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久遠の秘録 第一章『新たな出逢い 妖狐と魔導師と』(1)

 久遠の秘録 第一章『新たな出逢い 妖狐(ようこ)と魔導師と』(1)を更新。
 次回の更新は8月27日(木曜日)となります。
 かなりあいだが空いてしまうのは、いちおう推敲しているからです。

 話は変わって。
 世界陸上が終わってしまいましたね。
 昨日の女子のマラソンは久々に燃えました。
 尾崎好美さん。銀メダル、本当におめでとうございました。
 つぎは金メダルをめざしてがんばってください。

 しかし、ウサイン・ボルトはマジで速いな。
 いったいどこまで速くなるんだろう?

 


「……おい夏目」
「なんだ、ニャンコ先生。まさか腹が減ったのか? 昼食なら食べたばかりだろうに」

 夏目は気だるげな視線を足元に送った。台詞は言外に、呆れた、と吐き捨てている。
 するとニャンコ先生は、とことこ歩きながらジロリと少年を睨みあげてきた。

「高貴な私を、そんな食欲の権化のように言うな。まったく失礼きわまりない奴だ」
「じゃあなんなんだよ。そのいかにも、文句あります、みたいな顔と声は」

 精神的な疲労で眉を(かげ)らせる夏目に、ニャンコ先生は苦々しい口調で文句をよこす。

「どうして私たちは繁華街でなく、こんな(わび)しいところを練り歩いているんだ?」
「がやがやしたところは苦手なんだ。それよりも、この街独特の情緒を観てまわりたい」

 ニャンコ先生の苦情に答えたあと、夏目は人気のない静かな風景を眺めまわす。
 先ほど通りすぎた立て看板の地図によれば、現在の所番地は海鳴市西町というところ。
 ホテルのロビーで名取と別れた夏目とニャンコ先生は、ゴールデンウィークで賑わう駅前の停留所からバスに乗り、この初夏の自然も瑞々しい郊外へとやってきた次第である。
 閑散(かんさん)とした住宅街だった。せわしなく行き交う雑踏や、わずらわしい喧騒とも無縁である。ただ初夏の緑に彩られた木立と、前髪を揺らす風だけが優しくて涼しい。街の特色に風光明媚(ふうこうめいび)を掲げているだけのことはある。夏目が期待したとおりの穏やかな場所だった。

「ニャンコ先生も見てみろよ。きれいな町だぞ。まわりにはゴミひとつ落ちてないし」
「その言い方、まるで環境省の役員みたいだな。それに断っておくが、私は地方の名産品を食ったり飲んだりしゃぶったりするほうが好みだ。情緒なんぞで腹は満たされんしな」
「ニャンコ先生こそ。やっぱり食い意地が張ってるだけじゃないか」
「花より団子という(たと)えを知らんのか。私は風流よりも実利を選ぶリアリストなのだ」

 そう偉そうに言いながら歩調を速めるニャンコ先生。短い足のくせにぐんぐん進む。
 夏目は歩幅を半歩ほど広くとるや、ニャンコ先生の左斜め後ろにぴたりと貼りつく。
 その気配をニャンコ先生は敏感に察したらしい。やおら思い出したように訊ねてくる。

「ところで夏目。おまえ、友人帳はきちんと持ってきているか?」
「もちろん。ちゃんとここに入れてるよ。でもどうして?」

 夏目は疑問に思いつつも、肩に提げたショルダーバックを右手で叩く。ちなみに衣服やらなにやらを収納したボストンバックはかさばるので、ホテルの部屋に置いてきている。
 ニャンコ先生は首だけで背後を振り向くと、すぐに「見せてみろ」と顎をしゃくった。
 促された夏目はバックに手を差し入れる。中から取り出したのは分厚い紙の束だった。
 一昔前の出席簿を思わせる古びた若草色の装丁――これがくだんの友人帳である。

「このとおり肌身離さず持ち歩いてるよ。で、わざわざ確認させてどうしたのさ」

 夏目は首を捻った。ちなみに取り出した友人帳はショルダーバックの中に戻している。
 ニャンコ先生は応答しない。ただ思考の読めない無機質な視線で周囲を眺めるばかり。
 不可解な沈黙だった。夏目は次第にじれてくる。まさか今になって海鳴市の情緒に興味を抱いたのだろうか。それにしてはニャンコ先生の眼光が、いささか鋭いような気がする。
 と、いきなりニャンコ先生が重々しい語調で喋りはじめた。

