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魔法少女リリカルなのは False Cross 第三章(4)

 連載SSを更新。
 とりあえず第三章終了。
 第四章は2週間後の7月1日(日曜日)から更新する予定です。
 ぼちぼち頑張ります。

 そういえば昨日は『アニソン三昧』が放送されていましたね。
 イヒダリも何かリクエストすればよかったかな。
 でも「SILENT MOON(アムドライバーOP)」なんてリクエストしても絶対かからないだろうなあ。


 なんといっても敵がすぐ目の前にいる状況だ。
 針のように尖った神経は、とっくに臨戦態勢である。
 なのはの体は脳の判断に先んじて、いち早く後方に退路を求めていた。
 相応の速度と質量を持った影が、なのはの元いた場所に墜落する。
 床が埃と瓦礫を舞いあげて陥没し、蜘蛛の巣状のひびが縦横に走った。
 レイジングハートの杖先の発光体が、ゆっくりと立ちあがる落下物を照らす。
 それは人の姿をしていた。
 手がある。足がある。上着を下から押しあげる胸の膨らみは女性の証である。
 だがコンクリートの床面を叩き割った右拳は青く光る鋼であった。
 なのはの心に避けがたい衝撃が来る。頭を殴られたように足元がふらついた。

「スバルっ!」

 なのはが悲鳴じみた声で叫んだときには、スバル・ナカジマは目の前まで迫っていた。
 リボルバーナックルの右拳が弾丸のごとく襲い来る。
 がむしゃらに体を捻って避けると、鉄拳は前髪を何本か掠めていった。
 唸る風の音に背筋が凍りつく。スバルの攻撃には手加減がなかったのだ。
 なのはの脳内に「どうして?」という疑問が一瞬で百も二百も生まれた。

「スバル! なにがあったの? しっかりして!」
「無駄、無駄。無駄ですよ」

 混乱するエースオブエースの耳に、レイン・レンの揶揄する声が届く。

「それには洗脳を施してあるんですよ。使った技術はジェイル・スカリエッティが開発した『コンシデレーション・コンソール』だ。ですから呼びかけたって聞こえませんよ」

 コンシデレーション・コンソールとは、人造魔導師や戦闘機人の自我の剥奪、または情念を強化する凶悪な洗脳技術だ。
 二年前にギンガ・ナカジマが、この洗脳をスカリエッティに施され、実際に為す術なく操られていた。
 そして現在はスバルが、姉と同じ目に遭っている。
 瞳には生気がなく、顔には表情がない。
 完全に物言わぬ操り人形と化していた。
 一度こうなってしまったら自力で目覚めることはない。この洗脳技術は完全無欠なのだ。
 しかもコンシデレーション・コンソールは、肉体限度を無視した運動を対象に強制する。
 ただでさえスバルは、数時間前に『機械仕掛けの聖王』と戦って、もう傷だらけなのだ。
 創痍の身に重ねて凄まじい負荷をかけられて、彼女の人工筋肉と金属骨格は破断寸前だった。
 そんな分秒を争う現状が、なのはに苦渋の決断を迫る。

「スバル――」

 そのとき彼女は不意に平衡を失った。かかしのごとく横ざまに倒れてしまう。
 後退する途中で床の段差に足を取られたのだ。
 スバルの猛攻を受け流すのに、いくら必死だったとはいえ、あまりにも迂闊な失態である。
 対してスバルの行動は的確だった。
 倒れたエースオブエースを一瞬のうちに、肩幅に開いた両脚のあいだに組み伏せる。
 なのはの上に立ったまま跨ったのだ。
 これでは右に逃げることも左に逃げることもできない。
 いささか変則的ではあるものの、立派なマウントポジションだった。
 絶対優位となったスバルが、なのはを無慈悲に見下ろす。
 そしてリボルバーナックルの右拳を、視線と同じく無慈悲に振り下ろした。
 事ここに至って、なのはに残された選択肢は、ひとつしかない。
 彼女は毒を飲むような心境で叫んだ。

