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魔法少女リリカルなのはEine Familie 第八話 『響け終焉の笛』(5)

魔法少女リリカルなのはEine Familie 第八話 『響け終焉の笛』(5)を更新。

月刊LaLaで連載中の、緑川ゆきさんの漫画。夏目友人帳がおもしろい。
読みはじめたきっかけは、アニメを観たからです。
なんていうか……しんみりとした雰囲気?
切ない感動、優しい感動を絶妙にブレンドさせたストーリーは、まさに秀逸。
少女漫画って、読み始めるまでは抵抗あったりするけど、
一度目を通してみると普通にハマるから止められない。
男性の描く漫画とは一味違う情緒があって、雰囲気づくりの勉強になったりするし。
少女漫画だといって食わず嫌いせず、一度読んでみてください。
オススメですよ。



 鬩ぎ合う閃光。相克する魔力の奔流。そして止めどなく鳴り響く轟音。
 はやてと闇の書の闇が連発するフレースヴェルグが、両者を結ぶ空間で幾度も激突する。
 その熾烈な魔法の撃ち合いに押し負けたのは――はやてだった。
 三条の光線が時間差なく、ほぼ同時に夜天の王へと迫る。はやては素早く身を翻して横へずれた。そのすぐ傍らを、三発の魔弾が流星のように尾を曳きながら擦過していく。後追いする気流と衝撃に全身を煽られて、はやては綿毛のように吹き飛ばされてしまう。
 はやては六枚の黒翼を荒々しく上下動させ、錐揉(きりも)みする体を強引に制御した。
 悔しさに目を細めたはやての視界に、余裕の薄ら笑いを浮かべる闇の書の闇が映りこむ。
 はやての、あどけない京人形めいた端整な顔が、怒りと屈辱でしかめられる。

「何度やっても撃ち負けてしまう。どうしてや? リインフォースとユニゾンしてるのに、なんでこんなに差が出るんや? まだわたしに、なにか足りない部分があるんか?」

 はやての呟きは、半ば苦悶じみていた。対して、リインフォースが冷厳な声で推察する。

『どれだけ演算速度に秀でたデバイスを用いても、ほんらいなんの実効力も持たないはずの魔法を現実の事象として顕現させるには、若干のタイムラグはどうしても発生します。それは魔力を魔法に昇華する儀式的な作業と、一般的な呪文の詠唱のことを言います。
 ですが闇の書の闇に、その手の作業は一切必要ないのです。なぜならあれの存在自体が、すでに一個の常時展開型の魔法として成立しているからです。闇の書の闇は一から魔法を構築しているのではなく、すでに展開された魔法を外部に向けて〝連発〟してるだけなのです。闇の書の闇が魔法を使う前に行っているのは、おそらく属性変化くらいのものでしょう』
「えっと……それってつまり、魔法を行使するためのプロセスがないってこと?」
『はい。因果など関係なく、いきなり結果だけを導き出せる。弾切れはないし、弾を込める必要もない。なんの制限もなく魔法を速射できる桁外れの怪物。それが闇の書の闇です。
 魔法の撃ち合いに勝機はありません。攻撃速度が圧倒的に負けているからです』

 正味のところを淡々と語るリインフォース。その見解は、まるで自分たちに勝ち目がないと(ほの)めかしているようである。むろん、リインフォースにそんな気はないだろうが。
 はやては苦笑する。リインフォースの物言いは率直で好感が持てるが、言葉の内容だけを吟味すると絶望してしまう。魔法で敵わない相手に、どう立ち向かえばいいというのか。
 一方、闇の書の闇は綽々(しゃくしゃく)としていた。おのれの揺るがぬ優勢に気をよくしているらしい。苦々しく顔を歪めるはやてを見ながら、よりいっそう(かさ)にかかって(さえず)りはじめる。

「ドウデスカ、主ハヤテ。私ハ強イデショウ? 今、アナタノ中ニ巣クウ雑魚ナドトハ、比較ニナラナイホドニ。ソレナノニマダ、ワガママヲ言ッテ抵抗スルツモリデスカ?」

 自己陶酔に浸りながら、闇の書の闇が嘲り笑う。はやては伝法な口調で言い返す。

「そうや。わたしはわがままや。けど、わがままやから諦めない。シグナムもヴィータもシャマルもザフィーラも、そしてリインフォースも……みんな好きやから。だから絶対に諦めたりせえへん。絶望しても光が見えなくても、わたしはみんなと生きることを選択する!」

