イヒダリの魔導書
魔法少女リリカルなのは False Cross 第二章(3)
連載SSを更新。
今回は戦闘回。いろいろ書くことが多くて文量が増えてしまいました。
なので例のごとく全部は書き終っていません。
今日は執筆できた分だけ掲載します。
そして次回の更新は4月29日(日曜日)を予定。
イヒダリにしてはハイペースだけど、GWを挟みたくないので間に合わせます。
がんばるか。
人里から離れて、さらに東へ東へ――
空の上から見ると、まるで地図のように縮小した眼下の光景が、やおら緑一色になる。
陽の光によって鮮やかさを増した山々。きらめく川。緑の獣のごとく横たわる広大な原生林。
そこに古傷のごとく存在する岩に囲まれた深い谷は、かつて『聖王のゆりかご』が埋まっていた場所である。
ミッドチルダ東部の山中にある森林地帯。
スバルは『聖王のゆりかご』が浮上する際にできた、巨大なスコップで乱雑に掘られたような谷の底に、前を飛ぶ『
虫の声も鳥の鳴き声も聞こえない。ただ颯々と吹き抜ける風の音だけが耳に響く谷底。
そこでスバルと『機械仕掛けの聖王』は、約十メートルほどの距離をあけて対峙した。
いくら覚悟の上とはいえ、なかば誘導された形である。どんな卑劣な罠が仕掛けられているかもわからない。スバルは神経を研ぎ澄まし、周囲を警戒の目で見まわす。
が、ここは数キロメートルほどもある空中戦艦が埋まっていた場所だ。
谷、というには横の面積も縦の面積も広い。むしろ広すぎるくらいだ。
これでは仮に罠が仕掛けられていたとしても発見するのは難しかった。
地の利は間違いなく相手にあると言っていい。
しかしスバルにとって都合の良い点もあった。
この場所なら民間人を巻きこむ心配はいらない。まわりを気にしないで存分に力を揮える。
これは派手に動きまわる戦い方をするスバルには嬉しい誤算だった。
「……こんな言い方失礼だけど、あなたの顔、わたしの友達にそっくりなんだ。だからはじめて見たときは戸惑った。戦いたくないな、って思ったんだ」
ひたと『機械仕掛けの聖王』を見据えながら、スバルは訴えかけるように切々と話しかける。
あらためて観察しても、やはり相手の顔は、ヴィヴィオに瓜ふたつ。
むろん別人なのは承知している。が、どうしても本人の面影を重ねてしまう。そのせいで戦意がくじけそうになる。
だがスバルの胸中には、核、のようなものがあった。
それは「強くなったら何がしたい?」という根源的な質問に対する答え。
自身が信じる力の使い方――すなわち正義の形である。
「でも今は違う。わたしが戦うのは守るため。悲しみを終わらせるため。だからあなたが何者であれ、これ以上の暴挙は許さない。――『機械仕掛けの聖王』、あなたを逮捕します」
スバルは楽天的な性格だが、現実に即した面も持っている。
まさしく今の彼女に迷いはなかった。共感や容赦も同様に。
そんなスバルに卒然と返ってきたものは、『機械仕掛けの聖王』の強烈な害意だった。
荒れ狂う虹色の魔力光『カイゼル・ファルベ』の奔流。
黒い甲冑の全身から大量に放出される、その暴風のごとき魔力の波動が、スバルを彼方まで吹き飛ばそうとする。
突如、拳大の石がスバルの顔面に飛んできた。
当たれば痛い、で済む速度と質量ではない。
打ちどころが悪ければ骨折。目に直撃すれば確実に失明する。
だがスバルの動体視力は、この危険な飛来物を、しっかりと捕捉していた。
彼女は右手のリボルバーナックルで石を受け止めると、それを常人では発揮できない凄まじい握力で握り潰す。
粉々になった礫は手の隙間からこぼれ落ち、風に浚われて蒸気のように消失していった。