「ごめん!」

 なのはが謝罪を口にした瞬間、スバルの打撃が虚空に阻まれた。
 目の前に出現した魔法陣型の盾に、落下途中の拳を受け止められたのだ。
 さらに盾からはチェーン状のバインドが幾本も伸びていた。
 それがスバルの右腕に絡みつき、拳だけでなく行動も封じている。
 そのせいでスバルは拳を引き戻すことも離脱することもできなくなっていた。
 これが近接戦における高町なのはの切り札。
 防御と拘束を同時にこなす複合魔法『捕縛盾』の威力だった。
 形勢を逆転したエースオブエースは、間を置かず即座に反撃の手を講じる。
 まず天井付近の空間に一発のアクセルシューターを生成。その桜色に輝く魔弾をスバルの後頭部めがけて発射した。
 非殺傷設定の魔法に物理的な破壊力はないが、生体は魔導師の匙加減に応じた衝撃を受ける。
 頸椎を一撃された少女は、まるで糸の切れた人形のように、なのはの上にくずおれた。
 ぐったりと弛緩した体の具合から判断して間違いない。
 神経叢を麻痺させられたスバルは完全に昏倒していた。

「おやおや。こいつは驚いた!」

 闇の中からレイン・レンの嘲笑がとどろく。なのはを苛立たせる大仰な笑い方だった。

「人質になった仲間を、助けるどころか、逆にやっちまうとは。いったい君は何のためにここまで来たんだい? 遠足かい? それとも足手まといに引導を渡すためかい? はっきり言って幻滅です。噂に名高いエースオブエースが、まさかこんな悪逆非道な人間だったなんて、僕はショックで死にそうですよ」

 なのはの心の奥底が、そのとき紅蓮に燃えた。
 火種は爆発物だった。いらないものを吹き飛ばして炎だけが残った。
 彼女は自分の腹腔を満たす感情が『怒り』しかないことを理解した。
 もはやレイン・レンにかける情けは一片もなかった。

「……交渉の余地も投降する気もないようですね。わかりました」

 上体を起こしたエースオブエースは、スバルの体を真横の床に仰臥させた。
 続いて仲間の寝顔を見つめたまま黙然と立ちあがる。
 周囲に煙る濃密な闇が、火に怯える動物さながら飛び退いたのは、その直後のことだった。
 なのはが自分のまわりにアクセルシューターを展開したのだ。魔弾の数は五発。
 その眩い光は十五歩ほど離れた位置にいるレイン・レンの姿を明るく照らした。
 彼女は灼熱のまなざしで、にやけ面の敵を睨みつける。

「もう武力行使もためらいません。レイン・レン。あなたを逮捕します」
「そうするのは別に構いませんが、その前に思いだしてみてください。ひとつ足りないものがありませんか?」

 なのはの剣幕を受け流しつつ、レイン・レンが意味深に告げた。
 エースオブエースは問答無用の構えだったが、習い性で相手の言葉の真意を確かめたくなる。
 彼女は五発の魔弾でレイン・レンを威嚇しながら目だけで周囲を見まわす。
 なのはの視界を狭めるものは、あたり一面に降りた黒い帳のみ。
 他に障害物の類はない。闇に隠れた生き物もいない。デバイスの鋭敏なセンサーは、いずれの存在も感知していない。
 あらためて確認するまでもなく、この場には三人しかいなかった――
 唐突に霊感的な理解が、なのはの脳裏に閃いた。足りないものの正体を悟って愕然となる。
 肩を強張らせた彼女の様子を見て、レイン・レンが勝ち誇った顔をした。

「気づいたようですね。なぜか見当たらないでしょう。管理局が『機械仕掛けの聖王』と名づけた僕の駒が」

 レイン・レンの口元が厭らしく吊りあがった。
 毒蛇のごとく縦に収縮する瞳孔。黄色の双眸は興奮と喜悦に爛々と輝いている。
 まるで地平にふたつの月が昇ったようだった。

「アレはミッドチルダへ向かわせました。攻撃対象はミッドチルダに住む民間人すべて。今ごろは街中で派手に暴れていることでしょう。血と冒涜に懸けてね」



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プロフィール

HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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