イヒダリの魔導書
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第一話 『揺籃の闇』(3)
なんとか予定日に更新できました。
次回の更新予定日は10月30日(木曜日)です。
《追記》
10月29日(水曜日)AM1時からAM6時まで。
サーバーメンテナンスのため、ブログが閲覧できなくなります。
ご了承ください。
一方、同じ階のエレベーターホールでも、目を疑うような破壊の旋風が吹き荒れていた。
獰猛な顔に怒りと怯えを刻む次元犯罪者が、鋼鉄の一撃に殴り倒される。
鉄槌の騎士ヴィータが振り回すグラーフアイゼンの猛攻だった。
「いくぞ、アイゼン!」
『Jawohl』
雄叫びとともに二発、三発……間髪入れずに繰り出される打撃の連続に一人、また一人と薙ぎ倒されていく。巨漢を誇る次元犯罪者たちは、デバイスを構える猶予すらない。
十人以上の次元犯罪者――彼らはシグナムに駆逐されている組織とは別の集団である。
売買とは、つねに売り手と買い手が存在する。つまりシグナムと交戦しているのがロストロギアを売る側の組織。そしていまヴィータが相手をしているのが、ロストロギアを買う側の組織に紛れもない。
シグナムの脅威を回避した買い手側の組織は、このエレベーターホールでヴィータと遭遇したのだ。それがシグナムとヴィータの、彼女らの主が考えた作戦だとはつゆ知らずに。
二つの組織はいつのまにか、その主の術中にはまり、知らぬ間に誘導されていたのである。
――風が唸る。
振り下ろされたグラーフアイゼンに撥ね飛ばされ、さらにまた一人、視界から消えた。さして間を置かず、遠くの方で肉が堅いものにぶつかる音が聞こえてきた。
エレベーターホールは薄暗いため、奥まった部分の視認は困難だ。そのため断定はできないが、おそらく吹き飛んだその一人が落下して床に激突したのだろう。
十人以上いたはずの次元犯罪者たちは、気がつけばその数を半分にまで激減させていた。
凶悪な面貌をした男たちは一様に、目を白黒させて口を呆けたように開けたまま、無防備に佇立している。彼らにしてみれば、およそ信じられない光景だったに違いない。
自分たちの胸元――いや、腹部に届けばせいぜいな背丈の、小学生を
近接戦闘では必死。近づかせるのは自殺行為。思考を巡らすのに難渋しながらも、そのことにようやく思い至ったらしい。かろうじて無事な六人の次元犯罪者が、ここにきてやっと反撃を開始した。
六人は切れ目ない射撃魔法の連発でヴィータを牽制しつつ、体は前方を向いたまま、すり足でフロアの中央まで後退していく。
そこに屹然とそびえ立つは、直径一〇〇センチはくだらない巨大な支柱。三十階に位置するエレベーターホールを磐石と支える五本ある支柱のうちの一本だった。
この頑強な支柱を
なるほど、彼らの戦略はなかなか効果的だ。彼らが身を潜める支柱は見た目以上に強固である。いつ崩れてもおかしくない廃ビルを支え続ける支柱の耐久力は、文字どおり伊達ではない。
六人の次元犯罪者の企てに気づいたヴィータが、挑むような眼差しを支柱へと向ける。
「……上等」
グラーフアイゼンの柄を両手でぎゅっと握りしめ、ヴィータは口元に不敵な笑みを刻む。
その程度の支柱で自分とグラーフアイゼンを阻めると考えているのなら、それは大きな間違いだ。しょせんは苦しまぎれの浅知恵だと、存分に思い知らせるべきだろう。
「アイゼン、フォルムツヴァイ!」
『Explosion』
カートリッジがロードされるや、グラーフアイゼンが変形をはじめた。
ハンマーの打撃面に尖鋭なスパイクが露出し、さらにもう一方の打撃面には、推進剤噴出口が現れる。グラーフアイゼンの第二形態――ラケーテンフォルムだ。
グラーフアイゼンの変形を終えると同時にヴィータは翔け出す。
突進してくるヴィータに狙いをつけ、六人の次元犯罪者が次々と射撃魔法を放っていく。
飛来する魔弾の群れを、だがヴィータは避けようともしない。まるで魔弾が見えていないかのように、ヴィータはかまわず突っこんでいく。
そんなヴィータの愚行を見咎めて、次元犯罪者たちは目を丸くする。彼らはこのとき、こう思ったに違いない……死ぬ気か、と。
むろん、ヴィータにそのつもりはない。
それは決して不可能ではない。鉄槌の騎士と
「ラケーテン――」
グラーフアイゼンの打撃面に現出した、推進剤噴出口がやにわに火を噴く。噴射した炎に煽られるように、ヴィータは滑空したままの状態で旋回する。そのまま独楽のように回転しながら前進を続け、ヴィータはあっというまに支柱に到達した。
「ハンマーッ!」
旋転の遠心力で加速を重ねたグラーフアイゼンが、野獣の咆哮めいた唸りとともに支柱の側面へと襲いかかった。
打撃面から露出したスパイクが深々と抉りこみ、支柱の表面に無数の
支柱の陰に潜む六人の次元犯罪者が、動きの止まったヴィータにデバイスの筒先を据える。
いくらヴィータといえども、この至近距離で魔弾の洗礼を受ければ、まず間違いなく死ぬ。もはやヴィータには、バラバラに四散した肉片となる末路しか残っていない。
勝利を確信した六人が陰惨な笑みを浮かべる。
そんな彼ら六人が、とどめの魔弾を射出しようとした次の瞬間――
スパイクがめりこむ支柱の軋み。推進剤噴出口から吐き出される炎の射爆。そしてヴィータの烈声。それらが息を合わせたように重なり合い、轟然と迸った。
「ぶっ飛べぇぇぇぇッ!」
耳を聾する轟音と衝撃。ヴィータは小さな体を全力稼動させてグラーフアイゼンを振り抜き、分厚い支柱の直径を豆腐のように砕き割った。
粉々になった支柱の真ん中に、大人の背丈ほどの隙間が
支柱の陰に隠れていた次元犯罪者たちの目が、
その眼差しに叩きのめされたように、六人の男たちがそろって腰を抜かす。彼らは無様に尻餅をついた姿勢のまま、見上げるようにヴィータを凝視する。
瓦礫を踏みしめて六人の前に立ちはだかったヴィータは、まるで威嚇するようにグラーフアイゼンを彼らの眼前に突きつけた。
「これ以上抵抗するなら、次は本気でいく。その結果がどうなるかは、言わなくても判るよな?」
口元に浮かべる笑みに含みを持たせ、ヴィータはちらりと背後の支柱の残骸に一瞥を送る。もし反抗的な態度をとり続けるなら、次にこうなるのはお前たちだ。そう言外にヴィータは脅しつけたのである。悪人も顔負けの脅迫だった。
六人の次元犯罪者に選択の余地はない。彼らを除いて他の仲間は全滅している。そのため助けも期待できない。それになにより、彼らの戦意は支柱を砕かれた瞬間に消失していた。
次元犯罪者らは悟ったのだ。格の違いを。彼我との力量差を。目の前の少女の怪物ぶりを。
六人の男たちは力なく頷いた。
殊勝に頷いた彼らを確認して、ヴィータは満足そうに笑ってみせた。
BACK / NEXT
この記事にコメントする
この記事へのトラックバック
- この記事にトラックバックする
カレンダー
Web拍手
プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
もちろん無断転載は厳禁。
《連絡先》
aki_ihidari☆yahoo.co.jp
なにかあれば上記まで。
☆を@にしてお願いします。