イヒダリの魔導書
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第三話 『四面楚歌』 (1)
まあ、それはとりあえず棚に上げておいて(苦笑)
魔法少女リリカルなのはEine Familie 第三話 『四面楚歌』 (1)を更新。
次回からの更新予定日は、(2)が30日。(3)が12月3日。(4)が12月5日。
(5)が12月8日。(6)が12月10日。の予定です。
実は、まだ第三話は全部書きあがっておらず、現在も執筆中でございます。
ダメダメですね。反省しております、はい。
でもせめて、一度発表した更新予定だけは是が非でも守りますので、よろしくお願いいたします。
――わたしの、せいだ。
時空管理局本局の医務室で検査を受けているはやては、そうやって自分を責め続けていた。
同じく現場にいたヴォルケンリッターや次元犯罪者たちは、その身にかけられた石化魔法を解除するため、医務室ではなく、専門の医療施設に搬送されて今も加療中である。
襲撃者の、自分たちの索敵をかいくぐった迷彩は完璧だった。あれほど見事な奇襲ならば、はやてたちだけでなく、もっと経験を積んだ熟練の魔導師でも不意を衝かれただろう。
だがそんなもの、なんの言い訳にもなりはしない。
馬鹿な主の愚かな油断のせいで、かけがえのない騎士たちが犠牲になった。
強くなったと自惚れた過信が、尊い仲間たちの信頼を裏切った。
おのれの胸中に巣食っていた慢心が、守護騎士たちの石化という残酷な結果を招いた。
言い訳の余地などどこにもない。あろうはずがなかった。
「ごめんな、みんな。本当に……ごめん」
呟きとともに、涙が溢れそうになる。だが、はやてはきつく瞼を閉じて、それに堪えた。
もし今の自分が加害者か被害者かと問われれば、守護騎士たちを守れなかった自分は間違いなく加害者だろう。その自分が被害者面して泣くなど、決して許されない。
そんな冒涜行為を平然と実行しようとしたおのれの弱い心に、はやては今日何度目かも判らない嫌悪と憎しみを懐いた。できることなら自分自身を呪い殺してやりたい。
しかしそうは考えていても、やはり守護騎士たちを失って感じる悲痛と
やがて、すべてのメディカルチェックが終了した。
ひととおり調べてみた結果、体のどこにも異常はなかったらしい。
皮肉なくらいに健康だった。はやての感情とは裏腹に。
「はやて」
悄然とうな垂れたまま医務室を後にしたはやては、通路を隔てた正面の壁にもたれたクロノに声をかけられて一驚した。まさかこんなところでクロノと会うとは
「クロノくん? どうしてここに?」
はやてが疑問を投げかけた。
対面するクロノは、悪戯小僧めいた含み笑いを見せて肩を竦める。
「どうして?
仲間の……いや、友達の安否が心配だったから、っていう理由だけじゃ足りないかい?」
クロノは、心を許した仲間にだけ見せる気さくさで笑いかけてきた。
はやての記憶に間違いがなければ、クロノは連日続いた激務を終え、今日はひさしぶりの休暇だったはず。その日はエイミィとゆっくりと過ごすと言っていたのを、はやては覚えていた。
しかし、クロノは疲れた様子など露ほども見せない。エイミィと二人きりで過ごす穏やかな時間を取り止めにしたというのに、それを後悔している気配もない。
クロノは言葉どおり、はやてのためだけに貴重な時間を遣ってくれているのだ。
それを当然のように実行してしまうクロノの優しさに、はやては不覚にも涙が出そうになる。
「そ、そんなことないよ。きてくれてすごく嬉しいし」
はやては面映そうに笑う。だがその一方で、自分の厚顔ぶりに憮然としていた。
傍目にはそうは見えないものの、間違いなくクロノは疲れている。それが判っているにも拘わらず、嬉しいなどという
すべての根源は自分が不甲斐なかったせいである。いまの自分にかけられるべき言葉は慰めではなく非難だ。それなのに、逆に気を遣わせてどうするというのか。
「とにかく今日はいろいろあって疲れただろう。空き部屋の使用許可をもらっておいたから、あとはそこでゆっくりと休むといい」
はやての憂鬱を知ってか知らずか、クロノが労をねぎらうような口調でそう促す。そして、もたれていた壁から背中を離すと、はやてに向かって歩み寄ってきた。
