イヒダリの魔導書
月荊紅蓮‐時遡‐ 第九話
連載中のSS『月荊紅蓮‐時遡‐』の第九話を更新。
第十話の更新は来週の日曜日(29日)を予定しております。
アニメ化で盛りあがっている……かどうかはわからないが、『祝福のカンパネラ』のファンディスク『祝祭のカンパネラ!』のOPムービーが、エロゲーらしくて良い感じ。
さすがは「佐藤ひろ美」さんだ。
すずかとアリサの目の前に、自分たちのような「にわか魔導師」とは一線を画す、本物の魔導師が佇立している。
高町なのはの白いバリアジャケットは、肌の露出が少なく重厚なデザインだった。
以前、なのは本人に「わたしのバリアジャケットは小学校の制服を参考にした」という話を聞いたことがあったが、なるほど確かに上着とロングスカートの形は酷似していた。
先端に深紅の宝玉を配した、長柄の杖を左手に提げている。
なのは専用のインテリジェントデバイス『レイジングハート』だ。
いつもは待機状態に設定されているので、起動しているのを見るのは割と新鮮だった。
一方、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンのバリアジャケットは、なのはのそれとは対照的に動きやすさを重視したデザインだ。
細身の体躯を包みこむボディースーツとマントは夜と同じ色で見事に統一されている。
しかし腰から下を覆うミニスカートだけは見目も鮮やかな純白だった。
右手には長柄の戦斧が握られている。色はバリアジャケットと同じく艶やかな漆黒。
接近戦に真の力を発揮する彼女のインテリジェントデバイス『バルディッシュ』だ。
「わたしたちは時空管理局の
まずは真剣な声色で、なのはが口火を切った。
家族や友人と一緒にいるときの穏やかな彼女からは想像もつかない厳しい物言いだ。
すずかとアリサの一挙手一投足を、油断のない醒めた目で注視している。
もちろん露骨に警戒しているのは、隣に佇立するフェイトも同様だった。
カミソリを思わせる鋭利な眼光で、すずかとアリサを辛辣に睨んでくる。
「身につけた武装をすべて解除し、名前と出身世界を教えてください。詳しい話はそれから伺います。もし適切な対応が得られない場合は、抵抗の意思があるものとみなします」
なかば予想はしていたことであったが、やはり次元犯罪者に間違われてしまった。
すずかとアリサが使うシルエットカードの魔法は、ミッドチルダ式ともベルカ式とも系統がまるで違う。
ゆえに本来なら時空管理局が有するサーチャーには引っかからないはずであった。
けれど今回は『時空間転移』という荒技を強行している。
そのためロストロギアの暴走を彷彿とさせる次元の歪みが発生したのだ。
しかも事件の現場には、怪しい風体をした怪しい二人組みが、うっそりと立っている。
少数だが精鋭ぞろいの管理局が、わけても地球に逗留する部隊が、この異変を看過するはずもない。
出会い頭に凶悪な犯罪者のレッテルを貼られるのは至極当然だった。
このまま沈黙していたら状況は悪いほうに悪いほうに流れていくだろう。
だというのに。
すずかは一言も声を出すことができなかった。
目の前の親友たちの勇姿に見惚れていたのだ。
思えば……
魔導師の恰好で活動している二人を見るのは四年前の『闇の書事件』以来だった。
もっとも当時はひどく混乱していたし、なにもかもが一瞬だったので実感が薄い。
だからこれが実質はじめてと言えるだろう。
なのはとフェイトの魔導師らしい姿を目にするのは。
すずかは胸を高鳴らせた。
もちろん場違いなのは承知していたが、どうしても沸き立つ興奮を抑えられない。
軍神さながらに凛々しく立ちはだかる友人たちを誇らしく思う。
だが、なのはとフェイトの忍耐は、そろそろ限界に近いらしい。
徹底して可憐な美貌には
早く応対しなければ下手人として逮捕されるかもしれない。
そうなれば【
文字どおり一巻の終わりだ。
すずかは感慨に耽るのを中止して、仮面の下であわあわと唇を動かした。
「わ、わたしたちは怪しいものじゃないよ。ロストロギアなんて持ってないし、次元の歪みうんぬんは不可抗力で……」
「でも話から察するにロストロギアはともかく、次元の歪みには心当たりがあるみたいですね。あとそんな怪しい恰好をしてるのに怪しくないって言われても説得力がないです」
すずかは返答に窮した。
なのはに言葉尻を捉えられて崖っぷち寸前まで追いやられる。
さすがの洞察力だった。
下手に言いわけしても自分の首を絞める結果に終わるだけだろう。
すずかは会話を盗み聞きされないように、やたらと小さい声でアリサに救援を求める。
「アリサちゃん、どうしたらいい?」
「どうしたらいいもなにも、ごまかすしかないじゃない。だって本当のことを言うわけにはいかないんだから。ここは適当に茶を濁しつつ隙を見て逃げだすしかないわ」
もしかすると破れかぶれの気持ちなのかもしれない。アリサが勢いだけを頼りにベラベラと喋りはじめた。
「たしかに次元が歪んだのは私たちのせいだと思う。怪しまれるのも当然と言っちゃあ当然よね。でも私たちは次元犯罪者なんかじゃないわ。それに管理局と敵対する気もない」
「だったらあなた方の目的を聞かせてください。いったいなにをするために、こんな辺境の次元世界へ?」
ルビーのごとき鮮紅色の瞳に警戒の表情を滲ませながらフェイトが詰問してくる。
アリサは負けずに素早く返答した。
「私たちには『使命』があるのよ。なんとしても果たさなければならない重大な使命が」
「……使命?」
