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魔法少女リリカルなのは False Cross 第二章(4)

 書いても書いても終わらない地獄。
 なので今回も執筆できた分だけ掲載します。
「GWを挟みたくないので間に合わせます」とか言っていたくせに申しわけありません。
 ですが次回の更新は5月2日(水曜日)を予定。
 早めにお届けします。


 いったい何度目の衝突になるのか、多すぎて数えきれなくなるほどの拳を交えてから、スバルは戦線を離脱して地上へ戻る。
 続いて『機械仕掛けの聖王(デウス・エクス・マキナ)』も二十歩ほど先に着地した。
 いちじるしく体力を消耗したスバルは息を乱していた。
 それにバリアジャケットのあちこちが黒く汚れている。かぎ裂きもあった。
 まるで火事場から逃げてきた直後のような有様である。
 だが『機械仕掛けの聖王』のほうは息ひとつ乱れていない。
 夜の結晶のような黒い甲冑も無傷だった。
 ――『聖王の鎧』。
 まさに恐るべき固有スキルであった。
 なにしろ立て続けにクリーンヒットを与えても掠り傷ひとつ負わないのである。
 Sランク相当の砲撃魔法を受けても平気という話だったがそんな程度ではない。
 このままでは――なぶり殺しだ。
 とにかく勝つためには『聖王の鎧』を打ち破らなければならなかった。
 そしてスバルの修める魔法の中で、それが可能なのはひとつしかない。

「相棒ッ!」

 スバルは気勢をあげながら決然と構えた。
 全身を弓の弦に見立て、右腕を矢のように引く。
 ほぼ同時にカートリッジもロードする。その数は三発。
 ちょうど六発のカートリッジを使い切り、空になった弾倉が、リボルバーナックルから外へ排莢される。
 それが音をたてて地面に落下した次の瞬間、スバルは吼え声をあげるとともに飛びだした。
 瞬く間に狭まる二十歩の間合い。
 マッハキャリバーのローラーで地面に轍を刻みつつ、スバルは起立した影のごとき敵をめがけて驀進する。
 猛烈なスピードで接近してくるスバルを、『機械仕掛けの聖王』は右拳で迎え撃った。
 虹色の魔力光『カイゼル・ファルベ』に包まれた一撃が必殺を宣言しながら襲い来る。
 スバルは突進を維持したまま、目の前にシールド魔法を展開。『機械仕掛けの聖王』の拳を真っ向から受け止めた。
 障壁は激しく火花を散らし、異様な怪音を響かせて軋む。
 だが充分に魔力を注いだ今度のシールド魔法は壊れない。
 まさに狙いどおりだった。
 スバルは今この瞬間に起死回生を求め、全力でリボルバーナックルを振り抜いた。

「――振動拳ッ!」

 拳に押し出された風が轟然と逆巻く。
 魔力の波動が荒れ狂い、バリアジャケットが、頭の鉢巻が吹き乱れる。
 戦闘機人として生まれたスバルが先天的に持つ固有スキル『振動破砕』。
 魔導師として研鑽を続けてきた魔力圧縮技術。
 そしてリボルバーナックルの性能とマッハキャリバーの協力。
 それはいずれも欠けてはならない四要素が合一して完成する『絶対破壊』の一撃だった。
 しかも『機械仕掛けの聖王』は攻撃後の硬直で石と化している。逃げることはできない。
 一撃必倒は約束されたようなものであった。
 だからこそスバルは、なおさら我が目を疑う。
 決着を確信して繰り出したはずの『振動拳』が、『機械仕掛けの聖王』の左手に弾かれた光景に。
 どんな防御も打ち砕けると信じていた。
 この拳を阻めるものは何もないと自負していた。
 しかし現実は残酷な結果を目前に示す。
 破壊されたのはスバル・ナカジマのプライドだった。
 心の空白を狙われて、みぞおちを衝撃が襲う。
『機械仕掛けの聖王』の前蹴りだった。
 さらに相手は間髪を容れず、その場で豪快に後ろ宙返り。
 腹を蹴られて前屈みになったスバルの顎に、勢いよく跳ねあげた爪先を炸裂させる。
 のけぞったスバルの体が宙に浮く。
 とどめの一撃は右の貫手だった。黒い籠手の爪牙状の指先が槍と化し、無防備になったスバルの左胸を狙う。
 ――が、その貫手は虚空を抉るだけに終わった。
 マッハキャリバーが自己の判断でウイングロードを行使。そのままローラーブーツを走らせて、スバルを安全圏まで避難させたのだ。
 ざっと十五歩くらいの距離をマッハキャリバーに運ばれ、ウイングロードから降ろされたスバルは途端に膝を折った。
 みぞおちを両手で押さえて、まるで懺悔するように蹲る。
 まるで腹の中がぐしゃぐしゃになったような感覚。噛みしめた歯の根から思わず呻吟が漏れる。
 なぜ『振動拳』が通用しなかったのか――その疑問は浮かんでから数瞬で氷解した。
 単純な話である。ただ単に防御に魔力を使いすぎたのだ。
 ならば今度は可能なかぎり攻撃に魔力を使用すればいい。
 かわりにスバルは、敵の目の前で無防備な姿をさらすことになるが、べつに構わなかった。
 勝つために必要なら自分の身なんていくらでも削ってやる。
 ただし相手の骨は断たせてもらう。
 かつて機動六課で学んだ教義の中に、残念ながら諦め方は入っていなかった。

