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魔法少女リリカルなのはEine Familie 第四話 『優曇華の邂逅』(3)

魔法少女リリカルなのはEine Familie 第四話 『優曇華の邂逅』(3)を更新。

苦戦した。この話はとにかく書くのに難儀した。
直しても直してもでてくる訂正点。
その訂正点を直しても、でもそれが逆に悪かったりする悪循環。
まあ、そんなふうにがんばった話なので、
ぜひ読んでみてください。イヒダリ彰人の苦悩が判るかと(苦笑)。



 為す術もなく目の前で石化していくリンディを、はやては驚愕で緩慢に引き伸ばされた時間の中で凝視していた。まるでその様を観賞して喜ぶ大衆に気をよくしたかのように、気障(きざ)な演出家をきどる地帯化した世界は、彼女により残酷なものを見せつける。
 それこそ自分の体が自分の支配から乖離(かいり)していく感覚に恐怖する表情から、愕然としたまま立ち竦むはやてを心配させまいと微笑んでみせた気骨の一片に至るまで。ふいの絶望と対峙したリンディの惨状を子細余さず克明に。その一コマ一コマを鮮明に印象づけるかのように。
 茫然自失の(てい)からはやてが立ち直ったのは、リンディの石化が完了したあとのことだった。

「リ、リンディさんっ!」

 はやては泡を食って叫んだ。もう手遅れなのは彼女とて充分に承知している。しかしそれでも、動かずにいられなかった。とにかくリンディを助けたい一心で胸がいっぱいだった。
 はやては石像に変わってしまったリンディへと手を伸ばす。まるでその掌で撫でることができれば、石に変質したリンディが生身の肉体を取り戻すとでもいうかのように。
 だが、はやてのその虚しい試みは、ふいに頭上から降ってきた声に遮断されてしまう。

「止まりなさい。八神捜査官」

 どこかで聞いたようなその声に既知感を覚えつつ、はやては声のした方へと振り仰いだ。
 もちろん、リンディを石化した犯人の脅迫かもしれないという可能性も考慮して、すぐにでも魔法を行使できるように身構えることも忘れていない。
 中空を仰ぎ見たはやては、しかし視界に映った人物の姿に戸惑うことになる。
 執務官の制服ではなく、黒いトレンチコート風のバリアジャケットに身を包んでいるものの、まるで感情をどこかに置き忘れてきたようなその無表情は、まだはやての記憶にも新しい。

「……ルナリス・フォルクスワーゲン執務官。どうしてあなたがここに?」

 予期せぬ同僚の登場に、はやては警戒心すら忘れて途方に暮れた。
 そんなふうに当惑するはやてを見下ろすルナリスは、冷たくも暖かくもない、明るくも暗くもない、愛想も何もない機械のような声音で言葉を紡いだ。

「あなたを取り調べていた検察官たちから、あなたの動向を見張るようにと依頼を受けたのです。たとえ不起訴処分で釈放されたとはいえ、依然としてあなたが第一級の容疑者候補であることに変わりはありませんから」

 ルナリスは醒めた口調で言いながら、はやての隣にある石像へと視線を滑らせた。
 ついさっきまでは、紛れもなくリンディだったそれに。

「ですが、これほど決定的な証拠を見せつけられては、もう候補とはいえないですね」

 ルナリスの口調はあいかわらず事務的だったが、台詞の雰囲気は由々しいほどに確信めいていた。もはや問い返すまでもない。はやては汚名を着せられた哀れな被害者ではなく、正真正銘の真っ黒な容疑者として、ルナリスに識別されてしまったのだ。

「ち、違う! わたしじゃない! 誤解です!」

 はやては凄まじい勢いでかぶりを振るとともに、裏返った声で否定の言葉を吐いた。
 誤解を解かなければならない。でなければよりにもよって、リンディを石化した犯人に――いや、仲間たちを襲った憎むべき下手人にされてしまう。
 だが肝心のルナリスは、はやての弁論に耳を貸そうともしない。

「詳しい話は本局で伺います」

 ルナリスがおもむろに右手を挙げた。それは前もって決めていた符丁だったのだろう。離れた物陰で二人のやりとりを見守っていた武装局員たちが、続々とルナリスのまわりに集結する。その数はおよそ十人。はやて一人を監視するにしては、明らかに多すぎる人数だった。
 これらはすべて検察官たちの指示によるものだろう。ならばその意図するところは、もはや推し量るまでもない。最初から適当な疑惑を見つけ次第、はやてを拘束する腹だったのだ。
 そのあまりにも卑劣な執念深さに、はやては舌打ちしたくなった。