アリサの芝居の台詞を思わせるワザとらしい言葉に、フェイトの端整な柳眉が疑わしそうにひそめられた。その鋭い目つきは段々と危険人物を見るそれに様変わりしつつある。
すずかは唐突に嫌な胸騒ぎを覚えた。
なんだか落ちてはいけない陥穽に落ちたような気がする。
しかし場を繕うことに必死だった彼女は、その不吉な予兆を充分に考慮できなかった。
結果――
「その使命とは地球の平和を守ることです。それがわたしたち『愛と正義のカードキャプター』に課せられた務め!」
アリサの居直りに引きずられる形で、すずかは突飛な台詞を口走ってしまう。
まさしく恥辱以外のなにものでもなかった。
穴があったら時の終わりまで入っていたい。
彼女が生き恥をさらして身悶える一方で、なのはとフェイトは言葉もない様子だった。
完全に沈黙している。
はたと吹きぬけた一陣の風に、声と動きを奪われたかのごとく。
呆気にとられる管理局の魔導師をよそに、今度はアリサが間髪を入れずに付け加えた。
「さしずめコンビの名前は『魔法少女マスク・ド・ローウェル』ってところかしら。ちなみに私は一号。そしてこっちの髪が長くて胸の大きいほうが――」
そう言いながらアリサが肘で、すずかの腕を軽く小突いてくる。
その意図は労せずに読み取れた。
おそらく「私に話を合わせろ」と促しているのだろう。
だが先ほどの失態が尾を引いていたので、すずかは相棒の指示に従うことができない。
思わず戸惑った声をあげてしまう。
「え? わたしも言うの?」
「あんたが始めたことなんだから当たり前でしょ。私たちは怪しい者じゃないってアピールしなきゃ。とにかく謎めいた話をでっちあげて二人を煙に巻くのよ。さあ、早く!」
アリサの主張は説得力があるような無いような奇妙な言いまわしだった。
まるで事の次第が終わったあとに、なにかおかしいと思い当たる手品だ。
彼女が長々と説明しているあいだは信じられたものが、話が終了した途端に違和感の波となって押し寄せてくる。
すずかは進退を判じかねて、口を閉じたり開いたりした。
要求された事柄を為すのが堪らなく恥ずかしかったのだ。
けれどアリサは容赦のない無情のまなざしでプレッシャーをかけてくる。
これ以上の葛藤は一秒たりとも間が持てなかった。
すずかは開き直ったというよりは、なかば逆上しながら声を張りあげる。
「マ、マスク・ド・ローウェル二号です! ……うう、恥ずかしい。死にたい気分だよ」
「でも堂々とした立派な宣言だったわ。あなたのパートナーとして心から誇らしく思う」
すずかは心労で岩みたいに重くなった頭をあげる。
目の前には両腕を広げて待ちかまえるアリサの姿があった。
さながら聖母のごとく慈愛に満ちあふれた風情である。
その仮面の下には光よりも鮮やかな笑顔が隠れているに違いない。
すずかの足が自然とアリサのほうへ向かう。
「……ローウェル一号」
「……ローウェル二号」
すずかとアリサが視線を合わせた。
その様子はまるで恋人同士の逢瀬。
ふたりが男と女のカップルだったら、いまごろ抱き合っていたかもしれない。
背景に無数のシャボン玉が飛んでいるマンガチックな絵が見えるようだった。
まさに彼女たちの絆の強さを象徴する一幕と言えよう。
が、なのはとフェイトの表情は険しくなるばかりだった。
すずかとアリサに対する心の溝は、確実に着実に雄弁に拡がりつつある。
「フェイトちゃん、この仮面の人たち」
「うん。胡散くさいね。それに顔を隠しているあの白い仮面……どこかで似たものを見た記憶がある」
声音を低くしたフェイトに示唆されて、なのはの大きな瞳が訝しげに眇められた。
すずかとアリサの顔を交互に見やる。
正確には【
ややあってから唐突に、はっとした面持ちになる。
「まさか強装結界に閉じこめたヴォルケンリッターの脱出を手助けした――」
なのはの言葉に、フェイトが頷いた。
「あの仮面の二人組みだと思う。もしかすると『闇の書』に関わりのある人たちかもしれない。気をつけて」
なのはとフェイトの会話の断片――
『闇の書』という物々しい単語から類推して、この場所が四年前の海鳴市らしいとわかったが、あたふたしていたので脳裏には残らなかった。
明らかに状況が悪化している。
予想外だった。
まさか正体を秘匿するための仮面に、こんな見えざる罠が隠されていたとは。
しかし幻術を解除して仮面の下の素顔をあらわにするわけにはいかなかった。
なのはとフェイトの大いなる思い違いを今すぐに修正したい。
けれど正体を見破られたくなくて五里霧中と言ったところだ。
よそゆきの硬い表情を見せる彼女たちに、すずかは無言の威圧を感じて気おくれした。
「ご、誤解だよ! わたしたちは『闇の書』とも仮面の男たちとも関係ないから!」
「仮面の男たち? たしか私たちは性別の話まではしていなかったはずです。どうして男だと知っているのですか?」
フェイトが冷静に指摘した。
すずかの顔色が仮面の下で、めまぐるしく急速に変転する。
完全に藪蛇であった。
なにか言えば言うほど自分の首が絞まるという悪循環に泣きたくなる。
もうこれ以上は一言たりとも話せない。
話せば余計にドツボに嵌まるかもしれないから。
すずかの頭の中に最終手段『逃避』の二文字が激しく明滅する……
四人を取り巻く空気の質が一変したのは、無謀な
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
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