これ以上クロノを煩わせるわけにはいかない。
はやては胸中に抱える憂いを悟られないよう、あからさま過ぎない微笑でかぶりを振った。
「休みたいのは山々なんやけど……これから事情聴取に行かないと」
これは嘘ではなかった。事件を目撃した唯一の人物であり被害者でもあるはやての証言は、事件の早期解決のため、きわめて重要な役割を担う。それゆえに、はやては検査が終わり次第、事件のあらましを報告するようにと指示を受けていたのである。
しかし、それはあくまで建前にすぎない。はやての本心は別のところにあった。
はやてはクロノの優しさから逃げるために、わざとその命令を方便として使ったのである。
自分でも嫌になる卑怯な手段だった。それでも、そうせずにはいられなかった。
今のはやてには、クロノの親身な心遣いが、ほんの少しだけ重かったからだ。
だが、そんなはやての言い訳と暗澹を、クロノはあっさりと一蹴した。
「それは明日に回してもらったよ。いまの君には休息と、落ち着いて頭を整理する時間が必要なはずだからね。それに自分ばかり責めていると、ヴォルケンリッターのみんなに怒られるだろう? だから今日は休んで、気分を一新する努力をしたほうがいいんじゃないかな?」
なんとも根回しがいい。おまけに、はやての陰気な心情も見破られていた。さらに追い討ちとばかりに守護騎士たちの名前まで出されてしまっては、彼女としては二の句も告げない。
「……それは命令?」
ジト目でクロノを睨みつつ、はやては
「まさか。ただのお願いだよ」
対するクロノは泰然自若。その受け答えは、まるで柳に風だった。
この二年間で年齢に見合うほどの急成長を遂げ、すっかり大人びた声音と容姿を手にいれたクロノ。そんな彼の落ち着いた態度を憎たらしいと思ったのは、これがはじめてだった。
内心の不満を笑顔で隠しつつ、はやては殊勝な言い分で話を続ける。
「たしかにクロノくんの言うとおり。さっきまでは、ちょっと自虐的になりすぎてた。こんなんじゃ、あの
「それは良かった。君にそう言ってもらえると、こっちも発破をかけた甲斐があったよ」
クロノが満足げに顔を綻ばせる。
それを契機にして、はやては待ってましたとばかりに、クロノに対する逆襲を開始した。
「でも友達だっていう理由だけで、ここまで心配してくれるものなのかな?
……あ、もしかしてクロノくん、わたしに気があるんと違うか?」
はやての
「そんなわけないだろう。やれやれ、いつもの調子が戻ってきたと思ったら、すぐにこれだ」
が、クロノの口元には笑みが浮いていた。どうやら元気を取り戻しつつあるはやての様子を見て、安心したらしい。これがクロノ・ハラオウンという青年の変わらぬ美点だった。
男性特有の色香を窺わせるクロノの笑顔。その思いのほか魅力的な微笑に、はやてはついつい惑わされそうになる。だが努めて頑迷な態度を保持すると、彼女は低い声でうなった。
「むぅ。まだなんとなく釈然とせえへんけど。まあせっかくだし、クロノくんのお言葉に甘えて休ませてもらおうかな」
素直でないはやての物言いに、クロノは口の端を微妙に引きつらせて苦笑する。
「ああ、そうするといい。一人で大丈夫か?」
「平気や。そんなに心配しなくても、歩いてる途中で倒れたりなんかせえへんよ」
にこりと微笑みを返したはやては、クロノがあてがったという部屋に向かって歩き出す。その彼女の隣に体を寄せて、クロノも肩を並べて歩きはじめた。どうやら付き添ってくれるらしい。律儀なクロノらしい気の回しようだった。
はやては、ついつい苦笑を漏らしてしまう。さっきまでは罪悪感で死にそうだったくせに、気がつけば黒い
結局はクロノに慰められてしまったわけである。
それは甚だ情けない事実ではあった。がしかし、今の気分はそれほど悪くない。
暗く落ちこんでいるよりも、少しでも明るく笑えていたほうが、きっとヴォルケンリッターのみんなは喜んでくれるだろう。
「八神はやて捜査官」
そのとき、ふいに背後から響いた女性の声が、歩き出したはやてを呼び止めた。
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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