目は理解する。なのはとヴィヴィオは血の繋がりがなくても親子なんだと。
 突然、夏目の心中に奇妙なざわめきが湧く。子供じみているのはわかっていたが抑えられない。それは自分でも制御できない醜い情動――いわゆる嫉妬と呼ばれるものだった。
 夏目はおのれの気持ちを持てあます。ふたたび口を開くには三拍ほど間が必要だった。

「……そんなことありません。むしろ見習いたいくらいです。な、ニャンコ先生?」
「そうだな。私に対する尊敬と馳走(ちそう)を奮発すれば、さらに評価をあげてやってもいい」

 夏目が気もそぞろに水を向けると、ニャンコ先生は極めて鉄面皮な言い方で催促した。
 ニャンコ先生の辞書に「借りてきた猫」などという慣用句はないらしい。あくまで奔放な態度を崩さない無気味な招き猫に、夏目は胸の内のわだかまりを忘れて呆れかえる。

「先生は調子に乗りすぎだぞ。たまには年長者らしく落ち着いたところを見せてくれ」

 さっきニャンコ先生が堂々と喋りだせたのは、ヴィヴィオに高町家の面々を紹介されたおりに、夏目が妖怪のこともかいつまんで説明したからだ。魔導師という超自然的な存在に理解があるなら、妖怪という摩訶不思議に言及しても平気だろうと判断したのである。
 むろん確信があったわけではない。それでも結果は、夏目の予想を上回るものだった。
 高町家の人たちは、さして動揺もせずに順応したのだ。拍子抜けするほど呆気なく。

「でも話を聞いたときは驚きました。本当にヴィヴィオの『お母さん』なんですね」

 夏目が感嘆の声をあげた。すると高町なのはの口元に照れくさそうな微笑がのぼる。

「正直に言うと、わたしがいちばん驚いてるんだ。ほんとに人生って塞翁(さいおう)が馬だよね」

 その言葉どおり本気で意外だと思ってるらしい。なのはの両肩はおかしそうに震えていた。しかし彼女の声音に後悔の念は微塵も窺えない。それは確固たる母親の口調だった。

「それじゃあ夏目くん、そろそろ中庭へ移動しようか。みんな首を長くして待ってるよ」
「たしかバーベキューをするんですよね? ぼくたちが一緒で本当にいいんでしょうか」

 なのはの優しさがあまりにも自然なので、他人の親切に慣れていない夏目はためらう。
 なのはがにっこりする。臆病な夏目の心を解きほぐす、(かげ)りひとつない爽やかな笑顔。

「もちろんだよ。さ、遠慮せずについてきて」

 言うがはやいか、なのはが踵を返して歩きだす。その足取りは軽快で淀みがない。
 そんな彼女の背中を、夏目は慌てて追いかけた。豪儀(ごうぎ)な人だな、と感心しながら。


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イヒダリ彰人
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男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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