「……この程度の、ダメージで」

 スバルは冬の最中のように手足を震わせながら立ちあがる。
 ただそれだけの動作に百年が過ぎた気がした。すごく疲れていたのだ。
 仮にふたたび倒れるようなことがあれば二度と起きあがれないだろう。
 スバルは新しい弾倉を取り出し、右手のリボルバーナックルに装備。
 それから矢継ぎ早に三発のカートリッジをロードした。
 性懲りもなく、さっきと同じ数のカートリッジを装填してみせたのは、むろん故意だ。
 相手には先刻の行動の焼き増し。
 同じ威力の同じ攻撃をする、と錯覚させる必要があった。

「負けてなんてやるもんかッ!」

 そう一喝するやいなや、スバルは突撃を敢行した。
 迎え撃つ『機械仕掛けの聖王』は虹色の魔力光――『カイゼル・ファルベ』を纏った右拳を繰りだす。
 まさしく先ほどの屈辱の再演だ。このままいけば前回と同じ轍を踏む羽目になるのは目に見えていた。
 しかしスバルに怯む感情はない。
 それどころか敵の眼前で出し抜けに再加速。飛んできた殺意の塊を、なんと額で受け止めた。
 切れた鉢巻が宙を舞う。割られた額から血が噴き出す。目玉は眼窩から飛び出しそうだった。
 だがスバルの急加速にタイミングを外されて、『機械仕掛けの聖王』は拳を振り抜けなかった。
 そのため打撃の威力が低下。必殺には至らなかった。
 くわえてスバルも完全に無防備だったわけではない。
 戦闘時は常にフィールド魔法――バリアジャケット――で全身を衝撃から護っていた。
 この魔法は、バリア魔法やシールド魔法に比べて消費魔力は少ないが、防御力は劣る。
 それでも覚悟の上で打たせれば一発くらいは耐えられるのだ。
 ただしそれは相手がどんな攻撃をしてくるか事前にわかっていなければ実行できない戦法である。
 出たとこ勝負では決して実現できない。
 だからスバルは誘導したのだ。
『機械仕掛けの聖王』の右拳を。
 あえて同じ攻撃パターンを踏襲することで相手にも同じカウンターを打たせたのである。
 つまり一連のスバルの行動は、すべて一発逆転を狙った布石。
 そして準備は整った。
 高められた集中が一秒を緩慢に引き伸ばす刹那の間。
 スバルは肉体の苦痛を忘れた。失敗の可能性と恐怖を度外視した。
 ただ全神経を倒すべき目の前の敵だけに。
 彼女は魔力の励起で火のごとく熱を帯びたリボルバーナックルを咆哮とともに振り抜いた。

「当たれえええッ!」

 シールド魔法と併用して繰りだした先ほどの中途半端な一発目とは違う。
 三発分のカートリッジの魔力を残らず注ぎこんだ捨て身の『振動拳』だ。
 その勝利に懸けた苛烈な執念は『絶対破壊』の一撃にふさわしい威力となって結実する。
 もはや固く閉ざされた何者の門口も、かの魔法を拒むことはできなかった。
 スバルの渾身の鉄拳は、盾のように差しだされた『機械仕掛けの聖王』の左手を弾き、相手の胸部に突き刺さる。
 砕かれて飛沫のごとく宙へ四散する漆黒の胴鎧。
 軽々と吹き飛ばされた『機械仕掛けの聖王』は、まるで坂道を下る石のように地面を転げ回った。
 黒い甲冑姿の敵は一転、二転、三転……およそ十メートル以上も転がり続けたが、はたと這いつくばるような姿勢になる。
 それから両手の爪牙状の指先を地面に突き立ててブレーキをかけた。
 はたして肝心のダメージの有無は……見た目で推し量るのは難しかった。
 ヴィヴィオに似た相手の容貌は、あいかわらず無表情だったからだ。
 しかし立ちあがる動作はきわめて遅かった。
 スバルは迷ったが、ここが先途と判断。
 とどめの追撃を決意し、とっくに限界を超えている体に鞭を打ち、勇猛に一歩を踏みだす。
 まさにその矢先だった。



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イヒダリ彰人
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男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
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イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

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魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
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