イヒダリの魔導書
『蠅の王』を読了
これは田中啓文さん著作の伝奇ホラー小説です。
本当は以前からずっと読みたかったのですが、昨年は読書自体をサボり気味だったので、今年になってようやく読むことができました。
まず“伝奇ホラー”と銘打っている本書ですが、実際に読んでみると、ぜんぜんホラーという感じではありませんでした。むしろ気持ち悪い表現のオンパレードだったと思う。
そうです。
この小説は“伝奇ホラー”ではなく、“伝奇グロテスク”(そんなジャンルは無いだろうが)という感じでした。
とにかく登場する大勢の人間が、老若男女を問わず、凄惨な殺され方で死んでいきます。
そしてその描写も必要以上に克明です。
たとえば――
逃げようとして身を翻す直前に、ミッコが宙に飛び、加奈子に襲いかかった。ミッコは両脚を加奈子の首に巻きつけ、左手のフォークを加奈子の右目に、右手のナイフを左目に突き立てた。(本文から抜粋)
――これは動物園のアイドル的存在であるチンパンジー「ミッコ」が、悪魔の化身である『蟲』に取り憑かれて、そのチンパンジーの活躍を観に来た女の子を殺害する場面です。
こんな陰惨で酸鼻な、しかも誰得な殺人シーンが、まるでフランス料理のフルコースのごとく、次から次に出てきます。
あとこれは普通にネタバレですが。
この小説の主人公は最終的に、お腹を痛めて産んだ我が子を、キリストみたく磔にして殺すし……
くわえて作中に登場するキャラクターたちは狂人ばかり(笑)。
妊娠したかどうかを調べるためにやってきた主人公に対して、医者が平然と「馬鹿なガキンチョ。頭はパーだけど、やることは一人前なんだから」なんて口走ります。
まさに現実的な社会通念が破綻した世界。
言わずもがな感情移入なんて不可能です。
それでもいちおう最後まで読みましたが、ホントに好き嫌いが分かれそうな話でした。
失礼な言い方ですが。
作者が趣味で書いたとしか思えない残酷描写を、そして頭のおかしい人々が繰り広げる会話と行動を『ギャグ』と割り切ることで、ようやく読むことができる小説なんじゃないかと思う。
おそらく尋常な伝奇ホラーを期待すると「アレ?」って感じになります。
そのため購入を考えている人がいれば、流し読みでいいので一度だけ、本の中身を読んでみることを推奨します。
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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