 瞳に凄愴な闘志を燃え上がらせて、はやてはシュベルトクロイツの長柄を握りしめる。
 澱んだ喜悦に酩酊する闇の書の闇が、氷水をかけられたかのように身を震わせた。赤い憎悪に濁った双眸が爛々(らんらん)と輝き、怒りで研ぎ澄まされてより剣呑になっていく。

「ナゼダ! ナゼ私ヲ見テクレナイノデス! ナゼ私ダケヲ見テクレナイノデスカッ! 
 私ガ、コンナニモ求メテイルノニ。ナゼアナタハ、イツモイツモ奴ラノコトバカリ――」

 言いさして、まるで何か思い出したように目を瞬かせる闇の書の闇。それから口元を、にいっと吊り上げて笑う。喜悦と表するにはあまりに邪悪で、あまりに残忍な表情で。

「ナラ私ニモ考エガアル。……イヤ、今ニシテ思エバ、コレガ唯一の方法ダッタ」

 闇の書の闇が片手を突き出す。前方、およそ十歩の距離にいるはやてに向けてではない。
 はるか西空の先で黒騎士たちと戦う、ヴォルケンリッターたちの方角へ、だ。
 ――まさか遠距離砲撃魔法で、味方の黒騎士ごと守護騎士たちを攻撃する腹づもりか。
 鋭敏な洞察で敵の意図に気づき、その残虐ぶりにはやては顔色を青くする。
 闇の書の闇は、銀灰色の長髪を愉しげに震わせると、奇妙に達観したような口調で呟く。

「始メカラコウシテイレバヨカッタ。始メカラ守護騎士タチヲ消滅サセテオケバヨカッタ。ソウスレバ主ハヤテハ独リニナル。私以外、誰モイナイ世界デ」

 差し向けた左手の前面に魔法陣を展開しながら、闇の書の闇は赤い両眼で西空を見る。
 人の声も想いも届かない千尋の水底に、ただただ嫉妬と怨嗟だけを沈めていく。それは闇の書の闇が抱える狂気の堆積。偏執に憑かれた者の心にだけ宿る、暗黒の精神だった。

「私ニ守護騎士タチハ必要ナイ。ダカラ殺ス。完膚ナキマデニ殺シ尽クス。――死ネ!」
「止めてぇぇぇぇッ!」

 漆黒の魔法陣から砲撃魔法が迸らんとする刹那、はやてがその射線上に立ちふさがった。
 闇の書の闇が、赤い瞳を驚愕に瞠る。発射寸前だった鏖殺(おうさつ)の魔法を慌てて解除した。それから両手を広げて立ちはだかる夜天の主に、妬みと怒りの絶叫をあびせる。

「邪魔スルナ、主ハヤテ! コレハ、アナタヲ呪縛カラ解キ放ツタメノ儀式ナノデス!」
「ふざけるなぁ!」

 はやての雷鳴もかくやという凄まじい怒号に、闇の書の闇が怯んだように口を噤む。
 怪訝そうに眉根を寄せる闇の書の闇を、はやては灼熱の刃を思わせる眼光で睨み据える。

「わたしのために、わたしのためにと言いながら、あなたはいつも自分の感情ばかり優先して、みんなを平気で傷つける。まるでそれが正しいことであるかのように。でも、そんなのは間違ってる。だからわたしは戦う。みんなを傷つけるあなたを、わたしは否定する!」

 はやては怒気の言葉を吐き捨てた。――がしかし、その気炎はすぐに、寒々とした感覚に呑まれてしまう。闇の書の闇が、まるで死相のように表情を失っていったからだ。
 はやては、わけが判らず当惑する。そんな少女の眼前で、闇の書の闇が口元を歪めた。
 その瞬間、はやては理解してしまう。たったいま、闇の書の闇が胸中に浮かべた情念を。
 同じ心は響きあう。程度の差こそあれ、同質の感慨を懐いたものにしか判らない表情というものがある。自分ではどうすることもできない孤独に諦観し、かといって誰かにすがる勇気も希望も持てない弱い精神。ただ胸の中の苦しみを抱えて自閉するしかなかった心理。
 間違いない。それは足が不自由だったころの、はやてがよく浮かべていた自嘲だった。
 ――もしかすると、闇の書の闇も、ほんとうは淋しかっただけなのかもしれない。
 ふと気がつけば、はやては少しずつ前に進んでいた。向かう先には、闇の書の闇がいる。
 はやては同情していた。過去の自分と似た痛みをみせる、闇の書の闇に。その悲嘆に。
 一歩ずつ慎重に足を運ぶように、はやては飛行魔法で虚空を進んでいく。はやての胸中に、もはや怒りは寸毫(すんごう)もない。ただ、闇の書の闇を慰めたい気持ちで一杯だった。
 突如、闇の書の闇が笑いだす。泣き笑いのような顔で、狂ったように憑かれたように。
 ひとしきり狂い笑ったあと、闇の書の闇が困惑するはやてを見据えた。暗い暗い、どこまで昏い失望の眼差しで。その凝視があまりに悲痛だったので、はやては絶句してしまう。