「この土地は、妖の住処としては申し分ないほど霊的な力に満ちている。その霊力に惹かれてやってきた妖もたくさんいるだろう。なかには友人帳のことを知っている奴がいるかもしれん。くれぐれも隙をみせたりするなよ。……懸念は他にもあるんだからな」
「なんか気になる言い方だな。妖のこと以外に、どんな不安の種があるんだよ?」

 夏目は憂鬱になった。妖怪のこと以外で彼が危惧(きぐ)しているのは、あとは人間との付き合い方くらいだが……ニャンコ先生が示唆(しさ)していることは、もっと殺伐としたものだろう。
 夏目は緊張のあまり大きく溜息をついた。一方で、ニャンコ先生は淡々と話を続ける。

「この土地の霊脈には人為的なものを感じる。なにか大規模な儀式をおこなった名残のような、あるいはこれから起きるのかもしれんが。どちらにせよ警戒だけは怠るなよ」

 ニャンコ先生が念を押す。招き猫めいたブサイクな顔を二割ほど真剣な表情に変えて。
 めずらしく用心棒らしい忠告だった。夏目は額面どおり素直に受け取ることにする。

「わかった。いつも以上に用心するよ。だからニャンコ先生も、しっかり守ってくれよ」

 これは余談だが。
 ニャンコ先生が敏感に感じた不穏な気配の正体は、十年前の海鳴市で端を発した『P・T事件』と、その半年後に勃発した『闇の書事件』の置き土産と言えるものだった。
 ロストロギアという強力な古代遺産をめぐる事件が立て続けに起きたため、次元の歪みやらなにやらで地脈が変調をきたし、海鳴市を後発的な霊地として覚醒させたのである。
 もっとも、その場にいなかった夏目とニャンコ先生には、与り知らない事実だったが。

 はたと夏目が立ち止まる。そぞろ歩きをやめると、石碑に刻まれた文字を読んだ。

「……八束神社か。せっかく来たんだし、参詣(さんけい)でもして験を担いでみようかな」

 言いながら境内まで伸びた石段を仰ぎ見る夏目。その段数は眩暈(めまい)がしそうなほど多い。
 するとニャンコ先生が「なにッ!」と凄まじい形相で驚く。おおげさに瞠目(どうもく)していた。

「おまえ、アホウもここに極まれりだな。寺めぐりなどしてどうする。つまらんぞ」
「偏見に満ちた意見だな。それに寺めぐりじゃなくて旅の安全を祈願するだけだよ」

 ニャンコ先生が脅すから怖くなったんだ、と半分本音半分非難の意味をこめて応じた。
 その言葉を聞いたニャンコ先生の目つきが、とてつもない愚者を発見したそれになる。

「霊験あらたかに頼っても無駄だぞ。おまえが頑なに友人帳を持っているかぎり、妖がらみのトラブルは死ぬまで終わらないだろう。それが嫌なら友人帳を私に譲渡することだ」
「気休めって、すごい大事なことなんだよ。それに何度も言うけど友人帳はやらないぞ」

 ニャンコ先生にぎりりと一瞥を送ると、夏目は断固たる足取りで石段をのぼっていく。
 その後ろからニャンコ先生が「体力のない奴が無理するな」と野次を飛ばしてくる。
 夏目は無視を決めこんだ。むろん言い返せないわけでも泣き寝入りでもない。あの忌々しいブタネコの前で堂々と石段を登頂し、勝ち誇った表情で見下ろしてやる心算だった。
 負けられない戦いである。夏目は『石に齧りついても』の気概で足を前に進めていく。
 ――だが。その決意は、石段を半分ほど踏破したあたりから、徐々に消沈していった。
 呼吸は難渋、横腹は痛い、足は棒のよう。文字どおりの三重苦に襲われたからである。
 あやうく昇天しそうになったことも一度や二度ではない。それでも彼は挫けなかった。
 へろへろになりながらも鳥居を潜り抜け、夏目は一日千秋の思いで境内へと辿りつく。
 頭の芯は暑さと疲労で半分がた死んでいたが、そのときの達成感と爽快感は絶大だった。
 それが束の間でしかなかったのは、すでに勝ち誇った表情で鎮座ましましているニャンコ先生の姿を、境内に見いだしたからだ。夏目の口の中に絶望と敗北の味が染みわたる。

