イヒダリの魔導書
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第八話 『響け終焉の笛』(3)
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第八話 『響け終焉の笛』(3)を更新。
最近、たぶん切痔(きれじ)気味。
トイレットペーパーでケツを拭きすぎるのが原因かと思われる。
よく血が出てきて困る。
家にはウォシュレットなんて文明の利器はないから、
もしかするとこれは宿業なのかもしれない。
……オロナインでも塗ろうかな。
戦況は芳しくなかった。いや、むしろ最悪と言っていいだろう。
戦場からわずかに離れた虚空。その位置で見守るシャマルの視界には、傷だらけの体に鞭打って戦うザフィーラと、その彼を絶え間なく攻め続ける二人の黒騎士が映っていた。
事実上の二対一……だが順当に考えるなら、この窮地はありえない展開であった。
ザフィーラの姿と能力を模した黒騎士なら、盾の守護獣と渡り合えるのは道理である。そこに疑念も当惑も湧かない。ごく当たり前のように事態を把握することができたろう。
が、ありえない問題はもう一方、シャマルの姿と能力を模した黒騎士のほうにあった。
「……クラールヴィントに、あんな機能を付与してるなんて」
気丈なはずのシャマルの声音には、隠しようのない畏怖と困惑があらわだった。
柔和な面立ちを強張らせて震撼するシャマルの視線は一点に、黒騎士シャマルが頭上で振り回す紐状のデバイスにのみ注がれていた。渦巻く暗雲のごとく旋回する一条の影に。
一見、その形状は紐を伸ばしたペンダルフォルムに似ていたが、断じてそれではない。
――鎖鎌。
ただそれだけならまだ尋常な得物だが、その鎖にあたる部分はすべて小さな刃物の群れで構成されていた。ひとつひとつは幼児の掌ほどの大きさの魔力刃。それが幾重にもわたって連結され、一本の
そこにペンダルフォルムの面影はない。鋭利に研がれていない場所は存在せず、どこをどう触ろうが肉を切り裂く、まさに殺意を武装化したような残虐性きわまる凶器だった。
生理的嫌悪感に、シャマルは眉をひそめる。シャマルとて前衛で戦える力を望んだことは一度や二度ではないが、黒騎士シャマルの武装は狂気じみた殺戮兵器でしかない。自分と同じ外見でそれを揮われるのは、シャマルにとって度しがたい屈辱でしかなかったのだ。
不快に思う理由はまだある。前方で暴威を展開する黒騎士シャマルを観察していると、まるでありえたかもしれないもう一つの可能性――八神はやてと出逢わなかった場合の自分の姿――を、まざまざと見せつけられているようで、いささか以上に快いものではなかった。
ただ後ろで見守るしかない。その現状に苛立ってか、シャマルは物憂げになってしまう。
そんなシャマルを我に返させたのは、黒騎士ふたりを相手に奮戦するザフィーラの危機だった。黒騎士シャマルの鎖鎌が、ザフィーラの首を刎ねんと迸ったのである。
「――クラールヴィント、防いでっ!」
傍観している暇はない。シャマルは焦った声でクラールヴィントに指示を出す。
その指示に呼応して現出した全周囲展開型のバリア魔法がザフィーラを護り、唸り飛ぶ黒騎士シャマルの凶刃を間一髪で凌いだのは次の瞬間だった。シャマルの障壁に弾かれた鎖鎌が、蛇のような素早さで黒騎士の手元に引き戻されていく。シャマルは安堵した。
「――シャマルっ! その場から離れるんだ! 早くッ!」
突然、ザフィーラの切羽詰まった叫び声が響く。シャマルは戦慄に凍りついてしまう。
いつのまにかシャマルの目の前に、さきほど撥ね返したはずの鎖鎌が肉薄していたのだ。
おそらく弾かれて手元に戻ってきた鎖鎌を、黒騎士シャマルが間髪入れずに送りこんできたのだろう。遠心力で加速した二撃目の奇襲が、今度はシャマルの