「……判ッテイタ。ドウセ私ハ誰カラモ愛サレナイ。誰カラモ必要トサレナイ。ショセン破壊スルコトシカデキナイ厄介者ダトイウコトハ。ソレデモ私ダッテ――ガ欲シカッタノニ」

 掠れていたせいで聞きとりづらかったものの、闇の書の闇が血を吐くように呟いた台詞を、はやては耳をそばだてて細大漏らさず聞きとがめていた。衝撃的すぎて言葉も出ない。
 はやては憐憫を懐く。闇の書の闇とて、その願いの形は自分らと変わらなかったのだ。
 そんなはやての心中を知ってか知らずか、闇の書の闇が割れるような声音で悲憤する。

「……壊シテヤル。コンナ世界。私ヲ忌避スル世界ナンテ、スベテ壊レテシマエバイイ! ソウダ、私ハ復讐スル。残酷ナ愉悦デ私ヲ玩弄(がんろう)スルコノ世界ニ、私ハ復讐スル!」

 鬼面の相で吼え糾したあと、リインフォースに似た闇の書の闇の相貌が、一転して静かな面持ちへと変わる。髑髏(どくろ)のように虚ろで情緒の欠片もない、諦めと思考停止の表情に。

「……主ハヤテ、アナタヲ殺シマス。目ノ前二アルノニ手二入ラナイ希望ナンテ、タダ残酷ナダケダカラ。私ハアナタヲ殺シテ、ソノ未練ヲ断チ切ル。ダカラ……死ンデクダサイ」

 闇の書の闇が悄然と呟く。憤怒も憎悪も殺意もない、聞くだけで胸が塞がるような声音。ただしその口調には、迷いや躊躇いは一切ない。闇の書の闇は今度こそ正気で、はやてを殺害するつもりなのだ。捨てきれない希望を、はやてもろとも消そうとするかのように。
 それは間違いなく死の宣告だった。なのになぜか、はやての耳には慟哭じみて聞こえた。
 ――助けて、助けて、助けて。そんなふうに聞こえてならない。
 はやては、辛そうに目を細める。できればもう、闇の書の闇と戦いたくなかった。

『主はやて。闇の書の闇は本気です。どうか迎撃の準備を。先んじられたら負けです』

 やるせない心痛に苦しむはやてに、リインフォースが思念通話で進言してくる。
 リインフォースの口調はあいかわらず冷厳だったが、その声には物悲しい色もあった。おそらくリインフォースも、闇の書の闇に対する印象をあらためたのだろう。そして、こう思っているに違いない。――闇の書の闇は、ほんとうは憎むべき敵ではない、と。

「判ってる。わたしだって、こんなところで殺されてやるつもりは少しもない。わたしの命は、もうわたしだけのものやないから。……それに、ちょっとだけ欲も出てきたし」

 はやては含みのある言葉を吐くと、シュベルトクロイツを構えて徹底抗戦の意思を示す。 振り返れば、仲間や友達を襲った闇の書の闇に対する怒りばかりが先走って、闇の書の闇と対話しようとも思わなかった。冷静になって話し合えば、もしかすると分かり合えたかもしれないのに。自分以上に可哀想な子だと、もっと早く気づけたかもしれないのに。
 ……遅いだろうか。もう自分の言葉は届かないだろうか。いや、きっとまだ間に合う。

「せやから、絶対に負けられへん。泣いてる子を、助けるために!」

 決然と言い放つや、はやては自分の気持ちを相手に伝えるような切々たる声で詠唱する。

「響け終焉の笛――」

 そのとき闇の書の闇も、まるで見計らっていたかのような気息で、はやての詠唱に続く。

「久遠ノ(ハン)ヨリ来タレ終焉――」

 呪文の文言こそ違うものの、行使する魔法と前面に展開する魔法陣は、彼我ともに同じ。
 猛る魔力。
 吼える終焉。
 両者のベルカ式魔法陣の各頂点で束ねられた膨大な魔力が――いま轟然と撃ち放たれる。

『――ラグナロク!』


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イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
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