「……り、理不尽だ。そんなに寸胴なのに、どうしておれより機敏に動けるんだよ」
「ふふん。これが実力の差というやつだ。それにしてもおまえは体力がないな」

 負け惜しみを並べたてる夏目に、ニャンコ先生は自尊と憐憫と同情の言葉をたまわる。
 夏目のプライドはズタズタだった。しかし体力の回復に忙しく心痛を覚える暇がない。
 今にもへたりこみそうな体を叱咤しつつ、夏目はあらためて境内の様子を眺めてみる。

「参道はコンクリートで舗装されてるけど、ぱっと見、塵ひとつ落ちてる様子がないな」
「鳥居から本殿・拝殿に続く参道は、神と人を結びつける意味を持っているからな」

 なんのけなしに呟いた夏目の感想に、ニャンコ先生がおもしろくなさそうに答えた。

「だから参道は、つねに神職の手で清潔な状態に保たれているんだ。ちなみに参道の真ん中は神の通り道と言われている。迂闊に歩くと神罰が下るかもしれん。試してみてくれ」
「ふざけるな。そんな縁起の悪いことできるわけないだろ」

 大方(おおかた)、夏目が神罰で()ったら、友人帳は弄せずして自分のものになる、とでも考えているのだろう。用心棒らしからぬ狡猾な奸計だ。本当に守ってくれる気があるのだろうか。
 夏目は嘆息すると、にやつくニャンコ先生を無視して参道の突き当たりに目を向けた。
 そこには床を高く持ちあげる高床式の社殿があった。切妻造(きりづまづくり)平入(ひらい)り・掘立柱(ほったてばしら)の三点を見事に融合させた神明造(しんめいづくり)の建物。いかにも霊代(たましろ)が祭られていそうな厳かな雰囲気である。

「ともかく苦労してここまで来たんだ。なにもせずに帰ったんじゃ意味がない」

 八束神社に立ち寄ったのは御利益を得るためだ。運動不足を痛感するためではない。
 しばらく休んで息を整えた夏目は、疲労で重くなった足を運んで参道を歩きはじめる。
 ――横合いから飛び出してきた小さな影が、ふいに夏目の足元を掠めすぎたのは、社殿まであと十歩の距離に来たときだった。意表を衝かれた夏目は、その影を凝然と見やる。

「……子狐? どうしてこんなところに子狐が?」
「むっ、気をつけろ夏目。野生の獣は厄介な寄生虫を持っている可能性がある」

 もの珍しさに呆けてしまった夏目に、ニャンコ先生がいたって真面目に忠告した。
 ニャンコ先生だって、ある意味では野生の獣と同じだろうに、と夏目は失笑する。
 一方、子狐は境内を右から左に横断していく。……血の滲んだ左の前足を庇いながら。
 どうやら怪我をしているらしい。それに気づいた夏目は駆け寄ろうかどうか逡巡する。
 ――そのとき。

「狐さん、ちょっと待って。――わっ、お兄さん、危ないッ!」

 子狐と前後して現れた人影に気がつかず、夏目は脇腹に体当たりを食らってしまう。
 衝撃で、夏目の体がよろめく。その傍らで「きゃっ」とかぼそい悲鳴が同時にあがる。
 夏目は慌てた。おたおたとまごつきながら、尻餅をついた少女に手を差し伸べる。

「すまない。よそ見してて気づかなかった。怪我はないかい?」
「あ、はい。大丈夫です。わたしこそ不注意でした。ごめんなさい……」

 夏目の手を借りて起きあがると、少女は顔を伏せたまま謝罪の言葉を返してきた。
 見た目で判断すれば六歳か七歳ほど。腰まで届く長い金髪には、緩やかながらも濃淡がついている。知らない人にぶつかって萎縮しているのか、あるいは叱られると思って怯えているのか、その口調は舌足らず。身なりは素朴で、少女の性格を表わしているようだ。
 少女はスカートのお尻についた埃を手で払うと、おずおずと夏目を見上げてきた。
 途端に夏目は息を呑んでしまう。人の容姿を見て驚くのは失礼だと思っていたのに。
 だが無理もなかった。
 右が翡翠(ひすい)、左が紅玉(こうぎょく)――左右の虹彩が異なる綺麗な瞳が、夏目の顔を映したのだから。


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イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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