シャマルは完全に虚を衝かれてしまう。ザフィーラばかりを襲う黒騎士の行動を分析した結果、敵はまだ自分を攻撃対象と見なしていない――そうシャマルは早合点していたのだ。
しかし、ふたりの黒騎士の観点からすれば、単に今までシャマルが戦いに介入してこなかったから襲わなかっただけなのだろう。つまり偶然にもシャマルは、自分から黒騎士たちの標的になることを選んでしまったのである。これは間違いなく、シャマルの不覚だった。
意思あるもののごとくうねくる凶刃。シャマルは動けない。まるで魅入られたように。
事実、シャマルは魅入られていた。圧倒的な殺意を伴って迸る、死という断絶の究極に。
もはや絶望的かと思われたシャマルの命運。その儚く散ろうとする魂を直前で救ったのは、シャマルの
呆気にとられたシャマルの傍に、険しくそそり立つ岩のような風情でザフィーラが立ち現れる。たったいまシャマルを守った障壁は、どうやらザフィーラが行使した魔法らしい。
「シャマル、さっきは助かった。だが、おまえも無茶はするな。狙われるぞ」
「でも、このままじゃ――」
シャマルは言いさして口を噤んでしまう。シャマルの返答を聞くこともなく、ザフィーラが戦線に戻ってしまったからだ。ザフィーラと二人の黒騎士の戦いが無情にも再開する。
シャマルの両手が固く握りしめられた。背水の陣に等しい悲壮な戦いを強いられるザフィーラを、ただ見守るしかない無力な自分が情けないのだ。シャマルの瞳が焦燥の色を刷く。
形勢は推し量るまでもなくザフィーラが不利だ。これはどう曲解しても揺るがぬ趨勢だろう。なればこそシャマルが、ここでザフィーラを援護しなければならない。
やるべきことは明確だ。シャマルとて誰より痛感している。それでもザフィーラの足を引っ張る可能性を考えると萎縮してしまう。さきほどの失態が痛烈に尾を引いていた。
――はやてなら、きっと迷いはしないだろう。敬愛する主のことを脳裏に思い浮かべたとたん、胸の中にふつふつと勇気が湧いてきた。シャマルの逡巡がたちまち覚悟へ変わる。
ザフィーラには『無茶をするな』と忠告されたが、もはやそんなことは言っていられない。ここは無茶でもなんでもして、血路を開かねばならないだろう。でなければシャマルとザフィーラの辿る末路は、黒騎士ザフィーラの連打に撲殺されるか、あるいは黒騎士シャマルの鎖鎌で
たとえ無力でも、いまは戦うしか他にない。進退は、とうに極まっているのだから。
「クラールヴィント、導いて」
『Pendelform』
シャマルは意を決すると、クラールヴィントの形態をペンダルフォルムに変えた。
むろんペンダルフォルムに攻撃手段はないが、指輪本体を繋ぐ魔力で編まれた紐は伸縮自在である。この性質を応用すれば、バインドのように敵を捕縛することも可能だ。
ペンダルフォルムの魔力紐を使って敵の四肢を絡めとり、その動きを少しでも阻害する。そうしてできた隙をザフィーラが衝く。それがシャマルの考えた
ところがシャマルは、クラールヴィントをそのような形で使用したことが一度もない。ほとんど場当たり的で、成否も定かではない大博打である。最善の手段では到底ありえない。
だがそれでも、シャマルは迷わなかった。ただ毅然とした覚悟を、その両眼に灯す。
シャマルは捕縛対象を黒騎士ザフィーラに決めると、右手のクラールヴィントの紐を相手に向かって伸ばしていく。志を同じくする盾の守護獣なら必ずや、自分の意図に感づいて応じてくれるものと信じて。シャマルは長く長くペンダルフォルムの紐を伸長していく。
が――次の瞬間。
「鋼の軛ッ!」
ザフィーラの鋼の軛が、黒騎士ザフィーラのまわりを檻のように囲った。
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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