「今度は逃がさない。行くよ、相棒」
マッハキャリバーに声をかけると、スバルは半身になって足を開いた。
突撃の構え。
スピードに乗った会心の一撃を叩きこんでやるつもりだった。
一方で『機械仕掛けの聖王』も臨戦態勢を整えていた。
必殺を予感させるほどに張りつめる闘気。激しく衝突する視線。
そして戦闘の火蓋を切る突進は両者ともに同時だった。
まずは先手を取ったスバルが一発のカートリッジをロードし、リボルバーナックルの拳を『機械仕掛けの聖王』に突き入れる。
圧縮された魔力を付与した拳で殴る打撃魔法『ナックルダスター』だ。
応じる『機械仕掛けの聖王』は体を横にして避けた。
そのままスバルの背後へまわりこみ、盆の窪をめがけて鋭利な後ろ回し蹴り。
その致命的な軌跡は、さながら死神の鎌だ。
むろんスバルも負けてはいない。目には目を、と言わんばかりに相手と同じ技を繰りだす。
まるで刀と刀の鍔迫り合い。
スバルと『機械仕掛けの聖王』の蹴り足が空中でX字を描いて交差する。
衝撃は稲妻のように大気を揺らし、やがて両者を後方へ弾き飛ばした。
いち早く体勢を立て直したのは『機械仕掛けの聖王』だった。
いくら逃げても追ってくる地を這う影のごとき疾走で瞬時に距離を詰めてくる。
回避は間に合わない。
とっさにそう判断したスバルはシールド魔法を展開して相手の攻撃に備える。
あわよくば攻撃のあとの隙を衝いてカウンターも狙うつもりだった。
ところが『機械仕掛けの聖王』は、スバルの思惑を超えた体術を見せる。
目前で跳んだ『機械仕掛けの聖王』が左右の膝を連続で繰りだす。
さらに黒い甲冑の両足を揃え、仰臥の姿勢でドロップキック。
その三連撃が跳躍してから着地する一瞬のあいだに行われたのだ。
当然、反撃の余地など見いだせない。
それどころかシールドを砕かれ、スバルは蹴り飛ばされてしまう。
迂闊だった。いくら応戦に必死だったとはいえ、敵の留意すべき情報を忘れていた。
高町なのは――エースオブエースのシールド魔法を打ち破ったという脅威の実績を。
生半可な防御魔法では『機械仕掛けの聖王』の打撃は防げないのだ。
遅れて失策に気づいたスバルは奥歯を噛みしめる。
だが内省に心を致している暇もなく、『機械仕掛けの聖王』が追撃してきた。
スバルは空中で後転し、軽い動作で地面に着地。
直後に飛んできた『機械仕掛けの聖王』の右拳を首を捻ってかわす。
それから頬を掠め過ぎた相手の腕を肩に担いだ。
「うおりゃあああッ!」
雄叫び。
スバルは教科書どおりの一本背負いで『機械仕掛けの聖王』を投げ飛ばした。
蒼穹を背にした『機械仕掛けの聖王』が、そのまま汚点のようにぴたりと静止する。飛行魔法で宙に浮いているのだ。
スバルも即座にウイングロードを行使。陸戦魔導師の型を破る決死の空中戦を仕掛けた。
流血必至の戦場を、死角も遮蔽物もない空に移した両者の攻めは、まさしく縦横無尽。
基本は単調なヒットアンドアウェーでありながら、すれ違いざまに放たれる一撃の威力は大砲のそれ。
ちまちま連打を重ねることを頭から放棄した大技の応酬だった。
断ち割られる空。
宙を立体的に駆け抜けて、青と黒の閃光が激突する。
一発ごとに速く、一発ごとに強く。
二色の流星が複雑に絡み合うように交錯する。
もはやスバルと『機械仕掛けの聖王』の苛烈なる攻防は、常人の認識が無意味と化す別次元の領域へ推移していた。
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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