「八神捜査官。あなたを内乱罪の容疑で逮捕します。くれぐれも抵抗しようなどとは考えないでください」

 ルナリスは勘違いをしている。それはリンディが射撃される瞬間を見ていなかったがゆえの、ほんの些細な誤解だったのかもしれない。しかもその場に、はやて一人しかいなかったという実態が、そんなルナリスの誤った見解に拍車をかけているのだろう。
 判っている。判ってはいるのだ。……だがそれでも、はやての我慢にだって限界がある。

「だから、それは誤解だって言ってるやんか! お願いだから、わたしの話も聞いてや!」

 ルナリスの冷淡な馬耳東風(ばじとうふう)に、はやてはついに激昂した。
 そのときのはやては、いつにない怒気にめずらしく我を忘れていたらしい。自分でも気づかないうちに、いつのまにか待機状態のデバイスへと手を伸ばしていた。
 それを見咎めたルナリスの視線が、心なしか鋭さを増す。
 そして次の瞬間、はやては体の自由を封じられてしまっていた。
 突然、ままならなくなった己の体に愕然となり、はやてはその原因を確かめるために上半身へと視線を落とし……そこでさらなる驚愕に目を剥く。

「これは、リングバインド。いつのまに……」

 はやての上半身にはリングバインドが、それも三重に施されていたのである。
 がしかし、はやてを驚嘆させたのは、三重に施されたリングバインドの存在ではない。
 体の自由を緊縛されるまで、リングバインドを仕掛けられたことに気づかなかった。ルナリスが魔法を行使した瞬間さえも見て取れなかった。それらにこそ驚きの比重があった。
 ――ルナリス・フォルクスワーゲン。恐るべき実力の持ち主である。バインド系の魔法だけで評価するなら、もしかするとクロノにさえ迫る技術を有しているかもしれない。
 はやては身じろぎ一つもできなかった。まるで道路に等間隔で立ち並ぶ電柱の一本と化したかのように、彼女の心身の随意は見事に束縛されてしまっていた。

「あまり煩わせないでください。公務執行妨害も加わることになりますよ」

 ルナリスが淡々と忠告してきた。それはただ実直に、ただ明快に事実だけを告げる口調。しかし余計な感情を含まないため、その言葉はより辛辣にはやての耳朶を打った。
 ルナリスは脅しなど言わない。はやてが彼女の警告を無視してバインドを解除しようと働きかければ、まず間違いなくルナリスは先の言葉を実行に移すだろう。
 おそらく今度は、体の動きを封じられるだけでは済むまい。
 だがだとしても、このまま拘束されて、ふたたび本局に連行されるという結末は論外だ。
 それでは石化した仲間たちを助けることが叶わなくなる。さらにそれだけではなく、はやて自身が犯人に仕立てあげられて、肝心の真犯人を捕まえることができなくなるだろう。
 ――どうすればいい。
 打開策を考えるはやての両脇に、二人の武装局員がするりと下りてきた。
 はやては無念の思いを噛みしめつつ、交互に伸びてくる武装局員たちの腕を睨みつけた。
 はやてを連行するために手を伸ばしてきた二人の武装局員が、まるで強風に煽られた風船のように吹き飛んでいったのは、まさにその瞬間であった。
 目を丸くするはやての眼前には、前触れもなく現れるやいなや武装局員たちを薙ぎ倒した、活動的なショートカットの少女。その少年のように小柄な体躯を、しかし神話の英雄と錯覚させる気迫を帯びた躍動的な背中が、はやてを守るように立ちふさがる。

「あなたは、まさか――」
「まさかこんな簡単に捕まっちゃうなんて。迂闊だよ、八神はやてちゃん」

 言いさしたはやてに、中空から降ってきた声がかぶさる。はやての隣に着地したのは、目の前にいるショートカットの少女と同じ容姿、だが髪型はロングヘアの典雅な少女だった。
 はやては驚きに息を呑んだ。バインドで拘束されているはずの体が小刻みに震えだす。管理局のデータベースで何度も見たその姿を、はやては深く脳裏に刻みつけている。
 見間違える要素はどこにもない。はやては声を震わせながら、二人の少女に呼びかける。

「……もしかして、リーゼロッテさんにリーゼアリアさん?」

 リーゼロッテとリーゼアリアは答えない。ただ呆気に取られる武装局員たちと、冷ややかにこちらを睥睨するルナリスを、鋭い眼差しで見据えるのみであった。


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プロフィール

HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
もちろん無断転載は厳禁。

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